『探偵物語』

『探偵物語』(1983年、日本映画、111分)

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監督:根岸吉太郎
原作:赤川次郎
出演:薬師丸ひろ子、松田優作、秋川リサ、岸田今日子ほか


かつて1979~1980年にかけてテレビ放映されたテレビドラマ『探偵物語』に熱中してしまった私(乙山)だが、1983年に公開された同名の映画『探偵物語』を公開当時に見ることはできなかった。薬師丸ひろ子が主演の映画だけど、松田優作が出ていることは知っていた。たぶん、1980年代後半になってVHSを借りて見たのではないかと思う。

忘日、岩井俊二監督の映画を借りるつもりで邦画コーナーに立ち寄ったが、あいにく借りようとしていた映画はブルーレイ・ディスク版しか残っていなかった。ブルーレイ・ディスクだと画像は美しいのだが画面キャプチャ―ができない。まあ、といっても近頃では横着になってベストショットを探してキャプチャーするなんてこはしてなくて、題名の画面だけキャプチャーして済ませているんだけど……

で、何か他の日本映画でも見ようかと棚を眺めていたら『探偵物語』が目に留まったので思わずつかんでしまったわけなんです。早速見ると、おやおや、これは単にマスターフィルムをデジタル化しただけで、再処理してないようである。ちょっと退色しているんじゃないだろうか。だけど、ひどいなあというレベルではないので構わず見続ける。

映画は東京の閑静な住宅街の裕福な邸宅に、門限を過ぎて帰宅した女子大学生お嬢様・新井直美(薬師丸ひろ子)が、玄関からではなく何かを登って二階の自室にたどり着く場面から始まる。おいおい、何やらせてんだよ、と思わず言いたくなる場面だが、『裏窓』のグレース・ケリーよろしく直美は何の苦も無くやってのける。じつはもう、彼女は何度もこれをやっているのだ。

両親はアメリカで仕事をしていて、家には直美の世話係の家政婦・長谷沼君江(岸田今日子)が待っていた。直美のわがままに手を焼く家政婦だったが、直美は数日後に両親のいるアメリカに行くことになっていた。翌朝、大学に登校する直美の後をつける男が現れるが、彼は直美がアメリカにたつ日まで保護するために雇われた探偵・辻山秀一(松田優作)だった。

こうして、十代後半のお嬢様と33歳の冴えない男(という設定だと思う)の不思議な巡り合いが起きるのだが、当初直美はしつこく尾行する辻山を嫌って逃げようとする。ところが、朴訥な辻山に次第に直美は興味を持つようになっていく。そして暴力組織が経営するナイトクラブで歌手として働く辻山の元妻・直木幸子(秋川リサ)が、暴力団員と「ホテル」で同室しているときに、何者かが彼を刺殺してしまったことから、辻山と直美は殺人事件に巻き込まれていく。

とまあ、こんな感じで進んでいくのだが、薬師丸ひろ子は設定とほぼ同じ年齢だったらしく、何とも可愛らしい感じである。というか、なんという丸顔、じゃなくて、あどけなさだろう。だけどまあ、そんなことはどうでもいいのである。この人は、天性の女優さんなんでしょうね。「アイドル」などという言葉はこの人には当てはまらない感じがする。演技に不自然さがまったく感じられないんですね。『ALWAYS 三丁目の夕日』でもやはりいい演技をしているなあと感心した。

一方、松田優作のほうはというと、テレビドラマ版『探偵物語』のイメージは微塵もなくて、ジョークを飛ばすこともなく、不屈のヒーローのような格好いい場面も一切ない。ただ与えられた仕事を黙々とこなしていく平凡な探偵で、真犯人を探し当てるいちばん重要な役割は直美がやってしまうんですね。これはあくまで「薬師丸ひろ子が主演の映画」であることを、松田優作はしっかり理解していて、自分はどこまでも脇役に徹しようとしたのではないかと想像する。

