キング・クリムゾン 『アースバウンド』

King Crimson / Earthbound (1972)

KingCrimson_Earthbound.jpg
1. 21st Century Schizoid Man
2. Peoria
3. The Sailor's Tale
4. Earthbound
5. Groon


キング・クリムゾン5枚目の『アースバウンド』を初めて聴いたのはたしか1980年代に入ってからのことだったと思う。音楽好きの友にこれまた音楽好きのお兄さんがいて、その人が輸入盤専門店か何かで買い求めたものを聴かせてもらったのだ。なにしろ『アースバウンド』は通常のリリースではなく、「ヘルプ」というアイランド・レコードのサブ・レーベルから英国限定で発売され、全世界販売権を持つアトランティックからは発売されなかった。

だから国内盤として『アースバウンド』は存在しておらず、もっぱら輸入盤を買うしかなかった。フリップが再販を拒んでいたせいか長らく廃盤のままだったこともあり、1980年代ではかなりレア・アイテムだったと思う。中古レコード店で相当な高額が付いていたのを目撃したことがあるほどだが、その後2004年頃になって発売された国内盤紙ジャケット仕様のものを入手した。

キング・クリムゾン初のライヴ・アルバムということだが音質は非常に悪い。ジャケットの裏を見ると「アンペックスのステレオ・カセットテープで録音された」という旨が書いてある。フリップもそれを承知の上でリリースしたのだが、これはレコード会社との契約上の理由でリリースせざるを得なかったということらしい。

『アイランズ』発表後、オリジナル・メンバーの一人ピート・シンフィールドが脱退し、唯一のオリジナル・メンバーであるロバート・フリップ(g)の他メル・コリンズ(as, ts, bs, Mellotoron)、ボズ・バレル(vo, b)、イアン・ウォーレス(ds)の四人によるアメリカ・ツアーが行われたが、これもレコード会社との契約履行のためだったという。

内容も一会場でのライヴ演奏をそのまま収録したものではなく、数十か所にわたるアメリカ・ツアーの音源をピックアップして一つにまとめたようだ。(1、6)はデラウェア州ウィルミントン、(2)はイリノイ州ピオリア、(3)はフロリダ州ジャクソンヴィル、(4)はフロリダ州オーランドにてそれぞれ録音されたとジャケットに記載されている。

(1)はキング・クリムゾンの代表曲ともいえるもので、スロー・テンポのドラム・スティックのカウントから入るが、ヴォーカルにVCS3シンセサイザーによる操作や音質の悪さからくるノイズが相まって、原曲のもつ破壊的な曲想がこれでもかというほど前面に押し出されている。グレッグ・レイクによるスタジオ版や『エピタフ』収録のライヴ版、そして後のジョン・ウェットンによるライヴ版と比べてみても、このメンバーの演奏のほうが迫力があるのではないか。

フリップのギターに続いてメル・コリンズのサキソフォンによるソロ・パートが展開、それが収束した後のメンバー全員によるユニゾンの部分が大丈夫か、と心配されるのだがぴったり合っている。メル・コリンズも前任者のイアン・マクドナルドに勝るとも劣らぬ達者なプレイヤーであり、イアン・ウォーレスもじつにライヴ向きの豪快なスティックさばきを披露してくれ、この時期のクリムゾンのライヴ演奏が充実していたことを語っている。

ところが(2)になると、急に弛緩したようなゆるいジャム・ブルース・セッションのような感じになってしまう。フリップを除くメンバーが勝手に始めたような雰囲気で、フリップは最初ほとんど参加していない。12小節のブルースのコーラスを延々繰り返すようなスタイルにフリップは戸惑い、苛立っているようでもあり、仕方なしにバッキングを入れて適当に合わせているという感じがする。

この傾向は(4)においても顕著で、ジャズやブルースのミュージシャンがよく行う方法でフリップ以外のメンバーが即興演奏を「楽しんでいる」けれど、それはキング・クリムゾンが得意とする事前の打ち合わせがほとんどないフリーの即興演奏ではないように思える。たとえば後の『レッド』における「プロヴィデンス」のように、メンバー相互の集中や緊張から生み出される創意に満ちた演奏にはなっていないと感じた。

キング・クリムゾンにおいて常にそのような演奏を要求するフリップと、シンプルでわかりやすいブルース・ロックを志向する残り三人のメンバーとの間の溝は深まるばかりで、ツアーの間もフリップは孤立したままだったようである。その後三人はクリムゾンを脱退し、クリムゾンは崩壊してしまうが、『アースバウンド』はその時期のクリムゾンの様子をよい意味でも悪い意味でも隠すことなくさらけ出したものになっている。


≪ 『アイランズ』へ  『ラークス・タングズ…』へ ≫


【付記】
● フリップ個人にとって最も苦しかった時期だったのではないかと想像します。クリムゾンのようなシリアスで「変わった音楽」をやるには、やはりそれなりにクリムゾンを理解するメンバーが必要なのに、それにふさわしいミュージシャンを得ることができなかったというのは悲劇としか言いようがありません。

カンタベリー系のミュージシャンなど、クリムゾンのトリビュート・アルバムを作ったりしているのに、どうしてあの時期、クリムゾンに参加しなかったのか不思議でなりません。フリップはキース・ティペットのプロジェクト『センティピード』のプロデュースでかなりの数のミュージシャンたちと顔合わせをしていることを思うと、余計に謎が深まってくるのです。

後に、ボズ・バレルを除いたメンバーはフリップと和解し、イアン・ウォーレスは「クリムゾン・ジャズ・トリオ」として活動、メル・コリンズは「21st Century Schizoid Band」に参加した後、(最後の?)キング・クリムゾン・プロジェクトにも参加しているのはご存知の通りです。

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初のライヴ・アルバム

こんにちは

 キングクリムゾン初のライブ盤なのですね。
 youtube で確認しました。
 私にとっては 1曲目の「21世紀の精神異常者」がわかやすいです。
  『アースバウンド』はロックというより、ジャズのジャンルですね。

Re: 初のライヴ・アルバム ; mikitaka08さん

mikitaka08さん、こんばんは! コメントありがとうございます。
これはクリムゾンにとって公式ではありますが、
ふつうでは完全に「非公式」扱いの物件です。

ですがその内容は、「スキツォイド・マン」が目玉でしょうね。
これ以上、迫力のあるヴァージョンはおそらく存在しません。
バンドの内情がどうあれ、そうなのです。
クリムゾンはライヴ・バンドだということ、それを改めて感じた次第です。

内容が「ジャズっぽい」というのは、本当のことだと思います。
ジャズの文脈からすると違うのですが、そう聞こえるかもしれません。
ジャズのミュージシャンも、ブルースを演奏することがありますが、
それのようなものだと思っていただければ、と思います。
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