山田かおり 『株式会社 家族』

山田かおり 『株式会社 家族』 リトルモア (2010)

YamadaKaori_Kazoku.jpg
本書は兵庫県尼崎市生まれで、現在は東京で活躍するファッション・デザイナーである筆者が、自社のホームページに書いた「日記」を加筆訂正したものに、書下ろしを加えたもの。挿入イラストは筆者の妹である山田まきが担当している、とのこと。

父、母、筆者、妹の家族四人を中心に東京での生活や猫のことなども本書の中で語られているが、仲のいい家族なんだなあ、筆者はお父さんやお母さんのことが大好きなんだろうな、というのが読んでいて感じられた。

ハンバーガーショップのドライブスルーに行って車から降り、マイクに向かって「ポテトチップ」と注文するお父さんがなんともいえない、いい味を出している。彼はスターバックスを「オートバックス」と呼び続けている。それを聞きたいばかりに本当のことを教えていないのだとか。少し引いておきましょう。

父へ。スターバックスのことを「オートバックス」というけれど、そのままでいて欲しくてなかなか本当のことを言えないままでごめん。(本書「ドライブスルー」より)

またお父さんは会社員として働いていなければすべて「ニート」と理解しており、きちんとデザイナーとして働いている筆者を困らせている。なにしろ「お前みたいなんがいずれルンペン(浮浪者:乙山註)になる。父さんわかってる」とくるのだ。筆者がかつてデザインして売れ残って実家にストックしてある在庫を、リサイクルショップに売っているという情報を妹さんから聞いたお母さんが言う。

「かおりのデザインした服、変やから高く買うてくれへんのよ」と母が言うと、「そこから学べ」と父が言う。「おまえ、いっぺんユニクロ連れてったらなあかんな」(本書「デザイナー」より)

いやあ、ほんとお父さん、いい味出してますよ。由緒正しき「昭和人」とでも言えばいいのだろうか。山田家のお母さんも素敵な人で、ガソリン漏れがある自家用車に乗ってお父さんが帰ってくるのを聞きつけると、さっと段ボールをもって車の下に敷くベストポジションを探すパフォーマンスを見せてくれ(本書「母のインスタレーション」)、大工道具を駆使しては実家の壁をぶち抜いて本棚を作ってしまう人(本書「頼れる業者」)なのだ。そんなしっかり者のお母さんなのに、次のような面があるから笑わせられる。

母が「ニコールマンキッドって綺麗やね」と言ってから正しい名前がわからなくなった。(本書「女優」より)

山田家ではまだ、「オートバックス」とか「ニコールマンキッド」が正式名称として流通しているのだろうか。そうであってほしい、と心から願わずにいられなくなる、なんとも楽しい一家。だけど、山田家のようなことって、どこかの家庭にもあるんじゃないだろうか。ちょうど嘉門達夫が『小市民』の歌で歌ったみたいにね。これらのエピソードはほんの序の口、本書にはまだまだおかしい、だけど時にはほろっとさせられる話が詰まっている。


【付記】
● 山田家のお父さんは「昭和人」的な部分を多分に残した人ですが、乙山の叔父(母の弟)もそういう人でした。石原裕次郎がそうしているのを映画で見たのでしょうか、日清食品のチキンラーメンが一番おいしいのだと言い張り、そればかり食べていました。

また叔父は年中薄汚れたジーンズで通し、夏はTシャツと下駄、さすがに冬はローゲージで厚手のクルーネックセーターとブーツといういでたちでしたが、そのスタイルを1980年代の終わりごろまで一貫して通していました。もうそれらは記憶の中だけですが、それだけに不変のもの、「永遠にあのまま」として残り続けています。
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非公開コメント

いいですね

ほのぼの家庭大好きですよ。私の家庭も実はそうかも。
『親かば、子かば、かばだばだ』五人家族、誰が一番早口で言えるか
競ったりしました。こういう本が昔あったんですよ。内容は残念ながら忘れましたが。


なんでも無い事が実は宝物ですよね。

Re:はちゃべえさん

はちゃべえさん、こんばんは。コメントありがとうございます。
そうそう、「なんでもないことがじつは宝物」。
これは、何かあったときに初めてわかること、ですよね。

たとえば、ふつうに歩けること。
乙山がランニングなどをしてみて、感じたことです。
ランニングは体にかかる負荷がとても大きくて、
しばらくすると、背中と膝に、まともに痛みがきました。

こわくなって、いまではウォーキングしかしていませんが、
「ふつうに歩けること」がどれだけ「ありがたい」ことか、
痛感したのです。

まあ、そういうこともあるとして、
山田家はいいなあ、と感じています。
はちゃべえさんがおっしゃるように、ほのぼのした感じがあります。
娘さん(筆者)は、お父さんと、お母さんのことが大好きなんですね。
それが痛いほどわかるから、なんか、いいんです。
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