『マルタの鷹』 (1941)

『マルタの鷹』 アメリカ (1941)

TheMalteseFalcon_01.jpg
原題:The Maltese Falcon
原作:ダシール・ハメット
監督:ジョン・ヒューストン
出演:ハンフリー・ボガート、メアリー・アスター、ピーター・ローレ、シドニー・グリーンストリート、エライシャ・クック・ジュニアほか


いちばん好きな映画俳優はと訊かれたら、たぶんハンフリー・ボガートだと答えてしまうかもしれない。もちろん、ロバート・ミッチャムやショーン・コネリーも好きだし、スティーヴ・マックイーンやポール・ニューマン、ジェームズ・スチュワートにグレゴリー・ペック、ジャック・レモンとかヘンリー・フォンダ、そしてブルース・リーなどもお気に入りなんだけど、どうしても一人だけ挙げよ、となるとやはりハンフリー・ボガートになってしまう。

どうしてか、と訊かれると困ってしまうのだが、とにかく一切の理屈抜きで格好いいのである。だからどれだけ時代錯誤とか前時代的だとか思われようとも、ハンフリー・ボガート主演の映画にどっぷり浸っているのが好きだ。その際、自分がどれだけハンフリー・ボガートからかけ離れているか、などということは一切考慮しないことにしている。本来映画とは、そのような卑小な自分とか煩雑な生活などを忘れさせてくれる装置ではないかと思う。

TheMalteseFalcon_02.jpg『マルタの鷹』(1941)はハンフリー・ボガートの出世作ともいえるもので、ダシール・ハメット原作のいわゆるハードボイルド小説を映画化したもの。それ以前にそれほどたくさん映画出演しているわけではないボガートだが、主人公サム・スペードの冷徹なタフガイぶりがじつに様になっているというか、板に付いているというべきなのか、まさにぴったりのはまり役である。これが、初めからボガートを想定しておらず、打診した俳優が断った結果ボガートに配役が回ってきたというから不思議なものである。

サンフランシスコで私立探偵事務所を開いているサム・スペード(ハンフリー・ボガート)のところへ、サーズビーという男と駆け落ちした妹を取り戻してほしい、と依頼する女性(メアリー・アスター)が現れた。サムの相棒、マイルズは女性の美貌に惹かれ、仕事を引き受けるが、彼は何者かによって射殺されてしまう。マイルズの妻とサムの仲を怪しんだ警察によって、サムはマイルズ殺しの容疑者として扱われる羽目になる。

サムは自らの容疑を晴らすため、何か隠し事をしているらしい依頼人の女性を問いただし、彼女は本名がオショーネシーであることを話す。事務所にはジョエル・カイロ(ピーター・ローレ)と名乗る男が現れ、黒い鷹の置物を探し出してくれたら5000ドルの報酬を出すという。隠し事の多いオショーネシーやカイロは、どうやら鷹の置物をめぐる競争相手であるようで、その背後にはガットマン(シドニー・グリーンストリート)という黒幕がいて、手下のウィルマー(エライシャ・クック・ジュニア)らも動いている。

TheMalteseFalcon_03.jpgあまりにも有名でパロディも多い映画なので筋がわかると困る、などということもないと思うが、「マルタの鷹」とはマルタ騎士団がスペイン国王に献上するため、黄金の鷹の像を作り、それを黒く塗り込めたという設定。ネットで調べてみると、マルタ騎士団というのは実在するようで、十字軍のころから活動しているという。いまでもローマ市内に本拠地としてビルを所有していて、ビル内は治外法権になっているというから驚きだ。

ハンフリー・ボガートはピン・ストライプのダーク・スーツを着ており、それがウェストをしっかり絞った6ボタンのダブル・ブレストなのがたまらないですね。ピン・ストライプのスーツ、ましてや6ボタンのダブルなんて着てみようとも思わないくらいなのだが、それがまた本当に似合っているのが羨ましい。そして外出時にはしっかり帽子をかぶるのだが、これがまた本当に様になっている。

黒幕ガットマンの用心棒として登場するウィルマーは、ハンフリー・ボガートよりちょっと小ぶりで、グレーと思われるダブルのスーツを着ているのだが、ちょっとサイズ大きめでだぶついて見える。これもおそらく、計算済みでそうしているのだと思うけれど、日本人がダブルのスーツを着ると、ちょうどウィルマーみたいになってしまうことが多い。

