トム・ウェイツ 『クロージング・タイム』

Tom Waits / Closing Time (1973)

TomWaits_ClosingTime.jpg
1. Ol' '55
2. I Hope That I Don't Fall In Love With You
3. Virginia Avenue
4. Old Shoes (& Picture Postcards)
5. Midnight Lullaby
6. Martha
7. Rosie
8. Lonely
9. Ice Cream Man
10. Little Trip To Heaven (On The Wings Of Your Love)
11. Grapefruit Moon
12. Closing Time



私(乙山)はそれほどとは感じないのだけど、ボブ・ディランはどうも「悪声」の歌手として認識されているようである。なぜディランをそれほど悪声と感じないかといえば、やはりドクター・ジョンを聴いたことがあるからだろうし、それになんといってもトム・ウェイツを聴いた後ではディランのヴォーカルはなんだか澄んだ声に聞こえてくるのである。

トム・ウェイツを昔から聴いていたわけではなく、これも例によって「ロック名盤なんとか」などという情報誌に紹介されていたのを記憶していて、輸入CDが驚くべき安価で購入できる時代になってから買い求めたのではないかと思う。私の記憶違いかもしれないが、昔はレコードの輸入盤といえば国内盤より高かったのではないだろうか。

HMVやタワーレコーズが姿を現し、日本の店では新星堂なんかが輸入CDをたくさん取り扱い始めたころはうれしくて仕方がなく、何か昔の仇でもとったかのようにCDを買い込んだものだ。こんにちウェブログで音楽の話をある程度続けていられるのもこうした経緯があってこそのことだと思う。

今回はトム・ウェイツの一枚目『クロージング・タイム』(1973)。デビューアルバムのタイトルが「これでおしまい」を思わせる、なんだか人を食ったようなものになっているけれど、聴いてみると、これが本当、なかなかいいのである。曲によってはベースとかドラムなどの楽器が加わることがあるが、基本的にはトム・ウェイツのピアノとヴォーカルが中心で、それがディランをはるかに上回るだみ声なのだ。

音楽的なルーツはフォークやブルース、ジャズやリズム&ブルースのようであるが、いかにもそれ、とわかるような曲調にはなっていなくて、それらのテイストをさりげなく取り入れながら独特の雰囲気に仕上げているように感じた。全体の雰囲気を意識して懐古調にしている節があり、あまり関係ないかもしれないがレイドバックという言葉をふと思い浮かべた。(1)はイーグルスが『オン・ザ・ボーダー』(1974)でカヴァーした曲。

録音および再生される音を、原音になるべく近づける方向をハイファイ(high-fidelity)といって、通常の録音ではハイファイを目指して行うものだが、『クロージング・タイム』ではどうもその逆のローファイ(low-fidelity:造語?)を意識的にやっているんじゃないかなあ。ピアノの音なんか聴いていると、なんだかおもちゃのピアノみたいに聞こえるときがあるんですね。だけどそれが、不思議に心に染みる。

『クロージング・タイム』録音当時のトム・ウェイツは20代前半で、アルバム全体の雰囲気と歌声からはとてもそんな年齢の人だとは想像もできないくらいだ。アルバムジャケットの中央に小さく写った画像からはわかりにくいけれど、ちょっと強面なんですね。映画俳優としても活躍しているらしいけど、感じたところを正直に書いておくと悪役がぴったりというか、要するに怖いんですよね。

そういう強面のトムがあの強烈なだみ声で歌うのだが、その内容がセンチメンタルな部分にぐっと訴えるものがあるからこそ、聴き手の心をつかむのではないかと思う。英語の歌は中身がわからなくても流しっぱなしでいいと思うけど、これにかんしては意味も噛みしめて味わうことをお勧めします。ラストの(12)はアルバムのタイトルチューンで、これはインストゥルメンタル曲。もし自分が店をやるなら、一日の終わりにそっとかけて店の終わりの時間が来たことを客に知らせるのにちょっと使ってみたいものだ。


【付記】
● 初めてのトム・ウェイツは何がよいか、これはきわめて重要な問題ですが、乙山は『クロージング・タイム』をお勧めします。二枚目、三枚目と聴いてみましたが、例のだみ声が強烈になっていき、名曲「ワルチング・マチルダ」なんかも歌っているのですが、これはちょっと……という感じがしたのが正直なところです。聴き直してみると印象が変わるかもしれませんが、少なからぬ人が『クロージング・タイム』をいちばんに挙げるのではないかと想像します。


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tag : トム・ウェイツ

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No title

トム・ウェイツ。
ええ、またもや名前だけは知っているアーティストの一人です。
しかし「だみ声」好きとしては大いに興味を持ちました。
ちょっとwikiを見てみたら「酔いどれ詩人」とまであり、
なんだかこれはもう聴かないと…

しかしどこかのバンドのボーカルというイメージだったので
何か別の誰かと混同しているようです。

--------------------
YOUTUBEで聴きました。
うわっ、すごい声。ゴ○ラのような…ちょっと人を選びますね。

Re:RSさん

RSさん、こんばんは! コメントありがとうございます。
いくらだみ声がいいといっても程度がありますよ。
これはちょっと……といいたくなることがあるんです。

この人を聴くなら『クロージング・タイム』に限ります。
まだ許容範囲にあるのではないか、と思うのです。
『クロージング・タイム』の後、少し聴いてみましたが、きついものがある。

なので乙山としては『クロージング・タイム』をお勧めします。
それ以外は、聴かなくても大丈夫(?)じゃないかと思いますよ。
実際に(買ってまで)聴いてみた乙山がいうのだから間違いありません。
だけど、人によっては……
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