夏目漱石 「門」

夏目漱石 「門」 (1910年より朝日新聞に連載、翌年刊行)

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ちくま文庫版『夏目漱石全集』が本棚にあるため、ようし夏目漱石を読むぞ、と気合を入れて読み始めたものの、「門」で一気にペースダウン。このウェブログで漱石の「それから」を取り上げたのは2012年の1月29日のことだから、「門」一編を読むのに三カ月も要したことになる。

どうしてそういうことになったのか、自分でもよくわからないけれど、読んでいて思ったのはドライブ感が少ないことだろうか。次はどうなるんだろう、と頁をめくりたくなる感じが足りないのだ。宗助と御米という夫婦だけでひっそりと暮らしている日常を描いていくのだが、筋があるようでない感じで、ヤマがない、オチがない、とまではいかないにしても、まるで現代小説を読んでいるような雰囲気の前半部分だった。

これは人によってさまざまだと思うが、私(乙山)の読んだ感じではそんなふうだった。ひょっとすると「門」がいちばん好き、という人もいるかもしれないけれど、想像するに「門」は漱石の中でもあまり人気の高くない作品の部類に入るんじゃないだろうか。ちがうかなあ。「猫」や「坊っちゃん」、「三四郎」あたりではだれかと話ができるかもしれないが、「門」でそれはあまりなかったような気がする。

「三四郎」「それから」「門」をして漱石の三部作だという。夢見る青年の淡い恋と女性の結婚による恋の終わり、既婚女性への恋慕と彼女との結婚、そして不義不徳を背負って生きる夫婦のその後、というわけで登場人物こそ違えどもそれとなくつながりがあるように見えるので「三部作」といわれるのだろうと思う。「門」の宗助と御米の夫婦はさすがに所帯じみていて、「それから」の華やかさがそこにはないんですね。あからさまに「続いている」という感じは正直言ってあまりしなかった。

「門」の中頃から宗助の若い頃と御米との出会いが回想で描かれるのだが、安井と御米がいわゆる内縁関係であったとか、どのようにして宗助と御米が近づいたのか、などという部分がかなり省略されて書かれており、いったいどういうことなんだ、と読み返してみないと(読み返してみたとしても)あまりよくわからないのが腑に落ちぬところだ。前作「それから」の続きということでよろしく、ということなんだろうか。

後半部分で大家の坂井との交流が書かれ、そこで安井の話が大家の口から出る。ここで宗助と安井が対峙する、話の中では最も緊張の高まる瞬間なのだろうけど、先に書いたように宗助と御米、安井の三角関係があっさり書かれ過ぎているように思えるためか、テンションの高まりが読者によってはあまり感じられないのではないかと思う。おまけに宗助は唐突に禅寺にこもって何かを得ようとして禅寺の門を叩く、というわけで「門」なのだろう。

詳しいことはわからないけれど、登場人物の三角関係の捨象、最も緊張が高まるべき部分での主人公の唐突な禅寺籠り、そしてなんともゆるい感じのする収まり方などは漱石の設定によるものだと考えざるを得ない。さらに体調の悪化もあったことだろう。「門」連載終了後、漱石は胃の調子が悪くなって入院しているという。なんだかいまひとつだなあ、という感じを持った「門」だけど、世の人たちはどういう感想をお持ちなのかちょっと気になるところです。


【付記】
● 「夏目漱石を読む」というのがなんだか企画じみているためか、なんとか放り出さすに読み通したわけですが、もしこれが他の作家の本だったら、ひょっとしたら途中で放り出していたかもしれません。どうも気になって読みたいな、という感じがあまりしなかった「門」。読むのに時間がかかったのも、そのあたりに原因があるのでしょうか。

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No title

かえるままは夏目漱石の「こころ」を読んで文学が好きになったんです。
なので夏目漱石に大感謝してます。
でも、かえるままも「夏目漱石全集」持ってますが、「三四郎」も「門」もなかなか進みません。
なんとなく、ドロドロ感が全体に似てるからでしょうかね?
また、読んでみようかな。

