キング・クリムゾン 『スターレス・アンド・バイブル・ブラック』

King Crimson / Starless And Bible Black (1974)

KingCrimson_StarlessAnd.jpg
1.Great Deceiver
2.Lament
3.We'll Let You Know
4.Night Watch
5.Trio
6.Mincer
7.Starless And Bible Black
8.Fracture


キング・クリムゾン『スターレス・アンド・バイブル・ブラック』(1974、邦題『暗黒の世界』)を聴いたのは1980年代に入ってからだったと思うが、すでに『レッド』(1974)を聴いていたのでバンドのすごさを知っていた。だから『スターレス…』もわりとすんなり聴けたのではないかと思う。

メンバーはロバート・フリップ(g, mellotron)、ジョン・ウェットン(vo, b)、ビル・ブルフォード(ds, per)、そしてデヴィッド・クロス(vn, vla, mellotron)の四人。前作で参加していたジェイミー・ミューアは早々に脱退しているが、詳細は不明。音楽雑誌のインタビューによると、現在は画家として活動している模様で、キング・クリムゾン参加はもはや触れられたくない過去のことのようである。

ふつうに聴いているとわからなかったが、スタジオ録音は(1、2)のみで、(4)の前半はライヴ録音、後半がスタジオ録音だという。残りの楽曲はライヴ録音だそうだ。観客の拍手や声援がほとんど聞こえぬため、初めて聴いた当時はすべてスタジオ録音だと思っていたほどである。かなりの日程を要して行われたアメリカ・ツアーで連日、即興演奏をしていたのに驚かされる。

(1)はスピード感あふれるイントロから始まるが、ヴォーカル・パートに入るとベースと複雑なビートのドラムが中心になって静かに進む。「シガレット、アイス・クリーム」と歌う箇所になるとまたもやリズム・チェンジが行われ、印象的なギターのコーダで締めくくられる。間髪いれずに(2)が始まるが、内容は年老いて引退するロック歌手のことが歌われている。クロスによるヴァイオリンのオブリガートや背後に流れるメロトロンが美しい。この曲もリズム・チェンジの激しいタイプである。

(3)はフリップのピッキング・ハーモニクスから静かに始まる。やがてウェットンのプリングを含めたベースラインが曲を引っ張っていく。フリップのギターが追走し、ブルフォードのリズムが乗ると俄然ロック調になる。それにしてもウェットンのベースのフレーズは格好いいと聴くたびに感心する。最後はとぼけたような終わり方。

(4)の前半はライヴ録音らしいが、それらしさを感じさせない美しさに満ちた演奏だと思う。フリップのエレクトリック・ギターのソロは粘り気と重さのある独特のトーンで、おそらくギブソンのレスポールだと思うが個人的にはこの時期の、この重厚な感じのトーンが好きで、1980年代にフリップが使っていたコルグのギター・シンセサイザー(?)による「ラークス・タングズ…パート2」は軽すぎる気がするのは私(乙山)だけだろうか。

(5)は題名からわかるようにフリップ、ウェットン、クロスの三人だけによる演奏。クロスのヴァイオリンを中心に、フリップによるフルートを仕込んだと思われるメロトロンが絡み、ウェットンのベースがメロディアスなベースラインをたどる。演奏中、ブルフォードはドラムスティックを胸の前で交差してじっと動かずにいたという。本当に耳のいいドラマーで、自分が何をすべきか心得ている人だ。

(6)を聴いていると完全な即興演奏のように思えるが、後半部でヴォーカルが入るのに驚く。この部分だけできていたのか、あるいはアドリブでウェットンが入れたのか不明である。例によってフリップはメロトロンとギターを切り替えて演奏しており、よくもまあこれだけ不安定な不協和音を作り出せるものだと思ってしまう。

(7)はアルバム・タイトルを冠した9分11秒に及ぶ即興演奏。極めて微弱な出だしから徐々に熱が入ってきて、また静かな雰囲気になるのだが、メンバー相互が音をよく聞いているのがわかるような気がする。フリップもクロスもメロトロンを弾くので、どちらのものと断定するのは難しいけれど、バンドの情緒的で美しいパートにクロスは大きく貢献していると思う。

