『未来世紀ブラジル』

『未来世紀ブラジル』(1985年、イギリス)
Brazil_01.jpg
原題:Brazil
監督:テリー・ギリアム
出演:ジョナサン・プライス、キム・グライスト、ロバート・デ・ニーロ、マイケル・ペイリン、ボブ・ホスキンスほか

『未来世紀ブラジル』を見たのはいつだったか覚えていないが、たしか深夜映画だったのではないかと思う。むかし『シネマ大好き』とかいうのがあって、かなりマニアックな選択をしていたので録画までして収集していた。たぶん、そういう番組で見たのではないかと思うが不思議な近未来SFという感じで、もう一度見たいと長らく思っていた。

今はもうなくなってしまったが、以前川西能勢口駅のモザイクボックスにHMVがあって、そこで『未来世紀ブラジル』を発見したときは嬉しくて、それをいつか買ってやろう、と思っていた。だがそこにある、とわかっている物は何だか安心してしまって後回しになることが多い。1980年代に発売されていたJBLやアルテックのフルレンジもそうだが、どうしてあのとき買っておかなかったんだろう、といつも後になって思うものだ。

案の定、いつの間にかHMVはなくなってしまい、『未来世紀ブラジル』も再販しておらぬようである。自宅のPCでブルーレイ・ディスクとレンタルDVDを見られる作戦は成功したのを機会に、駅前のレンタルメディア店で『未来世紀ブラジル』を借りてきましたよ。舞台は20世紀の何処か、何か近未来的な雰囲気である。

主人公のサム・ローリー(ジョナサン・ブライス)が目を覚ますと、パンは自動的に焼けて出てくるし、服はスライド式のハンガーがせり出してくる、といったふうに近未来的なのだが、電話はプラグを付け換えてつなぐという旧式のテクノロジー。近未来的でありながら旧式でもある、どこか『ブレードランナー』(1982)を思わせる感じもする。

その国では情報統制が極度に進んでおり、行政上の手続きはすべて「書類」で行われる。きわめて単純な口で言えば済むようなことでも「書類」と「手続き」が必要となる。その情報は情報省が握っており、情報統制を乱すものは実力行使で片付けるようになっている。まるで諜報機関と連邦捜査局を合わせたようなトップの下に、直属の軍警察が実行部隊として動く恐るべき強固なシステムなのだ。

その情報省のある部署で、昆虫が部屋に入り、男が叩きつぶす。ところがその昆虫が印刷機に紛れ込み、指名手配者の「タトル」を「バトル」とミスプリントしてしまう。例の特殊部隊が靴職人のバトル氏を逮捕しようと彼の自宅に突入するが、それがまた有無を言わせぬ極端なやり方で、窓を破って侵入するに加え、天井に丸穴をあけてそこからも突入、一気に逮捕してしまう。むろんこれは誤認逮捕であるが実行者はそれを知らない。

サムは情報省の情報記録局に勤めているが、この部署では昇進も望めぬ窓際的な仕事であるのをわかっている。彼の父親はかつて情報省の重役、母親も社交界に顔がきくセレブリティーで、本来サムはエリートコースを進んでもおかしくないのだが、昇進を断り続けている。そんなサムは、自分が羽をもった英雄となって囚われの美女を助けに行く、という夢を何度も見る。

情報記録局では例の誤認逮捕の責任がサムの上司に回ってきそうだと相談を受け、サムは自分が何とかしましょうと、バトル夫人の自宅へ向かう。そこで書類に署名をもらおうと説得しているとき、「どうかしましたか」と天井の丸穴から上の住人である女性トラック運転手ジル・レイトン(キム・グライスト)の顔が見え、それが夢の中の囚われの美女と同じことにサムは気付く。

サムは何としても彼女のことが知りたくて情報端末からアクセスするもほとんど情報が得られず、これ以上の情報を得るには情報剥奪局に替わる必要があると知り、配置転換を次官に願い出る。新しい部署で、ジル・レイトンに関する情報を集めるサムだが、彼女の情報は何重にもガードされていてる。最後にたどり着いたのは古くからの友人ジャック(マイケル・ペイリン)だった。そこでサムは、ジルが爆弾テロの容疑者としてマークされているのを知る。

