松本零士 『蛍の泣く島』

Hotaru_no_Naku_Shima.jpg
「遊歩者 只野乙山」では漫画を記事にしていない(実際は「漫画は電子書籍で」という記事がある)が、漫画は大好きである。中学生の頃はちばあきおの野球漫画の真似をしてノートに漫画を描きまくり、漫画家になれたらいいなあ、などと思っていたくらいである。ところが高校生になると漫画より活字のほうが好きになり、いつの間にか漫画家になりたいという気持ちは失せていた。

いまでも漫画を読みたい気持ちはあるのだが、本棚に漫画があふれかえっている状態では困るので、漫画はすべて電子書籍版を購入することにしている。『銀河鉄道999』の続編とか、むかし読んだ松本零士の漫画短編集などをネットから購入してノート型PCで楽しんでいる。今回は松本零士の『蛍の泣く島』を久しぶりに読んでみた。

Sei_SarumataDen.jpg『蛍の泣く島』は漫画短編集で、初出は『ビッグコミック』に多く、同誌は『ゴルゴ13』や『カムイ外伝』などの大人向け漫画。なので多少エロティックな表現もあり、全部で11の短編が収められている。「蛍の泣く島」は、昆虫マニアの男が父親の残した「蛍の泣く島」があるという伝説をその目で確かめに行くというもの。

「聖女に白い血」はサイコロ賭博の女壺振り師が、足を洗って普通の主婦になる話。「皮の影159」は冴えない刑事が女の謀を見抜くミステリーもの。「さらばロマンの時よ」は人造ウィスキーの製造に生涯を賭ける男と、それに愛想を尽かす女の話。「下宿荘偉人伝」や「聖サルマタ伝」は、作者の代表作ともいえる『男おいどん』につながる大四畳半物語の片鱗を見せている。

MatumotoReiji_UgetuMonogatari.jpg「雨月物語」は上田秋成の原作あるいは溝口健二による映画からヒントを得た幻想的な作品。物の怪である県の真女児(あがたのまなこ)に旅の男が出会うが、彼は女を見るとすぐに乱暴を働く侍とは違った優しい心を持った男だった。真女児に乱暴を働いた男たちはみな精気を吸い取られ死んでいくが、旅の男は真女児と交わっても死ぬことはなかった。しかし僧侶に「死相が出ている」と告げられる。

「秘本絵師 無芸」は長屋に住む絵師で、いわゆる春画を描いて暮らしているが、なんだかんだと事件に巻き込まれ、春画を描くことで危機を乗り越えるというコンセプトや「俺はカキたいときにカク」という掛け言葉なども面白く、連作シリーズになったようだ。最後の「サケザン」は、あのターザンのもじりで、ジャングルに住んで猿酒を飲むサケザンが主人公。じつはサケザンには妻子があって、妻のミセス・サセソーネはよりを戻そうとサケザンを訪ねてくるが、サケザンは女より酒を選ぶ。

松本零士の世界における「女性」といえば、『銀河鉄道999』のメーテル、『クィーン・エメラルダス』のエメラルダス、そして『ヤマト』の森雪あたりを連想してしまうのだが、本作で作者は女性に対してかなり手厳しいと言える。「蛍の泣く島」では夫を殺した女と愛人を殺した女(ともに昆虫マニアの主人公を犯人に仕立てようとした)が出てくるが、彼女たちは「蛍の泣く島」で蛍に囲まれて焼け死んでしまうのだ。

Hihoneshi_Mugei.jpgまた「皮の影159」でもやはり夫(冴えない刑事の友人)を殺す妻が出てきて、冴えない刑事を罠にはめようとする恐ろしい女性として描かれる。「さらばロマンの時よ」では人造ウィスキー製造に没頭する男を女が裏切り、裕福な実業家になびく姿が描かれる。そして「哀れな女よ。お前に必要なのは何種類かのスペルマだけだ」とくる。

作者は女性を、非の打ちどころのない理想の女性として描く一方で、嘘と裏切りや背徳に満ちたおぞましい存在として描いているのだが、どうも後者には「もてない男の恨み節」が盛大に鳴り響いているような気がしないでもない。そう思いながら、だけど一部の女性にはそういう面もあるよなあ、なんていうか「げんきん」なんだよな、と同感してしまう自分もいることは正直に書いておこうと思う。


