『アパートの鍵貸します』

『アパートの鍵貸します』(1960年、アメリカ映画、120分)

TheApartment.jpg
原題:The Apartment
監督:ビリー・ワイルダー
出演:ジャック・レモン、シャーリー・マクレーン、フレッド・マクマレイほか


ビリー・ワイルダー監督作品はエレガントなものが多く、また見たくなることがあって、今回借りてきたのは『アパートの鍵貸します』(1960)。ニューヨークの保険会社に勤める平社員のバクスター(バド、ジャック・レモン)は、勤務中に顧客そっちのけで課長たちと連絡を取り、何やらスケジュールの調整に大忙しになっている。

バドは、アパートの自室を時間制で課長たちに貸していたが、彼らが浮気相手の女性との逢瀬を楽しむためだった。その見返りに高評価を付けてもらい、出世することを目論んでいた。バドはしばしば残業をしたが、時間通りに返っても部屋が使われていて入ることができないからだった。一方、社内のエレベーター係のフラン(シャーリー・マクレーン)に恋心を抱いていた。

出世作戦は成功し、バドはシェルドレイク部長(フレッド・マクマレイ)に呼び出され、どうして君の評価が高いのか、と訊かれる。よくわかりません、と答えるバドだったが、シェルドレイクは、私は良く知っている、課長たちの間で「鍵」が回っているようだね、という。追い詰められたバドは正直に事の次第を説明すると、意外にもシェルドレイクは私にも鍵を貸してもらえないだろうか、ときた。

そのために再度スケジュール調整をし直さなければならなかったが、効果は大きく、バドは個室を与えられて管理職に昇進。気分はどうかね、とバドを訪ねてきたシェルドレイクにバドは自室に忘れてあったコンパクトを渡す。いやあ女性に投げつけられてねえ、と開いたコンパクトの鏡が割れていた。その日はクリスマス・イヴで、社内ではパーティが開かれ、みんな楽しそうに飲んで騒いでいる。

昇進したバドは仕事中のフランを責任は僕が持つから、と社内パーティに誘い出す。そして今夜一緒に食事でもしないかいと声をかけると、彼女は先約があってね、という。エレベーター内で紳士的なバドにフランは好意を持っており、後でならいいわよ、といってくれた。だが何気なく彼女が開いたコンパクトの鏡に割れ目が入っていた。バドの衝撃は大きかったが、それでもフランを待ち続けるバド。しかし、待ち合わせ場所にフランはやってこなかった。

ジャック・レモンは、やはり笑わせてくれますね。隣に住む医者はバドを「鉄の男」と思い込んでいる。何しろ、連日女性を連れ込んで例の音が隣まで聞こえてしまうわけで、バドが部屋の外に出した大量の酒ボトルを見た医者は、死後に献体する署名をしてくれんかね、などと言い出す始末。だが実際のバドは「客」の時間延長後、一人寂しくTVディナーを温め、コーラで済ませる生活なのだ。

同時にテレビ映画を見ようとスイッチを入れるとグレタ・ガルボ主演の『グランド・ホテル』が始まろうとするが、その前にお知らせを、と邪魔をされる。他のチャンネルにすると西部劇ばかり。やっと始まるかと思ったらもう一つお知らせを、とくるのでバドはテレビを消してしまう。そして睡眠薬を飲んで寝ていたら「客」から電話がかかってきて、いま何とかならないか、という。出世のためにバドは「客」に部屋を明け渡すが、とうとう風邪をひいてしまう。

エレベータ係役のシャーリー・マクレーンはショートカットで、何とも清楚で可憐な雰囲気を出している。実際は歳の離れた上司と不倫関係にあるわけだけど、濡れ場は一切なくて、主演男優とのキスさえまともになかったような気がする。クリスマスの夜、シェルドレイクと一緒にいるフランだが、バドがどうしても鍵を貸してくれないんだ、それに会社も辞めたと聞くと、いつの間にか抜け出してバドの元にかけていくあの場面が何とも美しい。

幕切れがまた見事なんですね。引っ越しで部屋の整理をする場面でちらっと銃を見せておき、フランが部屋を訪ねていくと銃声らしき音がする。こちらもドキッとするが、扉が開いてシャンパンを持ったバドが現れる。どこかで別の仕事を見つけて生きていきたいんだ、とバドが言うと、偶然ね、私もよ、とフランが答える。トランプをしながらバドは本当の気持ちを伝えるが、フランは、黙って配って、と返す。よくある映画みたいに抱擁とキスにならぬのだが、胸が熱くなってしまった。


【付記】
● あまりにも有名な映画だから最後まで書いてしまってもいいでしょう。だけど全編通して男女のべたべたがなくて本当に抑制が効いています。例外としてクリスマス・イヴの社内パーティではそこかしこで抱擁が見られますが、あれはフランと一緒になれないバドの気持ちを強めるための装置なのです。お互いの気持ちを確かめあって最後まで行かないエンディングですが、もう胸いっぱいになるんですね。こういうのをエレガントというのでしょうか。


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