カラスガレイの煮付け

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地域によって異なるかもしれないが、私(乙山)の生まれた町には家が密集して建てられていて、建物と建物の隙間にできる細い道(路地)がある場所が、わりと多かった。幼少の頃、近所の仲間たちと何の意味もなくそういう路地を通って遊ぶ(?)のが好きだった。どこに行くともなく、子ども三人くらいで一列縦隊となって狭い路地を通過していくだけなのだが、通ったことのない道を抜けていくと、なにか新しい世界を垣間見たような気持ちになって興奮したように覚えている。

夕方、そういう路地を通っていると、どこの家でもたいてい夕餉の支度をしていて、カレーの匂いや、生姜と醤油でイワシかサバなどを煮ている匂いが外まで漂ってくるのが常であった。無駄に走り回っていいかげん空腹になっている者にとって、その種の匂いは強烈な刺激となって、もうそろそろ家に帰るべき時間になっていることを教えてくれたものである。

本来路地というものは建物近隣の関係者以外ほとんど通らぬ生活道路というか私道のようなものなので、今となっては立ち入ることはままならぬが、恐れを知らぬ幼少の頃は、どれだけおばさんや御爺さんに睨みをきかされたとしても、平気な顔をして通過していったものだから困ったものだ。今でも、住宅街の片隅で煮魚の匂いをかぐと、その頃のおぼろげな記憶が呼び起こされて懐かしい。

そんなわけで煮魚にはある種の郷愁を感じてしまうのだが、自分で煮魚を拵えることはあまりない。刺身を引いたり、焼き魚にしたりすることはよくあるのだが、どういうわけか煮魚は積極的にやってみたくなる気持ちが起きない。金目鯛なんかを煮付けにすると旨いだろうとわかっているのだが不思議なものだ。

ところが某日、近所のスーパーマーケットでカラスガレイが100g=100円以下で売られているのを目撃した。煮魚はあまりやらない私だが、これだけは別。カラスガレイの煮付けは大好きなんである。なので思わず買い物籠に入れてしまいましたよ。そうそう、白葱も忘れないようにしないと。これは煮魚のお供にするつもりである。

用意したものはカラスガレイの切り身、生姜の細切り、白葱。酒:醤油:みりん=1:1:1の割合にした煮汁が煮立ったところに、カラスガレイの切り身をそっと入れ、生姜の細切りも加えて煮込んでいく。たまに杓子で煮汁をすくって上からかけてやりながら煮るが、煮汁が足りなくなったら水:酒=1:1を適宜加える。落とし蓋などをして煮上げるが、ある程度煮込んだらいつものように保温調理器に移して放置。

煮魚は削り節と昆布で出汁をとる必要がないからじつに簡単にできてしまう。甘辛いのが好き、という人は煮汁に砂糖を加えるといいかもしれぬ。魚を引き上げた後に砂糖(とみりん)を加えて煮汁を煮詰め、照りを出すやり方もある。今回は濃口醤油を使ったが、薄口醤油を使って酒を多めに配合し、煮汁多めのあっさり味に仕立てる方向もあっていいと思う。

白葱は面倒くさければカラスガレイと一緒に煮ても構わないが、フライパンで軽く焦げ目がつくくらいまで焼くか、あるいは魚焼きグリルで焼いて、煮上がった魚に添えるほうが個人的には好きである。魚と一緒に煮ると、ちょっとくたっとなり過ぎる気がしないでもない。ちょっと焦げ目がついた白葱を、魚の煮汁に絡めて食うと、これがまたなんともたまらず旨いのである。

カラスガレイは適度に脂が乗っていて、これが煮魚にしたときに相性がいい。とくに縁側あたりは小骨があるけれど、ゼラチン質も多く含まれていてなかなか旨いではないか。白身は意外と上品で、箸でぽろっと取れて食べやすい。それでね、これがまた日本酒とばっちり合うのですよ。居酒屋などでも、カレイのから揚げにするか、カレイの煮付けにするか、ちょっと迷ってしまうくらいカレイの煮付けにぞっこんである。


【付記】
● カラスガレイを図鑑などで見ると、意外に大きいのに驚かされます。オヒョウなんて、もう巨大過ぎて不気味なくらいですが、英国の屋台なんかで有名なフィッシュ&チップスにはわりと使われているみたいです。

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懐かしいです

乙山さま、こんにちは。

路地のお話、ああわかるわかる・・・という気持ちで読みました。
私も男の子のようによく探索?に行きましたよ。
知らない路には、好奇心があって行ってみたくなりました。
子どもの頃は、怖いもの知らずだなあと思いますね。
でも、魚の匂いはしませんでした・・・
むしろ、猫の匂い? 妙な感じを記憶しています。
狭い路地には猫がいる・・・そんなイメージでしょうか?

