アルファヴィル: レミー・コーションの不思議な冒険

『アルファヴィル : レミー・コーションの不思議な冒険』 フランス/イタリア (1965)

Alphaville.jpg
原題:Alphaville, une etrange aventure de Lemmy Caution
監督:ジャン=リュック・ゴダール
出演:エディ・コンスタンティーヌ、アンナ・カリーナ、エイキム・タミロフ、ハワード・ヴェルノン、クリスタ・ラングほか


もう記憶が定かではないが、たぶん1980年代の終わり頃か1990年代の初めごろ、「シネマ大好き」とか「シネマ・チューズデイ」という映画の深夜番組があって、たとえば「日曜洋画劇場」ではかからない類の、ちょっと凝った映画を完全ノーカット版で放映しており、それをヴィデオテープ(VHS)に録画してはせっせと見ていたことがある。そこで初めて『アルファヴィル』を見た。

近未来SFとスパイ映画を合わせたような内容だったが、妙に印象深い映画だった。面白そうなものはきちんと録画するようにしていたつもりだったが、なぜか『アルファヴィル』を録画し忘れていて、再び見ることができないまま、何年も過ぎてしまった。ところが最近、近所のレンタル店の棚を見ていると、『アルファヴィル』があるではないか! なんだかとても懐かしく感じて思わず手に取ってしまった。

舞台は近未来、おそらく1980年代で、外部から9000キロ離れた都市アルファヴィルに探偵あるいは諜報員のレミー・コーション(エディ・コンスタンティーヌ)が潜入し、先に潜入しているアンリ・ディクソン(エイキム・タミロフ)を探し、そしてアルファヴィルの中心的人物、フォン・ブラウン教授(ハワード・ヴェルノン)に接触する任務を遂行する過程を描いたもの。

近未来の設定になっているものの、たとえばキューブリックの『時計仕掛けのオレンジ』(1971)のようにいかにもそれらしい近未来都市の雰囲気はなく、むしろ非常に古めかしい感じがする。モノクローム映画であることがそれを助長しているように思うが、これはゴダール監督が古めかしい感じをわざと狙ってそうしたのだと思う。ほぼ同時期に公開された『気狂いピエロ』(1965)では、顔一面青に塗られたジャン・ポール・ベルモンドの顔がカラー映像で衝撃的だった。

レミー・コーションがアルファヴィルに到着したのが夜、ということもあるのだが、街の情景の撮影はほとんどが夜に行われている。ロケーション地は不明だが、1960年代当時、もっとも近代的な建築物を選んだのではないかと思う。すべてを明るみに出す昼の光の下ではなく、夜に撮影したほうがなんとなく近未来的な雰囲気を出しやすいのだろうか、この手法は後にリドリー・スコット監督が『ブレードランナー』(1982)でも踏襲して見事に近未来的雰囲気を出していますね。

架空の未来都市アルファヴィルでは、アルファ60という大型コンピューターが人々の生活を統御しており、人々は感情を持つことを禁止されている。感情をあらわにした人間は反逆分子と判断されて「処分」となる。体制に従順な人間には皮膚に数字の刻印が施されて番号でアルファ60が管理する。極度の全体主義社会を戯画化したものと思われるが、ジョージ・オーウェルの『1984』(1949)にもどこか通じる部分があるのではないだろうか。

フォン・ブラウン教授の娘ナターシャ(アンナ・カリーナ)がレミーの世話役として派遣されてくるのだが、彼女にも感情というものがない。先に潜入したアンリが隠し持っていたポール・エリュアールの詩集をレミーが読むと、ナターシャは「そんな言葉は知らない」という。アルファヴィルでは感情を表現する言葉がどんどん抹殺されていき、辞書から削除されている。ナターシャは《le conscience》とつぶやくが、レミーに《la conscience》と訂正されるような始末。アルファヴィルでは「意識」を持つ必要がないというわけだ。

ゴダール監督は本当に言葉を重視しているなあ、とつくづく思う。『アルファヴィル』ではポール・エリュアールの『苦悩の都市』(1926)が使われるし、『気狂いピエロ』ではアルテュール・ランボオの『地獄の季節』(1873)がさりげなく挿入されている。だけど笑ってしまうのは、逮捕されたレミーがアルファ60に尋問される場面で、「暗闇に光を与えるものは?」という問いに対し「詩(ポエジー)だ」と答えるところ。

この地球上のいったいどこに、そんな答えを即答する探偵もしくは諜報員が存在するんじゃ、と思わずつっこみを入れたくなってしまった。ゴダールは極めてまじめにこれを作ったんじゃなくて、ちょっとふざけた部分もあるんじゃないかと思う。


【付記】
● DVDによる映画鑑賞の利点は、気になった箇所をプレイバックできることでしょうか。レミーが読んでいる本がチャンドラーの『大いなる眠り』であること(これは字幕でも表示される)や、レミーが使っている小型カメラがアグファのものらしいことを確かめることができます。もし本当に1980年代だったら、乙山だったら小型カメラとしてオリンパスXAを持たせるだろうに、と思いました。だけど1980年代の記者兼カメラマンならニコンF3でしょう。

もうひとつ、トリヴィアルなことを付け加えておきますと、レミーとナターシャがホテルのルームサービスで食事をする場面で、レミーが取り出してカップに注いでいるのがスコッチウィスキー、VAT69なのです。VAT69はチャンドラーの小説の中にわりとよく出てくるので、ゴダールがチャンドラーを読んでいたんだな、というのが伺えるような気がします。


