マイケル・フランクス 『スリーピング・ジプシー』

Michael Franks / Sleeping Gypsy (1977)

MichaelFranks_SleepingGypsy.jpg
1. Lady Wants To Know
2. I Really Hope It's You
3. In The Eye Of The Storm
4. B'wanna-he No Home
5. Don't Be Blue
6. Antonio's Song (The Rainbow)
7. Chain Reaction
8. Down In Brazil


マイケル・フランクスの二枚目『スリーピング・ジプシー』は1977年にリリースされている。1977年といえばロンドン・パンクが盛り上がりを見せ、イーグルスの『ホテル・カリフォルニア』が大ヒットした頃である。タイトル曲「ホテル・カリフォルニア」はテレビCMにも使われたくらいだから耳にしていたが、私(乙山)がパンクを知ったのはパンクが下火になってからのことで、マイケル・フランクスもずっと後になってから聴いた。

『ホテル・カリフォルニア』にもよくそれが表れていると思うが、アメリカのウエストコースト・ロックはコーラスを大切にし、サウンド作りが非常に洗練されているのが特徴。大音量のラウドネスで圧倒するスタイルのロックではなくて、きちんと耳を傾けて聴くように作り込まれたオーディオ・オリエンテッド・ロック(これがAORの語源という説もある)が多いのではないかと思う。

マイケル・フランクスの音楽コンセプトもそういう路線を行くもので、フュージョン/ジャズ系のミュージシャンを起用して仕上げたそのサウンドはまったくといっていいほど刺激的な部分がなく、耳に心地よく響いてくる。ロックの魂はどこへいった、などといってこうした傾向の音楽を一蹴する人もいるかもしれないが、こういうスタイルの音楽があってもいいではないかと思う。

クロスオーヴァーというジャンルは最近あまり聞かないようだけど、イメージとしてベン図を思い出してもらいたい。集合か何かを論じるときに用いる、二つの円が重なり合った、あれですよ。重なり合う部分はあるけれど、本体はちゃんと残っている。音楽でいうと、ロックが基本になっていて、ある部分だけジャズっぽい演奏をしてまたロックに戻る、という感じだろうか。

マイケル・フランクスの場合、基本の部分はポップ/ロックで、この『スリーピング・ジプシー』ではそこにジャズ的なものとボサノヴァ的なものが入っているのだがクロスオーヴァーというよりは、独特のフューズド・ポップ(融合したポップ)とでも言うべきサウンドに仕上げられている。それはワーナーブラザーズのいわゆる「バーバンク・サウンド」とはちょっと路線が違うかもしれないが、こういうジャンルを超えた音楽を作り出すところに同レーベルの懐の深さ、みたいなものを感じる。

マイケル・フランクス(vo, g, banjo, mandlin)が奮闘しており、デヴィッド・サンボーン(as)/ジョー・サンプル(p, kd)/ラリー・カールトン(g)/ウィルトン・フェルダー(b)/マイケル・ブレッカー(ts)など前作でもサポートを務めた豪華メンバーが揃い、ジョアン・ドナート(p)/ヘリオ・デルミロ(g)/ジョアン・パルマ(ds)といったブラジル勢も参加。ストリングス・パートの編曲/指揮はクラウス・オガーマンで、トミー・リピューマがプロデュースを担当している。

(1)のイントロで流れるクールなギターはラリー・カールトン。(6)はボサノヴァのピアニスト/作曲家であるアントニオ・カルロス・ジョビンに捧げたボサノヴァ調の曲。ジョー・サンプルのピアノソロ(1:27)の後、ヴォーカルを挟んで最後にむせび泣くようなサキソフォンのソロ(3:47)で締めくくられる。(8)もタイトルから想像できるようにボサノヴァ。ジョアン・ドナートに捧げられた曲のようで、彼のピアノソロ(1:40)はまるで宝石がこぼれおちるようだし、その後をラリー・カールトンのギターが受ける。

ほぼ全編にわたってラテン・パーカッションが活躍する『スリーピング・ジプシー』は思ったよりもボサノヴァの色合いが強めで、ジャズ/ボサノヴァ/ポップが名手たちの協力を得て見事に融け合った一枚に仕上がっているように感じた。


