ベルナール・ウェルベル 『蟻:ウェルベル・コレクション Ⅰ』

ベルナール・ウェルベル 『蟻:ウェルベル・コレクション(1)』 角川文庫 (2003)

BernardWerber_LesFourmis.jpg
『蟻』。なんとも潔い題名に惹かれて手に取った一冊だが、内容は本当に題名そのままで、かの昆虫学者アンリ・ファーブル先生も真っ青になる、蟻を主人公にした前代未聞の壮大なフィクションである。

物語はジョナサンが、亡くなったおじエドモン・ウェルズの遺産(と意思)を継いで、妻や息子と一緒にエドモンが住んでいた邸宅へ移り住むところから始まる。その家には地下室があり、入り口は封印されており、「決して中へ入ってはいけない」という但し書きが添えられていた。どうしても地下室の中を確かめたくなったジョナサンは、封印を解いて地下室にもぐりこむ。

同時に、冬眠から覚めた蟻たちが活動を始める部分に物語は移行する。蟻の社会は完全分業制で、戦闘、偵察、食料採集、生殖、卵と幼虫の世話、とそれぞれの活動をするのだが、中で一匹の蟻(327号)が、未知の新兵器によって仲間が瞬時にして殺されてしまったことを発見、なんとか仲間たちに知らせようとするが、なかなかまともに話を聞いてもらえない。若い雌蟻(56号)と遭遇した327号は、56号とのコミュニケーションに成功、小さなチームを作って謎の解明に乗り出す。

「決して警察に話してはならない」という言葉を残してジョナサンは地下室にもぐりこんだが、彼はなかなか帰ってこない。痺れを切らした妻はジョナサンを捜して地下室に入るが、彼女もまた、帰らぬ人となってしまう。一人残された息子はとうとう警察に連絡を取り、警官たちが地下室で捜索を開始するも、彼らもみな同じ運命をたどることになる。施設に預けられた息子はそこを抜け出し、親たちが入って行った地下室へ、自分もいってみることにした。が、彼もまた、地下にもぐったまま帰ってこない。いったい、地下では何が起きているというのか。

このように、地下室に入って戻ってこない人間たちと、未知の新兵器の謎を解明しようと奮闘する蟻たちの話が、交互に入れ替わりながら話が進んでいくのだが、随所にエドモン・ウェルズが書いたとされる『相対的かつ絶対的知識のエンサイクロペディア』が挿入されている。それはたとえば、こんなふうなものだ。ちょっと引いておきましょう。

清潔………
ハエほど清潔なものが、他にいるだろうか? ハエは、いつも自分を洗っている。義務からではなく、必要からである。触角と眼の表面が完全に清潔でないと、遠くにある食べ物を見つけることも、彼らをつぶすために降りてくる人間の手を見ることも、できないだろう。清潔というのは、昆虫の世界では、生きるための大切な要素なのである。
………エドモン・ウェルズ『相対的かつ絶対的知識のエンサイクロペディア』

人間は地球上のいたるところで生活し、最も繁栄している生物種に見えるけれども、環境の変化に対応するのが下手で、環境を変えることによって生き続けているのが人間である。それに対して、環境に適応して自らを多様に変化させることで生き続けているのが昆虫だとすれば、ひょっとすると戦略的には昆虫のほうが人間より優れているのではないか、などと考えさせられてしまった次第である。じつは昆虫こそが、本当の君臨者だったりして……


【付記】
● 乙山が読んだのは単行本の『蟻』(ジャンニ・コミュニケーションズ、1995)ですが、これは現在(2010年4月)絶版になっており、新刊としては角川文庫版が入手可能のようですので、ウェブログには角川版を載せております。
じつはこれ、三部作なんです。第一部『蟻』のほかに第二部『蟻の時代』、そして第三部『蟻の革命』まであるんですね。なんとも壮大な話ではありませんか。乙山もこれから第二部を読んでみようと思っています。