とまあ、こんな感じで話は進んでいくのだが、統制社会の構想はジョージ・オーウェルの『1984』とフランツ・カフカの『審判』を合わせたような雰囲気だと思う。視覚的には上述の『ブレードランナー』とキューブリックの『時計仕掛けのオレンジ』も意識して制作されたんじゃないかと思う。監督はあのモンティ・パイソンのメンバーだったテリー・ギリアムで、同メンバーのマイケル・ペイリンもジャック役で出演している。

題名の『ブラジル』から、この国が近未来のブラジルであるかのように思う人がいるようだが、国は未定。映画全編で使われている曲「ブラジルの水彩画」からとった題名ではないかと想像する。なんだかシリアスな雰囲気で進んでいくのだが、随所で笑いが散りばめられている。ところがその笑いがなんともシニカルというかブラックな笑い。その笑いの出所が不条理性なのだ。

筋をたどってもよくわかんない、という人もいるのではないか。だが筋はわからなくても感覚だけで楽しめる映画。そのわからなさゆえ、何度も見たくなる不思議な魅力を持った映画だとも言える。また細部にこだわって見たくなる、というのもキューブリック映画と共通している。たとえば「情報端末機」は今でいうパソコンなんだけど、1980年代ではまだ一般的ではなかった。

情報端末機はキーボードと光学ディスプレイ(?)を装備しているんだけど、素子は真空管なのである。しかもST管が数本ですね。演算して出力するには素子の数が絶対的に不足しているのは明白だが、そういうツッコミは必要ありません。実際の情報化社会ではペーパーレスを目指しているのに、映画の中では紙があふれかえっているのも面白い。

ふり返ってみると、やはりサムの夢の部分はいささか冗長かなあ、という感がないでもない。なんで日本のサムライなんだ、とこっちとしては言いたい気分である。だが、それを除くと、いろんな部分で楽しめるいい作品ではないかと思う。レンタルでもいいが、DVDやブルーレイ・ディスクで買っても損はしない(?)作品、むしろそうして何度か繰り返し見て楽しめる映画だと言えるだろう。


【付記】
● 久しぶりに見た『未来世紀ブラジル』ですが、やはり良かったです。万人にお勧めできるものではありませんが、SF好きという人には絶対お勧めの一本です。


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No title

おはようございます。
私も深夜の映画番組で録画して見た記憶があります。それと、デ・ニーロが中々出てこなくてイライラしました。

Re: yuccalinaさん

yuccalinaさん、こんにちは! コメントありがとうございます。
読売テレビだったか、『シネマ・チューズデイ』とか『シネマ大好き』などがあって、
本当に渋い選択してたと思うんです。
デ・ニーロは「謎のヒーロー」というような配役でしたね。

シネマ大好き、なんで放送なくなっちゃったんですかね。
やってた映画も良かったですが、オープニングにあった今回の特集ラインナップが好きでした。黒い画面にBGMがいちいち素晴らしくて鳥肌立ちそうでした。Mr. Blue Skyとか…

Re: 白プードルと散歩さん

白プードルと散歩さん、こんにちは! コメントありがとうございます。
『シネマ大好き』とか「『シネマ・チューズデイ』は良かったですね!
あれ、相当センスのいい人が企画してたんじゃないかと思います。
映画のチョイスも、BGMのチョイスもよかった。
ああいうのが「お宝」っていうんでしょうね。

No title

こんばんは
すこし後味の悪い映画ですよね。
でも好きな映画です。
好きな映画いくつか上げる中のひとつです。
パンズラビリンスとか結構後味の悪い映画観てます(^^;)

後味の悪さで勝手に話し進めちゃってますけど
後味悪すぎて二度と見たくないのが 「ミスト」
切りがないのでこのへんで

Re: fuseさん

fuseさん、こんにちは! コメントありがとうございます。
あのエンディング、アメリカ公開のときはもめたそうですね。
配給会社がどうしてもハッピーエンディングにしたがったのですが、
監督はそれと戦ったそうです。

ヨーロッパではああいうエンディングもあり、なんでしょうけど、
アメリカではねえ……配給会社の気持ちもわからぬではありません。
いかにもイギリス、あまりにもイギリス的な映画です。

No title

アマゾンで中古が700円代ですね。
心が誘惑されています。

Re: 根岸冬生さん

根岸さん、こんにちは! コメントありがとうございます。
これ、本当にいい映画ですよ。サムの夢はいささか冗長ですが、
持っていて損はありません。なぜ再販しないのかなあ?
とりあえずはレンタルメディア店でいいのではないですか?
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