『反撥』

『反撥』 (1965年、イギリス映画、105分)

Replusion.jpg
原題:Repulsion
監督:ロマン・ポランスキー
音楽:チコ・ハミルトン
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、イヴォンヌ・フルノー、イアン・ヘンドリー、ジョン・フレイザーほか


ロマン・ポランスキー監督の『水の中のナイフ』が良かったので、続いて『反撥』(1965)をレンタルメディア店で借りて見た。いきなり女性と思われる眼の接写に驚く。その眼の上に題名や出演者が表示され、音楽もただならぬ雰囲気を醸し出している。やがてカメラが次第に離れて行って、少しずつ女性の顔が明らかになってくる。カトリーヌ・ドヌーヴですね。しかもメイクが薄目なのか、かなり素顔に近い感じがする。

舞台はイギリスのとある町、大型美容室で働くキャロル(カトリーヌ・ドヌーヴ)は、昼休み時間に昼食をとるため、食堂に入る。キャロルに言い寄ろうとする青年コリン(ジョン・フレイザー)は食堂に彼女の姿を見つけ、キャロルと同席する。コリンは何とかキャロルの気を引こうとするが彼女はどこかよそよそしい。今晩どうだい、というコリンに対して、今日は姉と食事をする約束がある、と断る。では明日の晩にパブで会おうと約束をする。

キャロルは姉ヘレン(イヴォンヌ・フルノー)とアパートメントに暮らしている。キャロルが帰宅すると、夕食に贈ってもらったというウサギを料理しようとしていた。洗面台で足を洗った(これは意外だった)キャロルは、自分のコップに姉が付き合っている男性マイケル(イアン・ヘンドリー)が使った歯ブラシが入っているのを見て嫌そうな表情になる。そこへ予定より早くマイケルが帰ってくるが、キャロルはマイケルに距離を置いている。

どうも君の妹には嫌われているみたいだね、とマイケルは言い、ウサギ料理に時間がかかると聞いた彼は外で食事をしよう、とキャロルを残して二人で外出する。ウサギは冷蔵庫にしまわれ、キャロルは一人ベッドに横たわる。深夜になって帰宅した姉とマイケルだが、しばらくすると例によって、男女の営みによるあの例の声がキャロルの部屋まで聞こえてくる。どうにも寝られず、キャロルは枕やベッドに拳を叩きつけて苦悩する。

翌日の夕方、キャロルはコリンとの待ち合わせ場所に向かうが、途中でベンチに座って考え込んでしまう。ベンチ前の地面には亀裂があり、彼女はなぜか亀裂が気になって仕方がない。自宅の壁にも亀裂を見つけ、あれを修理しないと、などと考えていた。一方コリンは、待ち合わせ時間になっても現れぬキャロルにしびれを切らし、パブを飛び出して歩いていると、ベンチに呆然として座るキャロルを見つける。

どうしてなんだ、とコリンが問い詰めても、キャロルは曖昧な返事しかせず、何か食べに行こう、と誘っても、もう遅いから、と全然乗り気ではない。じゃあ家まで送っていくよ、と車に彼女を乗せ、家の前まで来るのだが、キャロルは少しも楽しそうな様子ではない。少し彼女に近づいてキスをしようとしても、キャロルはそれを拒んでいるようで、少し強引にキスをしてみるものの、キャロルは目を開けたままあらぬ方向を見ている。

そして、キャロルは家に帰ってくるなり、口をすすいで何か汚れたものを洗い流そうとでもしているような行動をとる。洗面台にマイケルの歯ブラシが置いてあるのを見てすかさずゴミ箱へ捨ててしまうキャロル。ろくに食事もしないまま、キャロルはベッドに横たわるのだが、夜も更けてくると、またしてもあの例の声がキャロルの部屋まで聞こえてきて、彼女を悩ませる。

