『西鶴一代女』

『西鶴一代女』 (1952年、日本)

Saikaku_07.jpg
原作:井原西鶴
監督:溝口健二
出演:田中絹代、山根寿子、三船敏郎ほか


『雨月物語』に続いて溝口健二監督の『西鶴一代女』を見た。じつはパブリック・ドメイン作品の10DVDパックが某スーパーマーケット内の書店で販売されていたので買ってしまったのだ。そこには小津安二郎やハンフリー・ボガートなどの特集もあって、どれにしようかかなり迷ったのだが、溝口健二の映画をしっかり見ていなかった(実は小津安二郎もなんだが)ことを思い、最終的に溝口健二の映画が多く収録されているパックを手にした。

考えてみると、YouTubeでこれらのパブリック・ドメイン作品を見ることはできるのだ。だが、たまにならいいとしても映画の記事をすべてYouTubeに頼るのは何か違うような気がして仕方がなく、約2000円を払ってパックを買った。これはレンタルDVDより安い値段である。レンタルDVDはまとめて借りると安いのだが、そんなに連日映画を見る時間なんてあるわけではなく、結局見もしないで返す破目になるのは目に見えている。しかもノート型PCなのでものによっては再生できぬこともあるのだ。

Saikaku_03.jpgさて『西鶴一代女』は、松尾芭蕉と同時代人の井原西鶴による原作を脚色し、溝口健二が監督して撮影された。舞台は江戸時代、運命に翻弄されながら流転の人生を歩んだ女性、お春の姿を描いている。始まりの場面は何処かの町外れの荒寺で、老いさらばえた容姿を厚化粧でごまかした娼婦となったお春が、羅漢堂に入ってさまざまな仏像を見るうちにそれまでかかわってきた男たちの面影を重ね合わせている。

次に舞台は京都に移り、十代のお春(田中絹代)が御所に勤める場面になる。以前からお春に想いを寄せていた公家の奉公侍の勝之介(三船敏郎)は、公卿の何某が「お春に用事がある」というので宿にて待つように告げ、宿に来たお春に思いの丈を告げるがすげなく扱われる。それでも熱心にすがる勝之介に心を許すお春だが、二人でいるところを役人に見つかってしまい奉行所で裁きを受ける。

お春は両親ともども洛外追放、勝之介は打ち首獄門との沙汰になった。謡や舞の出前の一員としてお春は舞を披露するが、その姿が後継ぎがなく困り果てていた松平家の家臣の目にとまり、江戸の松平家に輿入れする話がまとまった。お春は行きとうございません、と訴えるが父親は聞き入れてくれず、本意ならずもお春は籠に乗せられ出立する。

Saikaku_05.jpgお屋敷では余所者のお春に周囲は冷たく、孤立無援の状態であったがほどなく嗣子を出産した。松平家の後ろ盾を期待してお春の父親は商売の品を仕入れるものの、お春は側近たちの策謀によって実家へ帰されてしまう。金づるを失った父親は、お春に島原(遊郭)に出るよう命じる。こうして、かつて御所に勤め、松平家の嗣子まで産んだお春の流転が始まった。

とまあ、途中まではこんな感じで話が進むのだが、この後のお春の転落ぶりが悲惨である。島原で太夫となったお春を見染めた田舎大尽の身請け話が持ち上がるが、男は贋金作りで捕まってしまう。大店の住み込み女中となるも奥様に前歴が知れて嫉みにあって追われてしまうし、扇屋の女房として平和な暮らしを送ったのも束の間、夫が殺されてしまうのである。ついにお春は路上で三味線を弾きながら謡って小銭をもらうようになる。

十代の娘から老女まで一人で演じきった田中絹代の演技はやはりすごいものがある。日本舞踊とか小唄の類が全編にわたって散りばめられているので、もう少し勉強したほうがよかったと思うのだが、それらに通じていなくてもなんとなくの雰囲気だけで一応楽しめる。一節聞いて何かわかるくらいにはなりたいものだ。といっても、座敷で小唄を聞くというような機会にはたぶん縁がないかもしれないが。

Saikaku_06.jpg公卿の奉公侍、勝之介役の三船敏郎がものすごく若いなあと感じたのは、映画『ミッドウェイ』(1976)で山本五十六長官を演じた三船敏郎のイメージしかなかったからだろうか。黒澤明監督の映画によく出演していたはずなのだが、それもしっかり見ていないためなんだろう。すぐに斬首されてしまう役柄だけど、強い印象が残る名演ではないだろうか。


【付記】
● 溝口健二の映画はカメラの視点を変えずにわりと長い時間撮り続けるのがしばしばあります。編集のときは楽かもしれませんが、撮影現場は大変でしょう。ロングテイクの最後のほうで俳優が台詞をまちがった場合、撮り直しになる(?)わけでしょうか。


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No title

乙山さん、こんにちは。

この作品を観ているのですが、三船敏郎が出ていたとは記憶にありません。若い頃の三船さんの作品は黒澤監督のモノでかなり観ているのになんでやろね?

しかしこのDVDの安さは凄い、一枚2ドルほどって私も買いたいですが最近は乙山さんが仰るように You-tube で観賞できるので助かります。しかしつい最近まであったと思っていたモノが消えていたりするので見つけた時に即見ないと後で後悔という作品も結構あり残念な思いもしました。

最近は、「二十四の瞳」を再び観てこの淡々としたストーリーの中にある暖かさとか主人公の強さとか、見終わった後の気持ちの良さを味わってやはり古い映画って素晴らしいと思いました。

Re: まん丸クミさん

まん丸クミさん、こんにちは! コメントありがとうございます。
仰るように、すぐ斬首されてしまうちょっとした役なので、
タイトルロールに「三船敏郎」とあってもだれがそれなのか、わからぬほどです。

乙山にしても、後追いして「あれが三船敏郎だったのか」てな具合です。
この作品はもう、田中絹代一人のために撮られたと言ってもいいくらいです。
脇役は本当に印象に残らないんですね。

パブリック・ドメイン作品を集めた廉価版は画質が低いです。
『カサブランカ』にしても、デジタル・リマスターの「本物」があるみたいで、
廉価盤はやはりそれなりのものでしたね。

しかし、それでも一応「観た」わけですから、
こうして図々しく記事にさせてもらっています。
古い映画って、やはりいいもんですね!
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只野乙山

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⚫︎ できれば「只野乙山=ただのおつざん」とお読みくだされば、と思います。

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