6463シングル0.5Wアンプ (回路設計編)

6463picture.jpg
純三極管、できれば傍熱三極管の音をきちんと聴いてみたい、というのがそもそもの動機である。しかし現在(2014年)、三極管出力菅は直熱の2A3や300B(KRオーディオのPX4やPX25)など以外は現行生産されていないのが実情である。傍熱三極出力菅が出回って普及するより先に、五極管やビーム管が開発されたのが史実である以上、傍熱三極出力菅が少ないのも仕方がない。

そんな折、「ぺるけさん」こと木村哲氏の『真空管アンプの素』(技術評論社)が出て、小さな電圧増幅管でも出力菅として使うことができ、「ミニワッター」として人気を呼んでいるのを知っていた。市場に傍熱三極出力菅がない以上、ミニワッターを手本にすれば純傍熱三極管の音が聴けるのではないか。しかしこの男(=乙山)、素晴らしいお手本があるのにその通りにできぬ、出来の悪い生徒である。

いきなりお手本のサンプルにはない球、古い直熱管のドライバーとして好適だと思って購入しておいた6463(写真一枚目)があるので、これを使ってミニワッターもどきの小さなアンプができないだろうかと考えた。6463は12BH7(A)の代替管として知られているが、本来はコンピューター回路用の球で、フィリップスの資料を見るとμ=20、gm=5.2mSとあるので、この動作におけるrp≒3.8kΩとわかる。この内部抵抗の低さなら、一次側7kΩのOPTを無理なく使うことができそうである。

しかも6463はいわゆるSQ(Special Quarity)管であり、10,000時間の長寿命が保証されている。現物を見ると、確かに出力菅の6BQ5などよりもいくぶん太めの導線が使われており、大きめのプレートも頼もしく、電極構造などもしっかりしているように見える。ただし10,000時間というのはEp=150~200Vの動作における話で、そのような厳密なプロフェッショナル用途としてではなく、一般用途としてはEp=250~300Vも「あり」ではないかとも思う。

気になるのは資料に「ハムやマイクロフォニーなどノイズにクリティカルな回路での使用を志向していない」と明記されていることで、初段に片ユニットを使うのはためらわれるのだが、一方では「ショックや振動に対する耐性がある」とも書かれている。実物を指(爪)ではじいてみると、某国製12AX7のほうが残響音が大きいくらいである。ハムはともかく、マイクロフォニックノイズに対しては意外と強いのではないか、と期待(確信?)しつつ進めてみよう。

6463シングル最終版というわけで6463に惚れこみ、7kΩのロードラインを引いてみた(画像一枚目)。控えめ動作(pd=3.85W)による紙上の計算では0.64W(OPT一次側)で、OPTによる20%のロスがあったとしても実効出力0.5Wは確保できそうで、これを公称出力にしても差し支えないだろう。これはOPTが7kΩ限定の話で、たとえば10kΩのOPTで実力を出し切れば(pd=4.4W)、紙上計算では0.897W(OPT一次側)を得ることができるようで、ちょっといい球かもしれない。

これは非常に魅力的な誘惑であるが、今回はたいへん小さいながらも楽しめるという評判で、一度使ってみたいと思っていた春日無線変圧器のいちばん小さなOPTを使うことを前提として話を進めたい。このOPTは一次側の最大電流が20mAなので、今回のオペレーションにはまさに「適材適所」である。出力的にも何の問題もなく、安心して春日のOPTを使うことができるのではないかと思う。ただコアが剥き出しなので、実装するにはケースに収めるなど工夫が必要である。

6463のバイアスが-8Vなので、入力電圧は約5.7Vである。ライン入力を1Vと仮定すると、たった6倍あれば最大出力になる。前段のロードライン(画像二枚目)から、6463の利得は約16.7倍なので、0.34Vで最大出力になる。よって6463それ自身でアンプが成立することがわかる。初段の利得に余裕があるので、予定では入力電圧が約1Vになるくらいまでオーバーオールの負帰還(約9.5dB)をかけるつもりである。

回路は本家ミニワッターのように直結とせず、二段構成で結合用コンデンサーを使う。出力段のアルミ電解コンデンサーによるショートカットも行わず、抵抗器とアルミ電解コンデンサーでふつうの非カップリング回路を構成する。つまり、まったくひねりのない、ごくありふれたシングルアンプ。基本の基本であるが、とりあえずじゃない、どうしてもそれでいきたいのである。

6463シングル前段要するにいちばん欲しいのは、いい音やハイファイがどうのというより、いつスイッチを入れてもちゃんと動いてくれる、信頼できる機械なのである。原理的には非カップリング回路は左右共有にできるのだが、交流信号の経路になっているので左右別にした。交流信号の経路と直流電流のリターンを意識し、接地点を的確にして実装配線を考える。素人の留意としては、それくらいが限界かな、と思う。

しかし、素人といえども、負帰還をかけるのなら安定性を考えぬわけにはいかない。補正回路なしで安定性を確保するなら、初段と出力段の高域カットオフ周波数の差を、できるだけ開いておくようにするのが望ましい。具体的には初段で高域を遮断して出力段の高域を伸ばす(ウィリアムソン・アンプ)か、あるいは初段の高域をできるだけ伸ばして、出力段を遮断する(黒川式アンプ)かであろう。OPTが決定しており手を加えぬとすれば後者を選択し、初段の高域をできるだけ伸ばすように回路構成と定数を設定した。

