キング・クリムゾン 『レッド』

King Crimson / Red (1974)

KingCrimson_Red_01.jpg
1.Red
2.Fallen Angel
3.One More Red Nightmare
4.Providence
5.Starless


自分にとってキング・クリムゾン入門はこの『レッド』によってだった。まだCDが出る前で1980年頃だったろうか、音楽好きの友人の家でLPレコードで聴かせてもらった。とにかくその破壊的かつ重金属的なサウンドに圧倒されてしまったのである。1970年代のギター・ヒーローに憧れながらもブルースやジャズに興味を持ち、パンクにはちょっと距離を置いていたロック小僧は、その異質なサウンドの虜になってしまったわけですね。

アメリカ・ツアーから帰るとデヴィッド・クロスが脱退、残されたフリップ、ウェットン、ブルフォードが『レッド』のジャケットの表写真に見える。『レッド』はこの三人に加え、かつてクリムゾンでプレイしたイアン・マクドナルド(kbd, as)、メル・コリンズ(ss)、そしてマーク・チャリグ(cornet、「アイランズ」のコーダのホーン・ソロ)やロビン・ミラー(oboe、『リザード』の「ボレロ」や『アイランズ』の「カモメの歌」など)らがゲスト参加している。

(1)は三人だけで録音されたと思われるへヴィなインストゥルメンタル曲。ギターのパートは重厚さを出すためユニゾンでマルチ・トラックのオーバー・ダビングがなされている。人気曲だが、ヘヴィ・ロック・アンサンブルともいえるものでソロ・パートなど遊びがないのが特徴。1981年以降のライヴ映像を見ると、フリップは本当につまらなさそうにこの曲を演奏しているのがわかる。ブルフォードのドラミングは素晴らしく、これだけでも聴いている価値がある。

(2)は(1)のヘヴィネスから一転して静かなヴォーカル曲になる。フリップのアコースティック・ギターの伴奏が魅力的で、ロビン・ミラーのオーボエによるオブリガートも美しい。(1:40)からフリップによるアルペジオをベースにマーク・チャリグのコルネット・ソロが入る。(5:05)から展開部に入りロック調になるが、そこでも主旋律とその3度下や上ををなぞるギターの掛け合いが美しい。

(3)はメイン・リフからヴォーカル・パート、そしてフリップのアルペジオをベースにしたアドリブ・パートから構成されている。メイン・リフではへヴィなフリップのギターとウェットンのベースが炸裂し、それに掛け合うブルフォードの魅力が全開状態で、何度聴いても勝手に手が動いてしまいそうになるのには苦笑するしかない。(2:06)あたりからアルペジオがベースのアドリブ・パートに入り、イアン・マクドナルドがアルトサックスを吹いているのが感動的だ。曲は飛行機が墜落したかのように途中で寸断する形で終わっている。

(4)はアメリカ・ツアーのライヴ録音で、ロード・アイランド州プロヴィデンスにおける即興演奏であるが、最初聴いたときはてっきりスコアのある「現代音楽」だと思っていたほどである。デヴィッド・クロスによる不安な出だしから約5分間その調子が続くが、(4:42)からブルフォードお得意のバスドラムとリムショットによるリズムが入ってくる。これは他の曲でもしばしば彼が見せる不思議なリズムパターンである。

KingCrimson_Red_02.jpgそして(5:04)からは音量を上げたウェットンのベースとロング・トーンのフリップのギターが絡み合い、ブルフォードのドラミングも熱が入る。最後にもう一度、デヴィッド・クロスの不安なヴァイオリンに戻ってくる。最後はテープを早回ししたような感じで締めくくられるが、おそらくこれはLPレコードという時間的制約によるもので、後の『グレート・ディシーヴァー』ではこの後も演奏が続いていることが確認できる。

