誉田哲也 『武士道エイティーン』
誉田哲也 『武士道エイティーン』 文藝春秋 (2009)


第一作『武士道シックスティーン』から始まる剣道をテーマにしたフィクション三部作(?)の最終巻。ひょっとすると、まだ終わらないのかもしれないけれど、なんだかこれで締めくくりになるんじゃないかという感じがする本書。高校生時代が終わるという、ひとつの区切りになっていますからね。
このシリーズは幼いころから剣道の道場に通い、剣道一筋でうちこんできた磯山香織と、日本舞踊をしていたけれどふとしたことから剣道を始めることになった甲本早苗の二人が主人公で、各章ずつそれぞれが一人称の語り手になって話が進んでいく構成になっている。本当は『武士道シックスティーン』から順に記事にしていけばよかったのだが、シリーズをまったく知らない方のためにちょっとかいつまんでおきましょう。
剣道一筋で向かうところ敵なしの磯山(香織、ではなく「磯山」と呼びたいですね)が、昨日今日剣道を始めたばかりで、ふわりふわりとつかみどころのない早苗にどういうわけか一本とられてしまい、以来、同じ高校の剣道部に所属していながら、磯山は早苗を「永遠のライバル」とみなすようになるが、早苗はちょっと引いた感じで磯山に付き合っていく。
ところが家の都合で早苗は福岡の高校に転校することになり、今度は敵として戦うことになる二人の最後の(?)戦いが始まる。前二作は磯山と早苗のことが中心になって進んでいたが、本書はそれまで脇役だった人たちに光が当てられるのが面白いところ。たとえばモデルとして活躍中である早苗の姉、緑子と剣道少年・岡巧との恋の行方が語られる。
磯山が通っている「桐谷道場」の剣道師範、桐谷先生にまつわる話は、桐谷家が行っていた「家業」が明らかにされる。いわゆる「スポーツ剣道」と桐谷の剣法との違いに悩みながら歩んだ桐谷先生の過去が語られる。登場人物それぞれが、それぞれの「武士道」を生きるのだが、なかでも桐谷先生の章では「剣道とは何か」という問題が深く取り扱われているように思える。
早苗の通う福岡南高校の剣道部顧問、吉野先生はいつも飲んだくれているばかりのちょっとだらしない独身の先生だが、「暴走族三十人と戦って無傷」という伝説の持ち主。ついに、かの伝説がつまびらかにされ、桐谷先生との意外なつながりもあったりします。ちなみにどうして吉野先生が独身かも、この章でわかります。
団体戦で強敵、福岡南高校の先鋒、黒岩怜那から「対磯山香織戦とっておきの戦法」を引き出すことに成功した東松の先鋒・田原美緒は、大好きな磯山先輩に近づこうとするあまり研鑽を重ねるが、磯山のコピーになっている、と指摘を受け(しかも黒岩怜那から)、何とか自分なりの戦法を編み出そうと努力するも、磯山からそんなものはやめておけとビシバシに叩き込まれる。それでもめげず平正眼という構えを取り続ける姿に胸を打たれる。
磯山香織と甲本早苗の「決戦」が最大の見せ場であるはずなんだけど、意外にあっさり書かれているのが本書の特色。剣道もあるけれど、今後のこともある、という現実に即した内容なのだろうか。以前流通していた「運動系根性物語」に見られる典型的な展開とクライマックスにならないのが近頃の「流儀」なのかもしれない。それよりも磯山、成長したなあ、という感じが強かった。やはりシリーズを第一作から通して読むのをお勧めしたい。
このシリーズは幼いころから剣道の道場に通い、剣道一筋でうちこんできた磯山香織と、日本舞踊をしていたけれどふとしたことから剣道を始めることになった甲本早苗の二人が主人公で、各章ずつそれぞれが一人称の語り手になって話が進んでいく構成になっている。本当は『武士道シックスティーン』から順に記事にしていけばよかったのだが、シリーズをまったく知らない方のためにちょっとかいつまんでおきましょう。
