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『オーケストラ!』

『オーケストラ!』(2009年、フランス映画、119分)

LeConcert.jpg
原題:Le Concert
監督:ラデュ・ミヘイレアニュ
出演:アレクセイ・グシュコブ、メラニー・ロラン、フランソワ・ベルレアン、ミュウ=ミュウ、ドミトリー・ナザロフほか


ウェブログでお付き合い頂いている方のところで『オーケストラ!』を紹介なさっているのを見て、これはいい映画に違いない、と確信してレンタルメディア店で借りて見た。映画はモーツァルトのピアノ協奏曲第21番、第2楽章から始まる。指揮者と思われる初老の男性が小声で指示を出しながら、指揮をしている。ずいぶんカジュアルな服装の指揮者だなと思いきや、じつはロシア・ボリショイ劇場の清掃員だった。

冒頭からかましてくれるわけだが、フランスらしいコメディー映画なんですね。だが清掃員のアンドレイ・フィリポフ(アレクセイ・グシュコブ)はボリショイ劇場交響楽団の元指揮者で、天才の名をほしいままにした人物だった。かつてロシアがソ連だったころ、政府のユダヤ人排斥運動に協力しなかったために楽団員とともに解雇されてしまったのだ。30年もの間、事務室を掃除していたアンドレイは、パリの劇場から出演依頼のファクシミリが来ているのを発見、それを持ち去ってしまう。

アンドレイはチェロ奏者のサーシャ(ドミトリー・ナザロフ)に計画を話した。かつての楽団員を集め、ボリショイ劇場交響楽団になりすましてパリで演奏しよう、と。二人は共産党員のイワン・ガブリーロフ(ヴァレリー・バリノフ)を訪ね、マネージャーとしてパリの劇場と交渉してほしいと依頼する。当初拒否するも、パリの共産党大会に参加する目論見もあって、交渉を開始、何とか契約するところまでこぎつける。

曲はチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲、ソロ奏者は若手の人気ソリスト、アンヌ=マリー・ジャケを指定した。それからアンドレイがパリで演奏するために、かつての楽団員を訪ねて集める場面は『ブルース・ブラザーズ』をどうしても思い出してしまう。楽団員は東欧ユダヤ系の人たちやロマの人たちなどもいて、白系ロシア人ばかりで固めずマイノリティを取り上げたのも監督の意図的なものだと思う。

出立するまで大騒動なんだけど、とくに空港で偽造パスポートを発行するなんて、そんなアホな……で、それがまた通るか、と思わず笑いながらツッコミを入れざるを得ない。パリに着いてからもパリの劇場の世話係に「現金をよこせ!」と詰め寄るのもなんとも……いやはや、それだけではなくて、ユダヤ人の親子はパリのレストランにキャビアの缶詰を売ろうと奔走するし、他の楽団員たちも観光に気を取られてリハーサルの時間になっても現れない。

リハーサルにやって来たアンヌ=マリー・ジャケ(メラニー・ロラン)は楽団員たちがいないことに唖然とするが、サーシャが弾くチェロを聞いて感心し、ロマの第1ヴァイオリニストが弾くメロディーに感嘆する。その夜、アンドレイと会食したジャケは、アンドレイから悲運のソリストの話を聞くが、私は彼女とは違うし、あなたも病気(アルコール依存症)なのよ、悪いけど私にはできない、と出演を拒否する。

本番の日、サーシャが花束を持ってジャケを訪ねるが彼女の決心は固く、サーシャは落胆して立ち去った。だが、ジャケの育ての親でマネージャーのギレーヌ(ミュウ=ミュウ)の置手紙には、今まで隠していて悪かった、出演すれば両親がだれかわかるかも、とあった。そして、手紙には悲運のソリストの解釈が書き込まれたヴァイオリン協奏曲の楽譜が添えられていた。

パリの劇場で待つアンドレイやサーシャたちの前に、ジャケが姿を見せた。だが、指揮者とソリストが現れても、まだ楽団員の中にいない者たちがいた。ユダヤ人の親子は、劇場で開演ぎりぎりまで商売していて、やむなく演奏を始めようと構えた瞬間、のこのこ表れて観客の失笑を買う。演奏は始まるが30年のブランクとリハーサルなしのいきなりの本番で、演奏はひどいものだった。しかし、ジャケがヴァイオリンを弾いた瞬間、奇跡が起こった……

音楽絡みの映画って、やっぱりいいなあ。それにしても、ジャケ役のメラニー・ロランは美しいなあ(←やっぱりそっちかよ!)。後録音かプレスコアリングかわからないけど、彼女が本当にヴァイオリンを弾いているかのようである。サーシャ役の人がじつにいい味を出していて、主役を食いかけているようにも思えた。レストランでジャケとアンドレイが会話する場面で、アンドレイは n'est-ce pas? を連発していましたね。日本人だけじゃないんだ、と安心(?)した。

