フルレンジ道楽(1)JBL D130




〈遊歩者 只野乙山〉 随時更新(?)気まぐれ企画
【フルレンジ道楽】



JBL_D130_01.jpg
JBLのD130は、かのジェームズ・バロウ・ランシングが「家庭用の美しいスピーカーを作りたい」とアルテック・ランシングを辞め、JBLを立ち上げた後に発表された最初期のスピーカーで、ランシング自身の設計による。100dBを超える高い能率を持ち、38cmという大きな口径でありながら高域もそこそこ伸びていて「フルレンジ」としても使えるというが、JBLの製品としては075などのトゥイーターを追加したものになっており、D130だけのモデルは存在しない(と思う)。

だけど、16cmでバランスがいいという感覚からすると、38cmでは高域が……と思ってしまうし、資料で周波数特性を見ても、低域、高域ともにだら下がりの「カマボコ型」なのである。これではハイファイは厳しいんじゃなかろうか、と当初D130を敬遠し、ベイマの30cmフルレンジでやろうと構想していたほどなのだ。頭ではわかっている、でも……あの604を設計したランシング、38cm口径では高域の不足も知り尽くしている男が設計したD130がどうも気になっていた。

ほぼベイマの30cmで決まりかけていたのだが、コイズミ無線扱いのそれが欠品中だった。どうしたものか、と某サイトの中古品を見ていたら、あのD130がちょっと安くなって出ていたのである。理由は左右のコーン紙の色が違う、とある。なんだそんなこと、シリアル番号が離れていようと、ヴォイスコイルの抵抗値が多少違っていようと構わない、バランス調整でセンターに定位するようにすればいいだけではないか。と思っていたら、手が勝手に(うそうそ)購入ボタンを押していた。

JBL_D130_02.jpgそんなわけでD130が我が家にやって来た。後面開放型の箱を作って装着し、聴いてみる。もう何年も放置されていたのだろうか、寝ぼけたような音に感じたが、めげずに小音量で「慣らし運転」を続けた。すると、少しずつ音が変わってきたように思えたので、いよいよ本格的に聴きこんでみよう。併用アンプは6463シングル0.5Wアンプ、このユニットを想定して作ったのだが、D130用であるが故の工夫は特にしておらず、汎用アンプである。音源はCDのみ、携帯型CDプレーヤー(おいおい)にて出力、パワーアンプにダイレクト接続している。

D130が聴けるようになったら、まずクラシック音楽を聴こうと思っていた。えっ、JBLでクラシックだと? JBLといえばジャズかロックだろうが、という声が聞こえてきそうだがクラシックである。我が家ではジャズもロックもクラシックも全部聴くので、どれもうまく鳴ってくれなくては困る。特定のジャンル向きのスピーカーなどいらぬのである。というわけでベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番(シュミット=イッセルシュテット/ウィーン・フィル/バックハウス、1958年録音)を聴いてみた。

多少古いがステレオ録音で音源としては申し分ない。オーケストラの雰囲気とかスケール感も再現できているように感じるし、ピアノも美しく聴こえる。コントラバスもしっかり聴こえてくる。重厚な感じはない代わり、軽やかでのびやかな低音に思う。次に古い音源としてベートーヴェンの『第9』(トスカニーニ/NBC交響楽団、1939年録音)の第3、第4楽章を聴く。この音源は小さなスピーカーで聴くと缶詰音楽のように感じるが、D130では詰まった感じではなく、かなりうまく再生してくれるように感じた。

JBL_D130_03.jpg他日、再び『第9』(シュミット=イッセルシュテット/ウィーン・フィル、1965年録音)を聴いてみたが、なかなかいい感じではないか。いけるとは思っていたけれど、D130一発でシンフォニーが楽しめるのはうれしいことである。他にもモーツァルトの交響曲「ハフナー」と「リンツ」(ホグウッド/エンシェント室内楽団)やバッハのオルガン曲、ハープシコードによる『ゴルトベルク変奏曲』、『ブランデンブルク協奏曲』なども聴いたが、とくに不満には思わなかった。

