朝井リョウ 『桐島、部活やめるってよ』

朝井リョウ 『桐島、部活やめるってよ』 集英社 (2010)

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題名だけを見ると、書店や図書館で並んでいてもたぶん手に取らなかったと思うのだが、家族が図書館から借りてきていて、わりとよかった、などと口を揃えて言うものだから読んでみました。

バレーボール部、ブラスバンド部、映画部、ソフトボール部、野球部に所属する五人の高校生それぞれの立場から、進学校における高校生活の一場面を描いたもので、近頃よく見かける「連続短編」の形式になっており、各章はそれぞれ中心となる人物名がつけられている。

放課後、友達と自転車に乗って帰る短い場面の第一章「菊池宏樹」は最終章とリンクしている。
キャプテンの桐島が突然バレーボール部をやめることになり、レギュラーポジションが回ってくる第二章「小泉風助」。
放課後、バスケットボールをして遊んでいる男子たちを見ながらサキソフォンを練習するブラスバンド部の部長が主人公の第三章「沢島亜矢」。

自分たちの撮った映画が特別賞をとり、全校生徒たちの前で表彰されるという「珍事」に動揺しながらも映画に熱意を傾ける第四章「前田涼也」。
交通事故で父と義姉を失ったことで記憶があいまいになった母親に義姉として扱われる第五章「宮部実果」。

そして勉強もスポーツもそこそここなすことができ、かわいい彼女もいてるけれど、いつもなにかにイライラしている第六章「菊池宏樹」。序章と最終章に出てくるわけだから、たぶんこの菊池宏樹くんがいちおう主人公、ということなんだろうと思う。

さて、校長の話なんてだれも聞いてないんだとか、だれだれ先生がうざいとか、そんなことをぐだぐだ書いているようならいつでも放り出すつもりで読み始めたんだけど、最後までちゃんと読めました。女の子を扱っている第三章と第五章が思いのほか上手だなと感心してしまったほどで、『女生徒』を書いた太宰治も真っ青になる(?)んじゃないだろうか。

第四章で映画部の男子のことを書いていることからして、作者は相当映画好きなんだろうかと想像する。過去からさかのぼって断片を描いて、それが最終的に一点に収斂するような、そんな映画がなかっただろうか? 各人を書いただけに見えるかもしれないけれど、細かいところにちゃんとリンクが施されているのです。

女子なら可愛くて見栄えのする子と、そうでない多数の子たち。男子なら格好良くてスポーツもできる子と、それ以外の目立たない子たち。一部の「上位」グループとそれ以外の「下位」グループが自然にできてしまう、と作者は書いている。なるほど、自分もかつてそんな時代があったわけで、思い出してみるとそうだったかもしれぬ。

自分も何かにイライラしていた、のかもしれない。自分で自分をもてあましていたのか、高校生をやっている自分というものがあまり好きになれなくて、とにかく人にとやかく言われることのない立場に早くなりたかった。あんまり急ぎすぎて、そのときをしっかり生きなかった、とは思わないが、あまりそのときを大切にしなかったのかもしれない、と今になって思う。

やはり人はそれぞれ、思春期とか青春期とかいう時代には悩みと苦しみを抱えているもの。想いは届かぬことのほうが多いんじゃないだろうか。努力は必ずしも報われるとは限らないということを、肉体的あるいは力量的にもどうしてもかなわない相手というのがいることを、人はこの時期に知るのではないか。だが同時に何の見返りもないのにあることに打ち込める時期でもある。作者はまだ少ない経験の中で、しっかり自分と周りを見つめ、考え、それを文字/文章に定着した。それはすばらしいことだ。そのとき自分にはそれができなかっただけに、驚きと羨望の念を禁じえない。


【付記】
● それにしても、いまどきの高校生はおおらかですなあ。乙山が高校生のころはどういうわけか、人目を忍んでの逢瀬ということになっていた(地域にもよりますが)ように覚えています。ひょっとすると、そうではなかったのかもしれず、乙山が勝手にそんなふうに思い込んでいただけかもしれません。

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No title

この本こないだ見かけてちょっと気になってました。
面白そうですねー、買ってみようかな。
過去からさかのぼって断片を描いて、それが最終的に一点に収斂する
映画ってパルプ・フィクションでしたっけ?
かなり昔にみた記憶があります。

Re:羊さん

羊さん、コメントありがとうございます。
まあ、買わなくても……図書館でお借りになってみては?
パルプ・フィクション、そうそう、それですよ。
よくご存知ですね。
もう一度見てから、ウェブログにあげてみたいと思っています。
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