(8)は即興ではなくフリップがスコアを書いたもの。ギタリストが作曲したものらしく、ギターが全面的に活躍している。(2:50)あたりから(6:00)くらいまで16分音符と思われるピッキングの箇所が多く、相当苦しいのではないか。1980年代の「ディシプリン・クリムゾン」になってからも、フリップは「フラクチュア」をよく練習していたという。(7:40)頃に「ラークス・タングズ…パート2」を思わせるギターが炸裂し、そこからコーダまで突っ走る感じは圧巻である。

この時期(『ラークス・タングズ…』から『レッド』まで)のクリムゾン(「ラークス・タングズ・クリムゾン」)は、先に崩壊した「アースバウンド・クリムゾン」では到底たどり着けなかった地点に到達していると言える。だから、この時期のクリムゾンのファンがたいへん多くて思い入れも強いのもうなずける気がする。それだからこそ、1980年代に再結成した「ディシプリン・クリムゾン」に風当たりが強いのではないかと想像している。


≪ 『ラークス・タングズ…』へ   『レッド』へ ≫


【付記】
● 今回聴いたのは「30周年記念盤」ですが、市場には「40周年記念盤」が出ているようです。DVDオーディオとかいって、ボーナス映像もある模様です。購入して聴いた方の感想では5.1chのサウンドがすごいのだそうだとか。

クリムゾンは活動期間も長く、メンバー交代も多いので、一応乙山なりの勝手な目安を書いておきますと、1stが「宮殿クリムゾン」で、2nd~5thまでが「アースバウンド・クリムゾン」。長くてずれも多いですが、『アースバウンド』がすべてを象徴しています。6th~8thが「ラークス・タングズ・クリムゾン」。そして9th~11thまでを「ディシプリン・クリムゾン」と勝手に呼んでいます。


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ボズ・スキャッグス 『ミドル・マン』

Boz Scaggs / Middle Man (1980)

BozScaggs_MiddleMan.jpg
01.Jojo
02.Breakdown Dead Ahead
03.Simone
04.You Can Have Me Anytime
05.Middle Man
06.Do Like You Do in New York
07.Angel You
08.Isn't It Time
09.You Got Some Imagination


見た瞬間、「うげっ」となる人もいるであろうデザインのアルバム・ジャケットはボズ・スキャッグスの『ミドル・マン』(1980)。1976年の『シルク・ディグリーズ』もたいがいにせえよ、といいたくなるデザインだったが、これも相当だなあ。ボズの口から出ているのはエクトプラズム(死語?)ではありません。

1980年代前半、ロックバンドの真似事をしていたこともあって、その頃のロック少年たちはたいていパンクに走るか、1970年代のギター・ヒーローのソロのコピーをやりたがる者が多かったように覚えている。少々背伸びをしてジャズを聴いたり、ブルースが好きだったのだけれどそういう曲がコピーというか練習曲として採用されるはずもなく、ましてやボズ・スキャッグスなんて聴いているなど論外だった。

だが虚心に聴けば『シルク・ディグリーズ』も『ミドル・マン』も相当いい楽曲が揃っているのがわかると思う。アダルト志向のロックなんて聞いたら耳が腐る、というバンドのメンバーに気取られぬようこっそり聴いていた。たしかに若者の心の叫びを代弁するというのはロック音楽の重要な機能の一つと思うが、大人がロックをしたっていいだろうし、その際スローなブギであっても構わぬのではないか。

録音には『シルク・ディグリーズ』時のメンバー(彼らは1978年にTOTOとして活動を開始している)が多く参加している。ボズ・スキャッグス(g, vo)、デヴィッド・ペイチ(key, org)、ジェフ・ポーカロ(drs)、デヴィッド・ハンゲイト(b)、スティーヴ・ルカサー(g)、デヴィッド・フォスター(syn, key)、カルロス・サンタナ(g)などの顔ぶれが見える。

結局、TOTOとデヴィッド・フォスターが組んで作りだされたサウンド、ということで1980年代のそれを思わせるかもしれないが、シンセサイザー的ないかにも、という1980年代サウンドではなく、わりとアコースティックに感じられるように思う。とにかく職人技、とでもいいたくなる洗練されたサウンドである。

