高級カメラは買ったけど

ContaxG1_01.jpg
写真やカメラにうつつを抜かすようになったのは20歳代の終わりごろからだったように思う。中学、高校時代はカメラなど高くてとても買えなかったし、それほど写真撮影の必要や機会がなかった。絵を見たり、描いたりするほうが好きだったように覚えているが、いつの間にか写真やカメラにも興味を持つようになっていった。

初めてカメラを買ったのは、高校を卒業してからである。
カメラ店で新品を買うなど、とうていできなかったので、質屋であれこれ物色していると、黒の小型カメラがあったのでそれに決めた。1980年代の半ば頃だったと思う。たしか、高校の同級生がこれによく似たカメラを持っていた。デザインが秀逸で、密かに憧れていたのである。

私(乙山)が買ったのは、オリンパスXAというカメラだが、ピントを自分で合わせなければならず、絞りもf2.8からf16あたりまで選択できる、小型のわりには本格的なカメラだった。高校の同級生は写真を撮る時ピントを合わしたりしていなかったように思うが、よく思い出してみると、彼が持っていたカメラはオリンパスXA2という後継機で、XAをオートフォーカス化したカメラだった。

オリンパスXAは、フィルムの装填が最大の難点であった。フィルムを引き出して巻き取り軸に絡めるのが難しいのだ。やけにフィルムの巻取りが軽いな、と思って撮影すると、うまく巻き取れておらずに何も写っていなかった、という失敗をしたこともある。また、下手に絡めると、今度はフィルムの巻取りが異様に重たくなってしまうのである。親指は痛くなるし、挙句の果てには巻き取りができない状態になることもあった。

けれども、一瞬にして軽くシャッターが切れ、おまけにシャッター音がまったく気にならないほど微小だという利点がある。これは、スナップ写真を撮影するときにもってこいなのだ。広場などで、見知らぬ人間にカメラを向けられたら誰だって狼狽するだろうし、ましてや勝手に写真に収められたりしたら怒り出す人だっているだろう。そのような状況で、一眼レフカメラのシャッター音と巻き取り音を響かせるわけにはいかない。アンリ・カルティエ=ブレッソンや木村伊兵衛のような写真を撮るのは、やはり容易なことではないのである。

晴れた日ならXAの絞りをf5.6~8以上にして、フォーカスを3メートルくらいに合わせておけば、被写界深度が深くなるので、ピントを合わせずともたいていはうまく写ってくれる。使い捨てカメラ(レンズ付きフィルム)と同じ原理である。カメラを構えてファインダーを覗く必要すらなく、私はお腹のあたりで手の甲を表に向けてXAを持ちながら、親指でシャッターを切る撮影法を試してみたが、なんら問題はなく意外にちゃんと写っていた。

それからほぼ十年間、私はXAだけでじゅうぶんだった。小さいながらも役に立つ、本当に良い使えるカメラだと満足していたし、それで通常の撮影には何ら不足はなかったのである。ところが1995年、それまでのカメラと異なる発想で一つのカメラが誕生したのを目にして、ちょっと、いや、かなりぐらっときてしまった。

それは、コンタックスG1というカメラだった。チタンのボディにカール・ツァイスのレンズ(日本製)を搭載し、一眼レフではない、レンジファインダー型(ライカM型もそうである)でオートフォーカスという斬新なカメラだった。デザインがまた秀逸で、私はこのカメラを一目見て、いっぺんに気に入ってしまった。

ContaxG1_02.jpgしかし、コンタックスG1は、160,000万円ほどする(1995年当時)高級カメラである。私に手が届くはずもない。憧れやみがたく、カメラ店でコンタックスG1のカタログをもらって来ては眺めて暮らすのであった。見れば見るほど、美しいカメラである。私はどうしてもそのカメラが欲しくて仕方がなく、ついに、コンタックスG1を購入する決心をしたのである。

現金で七、八万円ほど用意して(骨身を削る、という言葉の意味を、余すところなく実感した)残りは十回払いの月賦という作戦で、とうとう、憧れのコンタックスG1を新品で手に入れた。

