『時計仕掛けのオレンジ』

『時計仕掛けのオレンジ』(1972年、イギリス/アメリカ映画、137分)

A_ClockworkOrange.jpg
原題:A Clockwork Orange
原作:アンソニー・バージェス
監督:スタンリー・キューブリック
出演:マルコム・マクダウェル、パトリック・マギー、エイドリアン・コリほか


赤色の背景に白文字でクレジットが表示された後、アレックス(マルコム・マクダウェル)の顔がアップで映され、カメラが少しずつ引いていくうちに、仲間たちやほかの客もいて、そこがミルク・バー(?)であることがわかる。部隊は近未来のロンドン、15歳のアレックスをリーダーとする4人組「ドルーグ」はドラッグ入りミルクを飲みながら、今夜はどうやって暴れてやろうかと計画を立てていた。

まず街に繰り出した彼らは酔っ払って路上に寝ていたホームレスを棍棒で叩きまわした。次いで他の不良グループが少女に暴行を働こうと廃墟に連れ込んだが、アレックスたちが現れて乱闘になる。ドルーグたちは他の不良グループを叩きのめすが、パトカーのサイレン音を聞いたアレックスたちは逃走する。まだ興奮冷めやらぬアレックスたちは郊外へ場所を移し、閑静な住宅街の一軒家に困窮を装い、お願いです助けてください、と言った。

親切心でドアを開けてくれた作家の家にアレックスたちマスクを被って入り込み、作家の夫を縛って動けなくしたうえで、「雨に歌えば」を歌いながら作家をけり続け、さらに夫の目の前で妻を輪姦した。そんなことを繰り返す彼らだったが、グループのリーダーをめぐってアレックスと他のメンバーが対立し、力によってふたたびアレックスがリーダーの座に収まったかのように見えた。

その晩、金持ちの一軒家を狙って強盗を働こうとするが、家の住人は警戒を解こうとせず、アレックスは単身で家に押し入り、抵抗する老婦人をその家にあった置物で撲殺する。老婦人はすでに警察に連絡済みで、警察が駆け付けたときに他のメンバーはアレックスを裏切ってさっさと逃げ、逃げ遅れたアレックスだけが警察に逮捕されてしまう。

懲役14年の実刑判決が下り、アレックスは牧師に認めてもらえるほどの模範囚を装っていた。政府の内務大臣は信仰心がありながらも暴力性をもつアレックスに目を付け、「ルドヴィコ療法」の被験者となることと引き換えに刑期短縮の話を持ちかける。長い刑期から逃れるため、アレックスは被験者となることを決意した。

A_ClockworkOrange_02.jpg被験者は投薬されたうえで椅子に固定され、眼球が開いた状態に保ちながら、目薬を点眼して残虐映像を見続ける。薬物による嘔吐と嫌悪感が暴力的な映像と結びつき、暴力に対する生理的な拒絶反応を引き起こさせようとするものだった。しかも映像の背景音楽として選ばれたのはアレックスの好きなベートーヴェンの『交響曲第9番』だった。とうとうアレックスは、『第9』を聞くと吐き気を催すまでになったところで出所することになった。

とまあ、途中まではこんな感じなのだが、本作はキューブリックらしさ全開の映画のように思えた。いつもながら細部まで手の込んだ作りこみがすごい。冒頭のミルク・バーの内装はちょっと悪趣味だが、あれはサイケデリックを洗練させたスタイルなんだろうか。「ドルーグ」たちのファッションはなんだか変てこだけど、帽子と靴、手袋とステッキは近未来でも生き残りそうである。そしてアレックスの家のステレオ装置、なんとマイクロカセットが使われていますね。

実際には光学ディスクがメディアになっていくんだけど、CDの登場は本作の十数年後の話で、当時としては思いもよらなかったことだろう。デザインが秀逸で、それこそB&Oも真っ青になりそうな格好良さ、まさに近未来を感じさせて少しも古びていないのがすごいところだ。2001年に宇宙旅行は実現しなかったけれど、『2001年宇宙の旅』は今見てもやはり未来であり続ける感じがするすごみがあって、本作にもそうした完璧主義が感じられる。

