当世浮世煙草事情

Shisei_Cigarettes.jpg
諸般の事情でJTこと日本たばこ産業製のたばこが流通しなくなっている。3月の終わりごろからゴールデンバット作戦(家にいるときは安価なたばこを吸ってしのぐというみみっちい作戦)を実行しているのだが、それも一時生産中止品になっており、ほとんど入手できなくなってしまった。こうなることを見越して、八方手を尽くしてゴールデンバットの確保に奔走したけれど、もうあと10箱を切ってしまった。

そもそも、ゴールデンバットはどこのたばこ屋さんでも置いてある品目ではなく、それを取り扱っている店を探すこと自体が一苦労なのだ。ここならあるだろう、と阪急庄内駅周辺の商店街のたばこ屋さんまで足を運んだが、そこでも「日本製たばこは一人一箱まで」という制限付きの販売になっていた。たかがゴールデンバット一箱200円を買うために電車運賃200円以上を支払うという、本末転倒もいいところの愚行になってしまったが、どこにもないのだから仕方がない。

だいたい6月あたりから品目限定で日本製たばこが出回るようになるだろう、とたばこ屋さんの店員が話していたが、ゴールデンバットはもう少し後になるはずだ、というのである。なんでも、ゴールデンバットは他のたばこの屑を集めて作るので、まずたとえばマイルドセブンなどの生産があって、それから後にゴールデンバットの生産に移るわけだから、おのずとゴールデンバットの流通は遅れるのだ、という。

いやあ久しぶりに聞いたなあ、ゴールデンバットの生産にまつわる話。しかもこれはたばこ屋さんの店員の言葉であリ、そんじょそこらの、噂話を聞いた男のほら話とはわけが違う、はずなんである。おまけにこの店は「そのへんのことはようわからんけど」と老婦人が一人で座っているだけの小さなたばこ屋さんとは違う、たばこ専門店とでもいうのがふさわしい立派な店だけに、余計に気になってしまう。

Peace_Cigarettes.jpg思わず「やっぱりその話は本当だったんですか」と問えば、店員さんはうなずいている。それどころか三か月ごとに味も変わる、ときっぱり断言。いったい、ゴールデンバットの製造はどのように行われているか、もういいかげん本当のことを知りたい気持ちもないわけではないけれど、ここまで屑の寄せ集め説が流布しているのなら、それはそれでいいではないかとも思う。

ところで安価な両切りたばこはゴールデンバットのほかに〈しんせい〉がある。ウェブページで調べてみると1949年、日本専売公社(現JT)発足時に発売されたもので、戦後復興を背景に名称が付けられたようで、卵色(芥子色?)と茶色のデザインが何とも渋く、落ち着いた雰囲気を持っている。「新星」か「新生」のどちらかだろうと見当をつけていたが、「新生」のようである。ちなみに島崎藤村の小説『新生』(1919)とは無関係。

吸ってみるとデザインと中身が合っているなあ、という感じで、ゴールデンバットのような香り高さはないものの、落ち着いた味わいを持っている。インパクトはないけれど、ゴールデンバットよりは高級(?)な位置づけのたばこ。決して悪くはないですよ。このたばこも今は品薄状態。どの店を覗いてみても、なかなか見かけることはない。

もう一つの両切りたばこは、ゴールデンバットを探しているときに、ふと目に留まったピース。なんだか懐かしく、思わず手に取ってしまった。これはもう、開封した瞬間から甘い香りが漂ってくる、日本たばこの名品。久しぶりに吸ったけど、やはりこの香り高い味わいは他では得られないもの。大事に吸わなくては(?)という気持ちにさせられる逸品なのです。

自分でも変に思うのは、ゴールデンバットがないということでかえってそれを大事にしているのではないかということだ。そもそもゴールデンバットを吸い始めたのは少しでも経費を抑えようという発想からで、あくまでつなぎの役目に過ぎなかったはずなのに、ゴールデンバットを少しでも長持ちさせるために高いたばこを吸うという、本末転倒、言語道断、笑止千万、噴飯ものの事態に陥っているような気がする。なんだかなあ、という不思議な感じがする我が家の当世煙草事情である。