剣道一筋で向かうところ敵なしの磯山(香織、ではなく「磯山」と呼びたいですね)が、昨日今日剣道を始めたばかりで、ふわりふわりとつかみどころのない早苗にどういうわけか一本とられてしまい、以来、同じ高校の剣道部に所属していながら、磯山は早苗を「永遠のライバル」とみなすようになるが、早苗はちょっと引いた感じで磯山に付き合っていく。
ところが家の都合で早苗は福岡の高校に転校することになり、今度は敵として戦うことになる二人の最後の(?)戦いが始まる。前二作は磯山と早苗のことが中心になって進んでいたが、本書はそれまで脇役だった人たちに光が当てられるのが面白いところ。たとえばモデルとして活躍中である早苗の姉、緑子と剣道少年・岡巧との恋の行方が語られる。
磯山が通っている「桐谷道場」の剣道師範、桐谷先生にまつわる話は、桐谷家が行っていた「家業」が明らかにされる。いわゆる「スポーツ剣道」と桐谷の剣法との違いに悩みながら歩んだ桐谷先生の過去が語られる。登場人物それぞれが、それぞれの「武士道」を生きるのだが、なかでも桐谷先生の章では「剣道とは何か」という問題が深く取り扱われているように思える。
早苗の通う福岡南高校の剣道部顧問、吉野先生はいつも飲んだくれているばかりのちょっとだらしない独身の先生だが、「暴走族三十人と戦って無傷」という伝説の持ち主。ついに、かの伝説がつまびらかにされ、桐谷先生との意外なつながりもあったりします。ちなみにどうして吉野先生が独身かも、この章でわかります。
団体戦で強敵、福岡南高校の先鋒、黒岩怜那から「対磯山香織戦とっておきの戦法」を引き出すことに成功した東松の先鋒・田原美緒は、大好きな磯山先輩に近づこうとするあまり研鑽を重ねるが、磯山のコピーになっている、と指摘を受け(しかも黒岩怜那から)、何とか自分なりの戦法を編み出そうと努力するも、磯山からそんなものはやめておけとビシバシに叩き込まれる。それでもめげず平正眼という構えを取り続ける姿に胸を打たれる。
磯山香織と甲本早苗の「決戦」が最大の見せ場であるはずなんだけど、意外にあっさり書かれているのが本書の特色。剣道もあるけれど、今後のこともある、という現実に即した内容なのだろうか。以前流通していた「運動系根性物語」に見られる典型的な展開とクライマックスにならないのが近頃の「流儀」なのかもしれない。それよりも磯山、成長したなあ、という感じが強かった。やはりシリーズを第一作から通して読むのをお勧めしたい。
【付記】
剣道といえば防具。やはりあれは、装着するとかなり暑い(熱い)んじゃないだろうかと想像します。とくに夏場なんかは、やってられんなあという感じになるのでは。そのあたり、作者はあまり触れずにさっと書いていますが、ちょっと気になるんですね。
剣道といえば防具。やはりあれは、装着するとかなり暑い(熱い)んじゃないだろうかと想像します。とくに夏場なんかは、やってられんなあという感じになるのでは。そのあたり、作者はあまり触れずにさっと書いていますが、ちょっと気になるんですね。
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No title
剣道をテーマにした小説ってなかなか無いですよね。
高校の時体育の授業で剣道を選択しましたが、
面をつけた時にものすごく息苦しくて恐怖を感じました。
あれは閉所恐怖症の人にはけっこうきついです・・・
高校の時体育の授業で剣道を選択しましたが、
面をつけた時にものすごく息苦しくて恐怖を感じました。
あれは閉所恐怖症の人にはけっこうきついです・・・
Re:羊さん
羊さん、コメントありがとうございます。
剣道小説は確かに珍しいですね。
ごぞんじかもしれませんが、医療現場の小説を書いている
海堂尊さんの『光の剣』も剣道小説です。
海堂さんの小説に出てくる医者たちの多くが、
どういうわけか剣道部出身なんですね。