1980年代の後半、ちょっとだぶついているけど肩をやたら強調したジョルジオ・アルマーニのコピーみたいな、しかも変な色のダブルのスーツを着ている人をやたら見かけましたね。薄紫というかなんとも言えぬ色のダブルのスーツに、茶色の房飾り付きのスリッポン(紐なし靴)をよく合わせていたあの人たちは今、どこでどうしているのだろう。

TheMalteseFalcon_04.jpgハンフリー・ボガートの格好良さが光る映画なんだけど、それをより一層引き立てているのがカイロ役のピーター・ローレと用心棒ウィルマー役の俳優。どちらもちょっと小柄で、どこか間抜けな感じのする演技だが、とくにピーター・ローレはなんとも言えない、いい味を出している。ハンガリー出身の人らしいけど、ジョエル・カイロという人物はいったいどこの国の人なんだろう。カイロだけにエジプト系の人、なんだろうか。謎の人物としか言いようがないけれど、こういう脇役の人たちがいてこそ、ハンフリー・ボガートが光るのではないかと思う。


【付記】
● 画像一枚目でボガートは紙巻きタバコを自分で巻いています。二枚目がジョエル・カイロことピーター・ローレ。いったいどこの国の人の設定なんでしょうね。三枚目が用心棒とボガート。服の着こなし方にご注目ください。ただしウィルマーが着ているのはコートです。四枚目の女性がオーショネシー役のメアリー・アスターです。


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No title

 『マルタの鷹』は映画は観ていないのですが、原作は20年ほど前に読
みました。細部は忘れてしまったけれど、なつかしくて、いま本棚から取り
出してみたところです。

 書き出しの部分は主人公スペードは顎のかたちがV、口もV、鼻もVとい
う描写ですね。顔の特徴がV字型かどうかはともかくとしても、映画を見るま
でもなく、ハンフリー・ボガートは適役にちがいないと思います。

 映画は廉価版DVDが入手可能でしょうから(どこかでみかけました)、その
うち買うことにします。カイロが何国人かについてふれた部分があるかどうか、
気になりますので(笑)、いずれ読み直してみましょう。

Re:薄氷堂さん

薄氷堂さん、こんばんは! コメントありがとうございます。
じつはね、『マルタの鷹』の原作を読んでいないんです。
チャンドラーはわりと読んだように思いますが、ハメットはほとんど読んでません。

なので今度、乙山も原作を読み、「カイロ」なる人物が
誰なのか、あるいは原作にはなくて映画だけの登場人物なのか、
それを見極めてみたいと思います。

廉価版とはいえど、『マルタの鷹』は画質も、音質もわりとよかった(?)気がします。
ワーナーだから、なのかもしれません。
レンタル店で借りるような、あるいは「正規版」は品質がいいのかなあ、
などと思っています。そろそろ、買いためた廉価版を全部見てしまいそうなので、
今度はレンタル店通いか、などとなるかもしれません。

No title

こんばんは。^^
『マルタの鷹』。ハンフリー・ボガートは、『カサブランカ』の時よりも
こうした探偵ものなどに出ている時の方が私は好きです。
どちらかと言えば、癖のある顔立ちだと思うんですが、なぜか魅力があるんですよね。^^
とりわけ男性ファンが多いのでは。声もいいですしね。
私は、ピーター・ローレという俳優さんがとても好きです。
この人がちょっとでも出ていると、映画が締まりますね~。
そんくらい存在感のある俳優さんだと思います。
『カサブランカ』でもいい味出してましたね。
フリッツ・ラング監督の『M』も面白かったです。

ハンフリー・ボガートの帽子のかぶり方が良いですねえ♪
 

Re:彼岸花さん

彼岸花さん、こんばんは! コメントありがとうございます。
おっしゃるように端正な二枚目ではないように思えますし、
ひょっとすると悪役なんかがいちばん似合っているのかもしれませんが、
ボカートには不思議な魅力があるんですね。

ピーター・ローレという人、いい味出してますよねえ。
彼も、ボス役のシドニー・グリーンストリートも、
揃って『カサブランカ』に登場していますね。
フリッツ・ラングの『M』はまだ見ていません。

ボガートの帽子のかぶり方、これはちょっと真似してみたくなります。
心もち深めにかぶり、そして少し斜めに傾けている。
じつに格好いいのですが、そもそも帽子をかぶること自体が、
ほとんどなくなってしまった時代ですものね。

