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ヘレン・マクロイ 『殺す者と殺される者』

ヘレン・マクロイ 『殺す者と殺される者』 務台夏子訳 創元推理文庫 (2009)

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本好きの家族が図書館から本を借りてきた本をふと手にとることが多いのだが、ヘレン・マクロイ『殺す者と殺される者』(1957:原書初出年)を読んだのもそうした経緯からだ。なんでも本書は創元推理文庫創刊50周年を記念して、読者のリクエストが多かったことにより新訳で復刊されたものだという。ミステリーにそんなに詳しいわけではない男(乙山)が、いかにも物知り顔でウェブログに紹介している舞台裏には、本好きの家族の存在という仕掛けがあるわけです。

心理学者ハリー・ディーンは冬の朝、学長の家へ行こうとして外出した矢先、氷に足を滑らせて転倒、頭部を強打して意識を失い、病院に運ばれた。ハリーは意識を失っていたときのことは思い出せなかったが、回復したのをきっかけに大学の職を辞し、生まれ故郷のクリアウォーターへ移住するつもりでいた。彼はかなり多額になるおじの遺産を相続したばかりで、とりあえずは働かずとも食うに事欠くことはなかったのだ。

クリアウォーターには昔ハリーが思いを寄せていた女性、シーリアがいる。しかし彼女はサイモン・スロールと結婚し、いまや息子のピーターも一緒に暮らしている。自分がクリアウォーターに帰って、それでシーリアとどうするわけでもないとわかっている。だがハリーは遠くからでもシーリアの姿を見ていたかった。シーリアの父、ユージン・アラバン判事はハリーのことをよく知ってくれていて、判事の勧めで家を購入し、二人の使用人とともに新生活を始めた。

ところがある朝、ハリーは机の上に差出人不明の手紙が置いてあるのを見つける。そこには「いるべき場所はニューイングランドなのでは? このままではふたりとも破滅してしまう」と書いてあった。ハリーはシーリアが書いたものと推測するが、それを彼女に訊くわけにもいかず、差出人がだれなのか特定することはできなかった。

またいつのまにか運転免許証が紛失してしまい、免許証なしで運転するという困った事態になってしまったハリーだが、だれかが彼の名を語って小切手を店で換金するという事件が起きた。真相を究明しようと小売店に足を運んでみると、「男」はハリーの運転免許証を提示したので、店の従業員は疑うことがなかったという。

さらにクリアウォーターの町では最近「謎の徘徊者」が現れて、家に押し入ろうとしているのを目撃されており、ハリーは謎の手紙と徘徊者になんらかの関係があるのではないかと疑い始める。アラバン判事は何かあったときのために、と拳銃をハリーに渡す。夫サイモンが仕事のためにニューヨークへ行かねばならず、家が心配だというシーリアに、ハリーはその拳銃を預けた。そしてその夜、惨劇が起こった。

例によって「うっかり、ぼんやり」読み進めていた私は「えっ」となってしまった。まんまと、作者の意図にはまってしまったというわけ。人によってはかなり早い段階でわかってしまうようだけど、そういう鋭さとか聡明さを持ち合わせていない私にはちょうどよかったかもしれない。とにかく「その瞬間」はぞっとさせられてしまいます。

「その瞬間」が全体の三分の二を過ぎたあたりにあるので、最後の最後まで「謎」の解明を取っておく、というタイプの「推理小説」ではないと思う。だから謎解きのための本格推理小説、というよりは「謎を含んだ物語」として本書を読むといいのではないだろうか。まず事件ありき、というパターンが多い最近のミステリー小説の中で、本書はなかなか事件が起きません。半分を過ぎたあたりでやっと事件が起きるわけですが、それもやはり綿密な計算の上でそういう構成にしたのだな、と後になって思わせる「古き良き」黄金時代のミステリー小説だ。


【付記】
● フィクションにせよミステリーにせよ、読んでいないものが多いなあ、とつくづく思います。勉強不足、という見方もできますが、これから楽しめると思うと、ちょっと得した気分(?)になります。あれ、ちがうかな?
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