【付記】
● お互いたばこでは苦労しますなあ、という顔つきで微笑(苦笑)しながらたばこ店で買う一コマ。外国たばこではJPS(410円)やウィンストン(400円)、ポール・モール(390円)がお手頃(いずれも2011年5月現在)でいい感じです。

余談ですが、ウィンストンはビートルズのだれかが吸っていたようですし、ポール・モールはロバート・フリップとブライアン・イーノの共作『NoPussyfooting』(1973)のジャケット写真にあるように、テーブルの上に置かれているのがそれです。
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No title

今日の記事は楽しく拝見しました。
かえるままも、昔タバコを吸ってた事があるので、今でも吸ってたら、苦労したかも....と思いつつ。
ゴールデンバットの話は興味深かったです。
ありがとうございました。

No title

へえぇぇ~ゴールデンバットは他のタバコの屑で作るのですか。
とある日本酒のアンテナショップ兼立ち飲みでは、余った日本酒を集めて煮込みに使っているそうで、味が毎回微妙に違うとか。
それと似て、ゴールデンバットも味が違うのかしら?
ある意味マニア心をくすぐるタバコですね(屑説がホントならですが)。

しかし、「やめる」選択肢はやっぱりないのですねぇ(^_^;)

No title

 ゴールデンバットは最近あまりみかけませんね。

 学生時代に何度か吸ったことがありますけど、中身がスカスカだったと記憶しております。机の上でトントンとやると、はしっこにかなり隙間ができるんですね(笑)。それにちょっと細身じゃありませんか? 当時いくらでしたか、時期のずれはあるかもしれませんが、一箱30円だったような気がします。

 しんせいが一箱40円だった頃、いこいは50円でしたね。ハイライトがたしか80円でセブンスターが100円(記憶がごっちゃになっているかもしれません)。

 しんせいはいまとなってはかなり上等なタバコ、つまりまともな葉っぱを使っている部類に属すると思います。実際うまいですよ。ただしちょっときつすぎますね。

 逆にまずいのがマイルドセブンなどのうち低ニコチン・グループ。ニコチンやタールを抑えるため、昔なら捨てていた部分を使用し、あとは香料なんぞでごまかしているんじゃないか、と疑っています。そんなものに高い金を出すくらいなら、多少まずくともエコーで十分という気がします。

 独特の甘い香りを放つ両切りのピースは、日本専売公社の傑作ですね。昔は映画館の中でだれかがピースに火を点けるとすぐにわかったものです。で、その煙が映写機の発する強烈な光線の中に吸いこまれていくのを見るのが、ひとつの楽しみでもありました。

 映画館で喫煙とは! という方もおいでかとは思いますが、そういう時代もあったんです。トイレのアンモニア臭と館内にこもる紫煙。よくもわるくも、なつかしい思い出ではあります。

 話がとんでもない方向へそれましたけれど、タバコとは昭和を生きたものにとっては、さまざまな連想を誘うものにちがいありません。

Re:かえるまま21さん

かえるままさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
ゴールデンバットの製造話は俗説だと思います。
これはもう、ずっと昔から言われてきた伝説のようなもので、
かなり多くの人がそうだと信じている話です。

ところで、乙山が札幌に行っていちばん驚いたのは、
「道が広い!」ということでした。
都道府県道レベルの重要な道路でも、
歩道が確保されていない道路がけっこうある大阪からすると、
衝撃といってもいいくらいです。

あと、街が碁盤の目のように、本当に整然としていますね。
自然発生的に商店と住宅が密集している街とは違う。
有名な時計台は意外と小さく(?)感じました。

Re:RSさん

RSさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
ゴールデンバットが他のたばこの屑から作られるというのは俗説で、
本当は違うらしいのですが、それを確認したくない気持ちもあります。