冒頭の「レッド」が危険な状態(レッド・ゾーン)に入ったことを象徴しているとすれば、(5)の「スターレス」は一つの終末を象徴していると言えるかもしれない。出だしの荘厳なまでのメロトロンにフリップのくぐもったようなエレクトリック・ギターが絡むが、このパートはライヴではクロスが弾いていたもの。ライヴ盤を聴くと、ここのメロディも若干変わっているのをご存知かと思う。

ヴォーカル・パートに入ると、メル・コリンズのソプラノサックスによるオブリガートがウェットンのヴォーカルに寄り添い、それは3ヴァースまでたっぷり続く。ヴォーカル・パートの後はアドリヴ・パートが続き、フリップとウェットンの掛け合いの後、かなりアップテンポになるが、そこで煌めくようなサキソフォーンを吹いているのがイアン・マクドナルド。ひょっとすると『宮殿』の「スキツォイド・マン」のめるくめくようなサックス・パートより早いかもしれないほどだ。

マクドナルドによるアルトサックスのソロ後、一瞬ブレイクする形でブルフォードのハイハットに支えられ、サキソフォーンによるメインテーマが鳴り響くが、どうもそれは二本のサックスであるように聴こえてならない。メル・コリンズとイアン・マクドナルドが二人で吹いているとしたら……だがこれは想像の域を超えない。サキソフォーンによるテーマの後は各奏者が過熱した頂点でもう一度、メロトロンを伴ったメイン・テーマがすべてを包み込み、重厚な残響が続いて曲は終わる。


≪ 『スターレス・アンド…』へ  『USA』へ ≫


【付記】
● 今回の聴取はクリムゾンのCD中もっとも「音が悪い」と思われる、EGによる1980年代リリース物で行いました。巷では『レッド 40周年記念盤』や『ロード・トゥ・レッド』などの音の良いディスクも流通しているようですが、音の悪いEG盤でも、『レッド』の素晴らしさは味わえたように思えます。現物を見ると1988年に購入しているようで、なんと3200円していますね。そんな時代だったわけです。これ、当時のサントリー・リザーヴとほぼ同じ値段ですね。


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ブライアン・イーノ 『ヒア・カム・ザ・ウォーム・ジェッツ』

Brian Eno / Here Come the Warm Jets (1974)

Eno_HereComeTheWarmJets.jpg
1.Needles in the Camel's Eye
2.Paw Paw Negro Blowtorch
3.Baby's on Fire
4.Cindy Tells Me
5.Driving Me Backwards
6.On Some Faraway Beach
7.Blank Frank
8.Dead Finks Don't Talk
9.Some of Them Are Old
10.Here Come the Warm Jets


現在ではダニエル・ラノワと並んでプロデューサーとして知られるブライアン・イーノだが、1970年代は髪を伸ばしてバイセクシャル的な雰囲気を前面に出し、ロキシー・ミュージックでキーボード(シンセサイザー)やマルチトラック・テープ機などを操作する人だった。その頃のイーノを見たわけではなく、1980年代になってから音楽好きの友人に教えてもらったのである。

詳しいことは知らないが、CD付属の資料によるとイーノは美術学校で学びながら音楽活動をしていたようで、作詞と効果音を担当していた、とある。彼自身、鍵盤楽器やギターを演奏するけれど基本的には「非音楽家」として音楽にかかわるというのがイーノの持ち味なのだろう。だからふつうのロック/ポップのサウンドとは違う独特のテイストが本作にも感じられて何かそれが新鮮だった。

録音に参加したメンバーはロキシー・ミュージックからフィル・マンザネラ(g)、アンディ・マッケイ(sax)、キング・クリムゾンからロバート・フリップ(g)とジョン・ウェットン(b)。『801ライヴ』でも参加したビル・マコーミック(b)のほか、クリス・スペディング(g)、サイモン・キング(ds, perc)。

イーノは美術学校で知り合ったアンディ・マッケイの紹介でロキシー・ミュージックに参加し、ブライアン・フェリーに追い出された(?)ようで、フェリー以外のロキシーの面々とは交友があるのだろう。キング・クリムゾンは解散してフリップ&イーノとして活動、ロキシー・ミュージックも活動休止の時期だったことでこのようなメンバーが集まったのだろうと想像する。