パルシヴで均一な音源(ロック/ポップ)はだいたいどのスピーカーでもうまく鳴るものだが、一応聴いておきますか。オーディオ・オリエンテッドと思われるスティーリー・ダン『エイジャ』やリッキー・リー・ジョーンズの一枚目、イーグルス『ホテル・カリフォルニア』など、どれも聴いていて心地よい。38cmということで高域を心配したけれど、そんなに悪くないと思う。むしろ38cmなのに、よく細やかな表現ができるんだなと感心したほどである。

さて、高域が弱いD130にとって最もシビアな音源(? 本当はシンフォニーがうまく鳴るかどうかで決めたいところ)として選んだのはウィンダム・ヒル・レーベル、ジョージ・ウィンストンの『December』である。ちょっとエコーが効きすぎている感がしないでもないが、ピアノがどれだけきっちり再現できるか試してみた。夜遅く、静まり返った中で音量を絞ってだが、思った以上にきれいな音ではないか。高域もC6周辺までいけてるんじゃなかろうか。せいぜい3kHz~5kHzまで、という頭でわかっている情報とはどうも様子が違うとしか思えない。

JBL_D130_04.jpg最後にジャズ。男性ヴォーカルとしてボズ・スキャッグス(おいおい)の『バット・ビューティフル』と『スピーク・ロウ』。ヴォーカル領域の再生は最も得意なんだろうか、聴いていて「はっ」とする瞬間が何度もあった。女性ヴォーカルはできるだけ新しい音源を、ということでノラ・ジョーンズ、ソフィ・ミルマン、マデリン・ペルー、ダイアナ・クラール、そしてメロディ・ガルドーを聴いた。思いの外、最新の音源をうまく鳴らすことに驚いてしまった。

全般的な傾向としては低音が軽めだということで、これは高域を伸ばすために低域を犠牲にしたD130の性質に加えて、後面開放型エンクロージャーによる部分が大きい。だが上質な軽やかさと伸びやかさがあり、自然な感じのする低音である。このあたりは好みの分かれるところと思うけど、個人的には後面開放型の自然な感じを気に入っている。音源によってはもう少し低音に「押し」が欲しいところだが、これはトーン・コントロールで何とかなるだろう。

どうしても迫力も重量感もたっぷりの低音にしたければ、バスレフ型エンクロージャーを採るべきだが、そうして低域を伸ばすと、高域とのバランスが崩れてしまって、トゥイーターが欲しくなるように思えた。それを具体化したのがC36やC38の姿で、製品としてはやはりそうするのがベストだろう。D130一発だけの場合、平面バッフルや後面開放型を選ぶ人がわりといるのも、なんとなくわかる気がする。そのほうが、フルレンジとしてはバランスが取れているのだと思う。

JBL_D130_05.jpgもう一つ言えることは、ジャズのカルテットなどを聴いていると、ハイハットがおとなしめだということだろうか。人によっては「ハイハット(シンバル)が後退している」または「聴こえない」と思うかもしれない。これはD130の限界なのかもしれないが、ふつうドラムって後ろで鳴っているものでしょう? ベースがブンブン唸って、ハイハットがシャカシャカ鳴っていないと気が済まない人は、素直にD130にトゥイーターを足したほうが満足できるだろう。というか130A+トゥイーターを選ぶべきでしょう。

低域、高域ともに不足している、むかし懐かしい音、みたいなものをどこかで予想していた。しかしそれは見事に覆され、思った以上にハイファイな感じがした。だがこれは「せっかく買ったんだからいい音で鳴ってくれないと困る」というバイアスがかかった状態で聴いている人間の報告だからあてにならず、話半分でお願いしたいところである。最新の、高域・低域ともに伸び切った優秀なスピーカーを普段聞いている人が聴いたなら、また違った印象になるのではないだろうか。


≪ フルレンジ道楽、ついに動き出すへ  ? ≫
≪ 後面開放型スピーカー箱へ  電池式プリアンプへ ≫


【付記】
● 能率100dB超のスピーカーにつないでもアンプのノイズは全く気にならぬレベルだったのもうれしいことでした。そしてたった0.5Wの出力なのにうるささが心配になるほどなのです。おそらく今の環境ではD130の実力を出し切ることは難しいでしょう。田舎の一軒家に近いような環境だと、思う存分D130を鳴らすことができるのかもしれません。