(1)はファンキーなノリの、ロックというよりダンス曲といったほうがいいかもしれない。ファンカデリックにせよパーラメントにせよ、とにかくファンクというのは驚くほど洗練されているものなので、ファンク=JBだけではない。一昔前の「ディスコ」で流れていてもおかしくないような曲調で、ボズのフェイク・ヴォイス(ファルセット)が全開という感じですね。

(2)は「リド・シャッフル」をを思わせるアップ・テンポのシャッフル・ブギで、本来ボズはこういうのが好きなのだと思う。スティーヴ・ルカサーのギターがいい仕事をしているが、おいおいソロなんかTOTOそのままじゃないか、もうちょっとひねってほしいなあ、などと思ってしまうのは私だけだろうか。

(4)は印象に残るスロー・バラードで、ボズの名曲「ウイ・アー・オール・アローン」と肩を並べるほどではないかと思う。1980年代後半の来日公演の際、大阪城ホールで本物のボズを見る機会に恵まれたが、その時この曲は歌われなかった。「泣き」が入ったギターソロはカルロス・サンタナとクレジットにある。

(5)はアルバムの表題曲で、「Middle Man」というタイトルを見ると「中年男」と連想してしまうかもしれないが、歌詞を見ると、彼と彼女の真ん中にいて、彼女のために何かしようとする男、というような感じである。アルバム全部の中で、iPodに移して聴いてみたくなるのは(1)と(4)くらいかな。

全体を通して聴いてみて印象に残るのはスティーヴ・ルカサーのギターが光っていることと、デヴィッド・フォスターのアレンジメントの巧みさだろうか。泥臭さが微塵も感じられない西海岸(L.A.)名うてのスタジオ・ミュージシャンたちに支えられてボズが歌うんだけど、今日改めて聴いてみると思った以上にTOTOのカラーを強く感じるように思えた。


≪ 『シルク・ディグリーズ』へ


【付記】
● どれだけTOTOのカラーが支配的になろうとも、ボズ本人はあまり意に介していないところがあって、その後もTOTOのメンバーとの交流を大切にしているようです。『シルク・ディグリーズ』もそうですが、『ミドル・マン』もジャケットだけで判断してほしくない一枚です。

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キング・クリムゾン 『ラークス・タングズ・イン・アスピック』

King Crimson / Lark's Tongues In Aspic (1973)

KingCrimson_LarksTongues.jpg
1. Lark's tongues in Aspic (part 1)
2. Book of Saturday
3. Exiles
4. Easy money
5. Talking drum
6. Lark's tongues in Aspic (part 2)



キング・クリムゾン『ラークス・タングズ・イン・アスピック』(1973、邦題は『太陽と戦慄』)を初めて聴いたのは1980年代初頭ごろだったと覚えている。当時まだCDは開発されておらず、音楽好きの友人がLPレコードで買ったそれを二人して聴いた。太陽の中に月が重なった、なんだか東洋風の神秘的なジャケットで、これがどれだけすごいのかなあ、と期待半分、不安半分の気持ちでスピーカーから出てくる音を待った。

いちばん初めに聴いたクリムゾンは『レッド』(1974)で、その重金属的で破壊的なサウンドに完全にノックアウトされてしまったのだ。ハード・ロックといえばディープ・パープルやレッド・ツェッペリンもあったし、ヘヴィ・メタルというジャンルさえあったけれど、これはいわゆるへヴィ・メタル・ロックよりへヴィーだ、と心底心酔してしまったのである。

前作『アイランズ』(1971)で事実上崩壊してしまったクリムゾンだが、フリップは新しいメンバーを参集した。その顔触れはロバート・フリップ(g, mellotron)、ジョン・ウェットン(vo, b)、ビル・ブルフォード(ds)、デヴィッド・クロス(vln, mellotron)、そしてジェイミー・ミューア(ds, perc)の5人。

ジョン・ウェットンはフリップの旧友で、『アイランズ』の頃からクリムゾン加入の打診を続けてきたようである。ビル・ブルフォードはイエスのドラマーで、ステージでクリムゾンを見たブルフォードは、いつかクリムゾンでプレイしたいと願っていたという。この二人はわかるとしても、後の二人の加入の経緯は謎に包まれている。