(1)はふつうのロックのノリではないがなぜか新鮮さがある。マンザネラのギター・ソロの後でいったんストップをかけるのはクリムゾンの「スキツォイド・マン」みたいだ。ただしテンションがまったく違うのは言うまでもない。(2)ではふつうそんな歌い方はしないよな、といいたくなるイーノの変なヴォーカルで思わず噴き出しそうになる。これを人がいるところで聴いていたら変人扱いされること請け合いである。

(3)は(1:26)から(4:26)まで続くロバート・フリップのかなり長いソロが入っている。キング・クリムゾンを離れたフリップはなかなか面白い演奏をするのが意外な感じである。ジョン・ウェットンも(3)でベースを弾いているようだ。(4)はミディアム・テンポの親しみやすい感じの曲。フィル・マンザネラとの共作のようで、マンザネラのねばりつくようなギター・ソロが聴ける。

(5)はいかにもイーノらしい作風で、ふつうのロック・ミュージシャンだったらまずやらないだろうな、という曲。イーノの変なヴォーカルがここでも大活躍(?)している。この曲も人前で聴くのは要注意、確実に変人扱いされると思う。(6)は題名からしてどこか夢見るような曲。バックに入るコーラスや音を弱めてエコー(リバーヴ?)を聞かせたドラムなど、全体の音作りが後の「アンビエント」につながるように思える一曲だ。

ゆったりと流れる川のような(6)から一転して(7)はフリップとイーノの共作で、イーノ流ファンク(?)とでもいうべき不思議なリズムである。たぶんこれが本作の中で最も動きの激しい曲ではないかと思う。(00:53)あたりから始まるフリップのソロは『アイランズ』における「Sailor's Tale」のような激しさを見せる。イーノのヴォーカルも呪術的なあやしさに満ちみちている。

(8)はこれこそイーノ、とでもいうべき作品だろう。静かな曲なのだが背後で「Oh! No! Oh! No!……」と変なヴォーカルが炸裂、これも人前で聴いていると変人扱いまちがいなしの一級品である。この「Oh! No!」はトーキング・ヘッズのデヴィッド・バーンが例のぶかぶかのジャケットを着て首を前後に動かしながらやるとぴったりくるんじゃないかといつも思ってしまうのは私だけだろうか。

(9)は後の『ビフォア・アンド・アフター・サイエンス』の後半に入っていてもおかしくない感じの静かな曲。途中スライド・ギターのようなものが入るが、ひょっとするとスティール・ギターかもしれない。それらが入ってもハワイアンやウエスタンにならぬのがイーノ。(10)はアルバム・タイトル曲だが全編リフレインで、後半にぼけた感じのヴォーカルが入ってくる。

今日改めて聴いてみても古臭さを感じさせないところが不思議である。非音楽家としてのアプローチがユニークだったことに加えて、イーノのセンスが全編にわたって発揮されていることが要因だと思うが、そうしたイーノの立ち位置をよく理解して制作に参加したミュージシャンたちの働きも大きいと思う。なれど人前で聴くには要注意の楽曲が数曲入っているので、自室あるいは外でならiPodか他の音楽プレーヤーで聴くのがお勧めである。


≪ 『アナザー・グリーン・ワールド』へ  ≫


【付記】
● 久しぶりにイーノを聴いてみましたがやはり面白いですね。歌詞はイーノが書いたものですが、意味はわかりにくいものが多く、海外でも「こう聞こえた」と何通りものヴァージョンがあるようです。1970年代の終わり頃、音楽雑誌でイーノの歌詞の翻訳したものが特集であったりして、それは楽しかったものでした。


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キング・クリムゾン 『スターレス・アンド・バイブル・ブラック』

King Crimson / Starless And Bible Black (1974)