No title

 『門』はまだ読んでいません。

 こっちの系統は、『猫』や『ぼっちゃん』とまるで別物ですけれど、漱石は
ジェイン・オースティンを非常に高く評価しており、

 当面の珍事は大いに人を動かすがゆゑに深からん。しかれども露骨にし
て含蓄を欠くがゆゑに浅しともいひうべし。(『文学論』)

 また、

 Austenの深さを知るものは平淡なる写実中に潜伏しうる深さを知るべし。
 (同上)

ともいっています。ゴシック・ロマン風味漂う『ジェイン・エア』よりは、ずっと好
みだったようです。

 『それから』の系列には、そういう漱石の一面が現れているのかもしれない
と勝手に考えています。

 オースティンの大傑作とされる『高慢と偏見』は、昔ちょっとだけ読んだので
すが、当時のぼくにはあまりにも退屈だったため(笑)、途中で投げ出したこと
があります。いま手元には『エマ』しかありませんけれど、今年中にはチャレン
ジしてみます。漱石先生が激賞するからには、オースティンにはきっと学ぶべ
きところがあるはずですから。

 そのあとで『門』を読んでみましょうか。

Re:かえるママ21さん

かえるママさん、こんばんは! コメントありがとうございます。
「三四郎」が進まないのは、現代の小説のとはちがうから、
というのかもしれません。男女の淡い恋愛、という本筋(?)とは
あまり関係のないように見える「日本と西洋(近代=モダニズム)」という要素が
織り込まれていますので、読みにくい、ということはあるかもしれません。

「門」にかんしては、乙山自身、読む速度が落ちてしまったのですから、
よくわかる(実感だけは)つもりです。わかりやすく言えば、「つまらない」のです。
漱石だからといって、すべてが傑作ではないということでしょう。

ですが、ううむ、「ドロドロ感」というのがいまひとつ、よくわからないのです。

Re:薄氷堂さん

薄氷堂さん、こんばんは! コメントありがとうございます。
ジェーン・オースティンといえば、『説き伏せられて』(岩波文庫)を読んだ記憶があります。
なかなか、よかったのではないでしょうか。
あらすじがどうの、とまでは言えませんが、とにかく、けっこういけてる、という感じがしたのです。

オースティンの『高慢と偏見』もそのうち読んでみようと思っています。
昔だめだったものでも、いま読んだらけっこういけるかもしれません。
新しいものを含めて、できるだけいろいろなものを読んでみるようにしていますが、
読める量に限界がありますね。

『高慢と偏見』もそうですが、『エマ』もそのうち読もうと思っている作品。
ああ、だけどいつになるのだろうなあ、と思います。
とりあえずは夏目漱石が、山積していますしね。

No title

「門」はね・・・大学の時に授業で一年かけて読んでいるんです。

毎週毎週順番で割り当てられた部分に説明を加える・・・そんな繰り返しでした。

あんまりしっかりとは覚えていないのですが、宗助が売り物の懐中時計を見つめているシーンで、それが「1円」・・・

授業を担当なさっておられた先生が、当時の公務員にとって「1円」という金額はどんな金額だったんですか・・・ときかれて、答えられなくって・・・そんな思い出があります。

Re:gatayanさん

gatayanさん、こんばんは! コメントありがとうございます。
なるほど、「門」を丁寧に読みこまれたわけですね。
ううむ、なんだか国文科的な感じがしますが、
そのようなテキストクリティークは、ふつう欧米語の文章以外、
あまりしないものですよね。

本当は、日本語で書かれた文章こそ、丁寧な読み方をしたいもの。
その点で、gatayanさんは、とてもいい体験をなさったのでは、と思います。
あまり考えることなしに読み進めている日本の小説ですが、
ここはどうなんだろう、と考えてみることも大事なのかな、と思いました。
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