伊藤喜多男 『もみくちゃ人生』

伊藤喜多男 『もみくちゃ人生』(復刻版) ステレオサウンド社 (2012/1984)

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最近いろいろなサイトを訪れていると商品のPRを貼り付けているのがあって、そこに過去自分が検索をかけた品物がずらっと並んでいるのを見てなんとも複雑な気分になることがある。そうか、自分がgoogleで検索をかけたものはここにこうして羅列されるのか、すると何を検索したかなどすべて把握されているわけか、と思ったのだ。

ところがAmazonのように「おすすめ商品」なるものを該当商品に関連付けて並べるご丁寧なものもあり、そこでたまに本当に欲しいものにヒットすることがあってびっくりするから困ったもの(?)だ。以前から古本で探していた伊藤喜多男『もみくちゃ人生』(ステレオサウンド社)の復刻版が発売されているようではないか。見た瞬間購入手続きを済ませてしまったのは言うまでもない。

一般の人には知られていないと思うけれど、伊藤喜多男という人は現在(2012年)40歳以上でオーディオが好きな人ならご存知の方も多いと思う。ましてや真空管アンプなどを拵えて遊ぶのが好きな人に知らぬ者はいないと思われる(?)ほどの有名人。今なお一部のオーディオ趣味人を魅了してやまない劇場用音響機器を扱っていたウェスタン・エレクトリック社の日本支社に勤めた経験を持ち、ジーメンスの〈オイロダイン〉や〈コアキシャル〉などのスピーカーを日本で販売するのに携わった人物である。

氏の『続音響道中膝栗毛』(誠文堂新光社)の記事を書いたときにも触れたけど、伊藤喜多男氏のことを知ったのは浅野勇『魅惑の真空管アンプ』(誠文堂新光社)という本の「座談会」という付録でだった。その人が、1980年代の半ばに『SOUNDBOY』という少年向けオーディオ誌の中で「伊藤流アンプ指南」という名目のもとに、それはそれはものすごいプリアンプとパワーアンプ、スピーカーシステムを自作して記事にしていたのを目にしたときは心底夢中になったものだった。

伊藤喜多男氏のアンプは高級すぎてとても真似できるものではなく、そもそも私(乙山)ごときが云々できる人ではいささかもないのではあるが、憧れだけは持ち続けており、「伊藤喜多男」という名前と『続音響道中膝栗毛』という題名を梅田の紀伊国屋書店で見たときはすぐさまそれを手にとってレジに直行したのを覚えている。

さて『もみくちゃ人生』は、ひとことで言うなら伊藤喜多男氏の「自分史」である。だがどこかの社長さんが自費出版して社員に配布する(または無理やり購入させる)ような代物ではなく、どうしてあれほど食通(音を食に喩えるのが好き)なのか、なぜ花柳界に通じているのか、などといった疑問が読むほどに解けてくる。また意外に知られていない(?)氏の「鉄ちゃん」(鉄道マニア)ぶりも伝わってきてにんまりさせられる。

『続音響道中膝栗毛』だけ読むと、伊藤喜多男氏がまるで独り者のように思えてくる節があるが、本書を読めばそのあたりの事情もちゃんと書いてあって、謎の多かった(?)伊藤喜多男氏の人となりがよくわかること請け合いの一冊だと思う。ちなみに、真空管アンプの製作記事は一切ありませんし、言うまでもないことですが「**をすれば音がよくなる」などというようなたぐいのことは一言たりとも書かれていませんので、そちらをお求めの方にはお勧めできる本ではありませんので念の為。


≪『続音響道中膝栗毛』へ  『音響道中膝栗毛』へ ≫


【付記】
● 本書の挿画はご自身によるもので、それがまた見事なものなんです。凝り性なんだなあ、好きなんだなあ、というのがひしひしと伝わってくるんですね。「趣味の現(うつつ)の抜かし方」ではないけれど、遊びにしても何にしても、上には上があるものだ、というのがよくわかります。


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No title

 伊藤さんのお名前は知っています。ぼくも学生時代友人に教わりながら、真空管アンプ
(といっても安い球でしたが)を作っていた時期があるものですから。

 今はスペースの問題もありますし、泣く子とおかみさんには勝てませんから(笑)、ありき
たりのミニコンポを使っています。まあトランジスタラジオの音でも音楽のエッセンスは伝わ
ってきますから、一種の悟りの境地でしょうか。

 でもよくできた真空管アンプは、なんといっても人の声がすばらしいですね。歌手がすぐ
目の前に立っているような感じ。ピアノもいいし、ヴァイオリンもいい……ああ、貧乏でもいい
音を聴くことができた日々がなつかしいです。

 ついでに余計なことを申し上げますと、当時京都はNHK FMの入りが良くなかったので
(市電のせい?)、5素子のアンテナを立てて大阪の放送を受信していたことを思い出し
ます。

 そして記憶は日本橋へとつながっていくわけです。

Re:薄氷堂さん

薄氷堂さん、こんばんは! コメントありがとうございます。
このような記事にコメントを頂けるなんて、思ってもいなかったので本当にうれしく思います。
「このような」というのは一般的ではない、というほどの意味です。
乙山としては自分の一部みたいなものなので、
けっして他の記事と変わりのない気持ちの、思い入れがあるのです。

ミニコンポのアンプ、乙山も使っていますよ!
PCのモニター用途や、気楽に流すときにも大活躍です。
テレビの音声再生にももってこいではないかと思うのです。
もちろん「これは」という音源に再生にもいいですし、
真空管アンプの音にも負けないくらい、いい感じです。
本当言うとね、乙山は真空管とトランジスターアンプの「音の違い」は
そんなにはっきりわからないんです。雰囲気だけで楽しんでいるいいかげんな野郎ですよ。

薄氷堂さんも、伊藤喜多男さんのことをご存知で、なんだか嬉しく思いました。
「筋を通した」とでもいうべき生き方が、なんとも素敵なのです。
それが、凡人にはなかなかできないんだと思うのです。
今年は、ひとつ真空管アンプを作ってみようかな、などと思っているんですよ。
いつになるかなあ……

No title

先日GoogleのPrivacy Policyが一新されて、ログインしているとパーソナライズ化されるようになりましたね。
検索結果を含めてすべてが。

便利な反面、了承なしに個人情報が蓄積されていく気持ち悪さがありますが。。。

さて、私はあまり音楽関係は詳しくないので知らなかったのですが、すごそうな設備ですね。。。
そんな人の別の側面を描いた本とは、何となくマニアな感じがして素敵です。

Re:依里さん

依里さん、こんにちは! コメントありがとうございます。
そういえばなんかよくわからない文言が出ていましたね。
考えてみると、広告の画面は自分だけのもので、
他の人はまたちがった画面になっているんだけど、なんだか気持ち悪い。
そのおかげで『もみくちゃ人生』が買えたのも事実なんですけどね。

まあ、これは普通の人なら買わない本でしょうね。
男って機械のことがけっこう好きなんですよ。
オーディオ、車、機関車(電車)など、機械が好きな男って
けっこういるものなんです。

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只野乙山

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⚫︎ できれば「只野乙山=ただのおつざん」とお読みくだされば、と思います。

⚫︎ 文字中心のウェブログ。ほとんど一話完結で、どの記事をご覧になっても楽しめ(?)ます。文字数だけなら一冊の本に匹敵(凌駕?)するほどありますので、ごゆっくりどうぞ。

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