ジェリー・マリガン 『ナイト・ライツ』

Gerry Mulligan / Night Lights (1963)

GerryMulligan_NightLights.jpg
1. Night Lights (1963 Version)
2. Morning Of The Carnival From 'Black Orpheus'
3. In The Wee Small Hours Of The Morning
4. Prelude In E Minor
5. Festival Minor
6. Tell Me When
7. Night Lights (1965 Version)


ジャズ・ミュージシャンといえば即興演奏がいちばんの魅力で、彼らのソロ演奏に注目が集まることはまちがいないのだが、演奏者同士あるいは出された音の響きや調和を非常に大事にする人たちも存在する。たとえばギル・エヴァンスやデューク・エリントンがそうだと思うが、そこにジェリー・マリガンを加えておくのを忘れるわけにはいかない。

ジェリー・マリガン(1927-1996)はジャズ・ミュージシャンには珍しいバリトン・サックス奏者であり、作曲家、編曲家でもあった。ギル・エヴァンスと知り合ったことからアレンジャーとしても活動し、20代前半の若さでマイルス・デイヴィスの『クールの誕生』(1949年録音)に作曲/編曲/演奏者として参加している。ちなみに『クールの誕生』の中の〈Jeru〉〈Venus De Milo〉〈Rocker〉はジェリー・マリガンの作曲。

さて『ナイト・ライツ』は都会の夜景を描いたジャケットが印象的な1963年録音のアルバム。参加メンバーはジェリー・マリガン(bs, p, cl)/アート・ファーマー(tp, f.hr)/ボブ・ブルックマイヤー(tb)/ジム・ホール(g)/ビル・クロウ(b)/デイヴ・ベイリー(ds)。LPオリジナル収録曲の1~6曲は上記のメンバーで録音され、CDのみ収録の「ナイト・ライツ 1965バージョン」は別のメンバーによるもの。

(1)の冒頭から流れるピアノはジェリー・マリガン自身による演奏。ピアノなしのコンボスタイルでやることが多いジェリー・マリガンだけにちょっと意外な感じがするけれど、夜の雰囲気たっぷりの静かでゆったりした演奏だ。(7)は同曲の別バージョンで、(1)ではピアノだったパートをジェリー・マリガンがクラリネットを吹いている。どちらもそれぞれ、いい味を出しているので好みによって聴き分けるといいと思う。

バリトン・サックスといえばどこか重厚なイメージを持ってしまうけれど、ジェリー・マリガンのバリトンサックスはまるでテナーサックスかと思わせるようななめらかでさらっとした音を出している。とはいってもあまり派手なソロはとらないようにしているのだろうか、どこか控えめな演奏ぶりがいかにもジェリー・マリガンらしくていいなと思う。

それにしてもアート・ファーマー、ボブ・ブルックマイヤー、ジェリー・マリガン三人の息の合った演奏は見事だ。彼らは別ブースでモニターを聴きながら演奏/録音したのかもしれないが、聴いていると三人が一つのフロアで向かい合って演奏しているような雰囲気が伝わってくる。たぶん後者のスタイルじゃないかと思うけど、本当のところはわからない。それをしっかりサポートしているのがジム・ホールのギターと、ビル・クロウのベース。

ジム・ホールのギターも控えめで、サイドマンに徹しながらも時折見せる短めのソロにきらりと光るものを感じさせるのがすごいところ。ビル・クロウはスタン・ゲッツとのセッションなどで知られる人でジャズ関係の本も書いており、村上春樹の翻訳で『ジャズ・アクネドーツ』や『さよなら、バードランド』が出ている。彼もやはりいい仕事をしているなあ。

無駄なところが一切ない、というのがしっかり作り込まれた『ナイト・ライツ』のいいところだろう。その代わり、即興演奏のダイナミズムみたいな要素は少なくなってしまうけれど、都会の夜の灯というコンセプトのもとに、クールで洗練された一つの世界がかっちりと構成されている。ずばり題名通りの内容で、静かな店に流すのもいいだろうし、夜一人静かに聴くときにもぴったりのアルバムではないかと思う。


【付記】
● 『ナイト・ライツ』の中の「プレリュード・イン・Eマイナー」(ショパン作だそうです)は、FM東京の人気番組『アスペクト・イン・ジャズ』のテーマ曲だったそうです。乙山はリアルタイムでそれを聴いたわけではありませんが、YouTubeで油井正一さんの声を聴いてみるととてもいい感じで、しばらくコンピューターがラジオのようになってしまいました。
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非公開コメント

