レジナルド・ヒル 『社交好きの女』

レジナルド・ヒル 『社交好きの女』 ハヤカワ・ポケットミステリー (1982)

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本書『社交好きの女』はレジナルド・ヒルのデビュー作で1970年に英国で出版され、日本では1982年に早川書房から翻訳・出版された。後に「ダルジール警視シリーズ」として推理小説ファンに広く知られることになるが、本書でダルジールと相棒のパスコーが初めてコンビを組んでいる。

ラグビーの試合で頭部を強打したサム・コナン(コニー)は、家に帰ってからも頭痛に悩まされ、テレビを見ている妻に声をかけてから二階の寝室に入るものの、ベッドに倒れて意識を失ってしまう。

四時間後、目を覚ましたコナンは青ざめて震えながら警察に電話をかけた。彼の背後の客間には、何かによって額を砕かれすでに事切れている妻が横たわっていた。連絡を受けたダルジール警視は、相棒のパスコー刑事部長とともに殺されたメアリー・コナンをめぐる事件の真相を探るべく調査を開始する。

サム・コナンと殺された妻メアリー、ラグビーのチームメイトでラグビー・クラブの会員でもあるアーサー・エバンズと妻グエン、コニーの隣人デイブ・ファーニーと妻アリス。それぞれの「夫婦」の姿が描かれながら話が進行していくうちに、徐々に殺されたメアリー・コナンの人となりが浮かび上がってくる。

アーサー・エバンズの妻グエンは、人前に出ると男の目を引くタイプで、彼女の周りには自然と男たちが群がる。アーサーはそんなグエンに少なからず嫉妬心を抱いており、彼女が姿を見せないとなると、もしや、と疑いの心を持ってしまう。殺されたメアリー・コナンもそういう「社交好きの女」だったのである。

英国における「クラブ」というと、女人禁制で男だけが集まるなにやら秘密めいた社交空間というイメージがあるけれど、本書におけるラグビー・クラブは会員が妻を連れてくることができるし、若い女性であっても入会できるようである。クラブといってもいろいろあるわけで、以前このウェブログで取り上げた推理小説『日曜哲学クラブ』(創元推理文庫)などは、イザベル・ダウハウジーという女性が会長をしていたのではないかと思う(記事へ≫)

まず容疑はサム・コナンに向けられるわけだが、彼と妻メアリーが不仲だったという話はなく、メアリーが死んでコニーが何らかの利益を得るわけでもなく、コニーには決定的な動機がなかった。しかも犯行で使われた凶器は不明で、発見されてもいない。みんな仲間で顔見知りという、一見和気あいあいに見えるクラブ内での、隠された男女関係がこの事件の鍵を握っているわけだが、その部分は簡単には見えてこず、捜査はなかなか進まない。

アンドルー・ダルジール警視が主人公ではあるのだが、ダルジール自体の思考はあまり表に出てこなくて、抽出話法による独白はダルジール以外の人物たちにわりと多めに割かれているのが本書(ダルジール警視シリーズ)の特徴。巨漢(でぶ)で、露骨な下品さがあるダルジールに、ああいうふうにはなりたくないな、などと思っているパスコーだが、次第にダルジールに惹かれていく様子がなんともいえない味わいを出している。なかなか解けない「謎」に加えて、ダルジールとパスコーの「人間」がきっちり描かれているあたりがレジナルド・ヒルのいちばんの魅力なのではないだろうか。


【付記】
● 後に「ダルジール警視シリーズ」でその博覧強記ぶりが明らかになっていくレジナルド・ヒルですが、それが少しも嫌味にならないのが読んでいて不思議。あまりにたくさんありすぎて、とても追いつけないのが本当のところなんですけどね。
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No title

こんにちは。
早川ミステリの表紙が変わりましたね。
それと共に、作者の選択方針なども少し変えていくそうで。
朝日新聞の記事にそのことが出ていました。
私はまだ読者になって恥ずかしいくらい日が浅いけれど、
長いこと表紙を描いていらした勝呂忠さんに敬意を表し、
記事にしてみました。
ポケミス。あまりにもたくさん出ていて、しかももう書店の扱いは
小さくなっているので、出会いが遅かったことが少し悔やまれます。
このシリーズの装丁が本当に好きでした。

Re:彼岸花さん

彼岸花さん、こんばんは。コメントありがとうございます。
ハヤカワポケットミステリー、どうなるのかな、と思います。
新しい時代にふさわしいものになるのもいい、のですが、
古いものも、やはりいいんです。

だからね、これからは古書店ですよ。
新しいシリーズは勝手に出るんですから、
古本屋さんでね、古いシリーズを買う、というのもまた、いいかもしれません。

新しい楽しみと、古い楽しみ。
これからは、どっちも「あり」でしょうね。
それぞれに楽しみたい気分です。
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只野乙山

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