実際、松田優作は台本にないアドリブを入れるのが上手な人だということは、テレビドラマ版『探偵物語』を見た人はわかっていると思う。意外とお茶目でギャグが大好きなんだけど、シリアスな役もこなせることは『蘇る金狼』(1979)や『野獣死すべし』(1980)、そしてなにより『ブラック・レイン』(1989)でもわかる。だから、松田優作ファンとしては物足りないと思うかもしれない。

さて、ファッションに目を移すと、なんといっても松田優作が着ているリネンのスーツが格好いい。色は薄茶色で、こういう色のリネンはなかなかないんじゃないだろうか。また、たぶんシャツもリネンだし、ネクタイもスーツと同色系のリネンじゃないかと思う。ううむ、オール・リネンで足元は黒のオックスフォード靴。真似してみたいなあ、と思うけど、たぶん無理。だけどねえ、オール・リネンで決めてる男が、なんで安アパートに住んでるんだよ、と突っ込みたくなりますね。

いちばん好きなのは、元妻を匿った辻山の安アパートに直美が訪ねて来て、そこに暴力組織が乗り込んでくる場面。窓から逃げようとするがままならず、ドアは盛んに叩かれて今にも壊れそうな万事休すという瞬間、直美は元妻に風呂に隠れているように、と言って、自分は服を脱ぎ始める。そして布団に入って辻山に「来て」って……いやあ、たまりませんなあ。薬師丸ひろ子は台本通りにやっているんだろうけど、素のままの本人がやっているかのように見えてしまうのが彼女の素晴らしいところだと感じた。


【付記】
● 日本映画史上に残る傑作の一つ、というほどではないにしろ、久しぶりに見るとなかなか良かったです。松田優作にもうちょっと動いてほしかったなあ、と感じたのも正直に書いておきましょう。


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こんばんは^^

♪逢いたくて〜逢いたくて〜あなたに〜♪

あの曲が脳内を駆け巡ります。
薬師丸ひろこさんは、ずっと清潔感のある女優さんですよね。
だからこそ男性は、たまらないのでしょうね。^^
若い頃は「セーラー服と機関銃」が印象的ですが「Always3丁目の夕日」でも、年齢重ねてもどこか清潔感がありますよね。
こちらの映画も見たくなりました。

Re: こんばんは^^ ; かえるママさん

かえるママさん、こんにちは! コメントありがとうございます。
そうですね、『セーラー服と機関銃』は本当に印象的でしたね。
じつはこれ、薬師丸ひろ子というよりは、松田優作ファンとして見てしまった、
そんな映画でした。で、ちょっとなあ、とも思ってしまったんです。

もうちょっと、松田優作が動いてくれてもいいんじゃないか、とか思ってしまったんですね。
もちろん、薬師丸ひろ子の魅力は全開だったと思います。

No title

私もこの映画は松田優作のファンとして見ました。
何と言っても薬師丸ひろ子の後ろに立っているポスターがカッコ良くて、ああいう大人の男になりたいと思ったものでした。

そして大瀧詠一と松本崇の主題歌も切なくて、カセットに録音してウォークマンで何度も聞いていました。

松田優作のセリフで一番気に入っているのが、暴走気味のヒロインをたしなめるように「呉々も過激なことはしないように」と言った言葉です。
この作品から静かな彼も良いなと思うところがあって、この後の『それから』に繋がって行った様な気がしています。

松田優作ファンでも色々楽しめた作品でしたよ。

Re: Noriさん

Noriさん、こんにちは! コメントありがとうございます。
松田優作の演技に抑制が効きすぎているなあ、と感じましたが、
やはり主演女優のことを考えてやったんだと思います。

テレビドラマ版『探偵物語』の長髪も良かったですが、
映画版の短い髪のほうが個人的には好みだったりします。
仰るように『それから』も良かったですね。

あそこでも松田優作はアクション抜きで、
インテリというか高等遊民(?)の役をしていましたが、
すごく合っているように思えました。
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