等級の低い葉を使い、葉脈の部分も使っているので
味を均一に保ちにくい、ということはあるみたいです。
たばこ店の人の話も、どこまで本当かわからないと思いますよ。

わからないものを、わからないままにしておきたいのです。
だってそっちのほうが、面白いじゃありませんか!
屑説をしたり顔で説いて回るのを見るのもいいなあ。

Re:薄氷堂さん

薄氷堂さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
おっしゃるように、ゴールデンバットはちょっとスカスカで、細身のように思います。
シガレットホルダーを使っていると、それがよくわかります。

ピースはホルダーにはめるとき、少々きついなと感じるほどですし、
横からつまんでみると、本当にしっかり詰めて巻いてあるなあ、と感心しますね。
それに比べると、ゴールデンバットはぴちっとした感触がありません。
値段を考えると、まあそんなものでしょう。
そのわりに、香り高いのが不思議なんですよね。

乙山も低タール/ニコチン仕様のたばこはあまり好きになれません。
ピースとゴールデンバット以外で、これは旨いなあと思ったたばこはあまりないのです。
いい紙巻きたばこが、本当に少なくなりましたね。
昔はもっといろんなたばこがあって、何にしようかな、と迷うのも楽しかったのに。

それさえも、もう古い話になってしまいました。
薄氷堂さんの「映画館でたばこ」の話も相当昔の話でしょうね。
清潔で、健康的なご時世に相成ったわけです。

紫煙の香り

新生。懐かしいですねえ。
それに、私の大好きなピースが。
ピースというと、私にとっては、これしかないのであって、フィルター付きのなどは
ピースと認めたくありません(笑)。
自分では煙草吸わないのに、なんでこんなに私、煙草文化を愛するのでしょう(笑)。

薄氷堂さんの映画館の中でのたばこのお話などは、もうたまりませんね。
誰かが、ピースに火をつけると、すぐにわかった、などというのは、さもあらん!と
思ってしまいます。
昔のフランス映画など見ると、もう誰もかれもが、煙草を持って、部屋の中は紫煙で
もうもう。相当衣服や髪の毛などにニコチンの香りがしみついたでしょうが、
当時、それが臭いなどと思った記憶がありません。
むしろ、殿方の香りとして、私は魅かれていたものです。

ところがおっしゃるように、低タール、低ニコチンの煙草が出回るようになってから、
逆に、煙草の臭いがいやだと思うようになりましたね。
吸う前の段階ではそうでもないのだけれど、吸った後のにおいが良くない。

乙山さんは、どういうふうに煙草をお持ちになるのでしょうか~(笑)
自分のところの記事でも書きましたが、煙草を持つ男のひとの手に妙に魅かれる
彼岸花です。別にどの持ち方でなければいやだということではなく、そのひとに
合っていて、その状況にふさわしい持ち方をしていられると、ぐっときてしまいます。

Re:彼岸花さん

彼岸花さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
薄氷堂さんのおっしゃるように、日本にもおおらかな時代があったんですね。
映画『ニュー・シネマ・パラダイス』などでもそうでしたね。

『ニュー・シネマ・パラダイス』では映画館の中で飲食、喫煙は当たり前、
観客みんながそれぞれ楽しんでいる映像が素敵でした。
映画館が取り壊される場面はもう、泣けてきましたね。

乙山がたばこを吸ってもちっとも格好良くないのですが、
やはり「カッコいいたばこの吸い方」というのはあるのです。
乙山のいちばんの先生はハンフリー・ボガートかな、と思います。
今日からすると笑ってしまうくらい「吸いまくり」ですよねぇ。
だけどそれがカッコいいんです。

たばこの持ち方はあまり気にしたことはないですね。
人差し指と中指でたばこを挟み、手の甲は外を向いている感じでしょうか。
もうひとつ、これもわりとやるんですが、
中指と親指でたばこをつまむようにして持つやり方。

誰の真似か、おわかりでしょう?
ちっとも格好良くないとはわかっていても、
様になっていないと知っていても、
つい真似したくなるんですよね。
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只野乙山

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