キング・クリムゾン 『アイランズ』

King Crimson / Islands (1971)

KingCrimson_Islands.jpg
1. Formentera Lady
2. Sailor's Tale
3. The Letters
4. Ladies Of The Road
5. Prelude: Song Of The Gulls
6. Islands


どん引き必至のプログレ話なんだけど、このウェブログはそのあたりの読者サービス精神とか配慮に欠けているということで有名(?)である。というわけで今回はキング・クリムゾン『アイランズ』(1971)を取り上げてみよう。現在(2013年1月)からするともう40年以上前の作品だ。自分だけは変わらないつもりでいる隠れファンとしては信じがたい気分である。

『アイランズ』録音時のメンバーはロバート・フリップ(g, mellotron)、メル・コリンズ(s, fl)、ピート・シンフィールド(lyrics)に加え、新しくボズ・バレル(vo, b)とイアン・ウォーレス(ds, per)。前作に引き続いてキース・ティペット・グループもゲスト参加している他、オーボエ奏者のロビン・ミラーや小編成の弦楽部も録音に加わっている。

枯れて渋めのバリトンだったゴードン・ハスケルからすると、ボズ・バレルはしっとりとしたテナーよりでロックにはこちらの方があっているだろう。ドラムも繊細なアンディ・マクロックよりイアン・ウォーレスのほうが迫力があってライヴ向きだ。これらのメンバーはオーディションで選ばれたらしく、彼らの参加は当初フリップを喜ばせたに違いない。

だがクリムゾンのようなシリアスな音楽をやるには、やはりメンバー同士の意思疎通がなくては相当難しいのではないかと思う。その意味ではこの時期のクリムゾンは理想的なメンバーを得ることができなかったと言える。フリップ以外のメンバーはキング・カーティスとかアレクシス・コーナーのようなファンキーなリズム&ブルース(ロックよりのブルース)を志向しており、基本的な部分でクリムゾン(フリップ)と相容れないものがあったのではないかと思う。

だから『アイランズ』は基本的にフリップとシンフィールドの強烈な抑制(?)の下で各メンバーが指示された部分をこなして録音し、それをミックス&トラックダウンして制作されたプロジェクト・アルバムのような雰囲気があり、バンドらしいジャムセッションから生まれた熱さのようなものに欠けるような気がするのは私(乙山)だけだろうか。これがバンドのライヴになると『アースバウンド』のようにメンバー間の相違が露呈してしまうのはファンならご存知のところだろう。

(1)はコントラバスのソロに導かれて始まる、何とも静かな曲。初めに衝撃を与えた後に抒情的な方向に行くというクリムゾン・パターンからすると意外な感じもする。メル・コリンズのフルートにイアン・ウォーレスのパーカッションが絡んで進んでいくのだが、どこか異国風の不思議な雰囲気に包まれている。終わり頃には(2)の主題が重なってきて次につないでいる。

(2)は「船乗りの物語」と題されたインストゥルメンタル曲。一通り主題を演奏し終わった後のフリップのエレクトリック・ギターのソロが秀逸で、流れるような旋律が続くものではなく、ピックでひっかきまわしたようなどこか暴力的なものさえ感じる。不思議な生き物があっちに行ったり立ち止まったり、飛び上がったりするようなイメージのかなり長いソロがそのまま落ちていくかのような感じに収束していく。

(3)の歌詞の内容を抜きにしてイメージだけで聞くと、狂気との境界を垣間見る一瞬を切り取ったようで、こういうものをライヴでやるんだろうかと思ってしまう。メル・コリンズのサキソフォンが精神の緊張と崩壊の予兆を見事に表している。(4)はこのアルバムでは数少ないロックっぽいノリを持った曲で、歌詞の内容からするとバンドのツアーに付きまとうファンの女の子たちとの行状をシンフィールドが皮肉をこめて書いたものと思われる。

(5)ではうって変わって小編成の弦楽部とオーボエによる「協奏曲」。「前奏曲」と題されているので次のアルバムタイトル曲「アイランズ」へとつなげる役割を持つ。個人的にはフリップの作曲力も大したものだなあと感心しながら聴いているのだが、ここまでクラシック調に徹底するのはどうなんだろうと思わぬでもない。ロック音楽にフリーダムの精神があるのなら、これもありということなんだろうか。