さて(1)はいったい何の楽器かわからぬパーカッションから始まり、刻むようなヴァイオリンの出だしに、爆撃機か何かを思わせるエレクトリック・ギターのロングトーンが重なってくるあたりで背中がぞくっとなった。邦題の「戦慄」というのはこのあたりからきているのかもしれない。やがてメンバー全体で重金属的なサウンドを出した後、フリップの早弾きフレーズにパーカッションが絡んでいくスピーディな展開に驚く。

途中でブレイクに入り、ヴァイオリンのどこか東洋的なソロに雲雀がさえずるような効果音が入ってくる。これは以前ではわからなかった部分だが、いまはYouTubeなどでジェイミー・ミューアが何か笛のようなものを使って出していると確認できる。実際、彼は例の「鳥の羽のような服」を着て、ステージを所狭しと縦横無尽に動き回り、あたりにあるものをなんでも使ってのパフォーマンスを見せてくれる。

(2)はくぐもったようなフリップのギターと、クロスのヴァイオリン、そしてウェットンのヴォーカルが主体の静かな曲。(3)はライヴでもお馴染みのヴォーカル曲。フリップがギターソロをとっているときはクロスがメロトロンを弾き、クロスがヴァイオリンを弾いているときはフリップがメロトロンの前に座るという、この時期のスタイルが確立された曲だ。

(4)もライヴでよく演奏された曲。ヴォーカルのパートが終わった後はかなり自由に即興演奏が繰り広げられている。(5)ではアフリカで住民が遠距離の通信に用いたという「トーキング・ドラム」から題名が付けられているようで、聴いてみるとなるほど、ラテン・パーカッションのような音が入っているが、おそらくこれもジェイミー・ミューアの演奏だと思われる。単純なコードの繰り返しをベースに、各メンバーの即興演奏が繰り広げられ、クライマックスに達した瞬間、すぐさま(6)が始まる。

おそらくギブソンのレスポールにディストーションを効かせたと思われる、重金属的なギターのイントロに、ベースとドラムが絡んでいく様はまるで歯車が回転を始めたような雰囲気がある。このインストゥルメンタル曲はフリップのお気に入り(?)のようで、1980年代の「ディシプリン・クリムゾン」でも演奏されている。

個人的には「ラークス・タングズ…パート1」が好きなのだが、残された音源から判断するに、この曲はジェイミー・ミューア脱退後はあまりライヴで演奏されなかったようだ。本作を初めて聴いたとき、ロックというジャンルを超えた「音楽」のメッセージ性あるいは啓示とでもいうべき何かに、強い衝撃を受けたことを思い出す。


≪『アースバウンド』へ  『スターレス・アンド…』へ ≫


【付記】
● 2013年現在、フリップは大手音楽レーベルを相手に法廷で争う傍ら、「40周年記念盤」の編集に力を注いでいるようで、キング・クリムゾンの活動は事実上、中断しているようです。とはいってもしっかり練習はしているらしいので、いつかまた、フリップがあの真面目くさった仏頂面でギターを構えるのを見られる日が来るのかもしれませんね。

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ジョニー・キャッシュ 『ゴスペル・コレクション』

Johnny Cash / The Gospel Collection (2010)

JohnnyCash_GospelCollection.jpg
01.I Was There When It Happened
02.Belshazzar
03.That's Enough
04.The old Account
05.The Great Speckle Bird
06.Troublesome Waters
07.There'll Be Peace In The Valley (For Me)
08.Were You There (When They Crucified My Lord)
09.He Turned Water Into Wine
10.Jesus Was A Carpenter
11.The Greatest Cowboy Of Them All
12.Keep Me From Blowing Away
13.Far Side Banks Of Jordan
14.Daddy Sang Bass
15.Swing Low Sweet Chariot
16.It Was Jesus
17.God Will
18.Amazing Grace


ジョニー・キャッシュという人を知ったのは比較的最近のことである。なにしろあのエルヴィス・プレスリーより少し遅れて活動を始めたカントリーのシンガーのようである。エルヴィスでさえ、もはや過去の人になってしまっている世代の人間が、ジョニー・キャッシュのことを知らぬのも無理はない。例によって「名盤100選」などの情報誌でその名を知ったのだと思う。