「JBLとジャズ」というのは「作られたイメージ」だと思います。ウェスタン・エレクトリックやアルテックが活躍していた1930~50年代の音源はポピュラー音楽とクラシック音楽が大半だったのではないか(1945年からジャズも入ってくる)。だから、ウェスタンやアルテック、そしてランシングも、音源としてクラシック音楽を視野に入れぬわけがなく、むしろクラシック音楽の再生に全力を傾けたと想像しています。実際に聴いてみて、D130でクラシック音楽というのはたいへん楽しい経験でした。


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非公開コメント

できましたねえ・!
D130を一発で鳴らす、やはりおっしゃるように、バスレフだとへんなモコツキがでるでしょうからそのへんのサイズの密閉型、ぼくでもそうしたと思います。

まあ、でかく鳴らせない環境だからこそ余裕のアンプだとなおいいんでしょうが、そうですか、おっ!っと感じる一瞬が何度もありましたか、そうでしょうね。そうだろうなあ。いいなあ。何気なさがいい。ずっと使ってくださいな。

そういうものを作ってしまい乙山さんのその感じが素晴らしいですよ。男の夢に、乾杯!といきましょう。ははは


HOBO

Re: HOBOさん

HOBOさん、こんにちは! コメントありがとうございます。
JBLのD130は予想以上でした!
良い意味で「裏切ってくれた」というより、
想像しなかった音を出してくれる、というものだったのです。
それも、実力を出し切らぬ形で、示してくれました。

この音の出方は、それこそ「人それぞれ」でしょうし、
乙山が決めつけるわけにも参りませんが、
それは乙山の予想をはるかに超えたものでした。

普通に使うなら、やはりC36かC38のようにするのがいいでしょうね。
平面バッフルとか後面開放型はどこか「趣味人」ぽい感じです。
でもまあいいか、やってしまったんだから仕方ないって感じです。

No title

とうとう完成しましたね。お目出度うございます。

記事を拝見するにフルレンジの面白さというのが、ヒシヒシと伝わってきます。
そして乙山先生の耳の良さにも敬服致しました。

職場の元先輩がマルチウェイ派で一度家で聞かせてもらった事があったのですが、低位・高音共に尖らせて聞くのが好きなようで、それこそハイハットの音が耳を突き刺す様な感じでした。
堅い音が好みだった様なのですが、家から出た時に妙な疲れ方をしておりました。

記事を拝見してフルレンジ道楽というのも良いなあとしみじみ思います。

Re: Noriさん

Noriさん、こんにちは! コメントありがとうございます。
フルレンジの音がいい、というよりはど素人だからフルレンジ、かもしれません。
理屈でいえばマルチウェイ(とマルチアンプ)方式のほうが優れていると思います。

ですがスピーカーとアンプを用意するのが大変で、
揃えたらそのあとがまた、位相を合わせたり、何かと面倒なのです。
それが面白いのだ、ということもありますけどね。

乙山の耳はそんなに良くありませんよ! 舌と同じでしてね。
歳とともに高域が聞こえにくくなっていきますからね。
一説では60歳以上の男性の6kHzにおける補正値は38dBだとか。

いわゆる「音の洪水」が好きな人がいますね。
まあ、好みはそれぞれですから、何とも言えません。
低音と高音が強めでないと満足できぬ人だったら、フルレンジはやらないでしょう。

だけどこの企画、次はいつになるんでしょうね?

No title

 最近はオーディオから遠ざかっているので、昔の記憶でしかいえないのですが、フルレンジ一発というのは、低音がどうの高音がどうのとは次元のちがう良さがありますね。

 特にヴォーカル。ぴたり一点に定位すれば、まさに歌手が目の前に立っているかのようで、ハッとしたことを思い出します。

 うらやましくてしょうがないけど……我慢します(笑)。

Re: 無記名へ

コメントありがとうございます。
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