『スイング・ホテル』 (1942)

『スイング・ホテル』 アメリカ (1942)

HolidayInn_01.jpg
原題:Holiday Inn
監督:マーク・サンドリッチ
音楽:アーヴィング・バーリン
出演:ビング・クロスビー、フレッド・アステア、マージョリー・レイノルズ、ヴァージニア・デイルほか


「古い銀幕映画を見る」の第三弾は『スイング・ホテル』(1942)。ビング・クロスビーがフランク・シナトラの先輩にあたる大歌手で、フレッド・アステアはあの『雨に唄えば』(1952)のジーン・ケリーの先輩である名ダンサーだと知識としてはわかっていたが、実際に意識して見たことはなかった。で、このたび彼らをDVDで見ると、まあ、なんと格好いいんだろうと感心してしまった。

ビング・クロスビーのCDはNAXOS音源などを所有しており、一応聞いてはいたんだけどやっぱり映画を見たほうがいいなあ、と思った。とにかく格好いいのです。そしてヴォーカルはやや古めに感じる歌い上げるタイプに思えるが、調べてみるとビング・クロスビーこそがマイクロフォンやアンプを上手く使った歌唱法(スクーナー・スタイルというらしい)を確立した人だということだ。甘くソフトに響いてくるヴォーカルは男性が聴いてもぐっとくるものがあるのではないかと思う。

だけどビング・クロスビー扮するジム・ハーディは、コネティカットの農場に引っ込む役柄で、わざと「野暮な男」として設定してあるのか、映画の中で女性に「趣味の悪いネクタイね」とたしなめられる場面があるし、自宅に帰ってくつろぐ時の服装もいまひとつ、なんだかぱっとしないのだ。それに対してアステア扮するテッド・ハノーバーは本当にエレガント。都会でショービジネスに生きる男、としての設定もあるのだろうけど、洗練された雰囲気を常にまとっている。

HolidayInn_04.jpgフレッド・アステアのタップダンスはじつに見事で、見ていて本当に惚れ惚れしてしまう。まさか真似することなど到底できはしないけど、運動のためにダンスを習うとするなら、女性相手の社交ダンスではなくて、一人で踊れるタップダンスを習いたいなあ、と思う。だけどダンスがさっとできる男というのも素敵かもしれない。さりげなく女性をエスコートして、軽いダンスステップを踏みながら何か気のきいたことを女性の耳元でそっとささやく……なんてことを夢想してしまうんですよ、フレッド・アステアを見ていると。

さて『スイング・ホテル』は、マンハッタンでジム・ハーディ(ビング・クロスビー)とテッド・ハノーバー(フレッド・アステア)、そしてライラ(ヴァージニア・デール)がチームを組んで歌とダンスを盛り込んだコミカルなショーをする場面から始まる。ジムはショービジネスの世界にうんざりして「人間らしい暮らしをする」とコネティカットで農場を経営し、同時にライラと結婚するつもりでいた。

しかしライラは華やかな世界に生きることを離れられず、テッドのダンス・パートナーとして残る決意をし、やがて二人は婚約することに。悲嘆にくれたジムは一人で農場へ向かう。ジムは一人で農場の経営に奮闘するが上手くいかず、やがて農場を祝日(ホリデイ)だけ営業してフロア・ショーを見せる〈ホリデイ・イン〉というエンターテインメント会場にする、というアイディアを思いつく。

HolidayInn_02.jpgジムは一年ぶりにニューヨークに赴き、テッドに〈ホリデイ・イン〉での出演を依頼するが、そのあまりに奇抜すぎるアイディアにテッドは呆れて相手にしない。テッドとライラのダンス・ショーを見ている席でジムは芸人志望のリンダ・メイスンという女性と会い、翌日彼女は〈ホリデイ・イン〉を訪れ、歌と踊りをする契約を交わす。お互いに惹かれあうジムとリンダ、そしてメイドたちは力を合わせて大みそかの夜、ついに〈ホリデイ・イン〉が開業した。

ところがその夜、泥酔したテッドが〈ホリデイ・イン〉に姿を見せる。彼が飲み過ぎたのは、ライラがテッドを捨てて大富豪と結婚したからなのだ。テッドは泥酔したまま、我を忘れてリンダと踊り、それをテッドに同行していたマネージャーも見ていた。ライラというパートナーを失ったテッドだったが、翌朝になって昨夜のダンスを思い出し、新しいダンス・パートナーはどこにいる、とジムに問いただすが、リンダをテッドにとられることを恐れたジムはしらばくれてお茶を濁す。

とまあ、そんな感じで二人はまた一人の女性を巡ってドタバタ騒ぎを繰り返してしまう、というラヴ・コメディなんですね。ジムが農場で作った桃のジャムをお土産に持ってくるのですが、それがどういうわけか破裂してしまい、飛散した桃のジャムがジムとテッドに降りかかってくる場面など、笑いどころがけっこうあるんですね。で、これが制作されたのが1942年(日米開戦直後)でしょう。

HolidayInn_03.jpgジャズのドキュメンタリー番組なんかを見ると、確かこのころは録音禁止になってクラブに集まったジャズメンたちがビ・バップをやっていた、とか言っていたはずなんだけど映画はまた別、ということなんだろうか。『スイング・ホテル』の制作・公開年を見たときにあまりに大きな日本とのずれ(というか開き)を感じてしまったのです。


【付記】
● 映画の中で使われるジャズの男性ヴォーカル曲を一発で当てるのって、なかなか難しいんですよね。ビング・クロスビー、フランク・シナトラ、メル・トーメあたりは一応聴いてはいるんですけど、それでもわからないのが多いのが本当のところです。

それにしてもフレッド・アステアのタップダンスは見事です。あのほっそりとした体形あってこそ、軽いダンスステップが可能になるんでしょうね。アステアを見ていると、なんだか村上春樹の『ダンス・ダンス・ダンス』(1988)をもう一度読んでみたくなりましたし、フェデリコ・フェリーニの『ジンジャーとフレッド』(1985)も見たくなりました。


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