伊丹市立美術館、小西酒造のレストランに行く

Hankyu_ItamiStation.jpg
このウェブログを始めた当初、その内容紹介に「街歩き」などと書いてしまった。実際私(乙山)は街を特定の目的もなくぶらぶら歩くのが好きで、たとえば「阪急宝塚線巡り」とか「大阪環状線ぐるりと一周」などという企画を密かに温めていたのである。ところが何かと忙しい日常の中で、なかなか街歩きの記事を書くことができなかった。「街歩き」という言葉でウェブログを訪問してくださった方々には本当に申し訳なく思う。程なく現在の「スタイリッシュであれ云々」という文言に変更しました。

さて四月某日、阪急伊丹の駅に降り立った。仕事で立ち寄ったのではなくて、伊丹市立美術館で開催されている「熊田千佳慕展」を見るためである。熊田千佳慕(熊田五郎)は1911年生まれで、戦前はデザイナーとして活躍、戦後は絵本作家として還暦を過ぎてからファーブルの『昆虫記』の絵本化に取り組んだ人。いつか、どこかでその絵を見たことがあるはずなのだが、はっきり「熊田千佳慕」と知っていたわけではない。プラモデルの箱絵を描いていた小松崎茂さんもそういう画家の一人ではないだろうか。

Sakenomachi_display.jpg飛行機に乗ることなどめったにないので伊丹の印象はほとんどないようなものだ。十数年前に所用で立ち寄ったことがあるかもしれないが、そのときは用事を済ませるとすぐ帰ってしまったので街をゆっくり歩くことはできなかった。駅から美術館までの道のりは十分とかからないが、その途中で「酒のまち」とか「清酒発祥の地」などと書いたディスプレイを見つけ、おっ、と思う。いまさら言うのもなんですが、私は酒好きなのだ。

伊丹市立美術館に到着。元は酒蔵だったのか、と思わせるような外観。昔はこの辺り一帯が酒造りをしていたようである。早速入館手続き(入場料大人700円)を済ませ、荷物をコインロッカーに入れて見物を始める。
一目見て、その精密な筆致に驚嘆する。なんという緻密さ、観察の深さ、鋭さだろう。そしてそれらが水彩絵の具によるものだと知って再び驚く。一目見たとき、アクリル絵の具かな、と見当をつけたのだが、違っていた(一部の絵にはポスターカラーが使われている)。

Kumada_Yurikago.jpg水彩の場合、淡い感じになってコントラストは低めになる絵が多いのだが、熊田千佳慕の絵は最明部と最暗部のコントラストが実にくっきりしていて、しかも中間色の階調(グラデーション)が驚くほど豊富かつ適切なのだ。水彩では最明部は白の地をそのまま残すことが多いのだが、それでテントウムシやカブトムシなどの羽が、本当にてかって見えるのがすごい。これ、本当に水彩なのか? と思わずにはいられない質感の再現である。

別のところに熊田千佳慕が使っていた道具も展示されていたが、それを見るとごく普通の水彩絵の具に、プラスティックのパレットではなく、日本画家が使うような白磁で三つくらい仕切りを設けたものをパレット代わりにしていた。筆はほとんどが面相筆を使って描いていたようだ。面相筆の先に少し絵の具をつけ、それで少しずつ絵を仕上げてゆくスタイルは、完成まで気の遠くなるような作業が続いた、と説明にあった。

ReferenceRoom_AtChojugura.jpg美術展の後はすぐ隣に併設している伊丹市立伊丹郷町館(旧岡田家住宅、旧石橋家住宅、新町家)を見学した。そこは酒造をしていた酒蔵で、広々とした蔵内に酒造りに使用する道具類などが展示してあった。昭和59年(1984年)に廃業するまで酒造りをしていた、と説明に書いてあるのを見て感無量であった。

そこから歩いてすぐのところに小西酒造が経営するブルワリーレストラン「長寿蔵」があり、そこで昼食をとる。ランチメニューの「チキンカツ、ウースターシャーソース」(1000円)を注文し、せっかくだから、と「白雪麦酒テイスティングセット」(780円)も頼んだ。これは小西酒造が醸造している四種類のビール(それぞれ100ml)を楽しめるもの。

Sirayuki_Tastingset.jpg〈ブロンド〉はピルスナーモルトで醸造した上面発酵ビール、〈香雪〉は米を原料にして醸造した米の発泡酒で、〈ブロンシュ〉が小麦を原料にしたベルギータイプの上面発酵発泡酒、そして〈ダーク〉は淡褐色麦芽を加えて醸造した上面発酵ビール。それぞれおいしかったが、分量がねえ……いちおう400ml相当はあるわけですが。缶ビール一本くらいの感覚ですね。