【付記】
● ロックの魂を求める人には『スリーピング・ジプシー』は不向きであると言えましょう。いい大人がゆったりと味わって聴く、というような用途に向いているのではないかと思いますが、あまりじっくり聴きこむとマイケル・フランクスのヴォーカルがちょっと気に……いや、それはあまり触れる必要がないのかもしれませんね。
関連記事
スポンサーサイト

tag : マイケル・フランクス

コメントの投稿

非公開コメント

No title

おはようございます。

きっとご存じのことと存じますが、
昔『クロスオーバーイレブン』というNHK/FMのラジオ番組がありました。
洗練された心地よい音楽が
静かなナレーションをはさみながらかかっていました。
ボサ・ノヴァ系の音楽もよく聞いたように思います。
マイケル・フランクスのこのアルバムも
あの時代の西海岸に特有な音作りを思い起こさせてくれるものですね。
懐かしいです。

Re:サハラの南さん

サハラの南さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
「クロスオーバー・イレブン」、ありましたね。
1970年代って本当にラジオをよく聞きました。
というのも、それしか音源がなかったからなんです。
オーディオ装置も、レコードも高かったですからね。
「クロスオーバー・イレブン」では深夜放送ということもあって、
選曲も静かに聴けるものが多かったように記憶しています。
マイケル・フランクスはそれにぴったりだと思います。
プロフィール

只野乙山

Author:只野乙山

⚫︎ できれば「只野乙山=ただのおつざん」とお読みくだされば、と思います。

⚫︎ 文字中心のウェブログ。ほとんど一話完結で、どの記事をご覧になっても楽しめ(?)ます。文字数だけなら一冊の本に匹敵(凌駕?)するほどありますので、ごゆっくりどうぞ。

⚫︎ 下の「全ての記事を表示する」をクリックすると、全記事のタイトル一覧が出ますので過去記事を参照することができます。

全記事表示リンク

全ての記事を表示する

カレンダー
08 | 2017/09 | 10
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
最新記事
最新コメント

openclose

最新トラックバック
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
QRコード
QRコード
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

アーカイヴ

2017/09 (7)

2017/08 (8)

2017/07 (9)

2017/06 (9)

2017/05 (9)

2017/04 (8)

2017/03 (9)

2017/02 (4)

2017/01 (1)

2016/06 (1)

2016/05 (13)

2016/04 (13)

2016/03 (20)

2016/02 (10)

2016/01 (11)

2015/12 (10)

2015/11 (10)

2015/10 (11)

2015/09 (13)

2015/08 (10)

2015/07 (11)

2015/06 (10)

2015/05 (10)

2015/04 (10)

2015/03 (11)

2015/02 (9)

2015/01 (11)

2014/12 (9)

2014/11 (10)

2014/10 (11)

2014/09 (10)

2014/08 (10)

2014/07 (10)

2014/06 (10)

2014/05 (11)

2014/04 (10)

2014/03 (10)

2014/02 (9)

2014/01 (11)

2013/12 (9)

2013/11 (10)

2013/10 (10)

2013/09 (10)

2013/08 (11)

2013/07 (10)

2013/06 (10)

2013/05 (10)

2013/04 (10)

2013/03 (11)

2013/02 (9)

2013/01 (11)

2012/12 (9)

2012/11 (10)

2012/10 (11)

2012/09 (10)

2012/08 (10)

2012/07 (10)

2012/06 (10)

2012/05 (11)

2012/04 (10)

2012/03 (10)

2012/02 (10)

2012/01 (9)

2011/12 (9)

2011/11 (10)

2011/10 (10)

2011/09 (10)

2011/08 (10)

2011/07 (9)

2011/06 (9)

2011/05 (10)

2011/04 (8)

2011/03 (8)

2011/02 (12)

2011/01 (12)

2010/12 (12)

2010/11 (13)

2010/10 (15)

2010/09 (15)

2010/08 (14)

2010/07 (16)

2010/06 (17)

2010/05 (21)

2010/04 (18)

2010/03 (20)

2010/02 (23)

2010/01 (27)

2009/12 (27)

2009/11 (27)

2009/10 (26)

2009/09 (24)

2009/08 (19)

2009/07 (21)

2009/06 (30)

2009/05 (26)