ナイル殺人事件

『ナイル殺人事件』 アメリカ (1978)

DeathOnTheNile.jpg
原題:Death on the Nile
原作:アガサ・クリスティ
監督:ジョン・ギラーミン
出演:ピーター・ユスティノフ、ジェーン・バーキン、ロイス・チャイルズ、ベティ・デイヴィス、ミア・ファロー、デヴィッド・ニーヴン、マギー・スミスほか


探偵エルキュール・ポワロ役としてクリスティ原作に最も近い映画俳優はといえば、『オリエント急行殺人事件』(1974)のアルバート・フィニーを思い浮かべる。黒髪で小柄、ずんぐりしているどうもさっぱりしない風貌の男が明晰な頭脳で推理を見せるところをじつによく再現していたのではないかと思う。

ポワロ役の俳優として忘れてはいけないのは、英国テレビドラマ『名探偵ポワロ』におけるデヴィッド・スーシェではないか。さすがイギリス、と思わせる原作を重んじた作り込みはなかなかのもので、アルバート・フィニーのポワロを超えている(?)かもしれぬ。人気の高い同シリーズは不定期ながら現在も制作が続けられているようだ。

だが私(乙山)はピーター・ユスティノフのポワロにも捨てがたい魅力を感じている。というか、ユスティノフのポワロを見た回数が多かったという、単純な理由が本当のところかもしれない。地味で皮肉屋という原作に近いイメージより、どこか愛嬌のあるユスティノフのポワロに親しみやすさを感じたのだと思う。

さて『ナイル殺人事件』は、莫大な遺産を相続したリネット(ロイス・チャイルズ)のところに親友ジャクリーン(ミア・ファロー)が失業中の婚約者サイモン(サイモン・マッコーキンデール)に邸宅の管理をする仕事をさせてもらえないか、と相談を持ちかけるところから始まる。サイモンに会ったリネットは彼を気に入り、サイモンはリネットのところで働くようになる。

ジャクリーンと婚約していたにもかかわらず、サイモンはリネットと急接近し、リネットはサイモンと婚約したと発表した。これに恨みを持ったジャクリーンは二人を付け回すようになるが、二人は巧みにジャクリーンを巻いて豪華客船でエジプトに新婚旅行に出発する。

例によってその豪華客船に、我らがエルキュール・ポワロ(ピーター・ユスティノフ)がたまたま乗り合わせているわけですね。旧友のレイス大佐(デヴィッド・ニーヴン:原作ではヘイスティングス)も乗船しており、乗客の面々も何らかの形でリネットに恨みを持っているという設定。

もういないはずだと思っていたジャクリーンがどういうわけか豪華客船に乗り合わせており、リネットとサイモンはうんざりする。夕食後、団欒室でトランプに興じるサイモンに酔っ払ったジャクリーンがあてつけがましいことを言い、口論の末逆上した彼女は小型拳銃でサイモンの脚を撃ってしまう。

すぐに医者が呼ばれ、サイモンは手当てを受けて動けない状態、ジャクリーンは鎮静剤を注射され看護を受けていた。何とか騒ぎが収まったかと思われた翌朝、リネットが頭を撃ち抜かれて死んでいるところをメイド(ジェーン・バーキン)が発見し、ポワロと大佐は当局の要請を受け事件の究明に乗り出す。

豪華客船という限りなく密室に近い空間で、乗客全員に何らかの動機が存在するもののアリバイがない、というお決まりの設定(?)のもとでポワロは灰色の脳をフル回転させて謎を解くわけですが、映画を見ていると登場人物たちの衣服に目が行ってしまう。とにかくエレガントの一言に尽きるんですね。

ポワロは昼間、前腹部にベルトの付いたベージュ(カーキ?)のサファリ・ジャケットを着ているが、夕食時には黒づくめのタキシード(ディナー・ジャケット?)に着替えて食堂に現れる。ほとんど寝間着に近いスウェットの上下にスリッパというような格好で食堂やロビーをうろうろしかねない日本人的温泉旅館感覚に比べて、なんとまあ優雅なことだろう。

レイス大佐役のデヴィッド・ニーヴンなど、白ボタン付きでダブルブレスト仕立てのネイビー・ブレザーで、それにまぶしい白のズボン(トラウザーズと呼びたい!)を合わせていて、じつにエレガント。ネイビー・ブレザーコートはこのように着こなしたいものだ、というお手本のように思う。デヴィッド・ニーヴンという人は、本当にすらっとして見え、うらやましくて仕方がない。

