安野モヨコ 『くいいじ』

安野モヨコ 『くいいじ』上下巻 文藝春秋 (2009)

AnnoMoyoko_kuiiji.jpg
家族が図書館から借りてきた本の中から題名に引かれて手に取った一冊。食べ物エッセイなので楽しく読んだが、筆者がとても人気のある漫画家だというのは後で調べて知った。うっかりしていて、安野モヨコさんの漫画作品はひとつも読んでいない。だけどまあ、そういうことに一切関係なく、単独の読み物としてもいいんじゃないかと思う。

読んでいて興味深く思ったのは、漢字をわりと多用していることだろうか。たとえば「いる」→「居る」だし、「ない」→「無い」で、「ということ」→「と言う事」、あるいは「のように」→「の様に」などと表記され、どこか古風な感じがするためか、筆者の実像より高年齢であるかのような雰囲気が醸し出されているように感じた。筆者のシンボルであろうキューピー人形のような(?)キャラクターが可愛らしいので、それと文体との「ずれ」が私(乙山)にはなんだか快かった。

本書は『週間文春』に2006年から一年間に渡って連載されたエッセイをまとめたもの。恥ずかしながら、そっちのほうも知らなかったけれど、本の形で一気に読める快感を味わうのなら、やはりこういう出会いのほうがいいな、と思う。「食べ物の本」もいろいろあるけれど、レシピ集よりこういう食べ物エッセイのほうがどちらかというと、自分の好みかもしれない。

内田百間の『御馳走帖』もそうだけど、珍味名物、高級料理の羅列ではないのです。筆者安野モヨコの食に対する姿勢に一本筋が通っていて(=食い意地?)、文章に筆者の感性がよく表れているから面白いのだと思う。たとえば下巻にある「エア料理」など、この人ならではの世界ではないだろうか。

未使用のまま放置していたパスタマシンを見て、半年前筆者は「絶食ダイエット」をやっていたことを思い出す。とにかく絶食して体内を浄化するのが目的だから、おなかが減って仕方がない。食べ物の本ばかり見て毎日過ごすうちに、想像の中で料理を作り、食べているという生活をくり返す。想像の中で料理を作る、という段階から一歩進んで、実際に作っているかのように「行動する」段階に入っていく。ちょっと引いておきましょう。

そこにギターが無いのに音楽に合わせ、あたかも弾いている様に見せる「エアギター」と言うのが有るが、この場合「エア料理」である。
脳内でシュミレーションをする「バーチャル料理」より一歩踏み込んで、台所で本を片手に手順通り動いてみたり、冷蔵庫の調味料を確認しては喜んでいた。(安野モヨコ『くいいじ』下巻「エア料理」より)

パスタマシンも、その「エア料理」の際に使用されたものだという。筆者は「エア料理」を実行(?)するためにわざわざ取り寄せて購入したのである。ううむ、そこまでやるか! と思わずつぶやいてしまいたくなるではないか。その他、自分は長年「大喰らい」だと思っていたにもかかわらず、診断してもらうと「あなたは大食できない体質なんですよ」と告げられる話、ムカデに飛び上がって悲鳴を上げつつも、その造形美に次第に惹かれてゆく話など、泣き笑いどころ満載の、楽しい食べ物エッセイ集だ。


【付記】
● 漫画作品をほとんど読んだことがなかったこともあって、どんな人だろうと公式ウェブサイトを訪ねてみました。イラストも、少女漫画誌の可愛らしいものから、オーブリー・ビアズリーを思わせる秀逸なイラストなどがありました。個人的には少女漫画的なものよりも、ビアズリーを髣髴とさせるようなセンスのイラストに惹かれました。「キューピー人形的」なご自身のキャラクターとのギャップ、そこに安野モヨコの世界と魅力があるのかな、と勝手に想像しています。
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No title

私もモヨコさんは『働きマン』しか読んだことが無いのですが(^^;)
そういえば、その作中で主人公が胃を悪くして入院した人への
お見舞いに内田百の『御馳走帖』を持っていったという
エピソードがありましたよ~
当時は何気に読んでいましたが、やはり「食」に関して相当こだわりの
ある方のようですね(笑)
エッセイも面白そうなので探してみます!

Re:zumiさん

zumiさん、こんばんは。コメントありがとうございます。
安野モヨコさんの作品をほとんど読んでない、と思いましたが、
朝日新聞の『オチビチャン』がありましたね。

ほとんど意識しないで通り過ぎていましたが、
あれが安野さんの作品だったんですね。
安野さんのほかのものも、この際読んでみようかな、とか?

『くいいじ』の初めに写真で「安野家のなんとか」とあって、
そこにいろんな人の書いた食べ物エッセイの本があったりします。
漫画もさることながら、文章だけをとりだしても、
いい味を出している人だと思いました。
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