どのみちオシロスコープで正弦波とか方形波を観察しながら位相補正をするなどという高級な技術はなく、位相補正をできずに放置するに決まっているから、せめて初段の高域ポールだけでも計算し、スタガー比が確保できているかくらいは確認しておく必要がある。お手本を頼りに初段の出力インピーダンスと出力段の入力容量をはじき出した結果、初段の高域ポールは582kHz(計算値)とわかった。これならたぶん問題なく負帰還をかけることができると思う。

さて、電源回路も能動素子によるリップル・フィルターを避け、受動素子のチョーク・コイルか抵抗器でリップル・フィルターを構成するという昔ながらの方法をとる。そして整流器には真空管を用いる予定である。どうしてお手本の通りにできないのであろうか? ここに、これだけ優れた方法がある、実際に使って何の問題もない、とあるのに。これは、自分でもどうしてだか、わけがわからないので困ってしまう。せっかく整流管があるんだから、使ってやろうじゃないか、だろうか?

自分でも首を傾げたくなる奇妙な頑なさが発露してなんだか恥ずかしい気がするが、結局は素人ゆえの哀しさで、もう「音が出た! わあっ! きゃっ!」でおしまいの世界である。実際の問題として、複雑な回路にするとトラブルが発生した場合、何が原因かわからなくなってしまうし、能動素子を減らせば消去法でトラブルに落ち着いて当たることができる。回路はありきたりだが、それでも、そこそこ楽しめる音を出してくれるのが三極管ではないかと信じ、かつ期待しつつ、回路設計編を閉じることにしよう。


≪ 0.4W電池式アンプへ  6463シングル「部品調達編」へ ≫


【付記】
● 今回はさすがに0.4W電池式アンプとはちがって、やすやすと製作編に突入できません。出来上がるのはかなり後のことになるでしょう。ていうか、本当にできるんだろうかという感じですね。

人気ブログランキングへ blogram投票ボタン
関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

山が動く・・・。

只野乙山様

6463シングル0.5Wアンプ製作、始動されるのですね。

オリジナル設計の回路ですから、オリジナルデザインのシャーシーレイアウトもとても興味が涌いてきます。

今後の記事楽しみにしています。

Re: 山が動く・・・。 ; ハゼドンさん

ハゼドンさん、こんにちは! コメントありがとうございます。
回路自体は昔からあるものなので、部品の定数だけ設定したものです。
今回は(も?)できるだけ肩の力を抜いていきたくて、
本体ケース(シャシー)はリードかタカチあたりになる予定です。

本当は仮組みして使えるかどうか試すの本筋ですが、
仮組みのための電源など、用意がありません。
本当はその辺から準備しておくべきなんですが、冷や汗ものです。

手が遅いものですから、いつになるかわかりません。
こうして書いておけば、後戻りできないので、
皆様の視線を後押しにさせていただいて、やってみようと思っています。
プロフィール

只野乙山

Author:只野乙山

⚫︎ できれば「只野乙山=ただのおつざん」とお読みくだされば、と思います。

⚫︎ 文字中心のウェブログ。ほとんど一話完結で、どの記事をご覧になっても楽しめ(?)ます。文字数だけなら一冊の本に匹敵(凌駕?)するほどありますので、ごゆっくりどうぞ。

⚫︎ 下の「全ての記事を表示する」をクリックすると、全記事のタイトル一覧が出ますので過去記事を参照することができます。

全記事表示リンク

全ての記事を表示する

カレンダー
05 | 2017/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
最新記事
最新コメント

openclose

最新トラックバック
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
QRコード
QRコード
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

アーカイヴ

2017/06 (7)

2017/05 (9)

2017/04 (8)

2017/03 (9)

2017/02 (4)

2017/01 (1)

2016/06 (1)

2016/05 (13)

2016/04 (13)

2016/03 (20)

2016/02 (10)

2016/01 (11)

2015/12 (10)

2015/11 (10)

2015/10 (11)

2015/09 (13)

2015/08 (10)

2015/07 (11)

2015/06 (10)

2015/05 (10)

2015/04 (10)

2015/03 (11)

2015/02 (9)

2015/01 (11)

2014/12 (9)

2014/11 (10)

2014/10 (11)

2014/09 (10)

2014/08 (10)

2014/07 (10)

2014/06 (10)

2014/05 (11)

2014/04 (10)

2014/03 (10)

2014/02 (9)

2014/01 (11)

2013/12 (9)

2013/11 (10)

2013/10 (10)

2013/09 (10)

2013/08 (11)

2013/07 (10)

2013/06 (10)

2013/05 (10)

2013/04 (10)

2013/03 (11)

2013/02 (9)

2013/01 (11)

2012/12 (9)

2012/11 (10)

2012/10 (11)

2012/09 (10)

2012/08 (10)

2012/07 (10)

2012/06 (10)

2012/05 (11)

2012/04 (10)

2012/03 (10)

2012/02 (10)

2012/01 (9)

2011/12 (9)

2011/11 (10)

2011/10 (10)

2011/09 (10)

2011/08 (10)

2011/07 (9)

2011/06 (9)

2011/05 (10)

2011/04 (8)

2011/03 (8)

2011/02 (12)

2011/01 (12)

2010/12 (12)

2010/11 (13)

2010/10 (15)

2010/09 (15)

2010/08 (14)

2010/07 (16)

2010/06 (17)

2010/05 (21)

2010/04 (18)

2010/03 (20)

2010/02 (23)

2010/01 (27)

2009/12 (27)

2009/11 (27)

2009/10 (26)

2009/09 (24)

2009/08 (19)

2009/07 (21)

2009/06 (30)

2009/05 (26)