チャイコフスキーの音楽は感情の動きが激しくて、あまり好んで聴いてこなかったのだが、最後の演奏場面で使われている曲もかなり感情の動きが大きく感じた。だけどこれを機に、ちゃんとチャイコフスキーを聴いてみようかな、なんて気にさせられるほど、いい映画だったように思う。ほぼ全編喜劇なんだけど、最後の演奏の場面は強く印象に残る。出だしのところなんて、わざと下手に演奏したんだろうけど、オーケストラの人も大変なんだろうなと想像した。


【付記】
● 邦題は『オーケストラ!』なんですが、どうして感嘆符が付いてるんでしょうね。そういえば感嘆符付きの映画の題名で『ブラス!』なんて言うのもありましたね。

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まだまだ『オーケストラ!』~メイキング&インタヴューetc.

NHK BSプレミアムで『オーケストラ!』を見てから、ハマり捲ってあれこれ記事にしていたブログ主ですが、まだ終わってませんぜ~!ちなみにこれまでの関連記事は以下の通り。 (1) 『オーケストラ!』は愛と笑いに溢れたファンタジック音楽映画 (2) 『オーケストラ!』は多国籍・多民族のハーモニー? (3) 『オーケストラ!』のヴァイオリン奏者サラ・ネムタヌのこと (4) 『オーケスト...

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演奏シーンの迫力

こんにちは。
ストーリーは突っ込みどころ満載ですが、楽しい映画ですね。
ソ連崩壊後のロシア人の混乱ぶりが戯画化して描かれていたのも印象的でした。
フランス人って、つくづくおちょくるのが好きなんだなあ・・・。
ロシア人はこれを見て怒らないのでしょうかね。
しかしなんといっても演奏シーンの迫力!
本当に弾いてるかのように撮影するのってどうするんだろうと、音楽映画を見るたび不思議です。
CGとか? まさかね。

No title

こんにちは~!
ご覧になったんですね!冒頭のブログで紹介してた、と言うのは、ワタクシのことでしょうか?
確かに私もブルースブラザーズの匂いを、そこかしこに感じましたよ。現実には有り得ないだろう?と突っ込みたくなる展開ばかりですからね。
ミヘイレアニュ監督はユダヤ人で差別を感じながら育ってきたんでしょうけど、それをユーモアに変える力を感じ、とても好感が持てます。ですから、異質なものを組み合わせた時の化学反応を楽しむのが好きなのでしょう。意図的に色んな民族を出して、楽しんでる感じがしました。アラブ料理屋の店主とか、見てて思いましたが、実際ロシアとフランスの俳優を引き合わせて、そこに磁場が生まれたと語っていました。

って、そうそうワタクシ、メイキングとインタビューのボーナス盤が付いたデラックスエディションのDVDを買ってしまったんです。そのうちにまたブログでも紹介するつもりですので、その際にはこちらの記事をリンクさせてもらっても良いでしょうか?

Re: 演奏シーンの迫力 ; 木曽のあばら屋さん

木曽さん、こんにちは! コメントありがとうございます。
これは本当に楽しい映画でしたね。また見たくなります。

> フランス人って、つくづくおちょくるのが好きなんだなあ・・・。
> ロシア人はこれを見て怒らないのでしょうかね。

乙山は映画の中ではそれほど危険を感じませんでした。
だけど、宗教を冒とくするのはやはりやるべきではないと思います。
いくら表現の自由があっても、やるべきではないんです。

おそらく、プレスコアリング(先に録音、それに合わせて俳優を動かす)だと思うのですが、
ひょっとしたら後録音かもしれません。
『ブルース・ブラザーズ』のメイキング映像によると、
ほとんどが後録音(つまり口パク)なんですが、JBはそれができないので、
ライヴ収録になったそうです。
本当にあの演奏場面は良かったですね。

Re: yuccalinaさん

yuccalinaさん、こんにちは! コメントありがとうございます。

> 冒頭のブログで紹介してた、と言うのは、ワタクシのことでしょうか?

はい、そうです。良い映画を紹介してくださってありがとうございます。
『ブルース・ブラザーズ』のような派手なアクションはありませんが、
とにかく笑わせてくれる場面満載の、良質な喜劇だと思います。

マイノリティを混入させたのがいいですね。
白系ロシア人ばかりだと、こうはならなかったと思うんです。

> そのうちにまたブログでも紹介するつもりですので、その際にはこちらの記事をリンクさせてもらっても良いでしょうか?

リンクの件、OKですよ!
この映画はDVDで買ってもいいですよね。
また見たくなる魅力がありますものね。

No title

乙山さん再びこんにちは。こちらの記事トラックバックしましたので、承認又は返信をお願い出来ますか?
宜しくお願い致します。m(__)m

Re: yuccalinaさん

yuccalinaさん、再コメントありがとうございます。
トラックバックって、なんだか手続きが面倒ですね!
そちらの記事にトラックバックさせていただきましたが、
出来ているかどうか、よくわかりません。
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