キャスティングも楽しく、ベティ・デイヴィスの怪演(?)が光ります。いや本当、ものすごい存在感ですね。ミア・ファローはあの『華麗なるギャッツビー』(1974)でデイジー役をしていた人で、嫌な女性役を見事に演じているし、ジェーン・バーキンは小娘役がぴったり、といった感じ。彼女は次作『地中海殺人事件』(1982)でも大活躍するんです。マギー・スミスといえば『ハリー・ポッター』シリーズでもみなさんご存じの、マクゴナガル先生役の人ですが、イギリス女性らしいお堅い感じを出している。こんなふうに、謎解きだけではなく、いろんなところに楽しみがあるのが『ナイル殺人事件』ではないかと思う。


【付記】
● ベティ・デイヴィスは『八月の鯨』(1987)でリリアン・ギッシュと共演していましたね。彼女たちはハリウッド往年の大女優でねえ、などと言える世代ではないのですが、古い映画をもっと見ていこうと思っています。だけどレンタル店ではつい、以前見たけどもう一度見てみたい、というようなものを手に取ってしまいます。


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No title

おはようございます。
ポワロはナイル~と地中海~は、確か見たと思います。
一回だけなので内容はよく覚えていないのですが。。。
確か地中海~はファミコンのゲームにもなっていませんでしたか。。。?

ポワロを演じた俳優が、何人もいるんですね。
私はデヴィット・スーシェしか知りませんでした。
原作は読んでいないので分からないのですが、彼が私が思うポワロ像になってます。。。
お決まりのストーリー展開なんだけれど、ヘイスティングスとポワロのコンビがいい味を出していて、なぜか見ていて飽きないんですね。

ミステリーチャンネルを視聴しているので、時々番組表をチェックしてみようと思っています。
テレビ版のポワロは新旧取り混ぜてよく放送しているので、映画も時々やっているかもしれません。

No title

そういえば金田一耕介シリーズ等も複数の俳優が演じていますよね~
やはり原作に厚みがあると色んなパターンを試してみたくなるのでしょうか(笑)
しかし衣装に目が行く辺り、さすが洒落者・乙山さん!
こういう細かい(しかも重要な)演出に金をかけるかかけないかで作品の質が
変わってくる気がします・・・

Re:依里さん

依里さん、こんばんは! コメントありがとうございます。
『地中海殺人事件』のファミコン版は知りませんでした。
あったとしたら、面白そうですね。

ミス・マープルの場合もそうかもしれませんが、
イギリス制作のものを見ると、そちらが本物に思えてくるでしょうね。
デヴィッド・スーシェのポワロは、膨大なシリーズですから、
のんびり、ゆっくりとみていきたいな、と。

ミステリーチャンネルというのは、CATVとか衛星放送ですか?
そのあたりの事情は、明るくないのです。

Re:zumiさん

zumiさん、こんばんは! コメントありがとうございます。
金田一耕介としては、古谷一行とか石坂浩二がありましたね。
むさくるしいけどなぜか魅力のある前者、
少し弱々しいけど知的な感じのする後者、
どちらもそれなりにいい感じでしたね。

衣服に目がいくのはいくのですが、
それだけ、かもしれませぬ。
通販のシャツとか、スーパーマーケットのズボンを平気で
着用してそこそこ満足している、まあその程度の男なのです。

衣服のことに力を入れている映画を見ると、
ただもう感心してしまいますね。
昔の映画ほど、衣服が素敵に見えるのはどういうわけなんでしょうね。

No title

おはようございます。
う~ん、読んだ事がある様な気がするのですが、どうしても思い出せないです....
昔は一時期、探偵ものが好きだった頃があるんですよ。
探偵ものは映画の方が楽しいかもしれませんね。
こだわりの只野乙山さんのチョイスなら、面白そうです。見てみたいと思いました。

「熊出没ラーメン」も出会いを待ってるのですが、なかなか巡りあえずにいます。
ネットでも売ってるのでしょうけど、是非、北海道物産展で(←北海道にいるからないのかな?)買いたいと思ってます。

No title

こんにちは。
ゲームソフトはどうやらポワロとは関係なかったようです。
題名も違うし、雰囲気だけでイギリスミステリーだと思い込んでいたようです。

ミステリチャンネルですが、今はAXNミステリーと名前が変わり、サービスを提供しているCATVか、衛星で見られます。
ラインナップは多く、私はイギリス(新旧合わせて)、スウェーデンミステリーを好んで見ています。他はフランスミステリー、ジュリー・レスコーとか。。