とまあ、そんな感じで進んでいくのだが、これは「潔癖症」あるいは「男性恐怖症」の若い女性が、自己崩壊していく姿を描いたものだとわかってくる。この後、姉とマイケルはキャロルを残してイタリアへ旅行に出かけるのだが、一人になったキャロルの精神崩壊が描かれるのでだんだん見るのがつらくなってくる。彼女は自宅の壁に亀裂が入る幻覚を見るようになり、男に乱暴される夢をひんぱんに見るようになる。

映画の手法としては一切の説明なしでひたすら映像によって語る、というやり方。たとえばアンドレイ・タルコフスキーやジャン=リュック・ゴダールのようにナレーションを多用する監督もあるけれど、ポランスキー監督は言葉に頼らず、とにかく映像で勝負する姿勢を貫いている。だからこれは、おそらくアルフレッド・ヒチコックの流儀に近いものではないかと思う。『サイコ』(1960)をはじめとしたヒチコック作品でも、ナレーションを使わず映像で暗示していたように覚えている。

たとえば、芽の出たジャガイモ、腐敗して干からびたウサギの肉が少しずつ変化する様子が執拗なまでに映され、キャロルの精神の変化を暗示しているかのようである。また室内や戸外でも亀裂が何度も繰り返して映されるが、これもおそらくは彼女の精神や家族関係に亀裂が生じていることを暗に示しているのかもしれない。そしてキャロルは顔にかかる髪をいつも振り払うしぐさをするが、これは彼女にまとわりつく何かを振り払おうとしているように思える。

とにかく全編を通してカトリーヌ・ドヌーヴを延々と撮影し続けたわけで、彼女の魅力に負う部分も大きい。前年撮影の『シェルブールの雨傘』(1964)の成功を受け、絶妙のタイミングでの起用ではないか。ドヌーヴは当時22歳くらいだと思われるが、ノーメイクに近い「小娘」らしさをうまく出しているように感じた。『シェルブール』でのドヌーヴも小娘役だけど、そこではかなり成熟した魅力が出ていたのに対し、本作のドヌーヴはどこか清楚な感じがして、同じ女優だとは思えぬほどだ。


【付記】
● 『反撥』は確かに秀作なんですが、精神的、体力的に余裕のある時に見ることをお勧めします。一人でこれを見ると、なんだか恐ろしくなってくるんですね。かといって、素敵な彼女/彼とこれを見るのか、というのもちょっと考えにくい。ましてや、家族みんなで、なんてありえない、いささか見る機会を得るのが難しいのが『反撥』だと思いました。だからこれ、ミニシアターで「ポランスキー特集」とかイベントがあったときに、映画好きの人が集まって見る、とかいうのがベストでしょうね。映画コンペティション向きなんだと思います。


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 この記事を拝見して YouTube を検索したらみつかりまし
たので、ぼくも観ました。字幕はないけれど、セリフがろく
に聞き取れなくても十分鑑賞できるので、興味をお持ちのか
たはぜひ。

 精神を病んだ暗く無表情な娘の顔が延々と映し出されるの
で、はてな、このまま進行するのかなあと心配になったので
すが(笑)、そのうちにギョッとするような場面が次々と現れ
、一挙に緊張が高まるところはさすがポランスキーですね。

 ちょっと風変わりだけれど、ひさしぶりに渋い映画を観た
ように思います。おっしゃるとおり、あまり一般受けするよ
うな種類の作品ではなく、少なくとも若い男女がお手々つな
いで観に行くような映画ではないでしょうね。それこそ二人
の関係に亀裂が入るかも。

Re: 薄氷堂さん

薄氷堂さん、こんにちは! コメントありがとうございます。
本当にこの映画、一人で見ていたら恐ろしくなりますね。
かといって、だれかと、ってなると該当人物が見つかりません。

セリフもかなり少なめですし、仰るように映像だけ見て楽しめる(?)、
そんな映画だと思います。映像だけで勝負、という潔さがいいんですね。
姉と愛人が旅行に出かけてからが本当に恐ろしくて、
緊張が高まるので、記事に書きませんでした。

これ、二作目なんですよね。一作目が例の『水の中のナイフ』でして。
すごいなあと思いました。またポランスキーを見てみようと思います。
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只野乙山

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