『水の中のナイフ』

『水の中のナイフ』 (1962年、ポーランド映画、94分)

水の中のナイフ
原題:Nóż w wodzie (Knife in the Water)
監督:ロマン・ポランスキー
出演:レオン・ニェムチック、ヨランタ・ウメッカ、ジグムント・マラノウッツ


ロマン・ポランスキー監督作品といえば『テス』(1979)や『チャイナタウン』(1974)そして『戦場のピアニスト』(2002)くらいしか見たことがないが、レンタルメディア店の棚を見ていると、たいへん印象的な題名だったので手にしたのが『水の中のナイフ』(1962)である。これはポランスキー監督のデヴュー作だという。

冒頭は女が車を運転する横に男が座っている場面が延々と映され、背景にはジャズが流れ出す。男はスポーツ記者のアンドジェイ(レオン・ニェムチック)で、女は妻のクリスチナ(ヨランタ・ウメッカ)。彼らは安定した生活を送っており、週末に湖で自家用ヨットでクルージングを楽しもうとしていた。アンドジェイが運転を代わり、湖へ車を走らせていると、ヒッチハイクの青年(ジグムント・マラノウッツ)が道の真ん中で行く手を阻もうとするかのように立っていた。

急停車したアンドジェイが一言おうと青年のもとへ行くと、彼は「ヘッドライトがついたままになっている」という。そのまま通り過ぎようとしたアンドジェイだが、気を取り直して青年を乗せ、湖へ向かった。桟橋にはアンドジェイらの自家用ヨットが係留されており、夫婦はすぐにヨットの出航準備に取り掛かった。その手慣れた様子を見ると、もう何度もヨットに乗っていることがわかる。それでは、と別れようとした青年だが、どういうわけかアンドジェイは彼にヨットに乗るように言う。

経験と知識、社会的地位と金がある中年男性が余裕をもって、金も地位もない青年にヨット・クルージングを教えてやる、という感じで進んでいくのだが、クリスチナはどこか中立的な態度で青年にやさしく接する。あくまで上位の立場を保とうとするアンドジェイと、一応はそれに従っている青年だが、アンドジェイの高圧的な態度に反発心を募らせる。そして青年が持っていた大型のナイフを巡って、少しずつ三人の関係に変化が生じていく。

雨が降って一晩ヨットの中で過ごすことにした三人だが、翌朝、アンドジェイは青年のナイフをポケットに入れ、青年は「ナイフがない」と慌てる。なぜ隠した、返してくれ、と青年は詰め寄るがアンドジェイは返そうとしない。二人がもつれているうちに、ナイフは水の中へ落ちてしまった。激昂した青年はアンドジェイに躍りかかるが、アンドジェイは身をかわして青年を湖に落としてしまう。自ら「泳げない」と言っていた青年はなぜか水の中から上がってこない。

ここに至ってクリスチナは「あなたが彼を殺したのよ」と言い、「あなたのはったりにはもう、うんざりだわ」とアンドジェイに対する嫌悪を露わにする。アンドジェイも負けじとクリスチナを罵り、「警察など怖くあるものか」と吐き捨て、湖に飛び込んで泳いで岸にたどり着こうとする。一人残されたクリスチナは悲嘆にくれるが、実は青年はブイにつかまって生きていた。アンドジェイがいないまま、二人きりになったクリスチナと青年は……

とまあ、こんな感じで進んでいくのだが、限られた空間に閉じ込められた人間たちの心理を描いた小説のようである。しかし本作に原作はなく、ポランスキー監督と脚本家によるものらしい。楽しくヨット・クルージングをしているような雰囲気なのに、心理状態はサスペンド(宙吊り)された感じが続き、それがある一点で頂点に達して日常の平凡さに隠された欺瞞が露わになるのだが、その全編を貫く音楽はジャズ。ヨットの上で日光浴をしている場面においても、不思議とジャズがはまっているのが興味深い。


【付記】
● 『水の中のナイフ』、初めてきちんと見ました。いつか、どこかで見たかもしれませんが記憶にないことからすると、初めてなのだと思います。決して娯楽的作品ではありませんし、人によっては「寝てしまう」かもしれません。乙山はタルコフスキーで鍛えている(?)ので、そんなに退屈しないで見ることができましたが、これは家族向きではありませんね。


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No title

こんにちは。
私的には興味をそそられますね。ポーランド時代の作品ですね。
20代の頃は背伸びして、小難しそうな映画を敢えて見たりしてたのですが、記憶の中でポランスキーとワイダがごちゃ混ぜになっていた模様。水の中ナイフ、見たつもりでしたが、粗筋を読んでて全然ピンとこなくて、どうやら見てなかったようです。

Re: yuccalinaさん

yuccalinaさん、こんにちは! コメントありがとうございます。
この映画、乙山も初めて見たんじゃないかと思います。
なかなか良かったですよ。映画好きの人にはぜひおすすめします。

No title

こんにちは。^^
私も、『水の中のナイフ』。どうもワイダ作品とごっちゃにしてしまいます。
ワイダの『灰とダイヤモンド』を見てショックを受けて以来、彼の『地下水道』、
イェジー・カヴァレロヴィチの『夜行列車』、そしてこのポランスキーの『水の中のナイフ』を
同時期に立て続けに見たからだろうと思います。
『夜行列車』もいいです。音楽がやはり素晴らしい…

ポーランド映画、良さそうなのがたくさんありますね。
集中的に見てみようかなぁ…

Re: 彼岸花さん

彼岸花さん、こんにちは! コメントありがとうございます。
アンジェイ・ワイダの映画、たぶん見たことないような気がします。
ポランスキーも最近興味を持って、たまたま見ただけなんです。

映画好き、とは到底言えぬような男ですが、
『灰とダイヤモンド』とか『夜行列車』など、
もしあれば見てみたいと思いました。

レンタルメディア店も、ほとんど見る人のないものを、
いつまでも置いているわけではないでしょうしねえ。
そのわりには『都会のアリス』とか『フライド・グリーン・トマト』があったりして。
昔のいい映画、もう少し見ていこうと思っています。  
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只野乙山

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