乙山流すき焼き風煮

Sukiyaki_fu_ni.jpg
生徒学生時代は遠足によく行ったけれど、集団行動が苦手な私(乙山)は遠足にあまり良い思い出がない。高校生になると、体調の不良を訴えて(というか偽って)自主的に遠足を辞退することもあるほどの隠れ不良だった。そんな私だが、今でも心に残っている遠足がある。それは小学校6年生のとき、担任の先生が学級の生徒たちを連れて、日曜日にどこかの河原で自炊をするという非公式の「遠足」だ。

自炊といっても飯盒で米を炊き、おかずは先生の言によると「すき焼き風ごっちゃ煮」だった。どこで調達したのか大きな鍋に牛肉や白菜などを入れ、味付けは砂糖と醤油で行ったのではないかと思う。飯盒で炊いたご飯に「すき焼き風ごっちゃ煮」はとてもおいしかったのである。たぶん秋のよく晴れた日だったと記憶しているが、その後、川に飛び込んだりする者もあったのではないか。

「すき焼き風ごっちゃ煮」とは要するに、すき焼き風の煮物、ということだろう。これは全国各地に家庭料理として存在するのではないかと思われる。ネットで「すき焼き風煮」というレシピさえあるくらいだから、だれでも一度は食べたことのある料理じゃなかろうか。例によって仕事帰りに駅前のスーパーマーケットで牛肉の細切れを見かけたとき、ふとすき焼き風の煮物が食べたくなったのである。

すき焼き風煮を作る材料の根源は牛肉であるが、それ以外には何を入れるといいだろう。近頃の私は、できるだけ具材を減らして簡素なものに仕上げるようにしている。たんに横着なだけかもしれないが、これだけは必要であると思われる素材を選ぶとしたら、第二番目は「糸こんにゃく」ではないか。えっ、そんなバカな、と思われる方もいらっしゃると思うが、乙山流すき焼き風煮において、糸こんにゃくなしはあり得ないのである。

三番目は「白葱」である。柔らかく煮えた白葱はもはや甘いほどで、しかも牛肉の臭み消しにも役立つ。この三本柱で乙山流すき焼き風煮は成立するのだが、ここに木綿豆腐を加えることにした。甘辛い汁が染みた木綿豆腐はうまいに決まっているではないか。しかしこれは駅前のスーパーマーケットではなく、コープこうべの「木綿豆腐」でなくてはならぬ。牛肉と葱、糸こんにゃくだけを買ってミニコープに赴いた。

下拵えをする。糸こんにゃくはゆがいて笊(穴あきボウル)にとっておき、木綿豆腐は重石をかけて水気を抜いておく。これで下ごしらえは終了で、中華鍋に油を入れ、牛肉を炒める。ある程度火が通ったら糸こんにゃくを入れてさらに炒め、味付けに移る。砂糖を切らしているのでみりんと酒を入れて煮込み、しばらくしてから濃口醤油を投入する。ここは、濃口醤油でなくては雰囲気が出ない。

白葱は青い部分もすべて入れ、同時に豆腐も入れる。豆腐を入れたらできるだけ形が崩れぬよう気を付けてかき混ぜ、ある程度煮込んだら火をとめて放置する。白葱は余熱で勝手に火が通るものだし、木綿豆腐はそのままでも食べられるものだから、そんなに長時間煮込む必要は全くない。煮込んでも味は染み込まぬもので、火を止めて冷めていく段階で味が染み込んでいく。

出来上がりをそのまま食べたい、という場合は白葱に火が通って柔らかくなるまで弱火でことこと煮詰めればいいと思う。ほとんど汁気がないので、火を強めるとすぐ煮詰まってしまうのでご注意を。木綿豆腐もあまり煮込み過ぎると「す」が立ってしまうので面白くない。くれぐれも煮込み過ぎに注意が必要である。食べる前から作っておいて、火を止めてしばらく放置しておき、直前にもう一度軽く火を通して温めるくらいがいいのではないかと思う。

