『市民ケーン』 (1941)

『市民ケーン』 アメリカ (1941)

CitizenKane_06.jpg
原題:Citizen Kane
監督/脚本/制作:オーソン・ウェルズ
出演:オーソン・ウェルズ、ジョセフ・コットン、ドロシー・カミンゴア、エバレット・スローン、ルース・ウォリックほか


オーソン・ウェルズによる『市民ケーン』(1941)のことを知ったのは1980年代になってからで、たしか大学の講義の中で、オーソン・ウェルズの『市民ケーン』はたいへん名作である旨を聞いたときではないかと思う。そんなにすごいものなら、とレンタルビデオ店(そのころはVHSのテープ)に行ってみると、なるほど『市民ケーン』が棚にあるではないか。本当は別のコーナーに用事があったのかもしれないが、そのときは澄ました顔で「名作」を手にレジカウンターで手続きをした。

借りてきた『市民ケーン』を再生してみると、どうも盛り上がりに欠ける映画でしかも白黒だし、ということでなんだか途中で眠たくなってしまったのが正直なところだ。どうもおかしいなあ、盛り上がりに欠ける映画といえばタルコフスキーなんかで鍛えられているはずなのに、などと思いながら途中でいったん休憩、他日また続きを見て一応「見た」ということにしたのではないかと思う。

CitizenKane_05.jpgさて『市民ケーン』は、荒廃した大邸宅で「バラのつぼみ」という謎の言葉を残して亡くなった新聞王チャールズ・フォスター・ケーン(オーソン・ウェルズ)の最後の言葉の謎を解こうとして、新聞記者がケーンをよく知っていたと思われる人物たちを訪ねて真相に迫る、というもの。それぞれの人物が語る場面がカットバック(回想)として挿入され、時系列が錯綜する。

新聞記者が訪ねた人物たちは、ケーンの後見人である銀行家サッチャー(ジョージ・クールリス)、ケーンの二人目の妻でオペラ歌手のスーザン(ドロシー・カミンゴア)、新聞〈インクワイラー〉の幹部だったバーンステイン(エヴァレット・スローン)、ケーンの親友で劇評家のリーランド(ジョセフ・コットン)、そして大邸宅の執事(レイ・コリンズ)の五人。

彼らを訪ねるうちに、ケーンがどのような少年時代から青年時代を過ごしたか、新聞社を買い取りいかにして大新聞に育て上げたか、州知事への立候補と情事発覚による落選、再婚と新しい妻をオペラ歌手に仕立て上げることへの執着が描き出されていく。そして妻の自殺未遂と離婚、孤独な晩年と世界恐慌による没落へと進んでいく。

CitizenKane_03.jpg『市民ケーン』を制作したとき、オーソン・ウェルズは24歳の若さだったという。青年時代から晩年までを演じ切る演技力もさることながら、当時から特殊メイク的な技術はちゃんとあったんだなと感心する。ケーンの青年時代、中年、壮年、と体形や髪形、ひげなどの細かい部分まで作り込んであって違和感が全くなかった。ジョセフ・コットンも老人ホームのようなところで新聞記者の取材を受けるのだが、その成り切りぶりも見事。

ヒッチコックのカメラワークも面白いが、『市民ケーン』でのそれもじつに見事だと思う。大邸宅内部を撮るのにディープ・フォーカス(日本でいうパン・フォーカス。広角レンズを用い、絞り込むことで近景と遠景のすべてにピントが合っているようにする)およびロングショット(被写体とカメラの距離が遠い)を使ったり、逆に極端なクローズアップを組み合わせる。また、ハイ・キー(露出オーバー気味)とロー・キー(露出アンダー気味)の効果的な使い分けも印象に残る。

CitizenKane_04.jpgこのような理屈は後から付けるもので、映画を見ているときはカメラワークがどうの、などと意識してみないのが普通だと思う。それをするのはよっぽどその映画が好きで何度もその映画を見ているような人だろう。一人の人間として見た場合、ケーンはなんとも「痛い」ものがある。アメリカの大富豪ロックフェラー氏の肖像が米誌に掲載されていたのだが、それに添えられた言葉が「世界一孤独な人」だという話を、何かの本で読んだことがある。何とも名状しがたい「痛い」感じが残る映画ではないかと思う。