人気ブログランキングへ blogram投票ボタン
関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

No title

とても面白そうな本を紹介してくださってありがとうございます。すごく読みたくなりました。今度、本屋さんに行ったら探してみます。地下室で何が起きたのか(起きているのか?)、とても気になります。

Re:kemmaarchさん

kemmaarchさん、コメントありがとうございます。
人間とはまったく違ったアプローチで種類を増やしてきた昆虫たち。
その繁栄ぶり、種の豊富さ、環境との対応を思うと、気が遠くなります。

じつに優れた戦略だ、と舌を巻かざるを得ないところがあるのです。
だけど人間社会においては、分業化とか細分化は、どちらかというとあまりいい傾向ではない、
と見られがちだったのではないかと思うのですが。

「お前は蜜集め専門だからね」といわれて、
せっせと仕事に励むのですが、それが最終的に何に使われるかわからない状況。
だけど選択の余地はないのです。

いろいろなことを考えさせてくれる本です。
乙山もまだ第一部市か読んでいないので、どういう結末を迎えるのか、
わかりませんけどね。
プロフィール

只野乙山

Author:只野乙山

⚫︎ できれば「只野乙山=ただのおつざん」とお読みくだされば、と思います。

⚫︎ 文字中心のウェブログ。ほとんど一話完結で、どの記事をご覧になっても楽しめ(?)ます。文字数だけなら一冊の本に匹敵(凌駕?)するほどありますので、ごゆっくりどうぞ。

⚫︎ 下の「全ての記事を表示する」をクリックすると、全記事のタイトル一覧が出ますので過去記事を参照することができます。

全記事表示リンク

全ての記事を表示する

カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
最新記事
最新コメント

openclose

最新トラックバック
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
QRコード
QRコード
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

アーカイヴ

2017/08 (4)

2017/07 (9)

2017/06 (9)

2017/05 (9)

2017/04 (8)

2017/03 (9)

2017/02 (4)

2017/01 (1)

2016/06 (1)

2016/05 (13)

2016/04 (13)

2016/03 (20)

2016/02 (10)

2016/01 (11)

2015/12 (10)

2015/11 (10)

2015/10 (11)

2015/09 (13)

2015/08 (10)

2015/07 (11)

2015/06 (10)

2015/05 (10)

2015/04 (10)

2015/03 (11)

2015/02 (9)

2015/01 (11)

2014/12 (9)

2014/11 (10)

2014/10 (11)

2014/09 (10)

2014/08 (10)

2014/07 (10)

2014/06 (10)

2014/05 (11)

2014/04 (10)

2014/03 (10)

2014/02 (9)

2014/01 (11)

2013/12 (9)

2013/11 (10)

2013/10 (10)

2013/09 (10)

2013/08 (11)

2013/07 (10)

2013/06 (10)

2013/05 (10)

2013/04 (10)

2013/03 (11)

2013/02 (9)

2013/01 (11)

2012/12 (9)

2012/11 (10)

2012/10 (11)

2012/09 (10)

2012/08 (10)

2012/07 (10)

2012/06 (10)

2012/05 (11)

2012/04 (10)

2012/03 (10)

2012/02 (10)

2012/01 (9)

2011/12 (9)

2011/11 (10)

2011/10 (10)

2011/09 (10)

2011/08 (10)

2011/07 (9)

2011/06 (9)

2011/05 (10)

2011/04 (8)

2011/03 (8)

2011/02 (12)

2011/01 (12)

2010/12 (12)

2010/11 (13)

2010/10 (15)

2010/09 (15)

2010/08 (14)

2010/07 (16)

2010/06 (17)

2010/05 (21)

2010/04 (18)

2010/03 (20)

2010/02 (23)

2010/01 (27)

2009/12 (27)

2009/11 (27)

2009/10 (26)

2009/09 (24)

2009/08 (19)

2009/07 (21)

2009/06 (30)

2009/05 (26)