お気に入りだった三つの場所

GinTonic2010_07.jpg
現在(2010年7月)兵庫県に住んでいるものの、一時大阪市天王寺区に住んでいたことがあって、そのころわりと利用したお気に入りの場所を思い出してみたい。私(乙山)のお気に入りの場所といえば、やはりバーとか飲み屋さんになるわけだが、そこのところはよろしく(?)お願いします。

一つめは天王寺都ホテルのバーラウンジ「ルミエール」(現在はこの名称ではなく、「エトワール」となっている)である。西向きの広い窓際に据え付けたクッションのしっかり効いた立派な椅子にゆったり座って飲んでいると、とても豊かな気分になる。とくに夕刻の眺望はすばらしく、通天閣とその周辺の町並みに沈みゆく夕陽を眺めながらグラスを傾けると、疲れが抜けていくような気分を味わえた。

夏の暑い日、特に疲れを感じた日は「ルミエール」を利用したものだ。まだ陽が落ちきっていない時間、比較的バーが空いている時間がいい。西側の窓際の席に座ってジン&トニックなどを飲みながら時間を過ごす。陽が落ち切ってあたりが暗くなると、各テーブルにはキャンドルが灯され、それがまたいい雰囲気をかもし出してくれる。

そのころにはジン&トニックからスコッチウィスキーに飲み換えているのだが、暗くなった街には男女がある目的のために使用するホテルのネオンサインが見えている。天王寺公園の周辺にはそうしたホテルが林立している一帯があるのだ。これもまた、大阪らしいといえば大阪らしいところなのだろうか。ホテルだけあってちょっとお高いけれど、天王寺都ホテルのバーラウンジは「たまに」利用するには本当にいいところだった。

bombay_sapphiretonic.jpg二つめはJR天王寺駅や地下鉄天王寺駅を出て、谷町筋沿いに四天王寺方面へ少し歩いたところにある(あった)バー「桃陰」(とういん)である。この店の特徴は、マスターをはじめ店員はすべて男性であり、しかも必要なこと以外はだれも一言も口を利かない、ということである。店にBGMは流れていないし、本当に静かなバーである。

しかも飲み物の値段がわりと安めに設定されていた。これはそれほど贅沢ができるわけではなかった私にはとてもうれしいことだった。ザ・グレンリヴェットを頼んでも大丈夫なわけです。さすがに日本酒は置いてなかったけれど、ワインもちゃんとあって、ボジョレー・ヴィラージュのハーフボトルを室温で、なんていうオーダーにもきちんと対応できる本物のオーセンティック・バーだ。

料理の品揃え豊富で、味もそこそこよかったように覚えている。そして酒同様、値段が良心的なのだ。必然的にこれは「とっておきの店」になるわけなんだけど、連れて行った人はたいてい「いい店を知ってるね」と感心したものだ。酔っ払って大騒ぎする客もいないし、店ではあまりしゃべらない私が、本当に落ち着いて(経済的にもじつに心落ち着いて)飲むことができたお気に入り中のお気に入り、それがこの「桃陰」だった。

beer.jpg三つめは阿倍野のジャズ・バー「トップシンバル」である。阿部野橋を渡ったところにある小さなビルの地下に小さな店を構えているのだけど、ここのマスターがいい人だった。LPレコードがびっしり並んだ棚からレコードを取り出してはターンテーブルに乗せ、カクテルを作り、料理もしながら客の対応をする手際のよさには本当に感心した。

うちは黒人のジャズしかないんでね、と言うマスター。ハード・バップとかモダン・ジャズを中心とした熱いジャズが店内に流れていた。なにかリクエストある? と声をかけてくださるのだが、私はそのころジャズをかじりかけたばかり。マイルス・デイヴィスの『カインド・オブ・ブルー』、ソニー・ロリンズ『サキソフォン・コロッサス』、そしてキャノンボール・アダレイ名義の『サムシン・エルス』くらいしか知らなかった。