もう有頂天である。狭い部屋の中で空シャッターを切りまくり、手にとってはうっとり眺める。休日が待ち遠しく、その日が来ると安物のカメラバッグにコンタックスG1を入れて街に出た。もちろん、ふつうのネガフィルムではなく、リバーサル(ポジ)フィルムを装填してある。もう完璧な、写真家気取りである。こういう、おっちょこちょいなところは、何歳になっても治らないとみえる。思い出すだに恥ずかしいが、それが私の性なのであろうか。

調子に乗って写真を撮っていたが、フィルム代と現像(およびプリント)代は意外とかかるもので、コンタックスG1を買うために多額の支払いをしたせいでお金が回らず、次第に撮影回数が減っていった。カメラ道楽は、お金がかかるものであることを思い知った。だが、およそ道楽というものは、お金がかかるものなのだ。

あるとき、書店で『論より証拠のコンパクトカメラ』(田中長徳著、アルファベータ)という新書版サイズの書物を目にした。コンタックスG1のことも書いてあったので、さっそくもとめて読んでみた。すると、次のような長徳(チョートク)さんの言葉が、ぐさっと胸にきてしまった。そのとき、恥ずかしさのあまり、本を投げ出しそうになってしまったほどである。

「それにしても一部を除けば、コンパクトカメラは安い。三〇万円の高級カメラを買ってフィルムを年に三万円くらいしか消費しないのなら、三万円のコンパクトカメラを買い、残りの二七万円を写真集とフィルム代に消費するという消費パターンのほうが、はるかに知的、行動派であるのは論をまたない」

ああ、コンタックスG1を買う前に、私がこの本を読んでいたら!
だがもう、手遅れである。私が知的でなく、行動派でありえないのはあまりにも明白で、無残なほどである。またしても、懲りずにやってしまったのだ、この男は。

プロの写真家であるチョートクさんもコンタックスG1を購入したわけだが、チョートクさんは中古カメラ店に赴いて、いちばん傷のついたコンタックスG1がほしい、と店員に言って不思議がられたという(田中長徳『温故知新のコンタックスG1』アルファベータ)。銀塩カメラとは、中古で買うものであることを、私は身をもって思い知ったのであるが、それにしても授業料はあまりに高くついてしまった。

コンタックスG1はデザインが良すぎて、街に持って出ると目立ちすぎるのだ。以前オリンパスXAをポケットに入れて街を歩いたのとは大違いである。ライカM型に匹敵するほどの存在感があるため、完全に私がカメラに負けている。高級カメラを手にすることによる圧迫感と、他者の視線による羞恥心に気押されし、次第に撮影回数は少なくなっていく。かといって、家族旅行の記念写真にコンタックスG1は大袈裟すぎる。

そうして、いつのまにやら世の中は銀塩カメラからデジタルカメラへと移行して、コンタックスG1を使うことは今後二度とないのではないかと思われるくらいである。高級品がなぜか身に付かない私だが、不思議とコンタックスG1だけは私の元を離れない。そうやって部屋に鎮座して、私を戒めているのだろうか。


【付記】
● ウェブログを開設するにあたって、どうしてもデジタル写真機の必要を感じた折に、こういう経験があったので迷わず普及/汎用型の小型デジタル写真機を買いました。それでもリコーのGRDとかキャノンのPowerShotG10、ニコンのCOOLPIX P6000などを見たら心を奪われてしまい、強烈な誘惑から身を遠ざけるのに少々かかってしまったことを正直に書いておきましょう。

本当は撮影時に絞り優先AEを使いたい気分ですし、できるだけ明るいレンズ(できればf2.8程度)もほしい。なので「オリンパスXAD」などというカメラが出てくれないかな、とひそかに期待しています。現行のオリンパス・ペンのデジタル機は乙山には大きく、いかにも、という感じがします。京セラもまた頑張って、「コンタックス」ブランドで小型デジタルカメラを出してほしいですね。
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No title

