阪急池田駅周辺を歩く(7) 吾妻

Azuma01.jpg
大阪府池田市に住んでいるのにこの店を知らない、などと口にすれば「もぐり」と言われかねない〈吾妻〉に初めて行ってみた。この店があるのは知っていたが、いったいどこにあるんだろうと不思議に思っていたのである。とにかくひっそりとした店のたたずまいなので、ついうっかり見過ごしてしまっていたのだ。写真からもご覧のとおり、これでは見過ごしても仕方がないではありませんか。

阪急池田駅で降りて徒歩で〈吾妻〉に向かうなら、栄町商店街をぶらぶら歩き、終わりまで来たら本町通りに出るのでそこで左折。落語ミュージアムとか芝居小屋もある通りを歩いていると、猪名川に出る。交差点の信号を渡ったすぐのところに〈吾妻〉はある。思ったほど遠くはないので一応「阪急池田駅周辺を歩く」という範囲に入るのではないかと思う。

Azuma02.jpg〈吾妻〉はたいへん歴史の古い店で、元治元年(1864)創業とある。歴史年表を見れば日本はそのころ幕末であの「池田屋事件」、アメリカでは南北戦争が起こっていたというような時代である。なんでも大阪では最古のうどん屋さんだとか。ここの名物は「ささめうどん」という細麺のうどんだそうだけど、なにしろこのうだるような暑さである。「冷やしささめ」というもの(750円)を注文した。

折悪しくちょうど正午だったためか、店内はわりと混んでいて相席になった。真ん前に座るご婦人にお邪魔いたします、と一礼して座らせてもらう。横には五、六人の女性客たちが盛んに会話をしている。メニューを見て注文してしまうと別にすることもなく、しかも文庫本もうっかり持参するのを忘れてしまったのだ。

Azuma03.jpg真ん前のご婦人に品物が届き、食べているのをじろじろ見るのもなんだから、ここは目を閉じてあたかも自分はそこに存在していないかのように、空気のようになりきることはできないだろうかと丹田のあたりに気を集中し、背筋を伸ばして沈思黙考しているようなふりをしてみた。うむ、心頭滅却すれば火もまた涼し、などというではないかと一人悦に入っていたら店員さんが声をかけてくれた。

まるで苦行僧のようにでも見えたのか、なんや女性ばっかりに囲まれて気の毒ですし、などと奥の四人がけのテーブル席に移るのを勧めてくれた。それではいやどうもどうも、などと意味不明の言葉を真ん前のご婦人にかけて席を移動した。見るとご婦人はこの暑いのにふつうの「ささめうどん」を召しあがっているようである。暑さに負けて「冷やしささめ」を注文したおのれの虚弱さに思い至るも時すでに遅し。

Hiyashi_Sasame.jpgさて「冷やしささめ」が来ましたよ。甘辛く煮た薄揚げ、蒲鉾、葱、生姜、すりごまなどが乗せられており、たっぷりのてんかす(揚げ玉)も添えられている。写真のいちばん手前に見えるのがそれで、これだけ食べてもその店のてんぷらが食べたくなるほどである。細めんにつゆをかけたいわゆる「ぶっかけうどん」ということだろうか。

なるほど、これはなかなか旨いなあ。お腹が減っていたこともあって、ついうっかりつるつるっと食べてしまうのをなんとか我慢して、ゆっくり味わって食べることにした。少なめの量を、時間をかけて食べるのが「腹八分目作戦」なのである。だけど〈吾妻〉は昼過ぎのゆっくりできる時間を見計らって入店し、てんざるそばかうどんを食べながらビールを一本立ててみたいなあ、と思わせる店でした。


【付記】
● 〈吾妻〉は鄙びたいい雰囲気の店でした。愚かにも池田にはうどん、蕎麦のいい店がない、などとぬかしておりましたが前言を撤回せねばならないようです。じつは他に〈蕎麦見世〉とか〈くれは〉など、うどん・蕎麦の店があるのです。それらについては後日、ということで。

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No title

東京では、かなり本格的な蕎麦屋やうどん屋が出てきています。
どれもこれも、かなり美味いです。

しかし、元治元年(1864)創業という老舗のブランドは魅力ですね。
昔はよく、老舗の看板にあぐらをかいちゃってさ、なんて言われたものですが
今の時代は、どんなブランドであっても美味しくなければ生き残れない。
それでも生き残っている老舗のブランドというものを、一度、食べてみたいものです。

Re:根岸冬生さん

根岸さん、こんばんは! コメントありがとうございます。
東京がいいなあと思うのは蕎麦屋があるということでしょうね。
こちら(関西)ではなかなか、いい蕎麦屋さんはありません。
というか、乙山が探せていないだけなのですけど。