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No title

うわ、本当に【1984年】的世界観ですね・・・
(あの小説の薄ら寒い読後感は今の時期にピッタリかと(^^;)

ここン十数年TVをじっくり見る機会はめっきり減ったのですが、
深夜番組ってかなりの穴場ですよね~
私も十年以上前、週一の古いRockやBlues映像メインの深夜番組に
ハマったことがあるのですが・・・
観ていただけで録画しなかったのが今でも悔やまれます(^^;)

Re:zumiさん

zumiさん、こんばんは。コメントありがとうございます。
『アルファヴィル』はジョージ・オーウェルの『1984』をふまえている、
はずなのですが、ネットで見る限り、そのような言及は一切なし。
考えてみると、『アルファヴィル』発表時の1965年頃というのは、
東西冷戦のピーク時だった(?)んですね。

その昔、VHSで録画したものはすべて、ある時期に処分しました。
もう、ヴィデオテープを持っていても、再生機自体にろくなものがないのです。
ハードディスク録画がメインですが、これもまだ、環境が整っていないのです。

なのでもっぱらノートPCでYouTubeで宇宙の特集を見たり、
ジャズの長編ドキュメンタリーを見たりなどしているのです。
古いモノクロームの映画(銀幕)をゆっくり見るのにいいのかな、
なんて考えています。



No title

雑多な感じがするけど、私はこう言うところ嫌いじゃないです。
東京の方は再開発でどんどん街が作りかえられています。それも急ピッチで。
主に防災、耐震等が目的の様ですが、どこもガラス張り、コンクリ打ちっ放しで似たような印象になってしまっているのが残念ですね。。。
歓楽街もなくなって、路地などは忘れ去られ寂れて行く所が増えている様に感じます。

やっぱり大阪は食べ物が美味しそうです。
都内は食事が高く、私の職場はランチで平均1500円台の高級エリアにあります。
千円そこそこのランチより劇的に美味しい訳でもなければ、セットが豪勢な訳でもありません。
間違いなく土地代だと思います。
大した弁当でなくても800円くらいはするので、安く済ますなら持参しかありません。

餃子もチャーハンもスープも美味しそうですね。
ザーサイが食べ放題なんて夢の様です。
量的にはかなり多そうですが、セット内容はものすごく魅力的です!

Re:依里さん

依里さん、こんばんは! コメントありがとうございます。
大阪の下町、と言っても、大阪はほとんどすべてが「巨大な下町」または
「巨大な田舎」という雰囲気なんです。

これは別に大阪を卑下しているわけではなくて、
大阪市内に住む人ならわかっていただけると思いますが、
日常生活に「よそいき」感覚を持ち込むのは、
なんというか田舎的な感じがするのです。

ランチ平均1500円は高いなあ……
東京感覚を知らぬ者にとっては、聞いただけで引いてしまいそう。
高いとは思っていましたが。

東京はほとんど知らないのです。
所用で丸の内、本郷とか水道橋、上野公園あたりを歩いたことはあります。
それと、浅草とかね。
目的なしに、東京を歩いてみたいですね。





No title

こんにちは。
『アルファヴィル』。見ましたよ。
レンタルDVDでではなく、ニコニコ動画、というところがあるのですが、
そこで見ました。原発関連のトークなどの動画を見ようと思って、会員に
なっていたのですが、ここでは、案外マニアックなフランス映画がひょっと
あったりします。
ただ、5分割とかされちゃってるんですけれど。
まあでも、テレビのコマーシャルの時間だと思えば。

なんとなく雰囲気がよかったですね。
わたしには、妙に今の時代にマッチしているような気がして。
人々がだんだん感情や批判精神を失っていく時代に
これから突入しそうな気がするものですから。
名作というものは、古くならないんだな、と思いますね。
どの時代にも会う要素をどこかに持っている。

でも、あの時代独特の家具や、内装、そして空気感や
ユーモア感が私にはとても懐かしく。
チャンドラ―読んでるぜ、ってことをちらっと映画の中で示したりする。
そんな茶目っ気が、あのころの監督さんにはありましたね。

ゴダールとトリュフォーの若き時代のドキュメンタリ―映画
『二人のヌーヴェル・ヴァーグ』という映画が今、東京新宿で上映されています。
この夏の間に見に行って来ようかなと思っています。

乙山さん、また面白いフランス映画などヨーロッパの映画、思い出されたら
ご紹介くださいね。

流星は残念ながら、昨夜は見にくかったですね。
わたしも昨夜はいっこも見ることができませんでした。^^

Re:彼岸花さん

彼岸花さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
『アルファヴィル』、なかなか良かったでしょう?
とにかく台詞が印象に残る映画ですが、
台詞はすべてゴダール監督が担当しているようです。

アルファ60の声って、たぶん録音テープをゆっくり回転させて
再生したんでしょうね。それとも、あんなふうに声優さんにやらせたのか?
本当のところはわかりませんが、フランス語の学習にも良い(?)のでは。

ロバート・ミッチャムやハンフリー・ボガートが出演している
銀幕のハードボイルド映画を、たぶんゴダールも見ていて、
心から愛していたんじゃないでしょうか。

ああ、フランソワ・トリュフォー!
いいですねえ。ふるいフランス映画とかイタリア映画は、
本当にもう一度見ないと。
よくわからないまま、ぼけっと見てただけ、というのが
多いような気がします。
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