興味がおありでしたら、こちらを見てみて下さい。
http://mystery.co.jp/

No title

マギー・スミス=マクゴナガル先生役なのですか。ま、そもそもマギー・スミスという女優さんを知らないのですが、なにか得した気分になる情報ですね。

ちなみに私はデヴィッド・スーシェのポアロが好きで好きで、
ドラマより原作を先に読まないようにしています…

Re:かえるまま21さん

かえるままさん、おはようございます。コメントありがとうございます。
なんか昨夜は「メインテナンスをしています」などとつながりにくかったですね。

レンタル店の品揃えを見ていると、サスペンス系はたくさんあるけれど、
推理ものの映画というのはそれに比べるとと少ないように感じました。
『ナイル殺人事件』はレンタル店で借りても損をした気になることはない、
と思いますよ。乙山が保証(?)いたします。

「熊出没ラーメン」は御当地よりも周辺地域で、ということなんでしょうね。
これは本当、麺がいい出来のラーメンでして、
これほど面白いインスタントラーメンは今まで味わったことがないので、
どうしても贔屓目に見てしまいます。

Re:依里さん

依里さん、おはようございます。コメントありがとうございます。
AXNミステリーのHP拝見、なんだかすごいラインナップですね。
じつは以前CATV環境だったんですが、有料契約をしていませんでした。

無料で放送している番組だけを録画していましたが、
それでもまだ見ていないものが溜まっている状況。
今度の住居も、CATV環境のようですが、
たぶん有料契約はしないかも……

だけど本当、便利な世の中になりましたね。
YouTubeで宇宙の特集番組とか、ジャズのドキュメンタリー番組なんかを、
つい見てしまうんです。

Re:RSさん

RSさん、おはようございます。コメントありがとうございます。
マクゴナガル先生役のマギー・スミスもそうですが、
あのスネイプ先生役のアラン・リックマンもいい味出してますね。
悪者役でよく見かけますが、彼が主演のイギリス映画も
いい味わいを出していて、つい見てしまいます。

ううむ、やはりデヴィッド・スーシェのポワロは人気があるなあ!
テレビドラマ版で楽しんだ後は、クリスティを読む、という楽しみもあります。
クリスティは心理描写が巧みで、読み物としても楽しめるんですよね。

No title

今晩は。
懐かしい名前がたくさん出てきますね。
と言っても、私も、べティ・デイビスが若かりしころを知っている、
というほどの年ではさすがにないですが(笑)。

デヴィッド・ニーヴン。懐かしいです。
『悲しみよこんにちは』がなんと言っても印象に残っています。
彼は軍人役をやってもなにを演じても、いかにも英国紳士らしい品の良さが
滲み出ているひとでしたね。
イアン・フレミングは、彼をイメージして、ジェームズ・ボンドシリーズを書いたとか。
ひょうきんな味もあり、得難い役者さんでしたね。
まあ、ほんとにその着こなしの上品さったら!

一人一人の役者さんについて語りたいくらいですね。
ピーター・ユスティノフ。名優ですね。
映画も見ましたが、私はNHKのポアロシリーズやホームズシリーズも好きでした。

Re:彼岸花さん

彼岸花さん、こんばんは! コメントありがとうございます。
いつだったか(というか、もう何回目かわかりませんが)
『ロンゲスト・デイ』を白黒で見て、なんて画面の綺麗なことだろう!
と感心した記憶があります。

色褪せないんですね。
それに比べると、1960~70年代のカラー映画などの
再放送を見ると、えっ、と言いたくなるほど劣化しているものがありますね。

むかしのそれこそ『銀幕』と呼ばれた時代の、
映画をもう少し見ていこうと思っているんです。
これは本当に趣味的なものなんですけど。

No title

白黒映画は、ほんとに綺麗ですね。
とりわけ、ひとの肌がとても美しい。
白黒で見慣れていた女優さんを、カラーで見て
がっかりしたことが、昔ありました。

いいものがありましたら、またこちらでご紹介くださいね。

Re:彼岸花さん

彼岸花さん、再コメントありがとうございます。
本当に、「銀幕」の映像は綺麗です。
『ローマの休日』にしても『ロンゲスト・デイ(史上最大の作戦)』にしても、
なんて綺麗なんだろう、と溜息が出ますね。

グレゴリー・ペックも、ロバート・ミッチャムも格好いい!
ジョン・ウェインもショーン・コネリーもよかった。
いつになるかわかりませんが、少しずつ、昔の映画を見て、
ウェブログに上げていこうと考えています。
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只野乙山

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