こんばんは、カメラ道はやはり果てしなく奥が深いようですね(笑)
私はといえば昔、赤瀬川源平氏のカメラエッセイなどを読んで
一眼レフカメラに憧れた時期もあったのですが・・・
ウデも知識も無いので多分途中で放り出すだろうなぁと
断念しました(^^;)
写真を見るのはとても好きなのですが(特にモノクロ)
自分ではどうしてもカメラを「記録(記憶)を残す」ためだけに
使ってしまって・・・なんとなく平面的な写真になってしまいます。
少し構図etcに気を配るだけでも出来は違ってくると思うのですが
これが中々(^^;)
乙山さん、せっかく良いカメラと撮影センスをお持ちなのですから
使わなきゃもったいないですよ!



Re:zumiさん

zumiさん、こんばんは。コメントありがとうございます。
赤瀬川源平のカメラエッセイは、楽しいですね。
路上観察だとか「超芸術トマソン」とか、そういう発想が素晴らしい。

カメラを買うと嬉しがっていろいろ撮ったりしますが、
どうしても撮らねばならぬ何かがあって、そのために
やむをやまれず撮っている、という人でないと……

まあ乙山も記録用にデジタル写真機を使っている次第です。
なので、あまり高級なカメラは必要ないわけで。
同じ轍を踏むわけにはまいりません。

たしかに乙山所有のコンタックスG1は「よいカメラ」ではあるのですが、
あまりに良すぎて、所有者より立派では困ります。
たかがカメラ、くらいにしておいてもらわないと。

撮影するたびにフィルム(有料)を必要とし、現像(有料)およびプリント(有料)
にもお金がかかり、そのうえ時間もかかる。
本当に、銀塩カメラは超高級趣味カメラとなってしまったように思います。
白黒フィルムを装填し、いざ撮影に、なあんてね。

わかります。

ポルシェを買ったはいいが燃料代がでない。
そんな感じでしょうね。ぼくはM型のライカとハッセル
が好きでいまでも持ってますよ。まあ、ハッセルはそう
でもないけど、ライカを持っているひとのほとんどが
眺めて満足、自慢して満足のパターンですよね。
札幌のアナログカメラの専門店のほとんどがつぶれま
したね。なめるようにして集めたニコンのFのブラック
バージョンなどもニソクサンモンだったり。
視力がおちた今は、もっぱらキャノンのデジタル一眼レフ
を使っています。でもたまにジッツォの三脚を立てて
じっくり撮ってみたくなるときもあります。テマヒマ
かけるのが好きでたまらなく、露出計を使ってアンダーぎみ、
オーバーぎみ、何パターンかの露出で。
写真を撮るという楽しみ。便利なものが増え過ぎました。
そんなもの使ってたらダメだ!という頑固オヤジでさえデジカメ
を使っていますね。それぐらいいいですもんね。
道具は不便なものほどいい、なんて、そんな時代じゃないのかな~。
ぼくも当時G-1買いましたよ、いいですねこれ。


HOBO

Re:HOBOさん

HOBOさん、こんばんは。コメントありがとうございます。
ポルシェはちょっと金額のレベルが違うと思いますが、
そこに起こっている事態は、まさにHOBOさんの言うとおり!
男って、どこかでわかっていても、そういうことをやってしまうんです。

いつも冷静に構えていて、
間違いをおかさない男もいるでしょう。
いるでしょうけど、そういう男って、どこかつまらないんです。

ハッセルブラッドやライカをお持ちなんですか!
乙山、憧れだけで、実物を持ったことはありません。
HOBOさんにコメントをいただいて、もう一度コンタックスG1に
電池を入れてみようかな、などという気になった、かも(?)しれません。
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只野乙山

Author:只野乙山

⚫︎ できれば「只野乙山=ただのおつざん」とお読みくだされば、と思います。

⚫︎ 文字中心のウェブログ。ほとんど一話完結で、どの記事をご覧になっても楽しめ(?)ます。文字数だけなら一冊の本に匹敵(凌駕?)するほどありますので、ごゆっくりどうぞ。

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