KingCrimson_StarlessAnd.jpg
1.Great Deceiver
2.Lament
3.We'll Let You Know
4.Night Watch
5.Trio
6.Mincer
7.Starless And Bible Black
8.Fracture


キング・クリムゾン『スターレス・アンド・バイブル・ブラック』(1974、邦題『暗黒の世界』)を聴いたのは1980年代に入ってからだったと思うが、すでに『レッド』(1974)を聴いていたのでバンドのすごさを知っていた。だから『スターレス…』もわりとすんなり聴けたのではないかと思う。

メンバーはロバート・フリップ(g, mellotron)、ジョン・ウェットン(vo, b)、ビル・ブルフォード(ds, per)、そしてデヴィッド・クロス(vn, vla, mellotron)の四人。前作で参加していたジェイミー・ミューアは早々に脱退しているが、詳細は不明。音楽雑誌のインタビューによると、現在は画家として活動している模様で、キング・クリムゾン参加はもはや触れられたくない過去のことのようである。

ふつうに聴いているとわからなかったが、スタジオ録音は(1、2)のみで、(4)の前半はライヴ録音、後半がスタジオ録音だという。残りの楽曲はライヴ録音だそうだ。観客の拍手や声援がほとんど聞こえぬため、初めて聴いた当時はすべてスタジオ録音だと思っていたほどである。かなりの日程を要して行われたアメリカ・ツアーで連日、即興演奏をしていたのに驚かされる。

(1)はスピード感あふれるイントロから始まるが、ヴォーカル・パートに入るとベースと複雑なビートのドラムが中心になって静かに進む。「シガレット、アイス・クリーム」と歌う箇所になるとまたもやリズム・チェンジが行われ、印象的なギターのコーダで締めくくられる。間髪いれずに(2)が始まるが、内容は年老いて引退するロック歌手のことが歌われている。クロスによるヴァイオリンのオブリガートや背後に流れるメロトロンが美しい。この曲もリズム・チェンジの激しいタイプである。

(3)はフリップのピッキング・ハーモニクスから静かに始まる。やがてウェットンのプリングを含めたベースラインが曲を引っ張っていく。フリップのギターが追走し、ブルフォードのリズムが乗ると俄然ロック調になる。それにしてもウェットンのベースのフレーズは格好いいと聴くたびに感心する。最後はとぼけたような終わり方。

(4)の前半はライヴ録音らしいが、それらしさを感じさせない美しさに満ちた演奏だと思う。フリップのエレクトリック・ギターのソロは粘り気と重さのある独特のトーンで、おそらくギブソンのレスポールだと思うが個人的にはこの時期の、この重厚な感じのトーンが好きで、1980年代にフリップが使っていたコルグのギター・シンセサイザー(?)による「ラークス・タングズ…パート2」は軽すぎる気がするのは私(乙山)だけだろうか。

(5)は題名からわかるようにフリップ、ウェットン、クロスの三人だけによる演奏。クロスのヴァイオリンを中心に、フリップによるフルートを仕込んだと思われるメロトロンが絡み、ウェットンのベースがメロディアスなベースラインをたどる。演奏中、ブルフォードはドラムスティックを胸の前で交差してじっと動かずにいたという。本当に耳のいいドラマーで、自分が何をすべきか心得ている人だ。

(6)を聴いていると完全な即興演奏のように思えるが、後半部でヴォーカルが入るのに驚く。この部分だけできていたのか、あるいはアドリブでウェットンが入れたのか不明である。例によってフリップはメロトロンとギターを切り替えて演奏しており、よくもまあこれだけ不安定な不協和音を作り出せるものだと思ってしまう。

(7)はアルバム・タイトルを冠した9分11秒に及ぶ即興演奏。極めて微弱な出だしから徐々に熱が入ってきて、また静かな雰囲気になるのだが、メンバー相互が音をよく聞いているのがわかるような気がする。フリップもクロスもメロトロンを弾くので、どちらのものと断定するのは難しいけれど、バンドの情緒的で美しいパートにクロスは大きく貢献していると思う。