剣道の防具をつけたことはありません。
乙山は体育の授業で柔道をやりました。
柔道着でも、けっこうあつかったように思います。
剣道の防具になるとさぞや……
剣道小説は確かに珍しいですね。
ごぞんじかもしれませんが、医療現場の小説を書いている
海堂尊さんの『光の剣』も剣道小説です。
海堂さんの小説に出てくる医者たちの多くが、
どういうわけか剣道部出身なんですね。
剣道の防具をつけたことはありません。
乙山は体育の授業で柔道をやりました。
柔道着でも、けっこうあつかったように思います。
剣道の防具になるとさぞや……
No title
昔『六三四の剣』という剣道漫画が好きだったのですが、
女流剣士主役しかも小説、となるとまた違う魅力が
ありそうですね♪
しかし防具は・・・着けるだけでダイエットになりそうですね(^^;)
(まぁいざ勝負!の時は暑さも気にならないのでしょうが)
女流剣士主役しかも小説、となるとまた違う魅力が
ありそうですね♪
しかし防具は・・・着けるだけでダイエットになりそうですね(^^;)
(まぁいざ勝負!の時は暑さも気にならないのでしょうが)
Re:zumiさん
zumiさん、コメントありがとうございます。
剣道漫画といえば、ちばてつやの『おれは鉄平』と、
『がんばれ元気』の作者による『おれは直角』などを覚えています。
zumiさんの『六三四の剣』はあまり覚えていません。
どうしてかなあ?
いや、まったく知らなかったわけではなくて、
どこかで聞いたことはあるのですよ。
だけど、「鉄兵」や「直角」は覚えているのに、
なんで「六三四」は乙山のレーダーにひっかからなかったのか?
時期は「鉄兵」→「直角」→「六三四」という流れ。
何かに忙しくて見られなかったのかな?
今から思うと謎です。
剣道漫画といえば、ちばてつやの『おれは鉄平』と、
『がんばれ元気』の作者による『おれは直角』などを覚えています。
zumiさんの『六三四の剣』はあまり覚えていません。
どうしてかなあ?
いや、まったく知らなかったわけではなくて、
どこかで聞いたことはあるのですよ。
だけど、「鉄兵」や「直角」は覚えているのに、
なんで「六三四」は乙山のレーダーにひっかからなかったのか?
時期は「鉄兵」→「直角」→「六三四」という流れ。
何かに忙しくて見られなかったのかな?
今から思うと謎です。
No title
てっきり完結編と思い込んで読んだのですが、
それにしては中途半端な感じがしました。
外伝でも何でもいいので、期待して待ってます。
トラックバックさせていただきました。
トラックバックお待ちしていますね。
それにしては中途半端な感じがしました。
外伝でも何でもいいので、期待して待ってます。
トラックバックさせていただきました。
トラックバックお待ちしていますね。
Re: 藍色さん
藍色さん、こんにちは! コメントとトラックバック、ありがとうございます。
いつからかトラックバックを承認制にしておりますが、
そうしないと、どうも機械的にトラックバックしていると思われる、
つまらぬ発信元を多々見かけることがあり不愉快なのです。
これ、なんだかはぐらかしみたいな印象もありますが、
真っ向からの果たし合いはさらりと避けたという意図もあるかもしれません。
もし続編があるとしたら楽しみですね。
トラックバック、こちらからもさせていただきますね。
いつからかトラックバックを承認制にしておりますが、
そうしないと、どうも機械的にトラックバックしていると思われる、
つまらぬ発信元を多々見かけることがあり不愉快なのです。
これ、なんだかはぐらかしみたいな印象もありますが、
真っ向からの果たし合いはさらりと避けたという意図もあるかもしれません。
もし続編があるとしたら楽しみですね。
トラックバック、こちらからもさせていただきますね。