今回は煮付けですね。
我が家ではなぜか嫌われ、滅多に作ることもなくなってしまいました。
結婚当初はよく作ってましたけど。
多分、私以外は魚料理があまり好きではないのかもしれません。
こういう記事を見ると、たまにはどう?と聞いてみたくなりますね。
毎日、今晩何にしようかと悩める主婦です・・・

Re: りーさん

りーさん、こんにちは! コメントありがとうございます。
おお、そうですかりーさんも路地裏遊び(?)をなさったくちですね。
夕飯近い時刻でないと、煮魚とかカレーの匂いはしないかも。

路地は独特の匂いがありましたね。
日当たりが悪いせいもあって、不思議な匂いに満ちていました。
なぜか生姜の匂いがよくした気がしますし、そこに仏壇の線香の匂いも……
そう、猫の匂いもあったと思います。路地裏に猫は付き物ですからね。

甘辛く煮た煮魚と、ご飯はとてもよく合うはずなんですけどねえ……
近頃の人は(って、あんた、いつの時代の人?)魚をあんまり
食べないってことも聞くんですけど、まさにそれかなあ。

買ってしまいました

これを読んでから某百貨店系スーパーでカラスガレイを見かけてしまったので(笑)

魚を甘辛く煮付けるという習慣があまり無い為、これもきっと薄口醤油と味醂でサッと煮てしまうでしょう。葱の食べ方は初耳でした。美味しそう…

No title

昔は、刺身、焼き魚中心で
煮魚というのは地位が低かったんですよ。僕の中では。
でも、脂の乗った魚を甘めに煮付けるのは美味いです。
砂糖でなくはちみつ使っても美味いです。

少し驚くのが、オキナワ文化は揚げたがる。
秋刀魚や鯖もフライにされちゃいます。僕は食べません。

カレイに関しては襟裳の近くでサメガレイというのの麹漬けにハマりました。
臭かったですが。

No title

記事を拝見しました
細かなところに届く観察眼と優しい考察はいつもながらの乙山さんだなと…

カレイの煮付けは子供の頃母が作ってくれましたが、最近は居酒屋か料理屋でしか口にしなくなりました。確かに自分で作らない限り、家ではなかなか…。
高級な料理になりつつあるような。

露地遊びは小学生の頃、ワザとバスに乗らないでウロウロと道草を食って帰ったことを思い出しました。
誰しも経験することなんですね。

ただ私の田舎は木地師が多かったので、木の香りと機械油の臭いばかりでした。

今回の記事は色々な大事な事を思い出させてくれました。
ありがとうございます。

No title

「カラスガレイ」というのはこちらで初めて知りましたよ。
以前にも書きましたが、カレイというと、「ナメタ」「宗八」「真ガレイ」くらいしか知りませんでした。「オヒョウ」は知ってましたよ。
でもでも、こちらの美味しそうな画像を拝見すると、とてもカレイの煮付けが食べたくなりました。小骨との格闘が大変ですが、それを押しても、食べたいです。

No title

カレイはねえ・・・

宮城にいたころ食卓にあがる干物といえばホッケとカレイぐらい。
ですから、カレイはとてもなじみがあるんですが、その煮物というと・・・

大人になって(お酒を飲む頃になって)やっとその魅力に気が付いてねえ。とくに私の地元でナメタガレイと呼ばれていたやつ。一般的にはババガレイというやつですが、これがとてもおいしくて・・・かなりの高級魚なんで滅多には口には入りませんでしたが・・・ああ、ナメタ・・・ああ食べたいなあ・・・

No title

 カレイの煮付けもさることながら、取り合わせたネギが美しいです
ね。これ、もったいないから食べちゃいけませんよ(笑)。

 さて昔はあちこちの玄関先に七輪(大阪ではカンテキですか)を
置いてサンマを焼いていたことを思い出します。かつて青い煙がも
うもうと立ちこめた路地も、近年はだんだんものの匂いが薄れてきた
ように思います。

 夏になると蚊の湧いたドブもなくなったし、全体にびっくりするほ
ど清潔になったのはうれしいんですけど、無味無臭というのもさびし
いものですね。

Re: 白プードルとお散歩さん

白プードルさんとお散歩さん、こんばんは! コメントありがとうございます。
カラスガレイは脂の乗り具合がちょうどいいので、
煮付けにも合うのではないかと思います。

もちろん、これを焼魚にしてもいけますし、
小麦粉をふってムニエルにするのもいいかもしれません。
大味かな、と思わせる外観ですが、けっこうおいしいんですよ。

Re: 根岸冬生さん

根岸さん、こんばんは! コメントありがとうございます。
なるほど、砂糖ではなくて蜂蜜でもいけそうですね。
甘みを添加するというのは、近現代では当たり前かもしれませんが、
昔はみりん一辺倒だったのではないかと思います。
蜂蜜は、なんだかおいしそうじゃありませんか!