(8)は即興ではなくフリップがスコアを書いたもの。ギタリストが作曲したものらしく、ギターが全面的に活躍している。(2:50)あたりから(6:00)くらいまで16分音符と思われるピッキングの箇所が多く、相当苦しいのではないか。1980年代の「ディシプリン・クリムゾン」になってからも、フリップは「フラクチュア」をよく練習していたという。(7:40)頃に「ラークス・タングズ…パート2」を思わせるギターが炸裂し、そこからコーダまで突っ走る感じは圧巻である。

この時期(『ラークス・タングズ…』から『レッド』まで)のクリムゾン(「ラークス・タングズ・クリムゾン」)は、先に崩壊した「アースバウンド・クリムゾン」では到底たどり着けなかった地点に到達していると言える。だから、この時期のクリムゾンのファンがたいへん多くて思い入れも強いのもうなずける気がする。それだからこそ、1980年代に再結成した「ディシプリン・クリムゾン」に風当たりが強いのではないかと想像している。


≪ 『ラークス・タングズ…』へ   『レッド』へ ≫


【付記】
● 今回聴いたのは「30周年記念盤」ですが、市場には「40周年記念盤」が出ているようです。DVDオーディオとかいって、ボーナス映像もある模様です。購入して聴いた方の感想では5.1chのサウンドがすごいのだそうだとか。

クリムゾンは活動期間も長く、メンバー交代も多いので、一応乙山なりの勝手な目安を書いておきますと、1stが「宮殿クリムゾン」で、2nd~5thまでが「アースバウンド・クリムゾン」。長くてずれも多いですが、『アースバウンド』がすべてを象徴しています。6th~8thが「ラークス・タングズ・クリムゾン」。そして9th~11thまでを「ディシプリン・クリムゾン」と勝手に呼んでいます。


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ボズ・スキャッグス 『ミドル・マン』

Boz Scaggs / Middle Man (1980)

BozScaggs_MiddleMan.jpg
01.Jojo
02.Breakdown Dead Ahead
03.Simone
04.You Can Have Me Anytime
05.Middle Man
06.Do Like You Do in New York
07.Angel You
08.Isn't It Time
09.You Got Some Imagination


見た瞬間、「うげっ」となる人もいるであろうデザインのアルバム・ジャケットはボズ・スキャッグスの『ミドル・マン』(1980)。1976年の『シルク・ディグリーズ』もたいがいにせえよ、といいたくなるデザインだったが、これも相当だなあ。ボズの口から出ているのはエクトプラズム(死語?)ではありません。

1980年代前半、ロックバンドの真似事をしていたこともあって、その頃のロック少年たちはたいていパンクに走るか、1970年代のギター・ヒーローのソロのコピーをやりたがる者が多かったように覚えている。少々背伸びをしてジャズを聴いたり、ブルースが好きだったのだけれどそういう曲がコピーというか練習曲として採用されるはずもなく、ましてやボズ・スキャッグスなんて聴いているなど論外だった。

だが虚心に聴けば『シルク・ディグリーズ』も『ミドル・マン』も相当いい楽曲が揃っているのがわかると思う。アダルト志向のロックなんて聞いたら耳が腐る、というバンドのメンバーに気取られぬようこっそり聴いていた。たしかに若者の心の叫びを代弁するというのはロック音楽の重要な機能の一つと思うが、大人がロックをしたっていいだろうし、その際スローなブギであっても構わぬのではないか。

録音には『シルク・ディグリーズ』時のメンバー(彼らは1978年にTOTOとして活動を開始している)が多く参加している。ボズ・スキャッグス(g, vo)、デヴィッド・ペイチ(key, org)、ジェフ・ポーカロ(drs)、デヴィッド・ハンゲイト(b)、スティーヴ・ルカサー(g)、デヴィッド・フォスター(syn, key)、カルロス・サンタナ(g)などの顔ぶれが見える。

