ホリー・コール・トリオ 『ドント・スモーク・イン・ベッド』

Holly Cole Trio / Don't Smoke in Bed (1993)

HollyCole_DontSmokeInBed_JPN.jpg
1. I Can See Clearly Now
2. Don't Let The Teardrops Rust Your Shining Heart
3. Get Out Of Town
4. So And So
5. The Tennessee Waltz
6. Everyday Will Be Like A Holiday
7. Blame It On My Youth
8. Ev'rything I've Got (Belongs To You)
9. Je Ne T'aime Pas
10. Cry (If You Want To)
11. Que Sera, Sera (Whatever Will Be, Will Be)
12. Don't Smoke In Bed



ホリー・コールは不思議な人だ。
映画『バグダット・カフェ』(1987)の主題歌「コーリング・ユー」を歌っているときのように可憐な雰囲気も出すことができるのに、どんどん低域にずれていき、ついには唸るようなロングトーンがどこまでも続く。たぶん彼女はこういう歌い方が大好きなのだろう。ヴォーカル/ピアノ/ベースというトリオ編成でジャズのスタンダードを取り上げているのだが、アレンジが大胆で原曲のイメージと違うなあ、と思うこともしばしば。

ふつうだったらスタンダードをあまりいじらず、歌もたとえばヘレン・メリルとかジュリー・ロンドンのような路線でいったほうが受けはいいと予測がつくはずなのに、大胆なアレンジをバックにウォウオウ唸ってしまうホリー。聴き始めたころは「すごいなあ」と感心していたけれど、何度も聴きこむうちに「なにもそこまで唸らなくても」とか「そんなにいじらなくてもねえ」と言いたくなってくる。ここは微妙なところで好みによるが、人によってはそれがホリー・コールのいいところだと思う部分ではないだろうか。

ホリー・コールはこれから歌手として活動していこうという矢先、自動車事故であごを粉砕骨折してしまい、歌手としては再起不能と医者に宣告された。それからが彼女のすごいところで徹底的に腹式呼吸による歌唱を鍛え上げたという。初めて聴いたとき、この人は歌手として圧倒的な力量があると感じたけれど、あの独特の低音とロングトーンはそういう尋常ならざる経験と努力からきているものかもしれない。

HollyCole_DontSmokeInBed.jpgさてブルーを背景にホリー・コールの顔がジャケットになっている『ドン(ト)・スモーク・イン・ベッド』は東芝EMI(現EMIミュージックジャパン)から発売された日本盤で、インターナショナル盤のジャケットは椅子に座ったホリー・コールの全身像が暗い色調で仕上げられている。かなり異なる印象を受けるけれど、中身は同じなので後者を入手しても問題はないと思う。

コール・ポーター作の(3)や綾戸智恵(智絵)も得意にしている(5)「テネシー・ワルツ」、クルト・ワイル作の(9)、ドリス・デイのヴォーカルで有名な(12)、そしてジャズメンもよく取り上げる(13)をはじめとしてスタンダード中心に選曲されている。CD付属のブックレットによると、選曲はもっぱらホリー・コールが行っているということであり、そこに彼女のセンスをうかがうことができると思う。

演奏はホリー・コール(vo)/アーロン・デイヴィス(p)/デイヴィッド・ピルチ(b, per)によるものだが、ホリー自身によると編曲に相当力を入れているということで、このシンプルな編成によって生み出される音楽が心地よい。録音もよく、ピアノの音はいつも惚れ惚れするほど美しい。スタインウェイ&ソンズのピアノを使用しているとあるのだが、私はスタインウェイとベーゼンドルファーを聞き分ける耳は持っておりません。

今回はトリオのほかにゲスト・ミュージシャンとしてサキソフォン奏者のジョー・ヘンダーソンが(6)でR&Bナンバーを吹いているのが面白い。また、あのデヴィッド・リンドレーが(2)で参加、ラップ・スティール・ギターを聴かせてくれる。全体を通じてホリー・コールお得意の「唸り」は比較的抑えられている(?)ように思う。なのでとても聴きやすく、ホリー・コール入門の一枚としてお勧めできるのではないかと思う。


【付記】
● 調べてみると、ホリー・コールの三枚目『ブレーム・イット・オン・マイ・ユース』(邦題『コーリング・ユー』)は1992年日本ゴールドディスク大賞の新人賞とジャズ部門賞を受賞しているようで、乙山は知りませんでした。その次の四枚目つまり『ドン(ト)・スモーク・イン・ベッド』を日本独自のジャケットにして売り出したのも、そのことに関係があるのかもしれませんね。
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