『PiCNiC』

『PiCNiC』 (1996年、日本映画、完全版72分)

PiCNiC.jpg
監督:岩井俊二
音楽:REMEDIOS
出演:CHARA、浅野忠信、橋爪浩一ほか


冒頭は、誰かがが道路にバラの花を丁寧に置いていく場面から始まる。その花を踏みつけるように一台の車が走り抜け、中には夫婦とその子であろう若い女性・ココ(CHARA)が乗っており、彼女は囁くように歌を歌っている。車が止まると、すぐさま看護師らしい数名の男女がやってきて、にこやかな笑顔でココを両側から捕まえて力づくで連れて行こうとする。彼女は叫び声をあげるが、お願いします、と頭を下げる両親。ココは精神科病院に入れられてしまったのだ。

女性看護師がココの部屋にやってきて彼女の荷物を点検し、精神科病院での生活に不要なものは容赦なく捨てられていく。患者用の服に着替えさせられたココは、黒い鳥の羽でできた服のようなものを大事に抱えていたが、よこしなさい、と力づくで奪おうとする看護師の腕をかんで守る。ココが庭に出てみると、そこでは患者たちが絵を描いていた。ココに興味を持ったサトル(橋爪浩一)は、昨日見た夢を描けばいいんだよ、と彼女に近づいて声をかける。

部屋で一人になったココはカラスを捕まえ、その羽で黒い服を作る。そして持ち帰った絵具を患者用の服に塗りたくり、全身真っ黒になって鏡の前でけらけら笑う。一方、サトルの部屋の隣にはツムジ(浅野忠信)がいるのだが、各室にドアはなく、檻になっており、そこから隣の様子をうかがうことができる。サトルはココのことをツムジに話し、好きなんだ、と言いながら公然と自慰行為にふけりだす。ツムジは本を読んでいるのだが、小学校の担任の先生が現れる幻覚に悩まされる。

ある日、カラスの羽の服に黒いブーツ、黒の破れた傘という奇妙な格好をしたココが病院内の中庭を歩いていると、ツムジとサトルが病院の塀の上を歩いているのを見かける。なにしてんの、と彼女が訊くと、探検だよ、という。サトルは一緒においでよ、とココを誘い、三人は塀の上を歩いて行く。もうこれ以上は行けないよ、と男二人は立ち止まるが、ココは隣の塀へ飛び移り、どんどん遠くまで歩いていく。サトルはそこにとどまり、ツムジはココの後を追って塀を飛び移った。

途中で賛美歌が聞こえるので二人が立ち止って聞いていると牧師が現れ、二人と話した後、これをやろう、と聖書をツムジに手渡す。聖書を読むうちにツムジは、信じる者は救われること、そして世界がもうすぐ終わることを確信する。いつ終わるのよ、と訊くココに、困ったツムジは聖書の発行年月日を見て、その日を告げる。そしてその日、三人は「世界の終わりを見るためのピクニック」に出発する。

『スワロウテイル』(1996)でも感じたけれど、どこか日本映画ではないような雰囲気に満ちている。冒頭でバラの花を道に置いていく場面があって、これを見た瞬間だけでもう、日本のどこかなのに日本じゃない感じがするのが不思議である。何かフィルターをかけているとは思うが、フィルターだけでああいうふうな独特の映像になるとも思えない。いわゆる岩井俊二の映像美、ということなんだろうけど、何度見ても不思議な感じになる。

登場人物たちはかなりぶっ飛んでいて度肝を抜かれたり笑わせてくれたりするんだけど、根底にあるのは贖罪の物語じゃないかと思う。そして誰もが救いを求めているのだが、救いなどどこにもありはしない。できればどこかでやり直したい、いやもう一度すべて初めからやり直したいが叶うはずもない。だからこそ「世界の終わり」にどうしようもなく惹かれてしまうのだ。「また夢の中か。いったいいつになったら出られるんだ!」というツムジの叫びが悲痛だ。

全編映像が独特で美しいのだが、とくに次の二か所は格別だ。まずツムジとココがお互いの過去を明かしあって似た者同士として近づく場面。「地球最後のキスだよ」にはやられましたね。そしてもう一つはエンディングの場面で、夕陽の中で黒い羽根が舞うんだけど、なぜそうなるかはご覧になっていただくほかない。とにかくものすごく印象に残るエンディングで、そのままエンドクレジットに入っていくのだが、そこで流れる音楽も秀逸である。


【付記】
● 岩井俊二監督の映像美ばかり強調したのですが、同監督は作品の中にわざと悪趣味に思える何かを混入させるのが好きなんじゃないかと思います。本作ではツムジの担任の先生で、人形なんです。カットバックの実写を避けるための手法だと想像しますが、ちょっとなあ、という部分があって、好き嫌いが分かれるところじゃないかと思います。成人指定映画であり、子どもを含めた家族で楽しむ種類の映画ではありません。


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