ヘレン・メリル 『ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン』

Helen Merrill / Helen Merrill (1955)

HelenMerrill_HelenMerrill1.jpg
1. Don't Explain
2. You'd Be So Nice to Come Home To
3. What's New?
4. Falling in Love With Love
5. Yesterdays
6. Born to Be Blue
7. 'S Wonderful


アルバム・ジャケットの写真を見た瞬間、「これはもう買うしかない!」と思わず手にとってしまうほどインパクトのあるヘレン・メリルの『ヘレン・メリル』(1955)。ものによっては『ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン』と題しているときもあるが、ジャケットにはヘレン・メリルとしか書いていない。中身は同じなので、『ウィズ・クリフォード・ブラウン』とあるものを買っても大丈夫です。

それにしてもまあ、なんという魂の入った写真だろう。どんな絶唱を聴かせてくれるのかと思いきや、ヘレン・メリルのヴォーカルは「ちょっとかすれてるけどしっとりした」感じで、張りのある声で聴かせる絶唱タイプではない。絶唱どころか、まるでささやくようにそっと歌われるのだ。(1)の(0:53)あたりで聞こえてくるかすれた声をはじめて聞いたときはちょっとぞくっとしたものだ。

ヘレン・メリル(vo)のほかクリフォード・ブラウン(tp)/ハンク・ジョーンズ(p)/ミルト・ヒントン(b)/オージー・ジョンソン(ds)らが参加している。編曲は、この後さまざまなジャズメンたちの編曲を担当し、映画のサウンドトラック、ポップでもマイケル・ジャクソンにかかわって大活躍するクインシー・ジョーンズ(とハル・ムーニー)が行っている。

ハンク・ジョーンズのピアノとミルト・ヒントンのベースのコンビがいい。編曲もシンプルに徹していてヘレン・メリルのヴォーカルを邪魔することがない。ストリングスが入っても過剰にゴージャスにならず、バリトンやテナーなどサキソフォンを使った曲(7)ではしっかりスイングしている。さすがにクリフォード・ブラウンのトランペット・ソロはちょっと張りがありすぎるかな、と思うところがないわけではない(たぶんそれは録音レヴェルのせいもあるかもしれない)が、ヘレンはブラウニーが大好きだったみたいだから、それはそれでいいのだ。

クリフォード・ブラウンが好きで、ブラウニーのソロを聴きたくてこのCDを手にした、という人もいるのではないだろうか。たしかに『ヘレン・メリル』の中で際立っているのはヴォーカルのヘレン・メリルなのだが、ときにはそれ以上に(まあヘレンの声とトランペットでは音圧が違いますからね)目立っているのがクリフォード・ブラウンのトランペット・ソロだといえる。甲高く、つんざくようになりがちなトランペットだが、ブラウニーのトランペットはじつに表情豊かで、しかもヘレンの歌う歌詞の心をきっちりつかんでいると思う。残念なことにクリフォード・ブラウンは1956年に亡くなってしまう。

1930年生まれのヘレン・メリルは『ヘレン・メリル』の録音当時(1954年12月録音)25歳前後だったわけで、それを思うとヴォーカルの成熟度の高さに改めて驚きを感じる。これは調べてからわかったことで、何も知らないで初めて『ヘレン・メリル』を聴いたとき、もっと年齢が上の女性だと思っていた。18歳のときに結婚しているヘレンだから、いまどきの高校、大学と進んでから働き始め、結婚はしばらくしてから、という女性とは事情が違うのかもしれないが、声を聴いたら大人だなあ、と感心してしまう。ヘレン・メリルを聴いていると、声に魅了されるということがあるんだ、というのをつくづく実感させられてしまう。


【付記】
● ジャズをあまり聴かないという人でも、このジャケットはどこかで見たことはあるのではないかと思います。とっつきにくいコンボ・スタイルのモダンジャズより、こういうヴォーカルものからジャズを聴き始めるのがいいのではないかと思います。お勧めポイントはかなり高いCDです。もはや私(乙山)ごときが云々するまでもなく、評価のしっかり定まったCDなので、買って損することはありません(?)。
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おはようございます。

クリフォード・ブラウンのトランペット、ヘレン・メリルのボーカル。
これはいいですね。私も持ってます。

コルトレーンのちょっと小難しいジャズから入った私は、
その後、いい加減で気まぐれなジャズ遍歴を重ねました。
ビッグバンドもタイムラグジャズやニューオリンズもいいなあ、と
思ったりしました。

歳を重ねるうちに、辿り着いたのがボーカルです。
ビリー・ホリデイもいいけど、ボーカルの心地よさを気づかせて
くれたのはこのヘレン・メリルの「ニューヨークのため息」でした。

乙山さんの帽子の話も音楽や料理の話もみんな面白い!
しかし、よく連続して書けますねえ。

Re:mapことクワトロ猫さん

mapさん、コメントありがとうございます。
こういう「名盤」はなかなか取り上げにくいのですが、
まあこっちは素人ですし、何を書いてもいいわけです。

ジャズ・ヴォーカルは本当にいいですね。
乙山もブルーノートの「名盤」そっちのけで
ヴォーカルものばっかり聴いています。

ジャズを聴くなら、元歌を知ってなくちゃね、
みたいな気持ちで聴き始めたジャズ・ヴォーカルに
すっかり魅せられてしまいました。

おはようございます。

前の方の記事へのコメントですみません。

聴きました。ヘレン・メリル…懐かしい歌手です。
本当に若いのに、素晴らしい歌唱力と解釈力ですよね。
こんなこと言うと笑われそうだけど、こうやって聴くと
『恍惚のブルース』などを歌った青江三奈さんという歌手は、
ヘレン・メリルの声に似てたなあ。
相当うまい歌手だったんじゃないかと、今になって思います。
演歌歌手としての位置づけだったけど、ジャズのスタンダードナンバーを
歌わせても相当味がありました。

ヘレン・メリル、ジュリー・ロンドン、パティ・ペイジ…
聴いていて落ちつきますね。しっかりした歌唱力と表現力。
いつからか、けたたましい歌い方の歌ばかりになって、
音楽を聴くのをぱったりやめてしまいました。

クリフォード・ブラウンはあまり良く聴いてないのですが、
リー・モーガンの『クリフォード・ブラウンの思い出』は、
去年、ジャズを聴き始めたとき、「あ、これ好き!」と思った
曲と演奏でした。

Re:彼岸花さん

彼岸花さん、コメントありがとうございます。
過去のログにかんするコメントは歓迎しています!
ウェブログを始めたばかりのころ、
せっせと書くのですが、人目に触れることのなかった記事。
そういうものが、「只野乙山ウェブログ」には
たくさん埋まっているのです。

乙山も初めてヘレン・メリルを聴いたとき、
もう少し年齢が上の人だと思っていました。
イメージとしては30代中ごろの成熟した女性。
記事にも書きましたが当時彼女は25歳前後。
本当に驚きました。

最近ヘレン・メリルとスタン・ゲッツが組んだ
アルバムを借りてきたんですよ。
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只野乙山

Author:只野乙山

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