【付記】
● まったくの余談ですが、制作会社はRKOとあることから、これはGE/RCA系の機器が使われていることがわかります。有名なAT&T/ベル研究所/ウェスタン・エレクトリックが絡んでいる映画はワーナーとフォックスのものに多いようです。


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No title

 「市民ケーン」は過去にNHKで何度か放映されましたね。

 傑作の誉れ高いのでぼくも観ましたが、正直いって、おもしろさの程度は
(内容はまるでちがいますけど)小津安二郎の映画に近いような印象を受
けました。わあ、おもしろい! という映画ではなかったように思います。

 ただ rose bud (だったかな?)の謎が明らかにされる最後の場面は印象
的でした。

 たしかDVDが500円くらいで買えるはずですので、あらためて鑑賞しなおし
てみようかな。

Re:薄氷堂さん

薄氷堂さん、こんばんは! コメントありがとうございます。
NHKで放送された『市民ケーン』を見た記憶はないのです。
残念だなあ、と思います。というのも、『市民ケーン』のマスター・ネガは
もう消失しまって現存していないそうです。

NHKで放送された『市民ケーン』がどのクオリティかわかりませんが、
一度デジタル・リマスターされたという『ザ・ロンゲスト・デイ』を
NHKで放送しているのを見て「なんて美しいんだろう」と驚きました。

制作の段階で、金のかけようが桁違い(あのキャスティングではね)なのかもしれませんが、
とにかく、その美しさに驚いてしまったんですね。
もう再放送しないのだろうか、と思います。

パブリック・ドメインになった過去の作品は驚くほど安値で売り出されていて、
ものによっては350円ですよ。
乙山が過去の映画をウェブログの記事にできるのもそのおかげかもしれません。

No title

 NHKで放映されたのは相当以前です。少なくとも十年以上前じゃないでしょうか。

 画質はよく覚えていませんが、ごく普通に鑑賞できる程度だったと思います。NHK
で放映された映画では、ほかに「第三の男」、「レベッカ」なんてのを覚えています。
「第三の男」を最初にNHKで見たのは、たしか40年以上前(笑)でした。子供心にもラ
ストシーンがカッコよすぎると感心したものです。

 ついでに思い出したので申し上げますと、NHKでそれこそ数十年前に放映された
「ねじの回転 (The Turn of the Screw)」は実に気味の悪い作品でした。
正統派ホラー映画の見本じゃないかと思うのですが、一度見たきり。ヘンリ・ジェイム
ズの原作も傑作ですが、ぜひもう一度映画を見たいもjのです。

 もし廉価版がみつかりましたらお教えください。ただしまだ十代のころに見た記憶
によるものですから、ほんとうは案外凡作かもしれませんが、500円以下で買える
のなら損はないでしょう。 

 なお乙山さんのブログをリンクさせていただきたいと存じますので、どうかご了承く
ださい。

Re:薄氷堂さん

薄氷堂さん、こんばんは! 再コメントありがとうございます。
昔のNHKはよかったのだなあ、と思いました。
おそらく、悪く言われている根は旧態依然と思いますが、
一部の良心を持った社員(?)はNHKにもいるのだと思うのです。

そういう人の努力のたまものではないでしょうか、
われわれが見て感心するNHKはいいなあ、という番組は。
今はTVさえなくて、NHKの集金係の人を驚かせている状況ですけど。

『ねじの回転』はまだ見ていません。
昔の映画の多くはパブリック・ドメインになっているようなので、
比較的廉価にて購入できるものと思います。
借りるのとほぼ同じくらいなので、だったら買ってしまおう、と。
もう一度見るときは「ただ」ですものね。

「シネマ・クラシック」など題してネット(ウェブ)でも販売しているようですよ。
乙山はたまたま、スーパーマーケット内でそれらを「激安」などと称して
販売しているのを見かけ、購入したものです。
画像もパブリック・ドメインになっているので自由に(?)切り貼りできます。

リンクの件、もちろんOKですよ!
それはで、こちらからも、薄氷堂さんの方へリンクを張らせて頂きますよ。
よろしくお願いします!