主題が暴力と性を扱ったものなので、娯楽として見るにはかなりきつい部分があるが、アレックスが町でひっかけた女の子と自宅で行為に至る場面は早回しにしてあり秀逸である。こういう部分は笑えるのではないか。他にも随所に笑いが仕掛けられていて、ひとりでに吹き出してしまう場面がいくつかある。このあたりもキューブリックらしさが濃厚であるといえる。

そうして笑いで引っ張って行ってくれる部分もあるけれど、アレックスたちの行状はもはや笑いでは済まされぬところがあって、見ていてきつくなってくる。暴力に訴えれば必ずツケが回ってくるぞ、と言いたいわけではなく、また暴力はやはりいけないものなのだ、と反省を促すような意図があるわけでもないと思う。どんな人間にも暴力性や残虐性は潜んでいて、それを完全に消し去ることはできないのではないか。

それでもなお、そうした性質を抑制することができるのが人間で、機械的に暴力に嫌悪感を抱かせることができたとしても、心の働き抜きではもはや人間ではなく、「時計仕掛けのオレンジ」のようなものではないか、と主張したのが「ルドヴィコ療法」に疑念を持つ博士だった。映画の題名が出てくるのは後にも先にもこの一瞬だけである。


【付記】
● 一度見たらもうしばらくは見たくなくなる映画ですが、長く見ないでいるとふとまた見たくなることがあるのです。そのたびに考え込んでしまうのですが、「答」のない映画ですので、またぞろ考え込んでしまい、何かを確かめたくなって再び見てしまう、という終わりのない循環系のような映画だと思います。家族向けでないのは言うまでもありません。


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No title

初めまして。ウィスキー検索から拝見させていただいてます。
『時計仕掛けのオレンジ』は私が中学生の時11PM(多分金曜)で、
紹介されていて仲間と見に行き、結構ショックを受けて帰った記憶
があります。マルコム・マクドウェルは役どころが強烈すぎて、その
後『カリギュラ』くらいであまりパッとしませんでしたね。
にしても乙山氏は引き出し多いですね。

Re: chooringさん

chooringさん、初めまして。コメントありがとうございます。
そうそう、11PMってありましたね。
藤本義一氏が出ていて、エレガントな関西弁でしたね。
『時計仕掛けのオレンジ』は作りこみがすごくて、
しばらくしたらまた見たくなるかもしれません。

No title

劇場公開時は、他グループとの対決の際女性のソコにあの忌まわしき
ゴニョゴニョ(多分フィルムに薬品を塗っていたんじゃないかと思います)
が大きくて、逆に変な妄想をしていたと思うのですが、DVDで見たら、何
のことはなく、かなり自然で驚きました。まあ当時はイギリスでも物議を
呼んでいた作品でしたし、今とは基準も違いますしね。
私は『アラビアのロレンス』が好きです(カリギュラ繋がり)。ホームシアター
が欲しいのですが、先立つものと場所が無いので…。
通りすがりのジジイですが、よろしくお願いいたします。

Re: chooringさん

chooringさん、こんにちは! 再コメントありがとうございます。
そうですね、仰るように長らく局部にぼかしが入っていたものです。
乙山もこのたびDVDで見て、ぼかしが消えているのに驚きました。

ぼかしが消えていても、そんなに問題になるほどのものでもない、
そう思ったのですが、おそらく問題は陰毛だったのでしょう。
フランシスコ・デ・ゴヤが『裸のマハ』を描いたとき、
かなり問題になったものですし、公開は1900年になってからですものね。

イギリスでの物議は、おそらくこの映画が暴力を誘うものではないか、
という点からだと想像します。実際、英国では長らく封印されていて、
キューブリックが亡くなった頃になってようやく再販、再放映となったようです。

ホームシアターがあればいいですね。
乙山はPCとヘッドフォンでレンタル映画を楽しんでいます。
映画のサウンドって、かなり大きなものなんですよね。
こちらこそどうぞよろしくお願いします。
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只野乙山

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