レストラン「長寿蔵」のすぐ横には「長寿蔵ショップ」が併設されていて、小西酒造の製品を始め、いろいろなものが販売されている。特に私の目を引いたのは驚くばかりに種類が豊富なベルギービール。小西酒造はベルギービールの輸入と販売に力を入れているようで、店内にはベルギービール専用グラスも置いてあった。

BelgianBeer.jpgせっかくだから「白雪」の試飲をさせてもらった。大メーカーだから、正直言ってあまり期待していなかった(失礼多謝)。だってねえ、いわゆる「灘」の酒にしてもそうだけど、大メーカーの酒ってあんまりおいしくないんだよねえ。ところが、である。「白雪」はくやしいけれど(←なんでやねん!)意外と旨かったのである。とくに「白雪純米酒クラシック白雪 昭和の酒」はよかった。店員さんの話では、「大阪万博のときタイムカプセルに入れた麹を使用して作った酒」ということである。

伊丹は美術館→小西酒造のレストランというのが今回のコースだが、ほかにもちょっと歩いてみるにはいい町かもしれない。今回の街歩きでは触れなかったが、古い昭和の感じが残った町並みと、開発が進んだ駅前の新しい建築物が、不思議な対照を見せており、古びた感じの商店街もあって、時間があればゆっくり歩いてみたい雰囲気がある。伊丹は飛行機だけじゃないんだ、というわけです。


【付記】
● 熊田千佳慕オリジナルポストカードのスキャン画像を載せておきます。本当は鉛筆画のものを載せたかったんですが、ポストカードには収録されていません。クリックすると大きめの画像が出ます。本ウェブログにはトラップの類は一切ありませんので安心してクリックしてください。

新しいカテゴリーとして「乙山、街を歩く」というのを追加してみました。現在のところ、どういうわけか関西の方よりも、それ以外の方の訪問者のほうが多い傾向の只野乙山ウェブログなのに、関西のローカルな話題で申し訳ありません。さて、次回はあるのか? えっ、もういいって?

人気ブログランキングへ blogram投票ボタン
関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

No title

私には水彩とアクリルの違いもわかりませんので質感の違いの説明に感心しきり。乙山さんは絵も描かれていたんですか?(自分で描かないとこういう部分はわからないような)。

小西酒造はベルギービールの対面販売でよく見かけますね。

No title

水彩絵の具だけであの質感が出せるというのはすごいですよねぇ・・・
実は昆虫は苦手なのですが、ついじっと魅入ってしまいそうです♪

麦酒テイスティングセット、めちゃそそられます!
炭酸苦手&味音痴の私としては各150mlを3種類、の方が
じっくり味比べ出来そうでありがたいのですが(笑)
ではまた次回を楽しみにしてます~♪

Re:RSさん

RSさん、コメントありがとうございます。
水彩は小学校でも使った、あの絵の具です。
ふつうは水で溶いて塗りますね。

アクリル絵の具は基本的に水彩ですが、
まるで油彩のような「厚塗り」ができるところが違います。
油彩のような雰囲気を出したいときはアクリル絵の具を使うのが常套手段。
厚塗りをしたぶん、乾燥には時間がかかります。

一方、スケッチにちょっと色を付けたいとか、
あっさりかきたいときに役立つのが水彩です。
本格的な勝負の絵に水彩を使う画家は、それが専門の人が多く、
普通は習作とか予備段階の絵に水彩が使われるようです。

Re:zumiさん

zumiさん、コメントありがとうございます。
乙山も、昆虫苦手なんですよ。
だけど、熊田千佳慕さんのなら、いいのかな、ってな感じです。

本当にこの方、見ているだけで頭が上がらないのです。
どんだけすごい人やねん、と思うことしきり。
だけど、なんで美術館に行ったら疲れてしまうのでしょう?

白雪麦酒テイスティングセット、よかったですよ。
分量のことを除けば、文句なし!
次回はいつになるか……ほんと、わかりません!
企画倒れ? かな?

こんばんわ。

美術館に酒造メーカーのレストラン、最高のコースですね。
私も美術館は大好き。ちょくちょく行きます。
しかし、こんなコースは体験したことがありません。いいなあ。

日本酒メーカーがオリジナルビールをつくり自社レストランなどで飲ませるというのは、
ちょいと昔、愛媛に行った時「梅錦」ブランドの酒造レストランで遭遇しました。
でも、美術館は近くになかった・・・(笑)

伊丹の方が四国より近いし一度行ってみたいなあ。
ありがとうございます。

Re:mapことクワトロ猫さん

mapさん、コメントありがとうございます。
伊丹はあまり行くことがなく、久しぶりの体験でした。
美術館にしろレストランにしろ、元酒蔵を利用した施設なのです。

だから建物の中にしっかりとした柱と梁があって、
天井が思いのほか高いのです。
こういう天井の高さは、居住用の日本建築にはないものです。

のんびりできました。
ですが、のんびりしすぎて欠伸の連発……ま、これが本来の乙山ですが、
家族のひんしゅくを買ってしまいました!