No title

「何か変(失礼)なタイトルだなぁ」と印象には残っていたのですが
未鑑賞のままです(^^;)
レヴューを拝見すると、何となく純文学っぽい映画???
映像的にも細かいところにこだわりがあってツウ好みの映画と言う感じですね♪
最初っからストーリーに娯楽性を期待しないで観ればかなり楽しめそうです(笑)

Re:zumiさん

zumiさん、こんばんは! コメントありがとうございます。
そうですね、タイトルだけ見るとあまり惹かれませんよね。
『市民ケーン』だもの。
なんのこっちゃ、と言いたくなるタイトルです。

娯楽性と芸術性を天秤にかけると、後者の方が多分にあるような映画だと思います。
なのでわくわく楽しみにして見ると、がっかりするかもしれません。
乙山も初めて見たときは退屈したのではないか、そんなふうに覚えています。

映像も、通といえばそうなのですが、あまり気にしないで
ご覧になるのがいいと思います。おそらく、レンタル店に今でもあるでしょう。
一度は見ておいて、決して損はしない映画だと思います。

No title

こんばんは。
『市民ケーン』。
私もおそらく昔、NHKで見たのだったのでしょうが、
やたら感動しまして、当時中学生だった娘にも、いつかこの映画は
必ず見なさい、と勧めたものです。自分が上げる『好きな映画10作品』
の中には、これを必ず入れると、ひとにも話してきた。
…ところが!中身をちっとも覚えてないんです!!(爆)
ただ、感動したことだけ覚えてる。

これと『第三の男』は、私がいつも見直そう見直そうと思っている
二大映画です!(笑)
『第三の男』、これは、なぜか最初から終わりまでちゃんと見たことが無いんです。
見ていると必ず客があったり、なにかで中断させられて、切れ切れにしか見ていない。
レンタルもあるし、今は安く売っているので、それが出来ない状況では
なくなってるんですけれど。その類の映画に『禁じられた遊び』も入っています。
さて。『好きな映画10作品』と書いたけれど、どれを選ぶか真剣にリストアップ
したことはありません。とても10本に絞りこめませんしね。
良かった!という強烈な印象だけあって、中身をしっかり覚えていない映画も多いですし。
随分散漫な映画の見方をいつもしています!(笑)
でも、これも廉価版になっている『アラバマ物語』。これはその中に必ず入れます。^^
『大人は判ってくれない』も入れるだろうな。
『市民ケーン』。近々必ず手に入れようと思います♪

Re:彼岸花さん

彼岸花さん、こんばんは! コメントありがとうございます。
『市民ケーン』の記事はいつか書こうと思っていたものです。
これはどういうわけか350円ではなくて、500円の物。

なので初めから終わりまで収録されていますし、
「映倫」マークまで付いているという優れもの(?)。
字幕も、公開当時のものが使われているのではないか、と。

そうはいっても、これはマスター・ネガの写しではないでしょう。
マスター・ネガはオーソン・ウェルズの自宅の火災で焼失したという話です。
なんとも、何とも残念な話ですね。

1990年代の終わりごろ、『ザ・ロンゲスト・デイ』(邦題『史上最大の作戦』)の、
デジタル・リマスターをNHKで放送していたのを見て驚きました。
なんて美しいんだろう、って惚れ惚れしましたよ。

『市民ケーン』ではその感動を味わうことができなさそうですね。それがつくづく残念なのです。
パブリック・ドメインになったことは廉価で名作を味わうことができるのでしょうけど、
それらを今、損得勘定抜きでリファインしてデジタル化することなど、たぶん誰もしないでしょう。

昔の映画を、少しずつ見ているのですが、なかなかいいなあ、と思いますね。
それを上手く伝えることができていないかもしれませんが、
ひとことで言うとするなら、乙山は「エレガント」という言葉を選びます。
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