しかしなんという精悍な面構えというか強面だろう。歌を歌っていなかったらこの人、町の与太者とか犯罪者(失礼)になっていたとしてもいささかも不思議ではない感じがする。だがその表情になんとも言えぬ魅力があって、今回の『ジョニー・キャッシュ/ザ・ゴスペル・コレクション』もほとんどジャケット買いしたようなものだ。

本来はカントリーのシンガーでたまにゴスペルも歌うことがある、というジョニー・キャッシュのゴスペル・ソングを集めたコンピレーション盤。聴いてみると、何とものんびりした雰囲気で、カントリーとフォークを合わせたような感じで、このアルバムではロックとブルースのほうに傾いていないのが特徴といえる。

CD付属のブックレットを見ると、1950年代後半から1975年までの音源が集められているようだが、残念ながら演奏メンバーはジョニー・キャッシュ以外は不明である。ゴスペルにはコーラスが付き物で、たとえば(1~3)のコーラスはいかにも素人くさい感じがする。ところが(4)のバックコーラスは上手すぎる。これ、ひょっとしたらプラターズの面々が参加してるんじゃなかろうか。

ジョニー・キャッシュのヴォーカルはなんとも味わいのあるバリトン・ヴォイスで、声だけ聴いていて魅了される稀有な存在ではないかと思う。実際、彼のファンにはおそらくラジオやテレビを通してだと思うが刑務所内の囚人が多いそうで、それを知ったジョニー・キャッシュは刑務所内でライヴを行ったという。それがまたたいへんヒットしたそうである。

カントリーとは言うけれど、このアルバムを聴いている限りウェスタンの方向には行っておらず、スライド・ギターを多用したいかにもウェスタン、という感じではない。フォークといってもいいのだが、スリー・フィンガーを多用したいかにも、というフォーク・イディオムでもない、独特のサウンドになっているように感じた。

こういう行き方もあるんだなあ、と感心したけれど、今回のゴスペルソング集とかではなくてジョニー・キャッシュ本来の「歌」を収録した初期のアルバムなんかを聴いてみたいものだと思った。また伝説の刑務所ライヴも聴いてみたいではないか。ロカビリーのような、初期のロックンロールなんかも、ジョニー・キャッシュには似合いそうである。


【付記】
● 日本ではそれほど知られていないけれど、アメリカ本国ではむしろエルヴィス・プレスリー以上のファンがあるかもしれないジョニー・キャッシュ。カントリーというのは日本で演歌に人気があるのと同様、ものすごい裾野が広がっているんじゃないかと思いました。


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キング・クリムゾン 『アースバウンド』

King Crimson / Earthbound (1972)

KingCrimson_Earthbound.jpg
1. 21st Century Schizoid Man
2. Peoria
3. The Sailor's Tale
4. Earthbound
5. Groon


キング・クリムゾン5枚目の『アースバウンド』を初めて聴いたのはたしか1980年代に入ってからのことだったと思う。音楽好きの友にこれまた音楽好きのお兄さんがいて、その人が輸入盤専門店か何かで買い求めたものを聴かせてもらったのだ。なにしろ『アースバウンド』は通常のリリースではなく、「ヘルプ」というアイランド・レコードのサブ・レーベルから英国限定で発売され、全世界販売権を持つアトランティックからは発売されなかった。

だから国内盤として『アースバウンド』は存在しておらず、もっぱら輸入盤を買うしかなかった。フリップが再販を拒んでいたせいか長らく廃盤のままだったこともあり、1980年代ではかなりレア・アイテムだったと思う。中古レコード店で相当な高額が付いていたのを目撃したことがあるほどだが、その後2004年頃になって発売された国内盤紙ジャケット仕様のものを入手した。

キング・クリムゾン初のライヴ・アルバムということだが音質は非常に悪い。ジャケットの裏を見ると「アンペックスのステレオ・カセットテープで録音された」という旨が書いてある。フリップもそれを承知の上でリリースしたのだが、これはレコード会社との契約上の理由でリリースせざるを得なかったということらしい。

『アイランズ』発表後、オリジナル・メンバーの一人ピート・シンフィールドが脱退し、唯一のオリジナル・メンバーであるロバート・フリップ(g)の他メル・コリンズ(as, ts, bs, Mellotoron)、ボズ・バレル(vo, b)、イアン・ウォーレス(ds)の四人によるアメリカ・ツアーが行われたが、これもレコード会社との契約履行のためだったという。