【付記】
● 画像は鮮明ではありませんが、漫画リーダーの画面を直接スクリーン・プリント(キャプチャー)することはできませんので、ノート型PCの画面をデジタル写真機で撮影するという原始的な方法をとらざるを得ませんでした。


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No title

こんばんは。
私はヤマトは再放送で、999はリアルタイムで見てましたが、どちらも出てくる女性が、見た目からして非現実的過ぎるな、と少々白けてたとがあります。ですから、他の作品では結構どす黒いとこを描いてるのには、興味を持ちました。
女はげんきん、そうでしょうね。でも、私は割り切りや切り換えが早いのは、自分をストレスから守るための処世術と思っていますよ。

No title

ご無沙汰です。

うちの作家先生Bが松本零士ファンで
彼の書く女性が全部メーテル風なんです。
「そのバランスの合わない目の大きさをやめろ!」と
みんなから言われています。うふふ。

あの戦艦大和が宇宙船として復活するというその着想は
マンガ家として天性の感性を感じさせますね。

Re: yuccalinaさん

yuccalinaさん、こんにちは! コメントありがとうございます。

> 私はヤマトは再放送で、999はリアルタイムで見てましたが、どちらも出てくる女性が、見た目からして非現実的過ぎるな、と少々白けてたとがあります。

ああなるほど、少なからぬ女性がそう思うのはわかります。
乙山も『ヤマト』や『999』に出てくる女性を毛嫌いしていたひとを知っています。
「そんな女、現実にいるわけないでしょう!」ということだと思うんです。

それはもっともな意見だと思うのですが、
男というのは心のうちに理想の女性をつくり上げてしまい、
それを後生大事に胸の内にしまっておく性質があるのかもしれません。

その傾向は女性というものをよく知らないうちから始まりますし、
ある程度女性をわかったつもりになっても、胸のどこかに存在していて、
「彼女」は世界のどこかにいる、と信じているところがあります。
あきれ果てたものですね。

「女の一部」がげんきんだと言いたいのでありまして、
すべての女がそうだとは決して思っておりません。
魂の高潔さは性差を超越していると信じています。

結局、少なからぬ男女がげんきんなのだと思うのです。

Re: 根岸冬生さん

根岸さん、こんにちは! コメントありがとうございます。
お忙しいようなので、そっとそちらを伺うだけで、
コメントなどは控えさせていただいておりました。
もう、多少は余裕ができたのでしょうか。

> 「そのバランスの合わない目の大きさをやめろ!」と
> みんなから言われています。

あれ、そうですか、松本零士の女性って、意外と「切れ目」なんですよ。
アニメーション版は多少目が大きくなっていますが、
原画を見るとかなり「切れ目」ではないでしょうか?

> あの戦艦大和が宇宙船として復活するというその着想は
> マンガ家として天性の感性を感じさせますね。

その問題、意外と根が深いんですよ。
乙山も松本零士作だと思い込んでいたのですが、実は、
『宇宙戦艦ヤマト』の原作・原案・企画はほぼすべて西崎義辰という方によるものだそうです。

詳しいことはわかりませんが、両氏は原作をめぐって係争にまで発展したそうです。
つい最近、『宇宙戦艦ヤマト2199』がちょっとした話題になっていますが、
あれには松本氏は一切かかわっていませんので、
それからしても西崎氏の原作というのは本当だと思いました。
ずっと松本作だと思い込んでいただけに、意外なことでした。

No title

私の好きだった松本零士作品は『ザ・コクピット』と『キャプテン・ハーロック』でしたね。
ザ・コクピットの中でも『音速雷撃隊』と『スタンレーの魔女』ですね。
宇宙戦艦ヤマトあたりから、唯々勇ましいような作品ばかりの様な印象を持っている人が増えている様な気がします。

松本零士の面白いところは主人公がものを斜にみている様で、その実まっすぐで絵に描いた様な単純な男だったりするところだと思います。

中学生の頃は大山トチローとハーロックの男の友情に涙したものです。

Re: Noriさん

Noriさん、こんにちは! コメントありがとうございます。
『ザ・コクピット』や『キャプテン・ハーロック』もいいですね。
前者は漫画の一部しか読んでいませんし、後者はアニメーション版の一部を見たくらいです。

その代わり映画『わが青春のアルカディア』はレンタルで何回も見ましたよ。
トチローとハーロックなら『ガンフロンティア』などもありますね。
松本氏は歌手の何某に剽窃の件でもめて良い印象がないようですが、
仰るように『男おいどん』そのまんまの真っ直ぐな人だと思います。
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