『都会のアリス』

『都会のアリス』 (1973年、西ドイツ映画、110分)

AlinceInTheCity.jpg
原題:Alice in den Städten
監督:ヴィム・ヴェンダース
音楽:CAN
出演:リュディガー・フォーグラー、イェラ・ロットレンダー、リザ・クロイツァーほか


ヴィム・ヴェンダース監督による『都会のアリス』という映画があるのは知っていたが、1980~1990年代にかけて、VHSやDVDによる販売はなかったし、レンタルメディア店の棚にも見つけることができなかったのではないかと思う。だからこれは、長年見ようと思っているが、見ることのできぬ映画の一つだった。ところが、駅前のスーパーマーケット内のレンタルメディア店に何気なく置かれているではないか! すかさずつかんでしまったのは言うまでもない。

一人の男(リュディガー・フォーグラー)が、浜辺でポラロイドカメラによって風景を撮影する場面から始まる。その男はフィリップという名のドイツ人ライターで、アメリカ旅行記を書くはずだったが、少しも書けず、ポラロイドカメラで写真を撮ってばかりいた。出版社に前借をしようとしたが断られ、ドイツに帰ってから記事を書くつもりだ、と空港で手続きをしようとする。ところが、ストライキによりドイツ行の便はなく、アムステルダム行しかないという。

同じくドイツへ行こうとしていた女性もアムステルダム行にするしかなく、英語をうまく話せない彼女はフィリップに手続きを依頼し、彼女は少し親しくなったフィリップに同行してほしい、と言う。とくに断る理由もないフィリップは受け入れることにしたが、彼女には9歳の娘アリス(イェラ・ロットレンダー)がいた。ホテルに宿泊した三人だが、母親は待ち合わせ場所と時間を書いた手紙を残して早朝に一人部屋を出る。

ところが、約束の時間と場所にフィリップとアリスが現れても、母親はついに姿を現さなかった。こうして、31歳の男と、9歳の女の子は、仕方なく一緒にアムステルダム行の飛行機に乗ることになった。この後、映画は二人がアムステルダムへ行き、さらにアリスの記憶を頼りに彼女の祖母の家を探す旅を続ける。要するにこれは、31歳の男と9歳の少女の旅を撮ったロードムービーなのである。

1973年の撮影だから、カラー撮影しようと思えばできたはずだが画面はモノクロで、しかもあえて品質の悪い小型カメラを使ったのではないかと思われる画質の悪さである。画面には粒子が目立ち、なんでこんな画面にしたのかな、と思えぬでもない。だがそれが、何とも言えぬレトロスペクティヴであると同時に自家製ビデオででもあるかのような私的雰囲気を出しており、味わい深さにつながっているように感じた。

音楽はエレクトリック・ギターのアルペジオによるものが主題曲になっているようだけど、これはドイツの音楽グループ、CANによるものだという。CANの楽曲は全く聴いたことがないけれど、ブライアン・イーノのソロアルバムに参加しているメンバーのだれかがCAN関係者だというのをCD付属の解説で知っていた。少しテイストは違うのだが、なんだか日本の「フォーク」を思わせるアルペジオのように感じた。一瞬、チャック・ベリーが出てくる場面もあるが、本編の筋とはあまり関係がないような気がする。

題名から想像できるように、ルイス・キャロルの原作を意識しているのだろう。都会におけるアリスの冒険、ということなんだろうけど、実際、アリス役のイェラ・ロットレンダーの印象は極めて強く、彼女の存在がこの映画を引っ張っている、といっても言い過ぎではないだろう。一方、フィリップ役のリュディガー・フォーグラーもなかなか味のある演技をしており、ライター失格のダメ男が、少女の面倒を見ることでだんだんまともな人間になっていく過程も描いていると思う。


【付記】
● まあ、筋があってないような進行はロードムービーではお馴染みなのですが、こういう下地があってこその『パリ、テキサス』なんでしょうね。人によっては「退屈」に感じるかもしれませんが、なんか見続けてしまう不思議な魅力のある一本です。


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No title

こんにちは。
ヴェンダース作品はモノクロ多いですよね。その後ジャームッシュのストパラ等へ繋がってる作品かもしれませんね。
CANの曲を使ってるのは意外ですが、そう言えばヴェンダースはドイツ人でしたっけ。と今さら思うのは、ライ・クーダーのイメージが強すぎるからかもしれません。

Re: yuccalinaさん

yuccalinaさん、こんにちは! コメントありがとうございます。
ジャームッシュの『ストレンジャー・ザン・パラダイス』は改めて見て、
記事にしようかなとちょうど思っていたんですよ!

CANを聴いたことがないんですが、ジャーマン・ロックっていうんでしょうか、
ヴェンダース『ベルリン、天使の歌』でも変な(?)音楽が使われていましたね。
イーノのアルバムに参加しているのはホルガー・シューカイではなくて、
ヤキ・リーベツァイトのようです。

ヴェンダースといえばライ・クーダー、というイメージはありますね。
『パリ、テキサス』でも『ブエナ・ビスタ…』でもそうでしたからねえ。
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