酒のあてとして作ったのでそんなに甘辛くなっていないし、色ももう少し付いていたほうが雰囲気が出るのではないかと思う。醤油の甘辛煮は、しっかりと醤油の色が付いていないと話にならないという人もいるのではないか。実際、確かにあの醤油の色は郷愁をそそる何かがあるような気がする。あんまり色は濃くないけれど、牛肉と糸こんにゃく、白葱、そして豆腐、これだけでじゅうぶん、「すき焼き」の感じがするように思う。


【付記】
● 牛肉の細切れが手に入ると、必然的に「肉じゃが」か「すき焼き風煮」になってしまいます。もう少し工夫をせんといかんなあ、とは思うのですが、つい……根っからの横着者とは乙山のことです。


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No title

何かの折に衝動的に食べたくなる料理ってありますよね。
スイッチ付きの記憶なんでしょうが。
乙山少年だった頃の記憶のなかにこのすき焼き風が焼きついているのでしょう。

僕は家族一人ひとりを思いだす度に
浮んで来る料理がありますよ。

Re: 根岸冬生さん

根岸さん、こんにちは! コメントありがとうございます。
お久しぶりですね! あまりにお忙しそうだったので、
訪問だけでコメントを入れるのは控えさせていただいておりました。
もう、大丈夫なんでしょうか?

今は一人住まいですが、乙山も以前「家族」だったことがあり、
その頃のメンバーを思い出すとなんだか切なくなります。
すき焼き風煮、その人たちとも食べたんです。
記事のものとは少し違いますが。

No title

夏の蒸し暑さもかなり和らいだので
この様な「すき焼き風料理」と冷の日本酒や
芋焼酎でゆっくりと秋の夜長を堪能できる
季節となりましたね〜。
わたくしも乙山殿のブログを参考に
色々 手料理に邁進する所存です。
あっ、食べ過ぎ注意ですが、
まぁ、いっかぁ〜。^_^

No title

>すき焼き風煮を作る材料の根源は牛肉である

私の地元ではそもそも牛肉にお目にかかれませんでしたので、基本豚肉でした。
すき焼き風煮はおろか本来のすき焼きもね。

そうそう、鯨肉の時もありましたよ。これはこれで結構乙なもので・・・今はなかなか出来ませんけどね

Re: 四の字硬目さん

四の字硬目さん、こんにちは! コメントありがとうございます。
朝晩の気温が下がってきましたね。
この間など、窓を開けて眠ってしまい、夜中寒くて目が覚め、
窓を閉めて寝直す、などということがありました。

本当、食べ過ぎには注意しないといけませんね。
それと、飲み過ぎにも……これは乙山自身に向けて。

Re: gatayanさん

gatayanさん、こんにちは! コメントありがとうございます。
住んでいる地域によって、すき焼きも変わってくるようですね。
乙山は大阪市生まれで、焼肉文化圏(?)のど真ん中にいたせいか、
牛肉が日常的に出回っていたのです。

鶏肉のすき焼き風煮もおいしいんじゃないかと思います。
いまでは「鶏じゃが」が好きになりました。
料理としては、本当は、豚や鳥を使ったほうが合っているのかもしれませんね。
だけど、牛肉の細切れを見ると、つい……

No title

素敵な想い出ですね。
先生が非公式の炊事遠足して下さるなんて、今ではきっとないことなのでしょうね。
こちらでは、公の場ですきやきは、お目にかかれないです。
通常でもお目にかかれないです。
ゴージャスな特別料理という位置づけです。でも気張らずに、乙山さんの用に気軽に食べたいです。なんといっても、割り下の味が美味しいのですよね。
すごく食べたくなりました。

Re: かえるママ21さん

かえるママさん、こんにちは! コメントありがとうございます。
昔はいろんな意味でおおらかな時代だった、という一つの例でしょう。
今では、あれこれと規則があって非公式の行動は難しいでしょうね。

ちなみにこちら(関西)では「わりした」を使わないんですよ。
牛脂で牛肉を炒め、そこに他の具材を入れ、砂糖を振りかけます。
そこに醤油をどばっとかけて味付けをします。
牛肉の細切れがふつうに売っていれば、それを使って気軽にいきたいですね。
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