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伊坂幸太郎 『3652 伊坂幸太郎エッセイ集』

伊坂幸太郎 『3652 伊坂幸太郎エッセイ集』 新潮社 (2010)

IsakaKotaro_3652.jpg
いろいろな人が書いたものを読んでいると、この人は小説よりもエッセイのほうが面白いなと感じることがあるし、エッセイというけれどこれはもう小説といったほうがいいんじゃないか、と思うこともある。また小説とエッセイの区別がほとんどつかないような場合もあって本当に面白い。これらを大雑把に分けてみると、「作り話をあれこれ構想して書くのが好き」というタイプと、「自分のことを書く(語る)のが好き」というタイプになるんじゃないかと思う。

さて本書は伊坂幸太郎の初エッセイ集で、『3652』という題名が付いている。なんでもデビュー10周年という節目になるということらしいので、おそらく筆者がデビューしてからの日数と何か関係がある題名なのだろうと思う。そういえば作者はデビューして以来、一貫してフィクションを書いてきた人で、エッセイ本を見かけることはなかった。「あとがき」に作者自身による言葉あるので少し引いておきましょう。

エッセイが得意ではありません。とエッセイ集の中で書くのは非常に心苦しいのですが(天ぷら屋さんに入ったら、店主が「天ぷらを揚げるのはじつは苦手なんだよね」と言ってくるようなものですから)、ただ、エッセイを書くことには後ろめたさを感じてしまうのは事実です。(伊坂幸太郎『3652』あとがきより)

「あとがき」は最後に読んだのだが、ああそうか、と納得した。本編を読んでいると、なんだか「頼まれたので仕方なく書いてみました」という感じがどことなく漂っていたように感じたのだ。もちろん、だからといって筆者がいいかげんに書いたと言いたいのではない。そうではなくて、たとえば群ようことか中村うさぎ、あるいは酒井順子のような「エッセイの手練」が書いたものとは違う、いい意味で慣れてない感じがあるように思えたのだ。

そうは言うものの、伊坂幸太郎ってどんな人なんだろう、と思う気持ちが頁を繰らせる。すると本や音楽、映画などいろいろな人の名前が出てくるのが楽しい。小説関係だと大江健三郎、佐藤哲也、中上健次、島田荘司、打海文三、本多孝好、赤川次郎、西村京太郎などの作品、音楽だとザ・ルースターズ、斉藤和義、ミッシェル・ガン・エレファント、アナログフィッシュなど、私(乙山)が全く知らなかった人の名前も出てきて非常に興味深かった。

伊坂幸太郎の『重力ピエロ』(2003)や『陽気なギャングが地球を回す』(2003)を読んだとき、センスのいい人だなあと感心したことを覚えている。素顔があまり見えない謎めいた人のように思っていたけれど、伊坂幸太郎の素顔と秘密(?)がいっぱい詰まった本書は、ファンの人はぜひ読んでみたい本ではないかと思う。いろんなことが書いてあるけれど、まだまだ語られていないことはたくさんあるんじゃないだろうか。フィクションだけでなく、エッセイのほうでも楽しみの多い人ですね。


【付記】
図書館に行ってもなかなかこれといった一冊が決まらないことってありませんか? あ、それは乙山だけなのかな。できるだけ知らなかった作家、聴いたことのない音楽を体験しようとしているので、こういうエッセイ集は情報源としてもいいのではないかと思いました。書店とCDショップ、ではなくて図書館と蔦屋にでも行きましょうかね。

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「3652―伊坂幸太郎エッセイ集a decade」伊坂幸太郎

「喫茶店」で巻き起こる数々の奇跡、退職を決意したあの日のこと、「青春」の部屋の直筆間取り図、デビュー前のふたりの恩人、偏愛する本や映画に音楽、「干支」に怯える日々、恐る...

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No title

書店ではもちろん、図書館ですら何を借りるか悩みに悩んで
結局好きな作家の作品を選んでしまいます・・・
自分に合わない本を手元に置きたくなくて、ついつい無難路線へ(^^;)
ということで伊坂幸太郎の著書もまだ読んだことが無いのですが、
中上健次と斉藤和義に関心のある作家の作品なら一度チャレンジ
してみたいです、まずはエッセイから♪
きちんと文章力のある作家のエッセイって短編小説的な読み応えが
ありますものね~
・・・なんだか久々に沢木耕太郎氏のエッセイも読みたくなってきました。
冬眠していた読書欲がようやく目覚めたかな?(笑)

Re:zumiさん

zumiさん、こんばんは。コメントありがとうございます。
出来るだけ知らない人の作品を、というのは本当に最近の傾向で、
以前は図書館や書店、CDショップに行って膨大な数の作品を前にして
なにも買わず(借りず)に帰ってきてしまうこともしばしばでした。
乙山の読書の幅が広がったのは家族おかげなんですね。

伊坂幸太郎さん、なかなかいいですよ。
とくにお勧めなのは初期作品です。
だけど乙山は斉藤和義とかミッシェル・ガン・エレファント、
アナログフィッシュなんて知らなかったなあ。

聴く楽しみ、読む楽しみ、映画を見る楽しみが増えるいい機会になりました。
作家のエッセイを読んで楽しいのはこういう部分が多いですね。

本を読むと言うことは・・・

本を読むと言うことは、
いろいろな知識が入ってくるので、
素晴らしいことだと思います。

Re:テラゲン合格さん

テラゲン合格さん、コメントありがとうございます。
なるほどおっしゃる通り、知識も得ることができますね。
それ以外にも得ることがあるんで、本はいいですね。

No title

へぇ~、伊坂さんのエッセイがあるなんて知らなかった!
図書館にあるかな???読んでみます。

私も、いつもお気に入りの作家ばかり読んでしまいます。
本屋で帯に「○○賞受賞作品」とか書いてたら、たまにつられて買っちゃいますが、ハズしたときのショックが大きくて・・・
ついつい無難に、好きな作家を選んでしまうんですよねー。

本屋大賞が発表されたことやし、ベスト10の作品でも読んでみようかなぁ。

Re:chihiさん

chihiさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
これは伊坂さんの初エッセイ集なので、知らなかったとしても当然ですよね。
乙山も家族が図書館から借りてきてくれて知ったのです。

好きな作家がいると、その人がどんな本を読んでいるのか、
どんな音楽を聴いているのか、どんな映画が好きなのかなと思うことも。
この本はそういう疑問にばっちり答えてくれるんですね。

で、今まで読んでいなかった本や音楽にも目を向けることができる、と。
「**賞受賞作」というのは確かにね……
茶川系よりも植木系のほうがぶれが少ないかも?

なんでもそうですが、「だめもと」のつもりで当たるのがいいでしょうね。
期待しすぎると、おっしゃるように外れたときにがっかりしますものね。

No title

こんにちは。同じ本の感想記事を
トラックバックさせていただきました。
この記事にトラックバックいただけたらうれしいです。
お気軽にどうぞ。

Re: 藍色さん

藍色さん、こんにちは!
コメントおよびトラックバックありがとうございます。
それでは早速、そちらにもトラックバックさせていただきましょう。
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只野乙山

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