結局、TOTOとデヴィッド・フォスターが組んで作りだされたサウンド、ということで1980年代のそれを思わせるかもしれないが、シンセサイザー的ないかにも、という1980年代サウンドではなく、わりとアコースティックに感じられるように思う。とにかく職人技、とでもいいたくなる洗練されたサウンドである。

(1)はファンキーなノリの、ロックというよりダンス曲といったほうがいいかもしれない。ファンカデリックにせよパーラメントにせよ、とにかくファンクというのは驚くほど洗練されているものなので、ファンク=JBだけではない。一昔前の「ディスコ」で流れていてもおかしくないような曲調で、ボズのフェイク・ヴォイス(ファルセット)が全開という感じですね。

(2)は「リド・シャッフル」をを思わせるアップ・テンポのシャッフル・ブギで、本来ボズはこういうのが好きなのだと思う。スティーヴ・ルカサーのギターがいい仕事をしているが、おいおいソロなんかTOTOそのままじゃないか、もうちょっとひねってほしいなあ、などと思ってしまうのは私だけだろうか。

(4)は印象に残るスロー・バラードで、ボズの名曲「ウイ・アー・オール・アローン」と肩を並べるほどではないかと思う。1980年代後半の来日公演の際、大阪城ホールで本物のボズを見る機会に恵まれたが、その時この曲は歌われなかった。「泣き」が入ったギターソロはカルロス・サンタナとクレジットにある。

(5)はアルバムの表題曲で、「Middle Man」というタイトルを見ると「中年男」と連想してしまうかもしれないが、歌詞を見ると、彼と彼女の真ん中にいて、彼女のために何かしようとする男、というような感じである。アルバム全部の中で、iPodに移して聴いてみたくなるのは(1)と(4)くらいかな。

全体を通して聴いてみて印象に残るのはスティーヴ・ルカサーのギターが光っていることと、デヴィッド・フォスターのアレンジメントの巧みさだろうか。泥臭さが微塵も感じられない西海岸(L.A.)名うてのスタジオ・ミュージシャンたちに支えられてボズが歌うんだけど、今日改めて聴いてみると思った以上にTOTOのカラーを強く感じるように思えた。


≪ 『シルク・ディグリーズ』へ


【付記】
● どれだけTOTOのカラーが支配的になろうとも、ボズ本人はあまり意に介していないところがあって、その後もTOTOのメンバーとの交流を大切にしているようです。『シルク・ディグリーズ』もそうですが、『ミドル・マン』もジャケットだけで判断してほしくない一枚です。

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レスター・ヤング 『ジャズ・ジャイアンツ'56』

Lester Young / Jazz Giants '56 (1956)

LesterYoung_JazzGiants56.jpg
01.I Guess I'll Have to Change My Plan (09:31)
02.I Didn't Know What Time It Was (10:02)
03.Gigantic Blues (06:51)
04.This Year's Kisses (06:45)
05.You Can Depend on Me (09:06)



ウェブログでお付合い頂いている方の所でレスター・ヤングの二枚のアルバムを見て、久しぶりにレスターを聴きたくなって取り出したのが『Jazz Giants '56』。所有しているのは輸入盤で、ジャケットのデザインが旧来のものと違っている。暗い場所(スタジオ?)でレスターがテナーサックスを吹いており、後ろにも誰かが写っているのがたぶんオリジナルで、もう一つはレスターがサックスを上に抱え上げて吹いているお得意のポーズのそれである。

いま手元にあるのはそれらと違っていて、レスターがサックスを持ったところを左側から写したもので、デザイン的には三番目だと思う。しかし三枚とも音源は同じなのでどれを購入しても心配することはない。アルバムタイトルからわかるように、これはレスター・ヤング1956年のセッションだが、ご存知のように同年『プレズ&テディ』も録音しており、そのメンバーはほとんど同じである。