お久しぶりです。

ショパンのプレリュード、Eマイナー。大好きなんです。
早速ジェリー・マリガンの、聴いてみました。というより、今、
聴きながら書いています。
乙山さんの書きっぷりがあまりにも、魅力的に思えたので、
期待して聴き始めましたが、これはいいですねえ!
この演奏にははまりそうです。
ほんとに柔らかい、なにか変な表現ですが、女にはぞくっとするような、
肌をやさしく撫でられるような、そんな感じの大人な演奏ですね。
特に主旋律が終わった後のメロディの演奏がいいですねえ。
(今、続いて、Morning of the Carnival From 'Black Orpheus'が
かかっています。懐かしい曲です。この演奏もいいですね。
これはCD,手に入りますか。ぜひ欲しいです。  

Re:彼岸花さん

彼岸花さん、こんばんは。コメントありがとうございます。
お久しぶりですね、お元気ですか?

さあ、もう寝ようかなと思ってたんですけど、訪問者リストにお名前が。
そちらを伺ってみると、これまた久しぶり!
あずさちゃんがちらし寿司とひなあられ(おにぎりみたいですが)を前に、
ちょうどいい椅子に座っているじゃありませんか。

『ナイト・ライツ』は抑制のきいたいい演奏ですね。
たぶんamazon.co.jpでもHMVでも入手できると思います。
ちょっと調べてみましたが、だいたい1000~1300円くらいのようです。
これは購入なさっても損はしないと思います。

最高

こんばんわ。
いいですネ~
早速購入しました。
まだ到着していないのですけど、待ちどうしいです。
この曲をかけた里庵はどういう雰囲気になるか?
楽しみ!
いつも素適な音楽の紹介 有難うございます。
RIAN MASTER

Re:rian masterさん

rian masterさん&mamaさん、こんばんは。コメントありがとうございます。
『ナイト・ライツ』はやはり夜の音楽ですので、
陽が傾きかけた頃から暗くなった時間に似合います。

朝といか開店直後の里庵のイメージは……バロックか古典派のクラシックかなあ?
J.S.バッハとかハイドン、モーツァルトあたりの音楽が、
優雅に流れているような雰囲気を想像します。

リコーダーのソナタとかチェンバロ(ハープシコード)などが
アンティークの家具と一体になっているかのような空気感。
それが乙山の想像する里庵の午前の雰囲気です。
そして夜は、やはりジャズが似合うんですよねえ。

手に入れました。

乙山さん。こんばんは。
『ナイト・ライツ』のCD、買いましたよ。
今日届いて、さっきから何度も聴いています。今も、聴きながら書いています。
これ、いいですねえ……。

サックスの音、もとから好きだったんですが、バリトン・サックス、
柔らかくてなんとも言えない音ですね。
ほんと、これは、大都会の夜景を見下ろすホテルの一室などで、
静かに一人聴いてみたいです。
私はやはりPrelude In E Minorが、なんといっても一番好きですが、
Festival Minorの後半部もしびれますね。今かかってる Tell Me Whenもいいなあ。
私は、ジャズは全然知らないと言っていいんですが、乙山さんのところに
伺うようになってから、ちょこちょこ聴いてはいます。
その中でも、ジェリー・マリガン、特に好きなジャズ・ミュージシャンになりそうです。
Prelude In E Minorを聴いていると、なんとなくカーティス・フラーを
思い浮かべてしまうんですが。そのせつなさと、柔らかさが、
私の中ではなにか同じ情調を呼び起こすんです。

いいものを教えていただきました。
私の大のお気に入りになりそうです。

Re:彼岸花さん

彼岸花さん、こんばんは。再コメントありがとうございます。
『ナイト・ライツ』は本当、大人のジャズって感じですね。
金管と木管が響き合って何とも言えません。
こういう表現もあるんだなあ、と感心することしきり。

サキソフォーンって不思議な魅力がありますね。
アート・ペッパーはアルトサックス奏者ですが、まるで
ソプラノサックスかオーボエのような高音から、
テナーに近い低音まで聴かせてくれます。

スタン・ゲッツのテナーサックスは、どこか乙山の大好きな
レスター・ヤングを思い出させてくれながらも、
隅々まで神経が生き届いたような繊細な感じがあります。

こんなことを書いていたら本当にきりがないですね!
ジャズ・ヴォーカルも大好きなんです。

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只野乙山

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