『ストレンジャー・ザン・パラダイス』

『ストレンジャー・ザン・パラダイス』 (1984年、アメリカ/西ドイツ合作、89分)

StrangerThanParadise.jpg
原題:Stranger Than Paradise
監督:ジム・ジャームッシュ
出演:ジョン・ルーリー、エスター・バリント、リチャード・エドソン、セシリア・スタークほか



コートを着た若い女性エヴァ(エスター・バリント)がアメリカのどこかの空港に降り立った場面から映画は始まる。1980年代撮影なのでカラー映像はじゅうぶん可能なはずだが、どういうわけかモノクロ画面で、しかもかなり粒子の荒い感じになっている。このあたりはヴィム・ヴェンダースの『都会のアリス』(1973)を思わせる。ついで「The New World」と題名が付いたパートに入り、ニューヨークに住むウィリー(ジョン・ルーリー)のところへクリーヴランドに住んでいる叔母から電話が入る。

ハンガリーから従妹のエヴァが来ることになっているが、自分は入院しないといけないので10日間ほど彼女を預かってくれないか、という。10日間もだなんて、こっちには生活もあるんだ、と嫌がるウィリーだが、他にどうしようもなく叔母の頼みを受け入れるほかない。大きなトランクと紙袋を持ったエヴァはウィリーの住居を目指すが、途中で取り出すのがモノラルのカセットコーダー。流れる曲(スクリーミン・ジェイ・ホーキンス「アイ・プット・ア・スペル・オン・ユー」)から1950年代後半という設定なのだろうか。

エヴァが歩くニューヨークもどこか寂れた感じが漂っており、ゴミが散乱している。一見しただけではそこがブルックリンかブロンクスか、あるいはロウワー・イースト・サイドなのかわからないが、少なくとも5番街のような所ではないことだけはわかる。そして彼女がたどり着いたウィリーの部屋がまた、『ブルース・ブラザーズ』(1980)の弟エルウッドの住む部屋に負けぬほど狭く小さいもので、アメリカ映画の中で最も小さくて質素な部類に入るものだと思う。

ウィリーはエヴァをとくに歓迎することもなく、せっかく来たのだから、と見物に連れ出すこともしない。彼女はとても可愛いねえ、という相棒のエディ(リチャード・エドソン)と競馬に出かける始末。ろくに仕事もせず賭博者として生計を立てているわけだが、その夕食はTVディナー(メイン料理と野菜、マッシュドポテトなどがワンプレートになった冷凍食品)。エヴァがその肉はいったいどこから来たの、と訊くと、ウィリーはこれがアメリカ流なんだ、皿を洗わなくていいだろう? と返す。

次のパート「One Years Later」は文字通りで、ウィリーとエディは相変わらずの暮らしぶり、いかさまポーカーで儲けた二人は、車でエヴァのいるクリーヴランドへ向かうことにした。二人がウィリーの叔母の家に着いた頃、冬のクリーヴランドはかなりの積雪になっていた。エヴァはホットドッグ店で働いていると聞いた二人は、彼女を迎えに行き、店で二人を見たエヴァは再会を喜ぶ。エヴァには当地で男友達もいて、彼を加えて四人でカンフー映画を見る。

まあしかし、映画を見る人を見る、ってどうなんでしょうね。たまにポップコーンが回されたりするだけで、とにかく出来事らしい出来事は少しも起きないのである。次の日、三人はエリー湖を見に行くのだが、冬のエリー湖は凍り付き、ただもう寒いだけ。本当に何にもない、のだ。ここは退屈だわ、競馬で儲けたら私を連れ出しに来て、とエヴァは言い、ウィリーたちと別れるが、彼らは急にフロリダへ行くことを思いつき、引き返してエヴァを連れていくことに。

で、「Paradise」のパートになるわけだが、泊まる宿は見事なまでの安モーテル、しかもエヴァはいないことにして二人分の宿泊代にするというけちっぷり。翌日も、男二人はエヴァを放ったらかしにしてドッグレースに興じる。帰ってきた二人は見事にほぼ一文無しの状態で、これがバカンスなの? と尋ねるエヴァに、だまっていろ、とやたら機嫌が悪い。それでも少しだけ残された金で、男二人は競馬に臨むことに。またしても置き去りになったエヴァは一人海岸を散策する。

とまあ、こんな感じなんだけど、筋らしい筋は無きに等しく、出来事らしい出来事はこれといって起きない展開で、人によっては途中で寝てしまうかもしれない。「現実の忘却装置としての夢のアメリカ」は一切描かれず、ひたすら「多くのアメリカ人にとってただの現実にしか過ぎないアメリカ」が延々と映し続けられる。美しい景観とか、異邦人(ストレンジャー)の目から見たアメリカではなく、そのまんま、現実が目の前に投げ出された感じ。

「ニューヨークの光と影」として「影」の部分をとくに強調して描き出そうとしているわけでもなく、明確な「伝えたい何か」があるわけでもなく、筋らしい筋もなく、出来事らしい出来事は起きない。また、細部から何かを読み取るような仕掛けにもなっておらず、逆にそういう「意味」をおのずから拒否しているような所がある。だからこれは「意味のない映画」と言って間違いではないと思う。おそらく意図的に「意味の発生」を封じ込めてるんじゃなかろうか。

にもかかわらず、『ストレンジャー・ザン・パラダイス』はそこそこヒットしたというし、玄人筋にも受けがいい(第37回カンヌ国際映画祭カメラ・ドール、第19回全米映画批評家協会賞をそれぞれ受賞)ようである。まことに不思議なことであるが、私(乙山)自身も「なんじゃこりゃ」とか言いながらつい最後まで見てしまったのである。退屈の限界付近が連続して映し続けられるのに、なぜか見続けることができる不思議さ、それがこの映画の魅力(?)なんだろうか。


【付記】
● クリーヴランドはスクリーミン・ジェイ・ホーキンスの生まれ故郷で、ロックンロールの殿堂があるのだそうです。だけど、そんなもん知らんわ! といいたくなりますね。たぶん、知らなくても『ストレンジャー・ザン・パラダイス』は楽しめる(?)と思いますが、やはりベースは退屈なので、かなり好みが分かれるんじゃないかと思います。ロードムービーの中で最も「何も起きない」映画かもしれません。


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No title

こんにちは。
ストパラ映画館で見ましたよ。最後まで眠らずに。
スクリーミーのあの曲は耳に焼き付きました。

ヴェンダースもそうですが、淡々とした日常を描くのは、小津の影響では?と言われてますよね。私は結構好きです。

忘却とは忘れ去ることなり

封切り時に映画館で観ましたが、ほとんど内容覚えていません・・・。
ひょっとすると半分くらい寝てたかも?

Re: yuccalinaさん

yuccalinaさん、こんにちは! コメントありがとうございます。
これを映画館で見たというのがすごいですね!
乙山など、ずっと後になってからVHSのレンタルだったような……

これ、ヴェンダースのフィルムの残りを使って「The New World」を撮ったらしく、
それを見たドイツの映画会社が制作に乗り気になったようで、
そういうわけでアメリカ/ドイツの合作になっているようです。

小津安二郎の影響はかなりあると思います。

Re: 忘却とは忘れ去ることなり ; 木曽のあばら屋さん

木曽さん、こんにちは! コメントありがとうございます。
おお、ここにも猛者が……これを公開当時に映画館で見るなんてすごいことですね。
映画が好きで好きで、っていう人のための映画ですよね。
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