こんばんは。

熊田千佳慕さん。私も大好きです。
この細密表現のすごさはもう、脱帽ですね。

実は私の娘も絵を描いています。
やはり基本アクリル絵の具で、千佳慕さんと同じ、零号とか一号の
極細面相筆を使って、気の遠くなるほど細かい絵を描きます。
でも、彼女が描くのは、団地のコンクリートの雨滲みや、新宿あたりの
飲み屋街の路地のエアコンの室外機など(笑)。
千佳慕さんとだいぶ描くものが違いますね。

私は植物好き、虫好きなので、細部に見入ってしまいます。
小松崎茂さんの名も懐かしいです。
私より少し前の世代のかたはよくご存知かな。

絵を見た後のお酒、いいですねえ(笑)。
街歩き企画、ぜひ時々見せてください。
知らない街でも楽しいものです。


Re:彼岸花さん

彼岸花さん、コメントありがとうございます。
こんな展覧会があるよ、と家族に聞かされて、
え、だれ、それ? なに?

とついていったのがほかならぬ乙山なのでした。
ところが絵を見てびっくり。
こういう細密画、大好きなんです。中世の写本とかも。

娘さんのかく絵、どんなのでしょうね? 想像が膨らみます。
ちょっとだけ自分で絵をかいたことがあり、いまでも絵が好きなのです。
好きなことが多くてあれも、これも、と思いますがなかなかできません。

またそのうち、と思ってそのままにしていることがいくつかあります。
少しずつでも、実現していこうかと思っています。
「街歩き」応援してくださってありがとうございます。
プロフィール

只野乙山

Author:只野乙山

⚫︎ できれば「只野乙山=ただのおつざん」とお読みくだされば、と思います。

⚫︎ 文字中心のウェブログ。ほとんど一話完結で、どの記事をご覧になっても楽しめ(?)ます。文字数だけなら一冊の本に匹敵(凌駕?)するほどありますので、ごゆっくりどうぞ。

⚫︎ 下の「全ての記事を表示する」をクリックすると、全記事のタイトル一覧が出ますので過去記事を参照することができます。

全記事表示リンク

全ての記事を表示する

カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
最新記事
最新コメント

openclose

最新トラックバック
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
QRコード
QRコード
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

アーカイヴ

2017/10 (6)

2017/09 (9)

2017/08 (8)

2017/07 (9)

2017/06 (9)

2017/05 (9)

2017/04 (8)

2017/03 (9)

2017/02 (4)

2017/01 (1)

2016/06 (1)

2016/05 (13)

2016/04 (13)

2016/03 (20)

2016/02 (10)

2016/01 (11)

2015/12 (10)

2015/11 (10)

2015/10 (11)

2015/09 (13)

2015/08 (10)

2015/07 (11)

2015/06 (10)

2015/05 (10)

2015/04 (10)

2015/03 (11)

2015/02 (9)

2015/01 (11)

2014/12 (9)

2014/11 (10)

2014/10 (11)

2014/09 (10)

2014/08 (10)

2014/07 (10)

2014/06 (10)

2014/05 (11)

2014/04 (10)

2014/03 (10)

2014/02 (9)

2014/01 (11)

2013/12 (9)

2013/11 (10)

2013/10 (10)

2013/09 (10)

2013/08 (11)

2013/07 (10)

2013/06 (10)

2013/05 (10)

2013/04 (10)

2013/03 (11)

2013/02 (9)

2013/01 (11)

2012/12 (9)

2012/11 (10)

2012/10 (11)

2012/09 (10)

2012/08 (10)

2012/07 (10)

2012/06 (10)

2012/05 (11)

2012/04 (10)

2012/03 (10)

2012/02 (10)

2012/01 (9)

2011/12 (9)

2011/11 (10)

2011/10 (10)

2011/09 (10)

2011/08 (10)

2011/07 (9)

2011/06 (9)

2011/05 (10)

2011/04 (8)

2011/03 (8)

2011/02 (12)

2011/01 (12)

2010/12 (12)

2010/11 (13)

2010/10 (15)

2010/09 (15)

2010/08 (14)

2010/07 (16)

2010/06 (17)

2010/05 (21)

2010/04 (18)

2010/03 (20)

2010/02 (23)

2010/01 (27)

2009/12 (27)

2009/11 (27)

2009/10 (26)

2009/09 (24)

2009/08 (19)

2009/07 (21)

2009/06 (30)

2009/05 (26)