(6)はキース・ティペットのピアノに導かれてボズ・バレルのヴォーカルが一段としっとりした魅力を出す。いや本当、キース・ティペットのピアノがよくて、これに惚れこんでティペットのソロアルバムを買った私は愚か者だった。こういうわかりやすい、美しいメロディのティペットはここだけなんですね。この曲ではメロトロンが最後にすべてをすっぽり包み込むのだけど、教会用のハーモニウムも使われて通低音を出している。

(1)や(5)、そして(6)に見られるように、曲調の美しさは他のどのアルバムより比類のないものに仕上がっているように思えるが、それはバンドあるいはグループとして生まれたのではない。一方、『アイランズ』ではジャズやブルースといったメンバーの志向を鑑みながらも、いずれのイディオムにも収まることなく、良い意味で見事に折衷した何物ともカテゴライズしにくい音楽(「前奏曲」は抜きにして)を作り上げている点にクリムゾンらしさが出ていると思う。


≪『リザード』へ  『アースバウンド』へ ≫

【付記】
● 題名は『アイランズ:諸島』なのですがどういうわけかアルバムジャケットは星雲の写真になっています。しかし星雲を見ていると、どこか暗くて静謐、そして美しいこのアルバムを象徴しているかのように思えてくるのが不思議です。

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tag : キング・クリムゾン

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No title

こんばんは
昨年の暮、BSでキング・クリムゾンの特集が組まれていました。
主に「宮殿」制作にまつわるエピソードが当時の映像を交えて語られ、面白かったですよ。

Re: mikitaka08さん

mikitaka08さん、こんにちは! コメントありがとうございます。
なんですと、キング・クリムゾンの特集ですって?
そういう内容のものがあり得るというのが驚きです。
あまり大きい声で言えませんが乙山はテレビを持っていないんです。
今回ばかりは残念に思いましたよ。

No title

なんですと,テレビを持っていない!!
うーん、最近のテレビなど全く面白くないと言いつつ、
ついスイッチを入れて貴重な夜の時間をダラダラ過ごす、
わが身を反省!!!

Re: mikitaka08さん

mikikata08さん、コメントありがとうございます。
いやあ、導入計画は進んでいるのですが、まだないんです。
今度導入するときはネットにつなげてコンピューターの代わり(予備)として
使うつもりなんですよ。ネット対応テレビとPS3、NASストレージ、
多機能携帯電話などを合わせ、家庭内ローカルネットワークを考えているのですが……

テレビがないからといって有意義な時間を過ごせているわけでは、
たぶん、ないと思うんですよ。

No title

テレビもってなかったのですか…(*_*;

それはさておき、今回も唸るしかないですね。
乙山さん、プロ?というぐらいしっかりした記事で。
クリムゾンはアルバムを1枚も聴いた事が無いし、アイランズなんて全く知らない。
だけど、こちらを読んでいると、聴いてみたいな、と思わせますね。

「アースバウンド」の”メンバー間の相違が露呈”というのも気になりますねえ。

Re: RSさん

RSさん、こんにちは! コメントありがとうございます。
以前はあったのですが、引っ越しする際に失うというか、
ある事情によって、今はテレビがない状態です。
別になくても大丈夫なのですが、YouTubeなどをわりと見るようになりました。

1970年代の終わり頃、クリムゾンを知り、それからずっと聴いてますからね。
詳しいファンならこれくらいの話はいくらでもしてくれますよ。
そうですか、一枚も聴いたことがないのなら、せめて1stの『宮殿』くらいは
聴いておいても損はないと思います。『アイランズ』はそんなにお勧めできませんが、
『宮殿』はお勧めしますよ。

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只野乙山

Author:只野乙山

⚫︎ できれば「只野乙山=ただのおつざん」とお読みくだされば、と思います。

⚫︎ 文字中心のウェブログ。ほとんど一話完結で、どの記事をご覧になっても楽しめ(?)ます。文字数だけなら一冊の本に匹敵(凌駕?)するほどありますので、ごゆっくりどうぞ。

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