もともと蕎麦は庶民的な食べ物でして、なにもそんなに
襟を正して食べるようなものではなかったはずなのです。
蕎麦粉の生産量とか、いろいろなことが絡み合って、
蕎麦の値段が高くなっているのでしょうね。

ううむ、それにしても、
「どれもこれも、かなり美味いです」
というのは本当、うらやましい限りですね。

No title

こんばんは。
1864年創業なんて、さすがですね。
明治維新4年前からなんですね。
是非とも行きたいところです。
旅行ガイドブックには載ってない様な、地元の歴史ある場所を散歩してみたいです。
やはり、歴史ですね.....
街のプライドというか、自慢のおうどん屋さんでしょうね。
今後も残していかなくてはなりませんね。

Re:かえるママ21さん

かえるママさん、こんばんは! コメントありがとうございます。
たしかに歴史ある、由緒あるお店なのでしょうけど、
実際に行ってみるとまあ、なんとも庶民的な感じのする店なんです。

大阪にはきつねうどんを初めて出したという店もあるそうで、
その店もそんなの敷居の高くない、入りやすい店だそうです。
ご近所の方が「お出汁ちょうだい」とか言って、鍋を持ってくると、
そこのうどん出汁をいれてくれるような、そんなお店だそうです。

高級料理店もいいのでしょうが、そんな感じの店がいいですね。
この店はたぶん旅行ガイドとか観光案内にも載っていると思います。
乙山があまり利用しなかっただけ、なんでしょう。
場所的に、そんなみんなが、とはいえないのかもしれませんね。

No title

> てんざるそばかうどんを食べながらビールを一本

 いいですね、それ。こちらは車社会なものですから、せっかく外で食事
しても、それができないんですよ。

 じゃあ、夜にでも飲みに行けばいいじゃないかというと、それはまた話が
別ですよね。まだ日のあるうちに、うまいものをつまみながら軽く一杯だけ、
というのがオツなんです。

 ささめうどん、というのは名前がしゃれています。こちらは熱いのを食べ
てみたいので、真夏は敬遠したほうがよさそうですね。

Re:薄氷堂さん

薄氷堂さん、こんにちは! コメントありがとうございます。
やはり北海道では車なしでは不便でしょうね。
ちょっと一杯、ができぬところがなんとも。

昼酒というのはいいもんですよね。
土、日曜日に仕事をしていることが多く、
お昼からビールを飲んでいる人がなんとも幸せそうに
見えて仕方ないんですね。

ささめうどん、を見るたびに
谷崎潤一郎の『細雪』を思い出します。
その地方に根差した、なんとも言えぬ味わいを
もった言葉のように思えます。

こんばんは。
吾妻から2、3分の場所が生家だったりします。今でも所用で毎日前を通ってますが、生まれてこの方、2回程しか入った事がありません。これは大阪の人は通天閣に登らない、というのと同じ原理なんでしょうかね。さらに近所にあった別のうどん屋さんを贔屓にしていたというのもありますが。
これを機会に近いうちに吾妻に入ってみようかな。

No title

へええ、こんな歴史のある店があるとは。
しかし見た目は地味ですね…上はマンション?

冷やしささめ美味しそうですが、
ご婦人方に囲まれた乙山氏の姿も美味しい。。。
心頭滅却、私もしますね、そういう状況なら。

Re: 白プードルとお散歩さん

白プードルとお散歩さん、こんばんは! コメントありがとうございます。
以前からお伺いするに、かなりご近所さんとは思っていましたよ。
そうそう、いつもあるんだからいつ行ってもいいや、というのはありますね。
乙山も大阪市内に住んでいたころ、やはり通天閣へ登ってみようとは
思っていなかったものです。

〈吾妻〉は思っていたより庶民的な、のんびり、まったり(?)した店。
なのでゆっくり行ってみようかな、という雰囲気には合うと思います。
やはり午後一時過ぎあたりがいいのかもしれませんね。
ここのてんかす、なかなかでしたよ。
乙山も休日の昼過ぎ、もう一度行ってみようかな、とか思います。

Re:RSさん

RSさん、こんばんは! コメントありがとうございます。
そうでしょう、だからその前をしょっちゅう通っているのに、
わからなかったわけです。

本当に〈吾妻〉はひっそりとした佇まいで、
うっかり通り過ぎてしまっていたのです。
おそらくこの地所自体の持ち主が、その店でなんでしょう。
上はマンションで、店のご一家もお住まいかも。

そうしたほうがいい、という状況はありますね。
首都圏の、朝の通勤時間の満員電車より、ましではないか、と。
ふと、今書きながらそんなことを思いました。
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只野乙山

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