内容も一会場でのライヴ演奏をそのまま収録したものではなく、数十か所にわたるアメリカ・ツアーの音源をピックアップして一つにまとめたようだ。(1、6)はデラウェア州ウィルミントン、(2)はイリノイ州ピオリア、(3)はフロリダ州ジャクソンヴィル、(4)はフロリダ州オーランドにてそれぞれ録音されたとジャケットに記載されている。

(1)はキング・クリムゾンの代表曲ともいえるもので、スロー・テンポのドラム・スティックのカウントから入るが、ヴォーカルにVCS3シンセサイザーによる操作や音質の悪さからくるノイズが相まって、原曲のもつ破壊的な曲想がこれでもかというほど前面に押し出されている。グレッグ・レイクによるスタジオ版や『エピタフ』収録のライヴ版、そして後のジョン・ウェットンによるライヴ版と比べてみても、このメンバーの演奏のほうが迫力があるのではないか。

フリップのギターに続いてメル・コリンズのサキソフォンによるソロ・パートが展開、それが収束した後のメンバー全員によるユニゾンの部分が大丈夫か、と心配されるのだがぴったり合っている。メル・コリンズも前任者のイアン・マクドナルドに勝るとも劣らぬ達者なプレイヤーであり、イアン・ウォーレスもじつにライヴ向きの豪快なスティックさばきを披露してくれ、この時期のクリムゾンのライヴ演奏が充実していたことを語っている。

ところが(2)になると、急に弛緩したようなゆるいジャム・ブルース・セッションのような感じになってしまう。フリップを除くメンバーが勝手に始めたような雰囲気で、フリップは最初ほとんど参加していない。12小節のブルースのコーラスを延々繰り返すようなスタイルにフリップは戸惑い、苛立っているようでもあり、仕方なしにバッキングを入れて適当に合わせているという感じがする。

この傾向は(4)においても顕著で、ジャズやブルースのミュージシャンがよく行う方法でフリップ以外のメンバーが即興演奏を「楽しんでいる」けれど、それはキング・クリムゾンが得意とする事前の打ち合わせがほとんどないフリーの即興演奏ではないように思える。たとえば後の『レッド』における「プロヴィデンス」のように、メンバー相互の集中や緊張から生み出される創意に満ちた演奏にはなっていないと感じた。

キング・クリムゾンにおいて常にそのような演奏を要求するフリップと、シンプルでわかりやすいブルース・ロックを志向する残り三人のメンバーとの間の溝は深まるばかりで、ツアーの間もフリップは孤立したままだったようである。その後三人はクリムゾンを脱退し、クリムゾンは崩壊してしまうが、『アースバウンド』はその時期のクリムゾンの様子をよい意味でも悪い意味でも隠すことなくさらけ出したものになっている。


≪ 『アイランズ』へ  『ラークス・タングズ…』へ ≫


【付記】
● フリップ個人にとって最も苦しかった時期だったのではないかと想像します。クリムゾンのようなシリアスで「変わった音楽」をやるには、やはりそれなりにクリムゾンを理解するメンバーが必要なのに、それにふさわしいミュージシャンを得ることができなかったというのは悲劇としか言いようがありません。

カンタベリー系のミュージシャンなど、クリムゾンのトリビュート・アルバムを作ったりしているのに、どうしてあの時期、クリムゾンに参加しなかったのか不思議でなりません。フリップはキース・ティペットのプロジェクト『センティピード』のプロデュースでかなりの数のミュージシャンたちと顔合わせをしていることを思うと、余計に謎が深まってくるのです。

後に、ボズ・バレルを除いたメンバーはフリップと和解し、イアン・ウォーレスは「クリムゾン・ジャズ・トリオ」として活動、メル・コリンズは「21st Century Schizoid Band」に参加した後、(最後の?)キング・クリムゾン・プロジェクトにも参加しているのはご存知の通りです。

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只野乙山

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⚫︎ できれば「只野乙山=ただのおつざん」とお読みくだされば、と思います。

⚫︎ 文字中心のウェブログ。ほとんど一話完結で、どの記事をご覧になっても楽しめ(?)ます。文字数だけなら一冊の本に匹敵(凌駕?)するほどありますので、ごゆっくりどうぞ。

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