カザルス 『鳥の歌:ホワイトハウス・コンサート』 (1961)

A Concert At The White House / Casals, Schneider, Horszowski (1961)

Casals_WhiteHouseConcert.jpg
Memdelssohn : Trio No. 1 D Minor for Piano Violin & Cello Op.49
Couperin : Concert Pieces for Cello & Piano
Schumann : Adagio and Allegro In-Aflat Major Op.70
Casals : Song of the Birds Catalan Folk Song


1961年11月13日、ケネディ大統領に招待されたパブロ・カザルス(当時84歳)が米国大統領官邸(通称ホワイトハウス)で演奏したものを録音したCD。スペイン内乱に胸を痛めたカザルスは1938年以降アメリカ合衆国内で演奏をしていなかったが、ケネディ大統領のヒューマニズム的姿勢に敬意を表したカザルスが大統領の招聘に応じて実現した。

まず演奏されるのがメンデルスゾーンの「ピアノ、ヴァイオリンとチェロのための三重奏第一番ニ短調 作品49」であるが、これこそ以前記事で書いた『船に乗れ!(1) 合奏と協奏』の中で主人公たちが最後にトリオで演奏する曲なのです(記事へ ≫)。小説の中では第一楽章と第二楽章しか演奏されないのだが、なるほど「協奏」が成り立ちそうな雰囲気の第一楽章に、トリオがしっかり息を合わせて調和を見せる第二楽章で終わったときにはさぞや、と思わせるいい雰囲気の曲。

カザルス(cello)/アレクサンダー・シュナイダー(vn)/ミエチスラフ・ホルショフスキー(p)の演奏はこの後クープラン「チェロとピアノのための演奏会用小品」そしてシューマン「アダージョとアレグロ 変イ長調 作品70」へと続く。「シューマン」ではカザルスが漏らしているものと思われる「鼻歌」(?)が時折聞こえてくる。そして最終曲はカザルス編曲によるカタロニア地方の民謡「鳥の歌」である。ここでもカザルスの息遣い=鼻歌(?)が聞こえてきて、それがこの曲の切ない調べをいっそう盛り立てる。

録音は1961年なので、それほど悪くはないはずであるが、全体の仕上がりは1940年代の終わりから1950年代初頭を思わせる音に感じた。アルバム・ジャケットは居並ぶ聴衆の前でカザルスが一礼している場面が使用されているが、カザルスの前にマイクは置かれていない。よく見ると、画面左上のシャンデリアのところにマイクが設置されているのがわかる。だからこれは数本のマイクを使用したマルチトラック録音ではなく、いわゆる「一発録り」で収録された音源だと思われるが、事実のほどは定かでない。

音は多少悪いかもしれないが、聴いているうちにそれはあまり気にならなくなってくる。確かにそんなに音が良いわけではないことは事実であるが、もっと録音状態の悪い音源はたくさんある。だが、そんな状態の悪い音源でも、音楽(の心)は聴く者に届くのだと思う。カザルス『鳥の歌:ホワイトハウス・コンサート』はとにかく美しい「音」を聴きたい人にはあまりお勧めできないかもしれないが、表面に表れたものの背後に思いを馳せることのできる人にはぜひ聴いていただきたい一枚だ。小説『船に乗れ!』の第一巻「合奏と協奏」を読んだ方にもお勧めしたい。


【付記】
● 本記事で言及している、アルバムジャケットの「画面左上のシャンデリアのところにマイクが設置されている」という部分が確認しづらいかもしれませんので、乙山所有のCDのスキャン画像を載せておきます。ジャケットの写真をクリックすると、大きめの画像が出るようになっています。シャンデリアのところにマイクがあるのを確認できたでしょうか。


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『鳥の歌…命の声』

さて。一回の間を置いて鳥の記事を2つ続けて書いたが、ここで、音楽を紹介。 実は、これは、いつもお邪魔させていただいている乙山さんとら...

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こんばんは

カザルスの『鳥の歌』。ホワイトハウスでの演奏ではないかと思われる
録音をYou Tubeで聴くことができました。
カザルスのハミングのような声が入っているのでそうかなと思うのですが。

メンデルスゾーン『ピアノ、ヴァイオリンとチェロのための三重奏第一番ニ短調 作品49』
聴いたことがありませんでした。
残念ながら、カザルスのはなく、
ピアノ : アルトゥール・ルービンシュタイン
ヴァイオリン : ヤッシャ・ハイフェッツ
チェロ : グレゴール・ピアティゴルスキー
のを聴くことができました。素晴らしく美しい曲ですね。
すっかり気に入ってしまい、これはぜひ自分で持っていたいと
思いました。 私が聴いたこのトリオではピアノのルービンシュタインに
いたく心をひかれてしまいました。
素晴らしい曲を教えてくださってありがとうございます。

Re:彼岸花さん

彼岸花さん、コメントありがとうございます。
記事でも書いたとおり、当時カザルスは84歳。
いつもそう(鼻歌を歌う=ハミング)するのか、わかりませんが、
古い音源を聴いている限り、カザルスの鼻歌は聞こえてきません。

ハミングといえば、グレン・グールド。
聞き始めのころ、グールドのソロを聞いていて、「えっ」と思ったことがあります。
これは、スタジオの奥でだれかが歌っているのか、
それとも「幽霊」なのか?

お恥ずかしい限りです。
だけど本当にそう思ったんですね。
ジャズ・ミュージシャンでは打楽器系の人が演奏しながらハミングしてますね。
ジャズではそういうのを聴くとうれしくなってくるんです。
ハイフェッツとルービンシュタイン、ピアティゴルスキーのトリオもよさそう!
乙山もそんなに詳しいわけではないんですよ!

でもあれ、録音が古すぎるよねえ?

こんにちは。はじめまして。
カザルスの「ホワイト・ハウス・コンサート」は
「船に乗れ!」の南さんも上のように言ってますね。
私はスターン、ローズ、イストミンのトリオによる演奏を好んで聴いています。
スターンのヴァイオリンが前に前に出ようとしています。
音もややきつめで、ヒステリックの寸前で踏みとどまっているのがたまらなくスリリング。
張りと艶があって、自己主張の強い音です。
「船に乗れ」の南のヴァイオリンの音もこんなだったかも・・・と思いながら聴いています。

Re:木曽のあばら屋さん

木曽のあばら屋さん、コメントありがとうございます。
こちらこそ、はじめまして。よろしくお願いいたします。

乙山はまだ、貴方の挙げられた音源を聞いておりませんので、
なんともお返事申し上げられませんが、
たぶん「南」の演奏はほかの奏者に合わせるというよりは、
自分が、という感じだったのではないかと思います。

それは主人公もそうだったのではないかと思いますし、
そんな二人を、ピアノ先生ははらはらしながら弾いていたのではないかと。
ピアノの先生にしても、なにか思い入れがあるみたいでしたね。

録音が古い、たしかにそうですね。
もっと新しい音源にも触れなくては、と思っています。
新しくてよい音源を教えてくださいね。
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只野乙山

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