レスター・ヤング(ts)、ロイ・エルドリッジ(tp)、ヴィク・ディケンソン(tb)、テディ・ウィルソン(p)、フレディー・グリーン(g)、ジーン・ラミー(b)、ジョー・ジョーンズ(ds)という顔ぶれで、気心の知れた古いスウィング仲間が集まり、肩の力を抜いてセッションした、という感じの仕上がりになっている。

(1)はテディ・ウィルソンのエレガントなピアノから入ってレスターのソロが始まるスロー・テンポの曲。トロンボーンがソロを受け継ぎ、ピアノ、トランペットと各プレーヤーが一通りソロを見せる。ジョー・ジョーンズはブラッシュ・プレイ、フレディ・グリーンのギターは相変わらずかすかに聞こえるか聞こえないかである。

(2)でミディアム・テンポになってサックス→トランペット→トロンボーン→ピアノとソロが展開した後、もう一度レスターに戻ってくる。ピアノソロのとき、ドラムはほとんど動きを止めているので、ベースとギターがわりとよく聞こえてきます。おっ、フレディ・グリーン、本当に弾いてるじゃないか! とわかるんですね。

(3)はレスター作のアップ・テンポのブルース。レスターはフリースタイルに近いアップ・テンポのブルースを好んで演奏しますね。トランペットがミュートを外して全開になり、ドラムとのやりとりが白熱、まるでビ・バップかと思わせる一瞬。これだけ聞けばモダン・ジャズじゃないか、と思ってしまうほどである。レスターもかなり速いテンポなのにがんばっている。

(4)で再びスロー・テンポに戻り、レスターの歌うようなサックスを堪能できる。やはりこういう曲調のレスターは最高ですね。トロンボーンもスロー・テンポに向いた楽器で、ちょっと眠たそうな(失礼)ソロでばっちり決めてくれている。この曲も最後にレスターに戻ってきてもう一度レスター節で締められる。

(5)はトランペットのミュートのソロから始まるミディアム・テンポの曲。トロンボーンは相変わらず眠たそうに聴こえる(失礼)が雰囲気たっぷりで受け継ぎ、ピアノソロに渡す。初めにも書いたけど、テディ・ウィルソンのピアノはなんてエレガントなのだろう。他のピアノ奏者とそう違うわけではないはずだが、どこかエレガントなのだ。最後にレスターのソロがすべてを包むような感じで締めくくる。

通して聴いてみて思うのはやはり(3)の力が大きいなあ、ということだろう。(3)の盛り上がりはレスターが作っているのではなく、トランペットのヴィク・ディケンソンとドラムのジョー・ジョーンズなんだけど、これがなければ今ひとつ締まりのない印象になってしまったかもしれない。いい仕事をしているなあ、とつくづく感心する。

1956年といえば、チャーリー・パーカーもすでに亡くなっており(1955年没)、たしかソニー・ロリンズが『サキソフォン・コロッサス』を出した頃。1958年にはあの『サムシン・エルス』が出て、そして1959年にはレスターが亡くなってしまう。『ジャズ・ジャイアンツ'56』と『プレズ&テディ』はトラディショナル・スウィングジャズとモダンジャズの境界線あたりで活躍した晩年のレスターの傑作だと思う。


≪ 『レスター・ヤング:ケン・バーンズ・ジャズ』へ


【付記】
● 久しぶりに聴いたレスター・ヤングですが、いいですね。笑われるかもしれませんが、乙山はレスターのCDを17枚くらい持っています。一時、レスターに夢中になって、手に入るものはとにかく聴いてみよう、と収集したのです。


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只野乙山

Author:只野乙山

⚫︎ できれば「只野乙山=ただのおつざん」とお読みくだされば、と思います。

⚫︎ 文字中心のウェブログ。ほとんど一話完結で、どの記事をご覧になっても楽しめ(?)ます。文字数だけなら一冊の本に匹敵(凌駕?)するほどありますので、ごゆっくりどうぞ。

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