「ユー・ドン(ト)・ノウ・(ホ)ワット・ラヴ・イズ」と「モリタート」が大好きだったのでロリンズを、そしてキャノンボール・アダレイの「枯葉」をリクエストしたら、若いのによく知ってるねぇ、と常連客らしき男性がしきりに感心してくれたのを思い出す。そして読んだばかりのレイモンド・チャンドラーから影響を受けて、飲み物はギムレット。ああ、思い出しても恥ずかしい、えらく背伸びをしたときだった。そんな勘違い野郎を、黙って受け入れてくださったのが「トップシンバル」のマスターだった。

残念ながら、天王寺都ホテルの「ルミエール」も、いちばんのお気に入りだった「桃陰」も、そして「トップシンバル」も、いずれも現在では記憶に残るだけになってしまった。もう十数年以上前のことだから仕方ないのかもしれないが、もう二度とそれらの店に行くことはできなくなってしまったのだ、と思うと少しさびしいものがある。


【付記】
● 掲載の写真は、本文の内容と一切関係がないことをお断りしておきます。

天王寺都ホテルの「ルミエール」は現在「エトワール」として営業しているみたいです。訪れたことはないのでどんなふうになっているかわかりませんが、ウェブページを見るとどうやら西側だけでなく、北側にも窓をとって、大きな造りになっているようです。

この記事を書いていて、ふと気になって検索をかけてみると、「桃陰」も現在は天王寺には存在していないようなのです。情報では心斎橋に店を出しているようですが……やはり「桃陰」はいまだ静寂に包まれていてほしいですね。

「トップシンバル」についても、ウェブ上で閉店の知らせを知りました。もう何年も行っていなかったことを思うと、なんだか申し訳ない気持ちになります。といって、乙山ごときが行こうが行くまいが、「トップシンバル」にはあまり関係なかったかもしれませんけど。
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こんにちわ

こういう店、好きだなあ。
こんにちはお久しぶりです、乙山さん。
じつはぼくもバーが好きで、といっても
最近はまったく出ることはなくなりました
ね。大阪というとジャズとかブルースが
似合う街というイメージ。それこそ、
大塚まさじの『天王寺想い出通り』が頭に
浮かびます。札幌にいてなぜかそっちに
あこがれます。ぼくはもっぱらジャックと
ターキーです。けして強くはありませんし、乙山さんのおっしゃるように酒飲み
ではないのです。でもそんなバーで飲みたいものです。


HOBO

No title

私も大阪に勤めている頃があり、天王寺界隈はよく行っていました。
でも、就職したてのお金のない頃だったので、行っていたお店は・・・

アポロビルに地下にあった小さなバー。
名前は忘れちゃったな。
ブラックニッカのロックと、オイルサーディン・・・これがお決まりでした。

そして、もう一軒。
そのアポロの横の商店街のつきあたり、四分休符という名のジャズバー。

大きなブラウン管と大きなスピーカーのある店で、ジャズを分かったフリをして飲むバーボンが・・・よかったなあ・・・

No title

桃陰!
昔から名前だけは知っていたのですが、結局(天王寺時代は)
行けずじまいでした・・・
心斎橋なら行きやすいし、機会があれば一度行ってみたいです。
まぁ昔の雰囲気や品揃え・価格帯とは違うかもしれませんが・・・
やはり、「行きたい時に行っておく」
後回しにしない方が良いってことですね(^^;)

No title

どのお店もいいですね。
もし自分が行くとしたら2つめかな。
かなり惹かれます。

Re:gatayanさん

gatayanさん、コメントありがとうございます。
アポロビルの小さなバー、乙山もひょっとしたら行ったかもしれません。
名前が浮かばないのが残念です。
アポロビルも面白いんですよね。
阿倍野通の人なら知っていると思います。

ブラックニッカのロック、オイルサーディン。
ううむ、たぶんそれは「ニッスイ」でしょうな?
キング・オスカーでは臭いが……
ニッスイのオイルサーディンは、本当に絶品。
これはたぶん、世界に誇ってもいいくらいの逸品でしょう。

四分休符。
gatayanさん、その店、
行ったことないけど、見かけたような気がしますよ。
阿倍野銀座という通りを抜けたところで、
見たように思います。

gatayanさん、一度その店に行っておけばよかった。
まだ行ってないのです。
バーボン、これはよしだたくろうの歌で知ったのです。
ペニーレインで、バーボンを、というくだりです。

