蕎麦猪口

Sobachoko_Tokkuri.jpg
蕎麦猪口という食器があることは前から知っていたが、自分でそれを使ったことはなかった。蕎麦つゆを入れ、そこに蕎麦をつけて食べるときに使う器なのだが、わりと蕎麦をゆでて食べることもあるのに、蕎麦猪口を使ったことがないというのは考えてみると変な話だ。何かほかの食器で代用していたんだろうけど、蕎麦を食べるんだったらやっぱり蕎麦猪口がいいんじゃないだろうかと長いこと思い続けていた。

いつだったか、テレビで蕎麦猪口の特集みたいな番組を目にしたとき、やっぱりこれだなあ、とうっとりしながら見ていた。私(乙山)はこうなるともう、蕎麦猪口なるものをどうしても手に入れて、使ってみないことには気が収まらないタイプの人間である。性懲りもなく、近所のスーパーマーケットの生活雑貨売り場に蕎麦猪口を求めていそいそと出かけて行った。

ところが季節が悪かったのか、蕎麦猪口は近所のスーパーマーケットやコープこうべ(生協)では売っていなかった。蕎麦猪口なんて、どこにでも売っているものと決め付けてかかっていたが、それまで蕎麦猪口に関心がなくて売り場でもチェックしていなかったということだろう。おそらく、以前から蕎麦猪口は売り場に置いていなかったのではないかと思う。

いったい、蕎麦猪口はどこで売っているのだろうか。瀬戸物屋さん(大阪では陶磁器全般を大雑把に「瀬戸物」と呼ぶことがある)自体がいまでは少なくなってきているし、蕎麦猪口を買うためにわざわざ大阪は難波の道具屋筋まで行かなくてはならないんだろうか、などと思いながら街を歩いては蕎麦猪口と瀬戸物屋を探していた。

そうこうしていると、ある日、北摂地域のとある町で食器店を見つけ、入ってみると蕎麦猪口が並べられているのを見つけた。そうそう、蕎麦猪口ってのはこういうふうに売ってなくちゃねえ、などと何気なく手に取ってみると、3500円などと書いてある。えっ、という感じで首を振ってようく見直してみたけれど、何度見ても値段は同じである。これ、何かの間違いじゃないですか、などと店主に訊けるはずもなく、適当に茶を濁して退散した。

物を知らぬ自分が浅はかだったということなんだろうけど、蕎麦猪口なんて生活雑器だろうになあ、と思うのだ。ネット通販でも蕎麦猪口を探してみると、そんなに高くない値段で色々売っているのを見つけた。やっぱり蕎麦猪口というのはこれくらいの値段じゃないとね、と安心したけれど、どうもそのときはネット通販で蕎麦猪口を買う気になれなかった。

蕎麦猪口を探していろいろやっているときは縁がなく、まあ別に蕎麦猪口なんて無理に使わなくてもいいじゃないか、という心境に達した頃になると、どういうわけか縁というものは訪れてくるもので、これは常々不思議に思う。川西の百円均一店をぼんやり眺めて歩いていると、蕎麦猪口と蕎麦徳利が置いてあった。百円均一店なので、物品はすべて(一部を除いて)百円である。別に無理に買わなくてもいいんだけど、という顔をしておもむろに買い物籠に入れたことは言うまでもない。

蕎麦猪口は蕎麦を手繰るときに使うのみにあらず、というのは「蕎麦猪口特集」でもあったけど本当だ。いろいろなことに使えるが、私はこれを鍋に使ってみた。鍋にはつけだれを入れる小鉢が必要で、これの代わりに蕎麦猪口を使う。この場合、ポン酢などのつけだれを用意してそこに食べ物をつけるのではなく、食べ物を先に入れておき、そこにポン酢などをかけて食べるわけです。

そうすると、少し薄くなったポン酢が残るわけであるが、そこに柚子胡椒なんぞを溶かしてつけだれにすると、柚子胡椒の程よく効いた塩味がまたおいしい。薄くなったポン酢は、食べ物と一緒に「飲む」こともじつにしやすいのが蕎麦猪口を使う利点なのかもしれない。こんな時期に鍋の話題など、暑苦しくて申し訳ないのだが、煮炊きができるようになるとまず鍋料理でもやって、何とか凌いでいるわけなんです。


【付記】
● 蕎麦猪口と一緒に売られていた蕎麦徳利も調子に乗って買ったのですが、これは本当「無用の長物」の典型みたいなものですね。家庭では蕎麦つゆ(麺つゆ)の瓶からそのまま蕎麦猪口に入れて食べるのが普通で、蕎麦屋でもないのにわざわざ蕎麦つゆを蕎麦徳利に移して食卓に出す、なんてしませんよ。だけど蕎麦徳利はどっしりと落ち着きがあって、たまに酒を入れて酒徳利の代わりに使っています。


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泣いちゃいます

そば猪口なんと100円!
それにしてもなんとも雰囲気のいい猪口ですね~。
さすが只野さん、ナイスセンス!
しかし100円で売られては、骨董屋さん泣いちゃいます。
RIAN MASTER

No title

ずうっと昔、この蕎麦猪口で飲ませてくれる店があったのを思い出しました。
結構入るんで、値段の割にはお得に思えてうれしく思ったものです。

Re:RIAN MASTERさん

RIAN MASTERさん、こんばんは! コメントありがとうございます。
蕎麦猪口がいったいいかほどのものなのか、
乙山は相場を知らないのでこのような次第になったのです。

なるほど、江戸期に作られた蕎麦猪口だとしたら、
3500円しても不思議ではないかな、と思うのですが、
一方で、これは生活雑器だ、という思い込みがありますので、
いかによいものでも、どうしても尻込みしてしまいます。

すみませんねえ……
骨董屋さんも、買い手も納得できる「相場」を
知らないまま記事を上げてしまいました。

Re:gatayanさん

gatayanさん、こんばんは! コメントありがとうございます。
日本酒を飲ませてくれる店の多くは「コップ酒」ですよね。
だいたいそれは180mlか200ml程度入っているようです。

いまgatayanさんのコメントを拝見して、乙山の蕎麦猪口(写真のもの)に
水を入れて実際に計測してみましたら、
だいたい200mlくらいでした。

小さく見えるのに、蕎麦猪口ってけっこうたくさん入るんだな、と思いました。
コップ酒もそれはそれで味がありますが、
蕎麦猪口で一杯、なんてのはこれまた、いいじゃないですか!

小さな猪口を使って飲んでいますが、
蕎麦猪口でぐいっと飲るのも、ちょいといい感じですね。
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只野乙山

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