木村衣有子 『大阪のぞき』

木村衣有子 『大阪のぞき』 京阪神エルマガジン社 (2010)

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私(乙山)は大阪市生まれで、一時期他郷に移り住んだことはあるけれど1980年代の終わり頃から再び大阪市に移り住み、十数年住んでいたことがある。だから正真正銘の大阪人とはいえないまでも半/似非大阪人であると言えるんじゃないかと思う。

ぼんやり暮らしていたので「大阪育ちの大阪知らず」になっていたことにすら気付かなかった。大学時代、金沢から来たという同級生に天神橋筋商店街の安い寿司屋さんに連れて行ってもらい、大阪天満宮なんかを案内してもらった挙句、「只野君って本当に大阪生まれなの?」と呆れられたこともあるくらいである。

いや本当、いまだに梅田/JR大阪駅地下街を歩いていても「どっちだったかな?」なんてことはしょっちゅうで、あまり道先案内人として役に立たないことは間違いない。小型デジタル写真機を携えて知らない街を歩いてみるのが好きなので、よう知ってはるなあ、などと言われることもあるのだが、じつはそんなに詳しく知っているわけではないというのが実情である。

そんな私だから『大阪のぞき』という本を見ても知らなかったなあ、というところがわりとあった。本書『大阪のぞき』は栃木生まれで8年間京都で過ごしたことがあり、現在は東京在住の筆者・木村衣有子がのぞいてみた「今の大阪」が観光、甘辛、喫茶、観賞、定番という見出しのもとに紹介されている。

「観光」はいわゆる訪ねてみるべき名所案内ということで、気になったのは「大阪市立大学理学部付属植物園」。大阪府交野市にあるということだが、これは本当に知らなかった。「木は1本1本、標高差に忠実に、大学の先生が支持して植えさせたもので、開園してから60年のちの今では、まるで天然の山を思わせるまでになっている」(本書より)という。

「甘辛」はグルメガイド。「インデアンカレー」は阪急三番街で見かけるが、いつも行列ができているのでまだ一度も利用したことがない。「大黒のかやくごはん」(難波)や「やろくの玉子コロッケ」(住吉)はぜひ食べてみたくなる。本書表紙のドーナツは「メリッサのソフトドーナツ」(中の島)だそうだ。

新幹線新大阪駅の25、26番ホームの売店にいつも並んでいるという「秋鹿のワンカップ」もいいなあ。「秋鹿」は大阪府豊能郡能勢町の地酒で、北摂地域ではよく見かけるおいしい酒なのでたまに飲みます。北浜にあるバー〈ハマ〉の「北浜ハイボール」もじつに魅力的。「グラスを冷やして氷は入れず、仕上げにはレモンの皮をしゅっと搾って香りを付ける」(本書より)のだそう。ウィスキーはサントリーの〈角瓶〉。いつもグラスに氷とウィスキーを入れ、ソーダを注いでかき混ぜるだけの私は猛反省せねば。

「喫茶」では大阪の喫茶店(カフェ)を訪ねる。大阪出身の料理研究家・小林カツ代さんもエッセイで書いていた難波の〈純喫茶アメリカン〉。いつかは行かなきゃ、と思いながらもまだ実行できていない憧れの店。大阪には本当にいい喫茶店が多かった。最近はこくのあるおいしいアイスコーヒー(冷コー)を出してくれて、ゆっくり遠慮なく煙草が吸える喫茶店がなくなりつつあるのは本当にさみしい限りである。

「観賞」では大阪の美術館、博物館などを紹介しているのだけど、落語の「天満天神繁盛亭」や映画館「第七藝術劇場」(十三)などが気になった。「第七藝術劇場」で『フライド・グリーン・トマト』(1991)とか『未来世紀ブラジル』(1985)なんかをかけてくれたら、と思う。それに古書店「天牛堺書店」あたりを取り上げるところに筆者のセンスの良さを感じる。

「定番」は副題が「暮らしの中のメイド・イン・大阪」となっており、「チキンラーメン」「コクヨのノート」「OLFAのカッターナイフ」などが取り上げられている。大阪府池田市にはチキンラーメンの開発者・安藤百福のことなどを展示した〈インスタントラーメン開発記念館〉があるし、もはやそれなくしては生活が成り立たないほどのカッターナイフの「OLFA」は「折る刃」からきている話。割愛させていただきますが、他にも気になる話題が満載です。

本書はなんといってもその文章がいい。たんなる名店やグルメの紹介文ではなくて、筆者の経験がにじみ出た味わい深い文章が、制限された短い字数の中でキラッと光っている。お店の店主とのやりとりも短い言葉の中にその人となりがよく出ている。しかも本書の写真はすべて筆者がフィルム式銀塩カメラで撮影したものだという。ううむ、やるなあ、と思わず感心してしまった上質のエッセイ/写真集としても楽しめる一冊である。


【付記】
● すぐ役に立つ情報が満載という本ではありません。そこがまた、良いのですね。とくに筆者の経験をふっと回想しながらさりげなく書いた部分に深い思いを感じ取ることができるのが本書の魅力でしょう。
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No title

大阪育ちの大阪知らず、私もです!
(まぁ正しくは堺で育ったのですが)
やはり「生活の拠点」では日常にどっぷり嵌ってしまって
自分の周辺しか見えなくなってしまうんですよね~
少し目線を変えるだけで新たな発見が出来るかもしれないのに
我ながら勿体無いとは思いつつ・・・
この筆者のように客観的でありながら地に足を付けた(経験に根差した)
モノの見方が出来るようになりたいものです(^^;)

Re:zumiさん

zumiさん、こんばんは。コメントありがとうございます。
いやあほんまに……乙山はあんまり大阪を知っているとは……
だけどこの筆者、よそもんにしては知りすぎている。
まあ、「あそこの**は**だよ」みたいな情報網があるのかも。

だとしても、いいじゃないかと思える文章と写真なんです。
この人の文章にはいかにも大阪人的な押しの強さとか、
厚かましさ(?)みたいなものがなくて、いい。

いいじゃないですか、世界が狭くたって。
乙山もしょせんは自分がしっかり見たもの、聞いたものしか
載せることはできません。

No title

大阪は一度だけ行きましたが、(USJの為に)本当はもっと、街を巡ってみたかったです。
くいだおれの辺りで、行列に並んで、たこ焼きを買ったのは今でも良い思い出です。
大阪も、東京の様に文化の中心地と言う感じがしました。
歴史がそうさせるのでしょうか、そこに暮らす方々のプライドの様なものも、感じましたよ。


Re:かえるまま21さん

かえるままさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
USJと言うと、巨大な鮫の模型が水中からせりあがってくる
装置などが設置されている娯楽施設でしょう?
乙山はまだ行ったことがありません。

「中心」という言葉をあまり意識したことがありませんが、
大阪には大阪の、北海道には北海道の「文化」があり、
そこには「差異=ちがい」しかないのだと思っています。

東京と聞くと躍起になる大阪人って、今でもいるんでしょうかね。
そういう人をあんまり見たことないんです。
そういいながら、けっこう大阪人は東京を意識しているのかも。
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只野乙山

Author:只野乙山

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