初めて飲んだバーボンは、
本当にいい香りだった。
これなら、本当に何杯も……というくらい、
「やばい」酒です。

なので乙山はスコッチにしています。
バーボンを飲みつけて、それ一つに決めてしまうと、
財布と身体が危ないですからね!

gatayanさん、こちらからもリンク張らせてもらいますので
よろしくお願いします。

Re:zumiさん

zumiさん、コメントありがとうございます。
「桃陰」はね、いいですよ。
というか、よかったというべきかもしれませんが。

静かで落ち着いていて、本当にいい店だった。
「天王寺で飲みに行くのなら」というとき、
胸を張って案内できる店でした。

確実な情報は「桃陰」で検索してくださいね。
乙山が見たときは心斎橋に店を出している、とか、
なんとか、書いてありました。

Re:RSさん

RSさん、コメントありがとうございます。
もし乙山がRSさんと大阪で出会っていたら、
いちばん初めにあなたを連れて行ったであろう店が、
「桃陰」だとと思います。

それはともかく、最近、なんか元気ないみたいですけど?
仕事も忙しいと思いますが、
元気出してくださいね!

Re:HOBOさん

HOBOさん、コメントありがとうございます。
バーは独特の雰囲気があって好きです。
カウンターの向こう側の人間だったこともあるくらいで。

ジャック・ダニエルズとワイルド・ターキーもそうですが、
バーボン(テネシー)ウィスキーは香りがたまらない!
くぴっとやると、もう、いくらでもいけそうな感じ。

それが危ないので、
バーボンには手を出さないようにしています。

No title

いいですね。
男の方が、ウイスキーの話をしてらっしゃるのは…。

私も、雰囲気のいいバーなどにはとても憧れがありますが、
誰も連れていってくれない…(笑)。
と言って、ひとりで行く勇気もありませんし。

一人でもさりげなく、お酒が飲めるすてきな大人の女性になりたかったですが、
残念。なれませんでした。

若い頃にジャズバーなどに行ってみたかったなあ…。

Re:彼岸花さん

彼岸花さん、コメントありがとうございます。
英国のパブとか、いわゆるバーという場所は、
あまり女性が立ち寄る場所ではなかったんでしょうね。

「酒場」というのはもともと心和む場所である一方、
西部劇なんかでは銃撃戦が起こる場所。
無法で、殺風景な場所だったわけです。

お洒落で女性が居心地のいいところが増えてきました。
だけど、どういうわけか、
そういう場所に落ち着いて、ゆったりしていられないのが
バーやパブにたむろする男、
昔ながらの「喫茶店」を愛するたちみたいです。

これも一概に言えませんけどね。
不思議なものです。

No title

どこの地方に行ってもガスト、デニーズ、セブンに、ローソン、吉野家、すきや、チェーン店ばかり。大切にしたい個性的なお店が、どんどん無くなって、きてます。寂しいですネ。
「乙山さんが一人でグラスを傾けているのが目にうかぶね」とMAMAがいっておりました。
個性は本人だけのものだからでしょうか?
そういう当店もあと10年もすれば、私は70歳。
生涯現役というもののいつまで続くやら。
でもチェ-ン店だけには負けたくありません。
頑張りま~す。

Re:rian master&mamaさん

rian master&mamaさん、コメントありがとうございます。
仰るとおり、個性的な店が少なくなってまいりました。
どこへ行っても同じ店が軒を構えております。
といっても、乙山の行く先など、たかが知れておりますが。

そのような店がたくさん出てくる一方で、
自分の店を持ちたい、という方々もたくさんいらっしゃるようです。
街を見ていると、新しくできた店もあるけれど、
続いている店を探すほうも難しいのです。

そんな中、十年も店を構えていらっしゃるのはすばらしいこと。
なかなか、できないのではないでしょうか。
自分の店がもてたらいいな、というのは乙山もあこがれます。
もっていられる、のが「ありがたい」ことなんでしょうね。

いいバーやパブがなくなっていくのが残念です。
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