『紳士協定』 (1947)

『紳士協定』(1947年、アメリカ)

GentlemansAgreement_01.jpg
原題:Gentleman's Agreement
監督:エリア・カザン
出演:グレゴリー・ペック、ドロシー・マクガイア、ジョン・ガーフィールド、セレステ・ホルム、アン・リヴィアほか


近頃映画の記事を書いていることが多いけれど、これはレンタル映像をPCで見られるようになったことに加え、店が「5枚で1000円」などという売上促進活動を行っているのにまんまと乗せられてしまったからでもある。DVDとかブルーレイ・ディスクを三枚ほど借りて会計を済まそうとすると上述の悪魔のささやきが耳に入ってくるわけだ。

いやね、いくらなんでも一週間に五枚は無理でしょう、などと苦笑いしながらかわそうとするが、「たくさん借りてる方、わりといらっしゃいますよ」と涼しい笑顔である。そこで「いや、僕は結構」とならずに、そんなに言うなら、とさらに二枚を選んで(決まった後に選ぶのはなぜか妙に時間がかかる)1000円を渡した。

だが今回の『紳士協定』(1947)は借りものではなくて、以前パブリック・ドメイン作品をまとめて安売りしていたときに買ったもの。題名だけ見ると、なんだか英国紳士の倶楽部か何かを連想してしまうが、当時アメリカ社会に根強く存在していたユダヤ人差別の問題を初めて取り上げた映画だというのが見ているうちにだんだんわかってくる。じつは主演のグレゴリー・ペックという名前と題名だけで買ったのである。

妻に先立たれ、息子と年老いた母(アン・リヴィア)の三人で暮らしている人気ライターのフィル・グリーン(グレゴリー・ペック)は、週刊誌の企画として反ユダヤ主義にかんする記事を依頼される。フィルは戸惑いながらもそれを引き受けるが、どういうアプローチの仕方をすればよいのか悩む。ついに彼は、ユダヤ人に成り済まして反ユダヤ主義の実態を探ろうというアイディアを得る。

GentlemansAgreement_02.jpgフィルは編集長の姪キャシー(ドロシー・マクガイア)と知り合い、親交を深めていくうちに愛し合い、二人は結婚を誓うが、フィルから「記事のために自分はユダヤ人として通す」ことを聞かされる。それが発端になって愛し合っていた二人の間に小さな溝ができてしまい、ユダヤ人に対する考え方の違いから次第に溝が深まっていくのを二人は抑えることができなかった。

だがそれは彼ら二人だけの問題ではなかった。フィルが自分の名前を「グリーン」ではなく「グリーンバーグ」だと名乗った瞬間、なぜか周囲の態度が変わってしまうのである。ある日、フィルは雑誌社幹部との昼食の席で自分がユダヤ人であると告白すると、噂は瞬く間に広がり、息子が学校で口汚く罵られてしまうという事態にまで至ってしまう。

ユダヤ人である友人のデイヴ(ジョン・ガーフィールド)は、だから止めとけって言ったんだ、子どものことがいちばん堪えるだろう、とフィルを応援してくれる。しかしいかなることがあろうと一度ユダヤ人であると名乗ったからにはそれをどこまでも押し通そうとするフィルと、ごく普通で皆に祝福される結婚を望むキャシーとの間の亀裂は決定的なものになってしまう。

とまあ、そんな感じで話は進むのだが、これは反ユダヤ主義批判の映画でありながら、同時に妻と夫(パートナーとして生きる男女)はどうあるべきかをも描いたものだと言えるだろう。キャシーはユダヤ人として通そうとするフィルをどうしても理解できず、もう別れてしまおうとするが、デイヴの説得で自分がまちがっていたことに気付く。

題名の『紳士協定』は、キャシーが思わず漏らした「世の中にはそういう……紳士協定があるのよ」から来ていると想像するが、これは言うまでもなく反ユダヤ主義的な人間たちの間に存在する暗黙の了解のことであろう。そしてそのような暗黙の了解はアメリカ社会における反ユダヤ主義だけの話ではなくて、およそ人間が存在する所にはどこにでも、不可避的に存在する問題であるように思えてならない。


【付記】
● この映画、日本初公開は1987年だそうですね。本当なんだろうか、と振り返ってみるのですが、当時はやはり『スター・ウォーズ』と『インディアナ・ジョーンズ』一色だったような気がするのは乙山だけでしょうか。

日本での映画公開の遅れは、1947年という戦争直後の時代における、連合国軍総司令部の政治的配慮によるものだろうと想像します。反ユダヤ主義批判のプロパガンダ映画である一方、シオニズム擁護ともいえる内容が日本人の国民意識に訴えかけると判断したのではないか、そんなふうに考えたくもなりますね。


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