ボギーに学ぶ

乙山殿、
まさかコレにレスが
あるとは夢にも……、

昨年末の深夜に
叔父から借りた膨大な
送りつけられたDVDにありました。
その中の一枚で早速観ました。
スーツカッコイイですね!
わたしも2001年頃黒の六つ釦全部掛けの
ダブルスーツきてました。(あつらえです。)
ボギーは着こなしがカッコイイですねぇ!
ワイドカラーのシャツに少し細見のタイ、
そして圧巻は電話しながら煙草を巻いて
卓上マッチで火をつけて独特の持ち方で
目を細めて吸う仕草ですね!
シブい!
それにしても
いつの時代もイイ女は
嘘つきで儚く、可愛いですね!
わたくしは不二子ちゃんで
最初に学びましたケド。 (^_^;)


Re: 四の字硬目さん

四の字硬目さん、こんにちは! コメントありがとうございます。
記事にも書いたように、乙山はハンフリー・ボガートが好きです。
ですがよく見るとそんなに男前、というふうではなく、
女性と二人でいる場面もなんとなくぎこちないんですね。

たとえばグレゴリー・ペックやロバート・ミッチャムのような
スマートさがないということなんだろうと思いますが、
ふつうの基準だったらヒーローというよりは悪者のほうが似合っているような、
そんなふうに思えてきてなりません。

なのになぜ、ハンフリー・ボガートはあんなに魅力的なのか、
それも理屈抜きに格好いいと思えてしまうのはなぜか、不思議です。

> わたしも2001年頃黒の六つ釦全部掛けの
> ダブルスーツきてました。(あつらえです。)

素敵なことじゃないですか!
6ボタンのダブルブレステッドのスーツ、着てみたいですね。
上下揃いより、ジャケットとトラウザーズを別にすることのほうが多く、
スーツを着る機会はめったにありません。
というか自分でそうしているだけで、他の人はスーツなんですが。

> そして圧巻は電話しながら煙草を巻いて
> 卓上マッチで火をつけて独特の持ち方で
> 目を細めて吸う仕草ですね!

これはもう、真似できるものではありません。
あの持ち方だけはたまに真似てみることがありますが、
あまり様になってないのが自分でもわかります。

貴殿のダンディズム

ジャケット+トラウザーズはイチバン
応用と遊びのバランスを楽しめる分、
センスや時代性の感覚を第三者から
試されるので、貴殿は誠にお洒落で
ございます。m(_ _)m

乙山殿のボギーの考察は深くて
イイですねぇ!
わたくしの私見ですとボギーは
無音の間を煙草や仕草でかっこ良く
埋めて、台詞は早口で切れ味鋭く
せっかちに発する不器用さに
シビレます。

この時代のピカピカのキザは
かっこイイですねっ!


Re: 貴殿のダンディズム; 四の字硬目さん

四の字硬目さん、コメントありがとうございます。
セパレートスタイルにして思うのは、グレーのジャケットは
意外と下の色を選ぶ、ということでしょうか。
ブラック、ダークチャコールあたりがベストで、
濃紺もいけるんですが、その他の色はいまひとつ……

茶系のジャケットは意外といろんな下を合わせることができますね。
乙山がいちばん好きな系統の色です。
それとやはり、ネイビーのブレザーコートは外せません。
そう考えるとあんまり遊んでないなあ、と思います。

> わたくしの私見ですとボギーは
> 無音の間を煙草や仕草でかっこ良く
> 埋めて、台詞は早口で切れ味鋭く
> せっかちに発する不器用さに
> シビレます。

なるほど、そうですよね。思えばボガートだけの長回しが
以外に多用されていて、これは他の俳優ではあまりないですね。
カメラマンというか監督も、そのあたりのことを
よくわかっていたんだな、ということなのでしょう。
それにしても格好いい!
見習えませんので、たんに憧れているだけにしています。

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Re: 鍵コメントさん

ネイビーのブレザーコート、なぜか好きなんです。
応用範囲が広く、とにかく着回せる感じがして、
いまでに手放せないワードローブの一部です。

夏は背抜きのトロピカル・ウールで、冬は総裏のフランネル・ウールの、
ネイビー・ブレザーコートがあればいいですよね。
もう一つ、早春、晩秋向けの裏地付き、細番手のもの。

えっ、ネイビーのブレザーコートだけで三着も?
そう、それが好きな者は必要なんですね。
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