イギリスとか北欧では、筒状になった魚ボイル専用器具がありそうですね。
沖縄では煮魚はあまりない、というのが普通なんでしょうか。
豚の煮物などはたくさんありそうなのに、不思議ですね。

サメガレイというのを聞いて、にこごり、というのを思い出しましたよ。
正体はわかりませんが、魚などを煮たものを冷ますと、
ジェリーみたいに固まってくるのですが、それを熱々のご飯に載せると、
溶けてきて、なかなかおいしかったように覚えています。

Re: Noriさん

Noriさん、こんにちは! コメントありがとうございます。
路地遊びは楽しかったですね(住民の方はいい迷惑だったかも)。
地域にもよりますが、大阪は今でも比較的路地がたくさん残っているのです。
ただ、もう昔のように無遠慮に踏み込めなくなってしまいましたね。
本当に、路地遊びは子どもの時しかできないものです。

煮魚自体、あまりやりませんが、カレイ(とくにカラスガレイ)は、
煮付にすると旨いですね。適度に脂が乗っているのがいいんです。
最近は魚全体が高騰しているようですが、たまに安く出回っているのを見ると、
つい買ってしまいますね。

Re: かえるママ21さん

かえるママさん、こんにちは! コメントありがとうございます。
カラスガレイはかなり大型のカレイで、流通量も多いようです。
ただし、近海物はあまり出回っておらず、輸入物が大半だそうです。

大手スーパーマーケットとか、業務用食料品店へ行けば、もしかしたらあるかもしれませんよ。
切り身もかなり大きなものでして、食べ応えがあります。
回転すしの種として「えんがわ」というのがありますが、
カラスガレイが使われていることが多いそうです。
そちらとはまた事情が違うかもしれませんが、機会があれば、
一度召し上がってみるといいですよ!

Re: gatayanさん

gatayanさん、こんにちは! コメントありがとうございます。
乙山は最近になってカレイの干物を食べ出したくらいで、
あまりカレイ自体をよく食べるわけではありませんでした。

ただ、居酒屋でカレイのから揚げを食べるのは好きでして、
よく注文するのですが、それがなんというカレイなのか、
ほとんど意識せずに食べてきたので、名前はいまだに詳しくありません。

一尾そのまま、というのはいまだに苦手ですので、
大型のカレイの切り身を買って来て、適当に煮付けることぐらしか、
今の乙山にはできません。そのうち、舌平目とか、その他一尾もののカレイに、
なんとか挑戦するつもり、ではあるんですよ。
ナメタガレイ、今後気を付けて魚屋の店頭を見てみます。

Re: 薄氷堂さん

薄氷堂さん、こんにちは! コメントありがとうございます。
白葱、なかなかいいでしょう? これ、本当に旨いんですよね。
乙山は白葱が大好きで、焼鳥屋さんでも白葱だけを焼いたやつを注文するほどです。
これからの季節、また白葱が旨いんですよねえ!

>  さて昔はあちこちの玄関先に七輪(大阪ではカンテキですか)を
> 置いてサンマを焼いていたことを思い出します。かつて青い煙がも
> うもうと立ちこめた路地も、近年はだんだんものの匂いが薄れてきた
> ように思います。

1960~70年代中ごろまでなら、大阪の町中で七輪を使って魚を焼く、
というのもできたように思います。一斗缶の下のほうに穴をあけたもの(トント)で、
みんなゴミなんかを勝手に焼いていましたよ。

暗くなったら国道沿いでも立ち小便が当たり前。
おばさんがズロース(?)で そのへんを歩きまわっても、
だれも不思議に思わなかったものです。 そんな時代でしたね。
いつ頃からそういうものがなくなったのかなあ。
すべて、遠い昔になってしまいましたね。

そうでした、昔は路地にも子どもがたくさんいてにぎやかでした。
懐かしい風景です。

カラスガレイ、魚図鑑によれば体長は1mを超え、新鮮な物は刺身にして極めて美味とありました。
煮魚の煮汁の作り方ですが地方によって、また家庭によって、いろいろあるようですね。
私はほんの少し砂糖も入れ、なぜかいつも雪平鍋で作っています。
子どもは
「ご飯が進む。」
と喜び、私にとっては赤ワインのよいお供です。

Re: サハラの南さん

サハラの南さん、こんばんは! コメントありがとうございます。
昔は路地裏を徘徊(?)する少年探偵団のような者どもが、
たしかに存在したのです。乙山もそういう者の一人でした。

そうでしょう、カラスガレイは平べったい海底にすむ魚の中では
かなり巨大な部類になると思います。なので切り身でも食べ応えがあります。
近海物は本当においしいのでしょうが、なかなか出回りません。

なのでどこで獲れたかよくわからぬ輸入物ばかり食べております。
それでもどうしたことでしょう、なかなかおいしいんですよね。
ご飯が進む、というのは本当によくわかります。本当に合うんですよね。
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只野乙山

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⚫︎ できれば「只野乙山=ただのおつざん」とお読みくだされば、と思います。

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