1939年のトスカニーニ

Ludwig Van Beethoven "9 Symphonies" Arthuro Toscanini & NBC Symphony Orchestra

Toscanini.jpg


イタリアの指揮者であるアルトゥーロ・トスカニーニがアメリカのNBC交響楽団を指揮した、ニューヨークのカーネギー・ホールでの1939年ライヴ録音。ベートーヴェンの全交響曲に加え、「レオノーレ」序曲第1、2、3番と「フィデリオ」序曲、「エグモント」序曲、「コリオラン」序曲、そして合唱幻想曲なども含まれている。非常に古い録音であるため、音はさすがに良好とはいえないだろう。聴いていて気付いたことを少し挙げておくと次のようになる。

・音に広がりがない(まるで小編成のオーケストラのように感じる)
・残響が少ない(空気感や雰囲気、臨場感が少ない)
・音に奥行きが感じられない(音が立体的でなく、平面的)

などと、いくらでも悪くかけそうだ。とくに交響曲第1番などは聴いていておもちゃの楽団みたいで笑ってしまったくらいである。これを、ラジカセやコンピューター用の小さな卓上スピーカーみたいな小規模の再生装置で聞くと、缶詰のような再生音がより助長されてしまう傾向にあるようだ。

だから、こういう古い音源を聞く場合、できればスピーカーだけは別になったものを使用し、両方のスピーカーの間をある程度広げて置いたほうがましになることがあるようです。だが、聞き込んでいくうちに、音の悪さはだんだん気にならなくなってくる。脳で補正しながら聞くようになるからかもしれないが、これはこれでいいじゃないか、というふうになってくるから不思議だ。

交響曲第5番の第1楽章の(4:09)あたりを聞くと、トスカニーニの意図がよくわかるような気がする。交響曲第9番の第3楽章の雰囲気もよく、他の指揮者と楽団による演奏よりいいんじゃないかと思えてくる。第9のエンディングもそんなに飛ばしまくらないのでピッコロがうなりをあげるのがよく聞こえてくる。第5番の第4楽章でもそうだけど、ベートーヴェンはこれが好きなんだろうなあ。聴いていて、ピッコロが空高く舞い上がる感じがするのだ。

こうして、古い音源を聞き込むトレーニング(?)を重ね、古い音源に対する抗体(?)ができあがった後に1950~60年代の音源、たとえばシュミット=イッセルシュテット / ウィーン・フィルのベートーヴェンを聴くと、もうあまりにもいい音で、嬉しくて涙が出そうになってこようというものだ。

これまでファッツ・ウォーラー、ディキシーランド・ジャズ、デューク・エリントン、そしてこのトスカニーニと、古い音源のCDを選んできたが、古い音源とより新しい音源との落差によって相対的に音をよいものだと感じられる効果こそ、古い音源を聴く最大のメリットではないだろうか。実際、ディキーランド・ジャズや初期エリントンを聴いて古い音源に耳と体を慣らした後、50年代のモノラル録音のジャズを聴くと「これでもうじゅうぶんハイファイじゃないか」と思い、ありがたい感じがする。

1939年のトスカニーニは、音はいまひとつだけど、内容はなかなかいいものではないだろうか。考えてみると、ヒトラー率いるナチス・ドイツがポーランドに侵攻した直後のことであり、敵国ドイツの音楽家の作曲した音楽を、枢軸国であるイタリア人のトスカニーニが指揮しているわけなのだが、アメリカ人の観客たちはトスカニーニとNBC交響楽団にあたたかい拍手を送っている。

ベートーヴェン全集CDは他にたくさんあるけれど、今のところ我家ではこれしかない。トスカニーニによるベートーヴェン全集は1951年版があり、それはもっと音がいいという評判だ(トスカニーニ自身、第9のアダージョを聴いて涙を流したという)し、「トスカニーニ / NBC交響楽団のベートーヴェン1939年」も、今回取り上げたアンドロメダ盤よりもっと音のよいCDボックス(レーベルはMusic And Arts)が存在するようです。一番古いトスカニーニでしっかり脳内補正聴取をした後、それらの「音のいい」CDでベートーヴェンを聴く。考えただけでも楽しみではないか。


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非公開コメント

No title

こんばんは。

脳内補正聴取ですか。その言い方、面白いです!
私もブログで取り上げる曲で、
古くなければ、きっといい音なんだけどなあという演奏は
たくさんあります。
でも、ブログで聴かれる方は脳内補正聴取を
絶対してくださらないでしょうね・・・
泣く泣く?他の演奏にすることもあります。

昨日のコメントは、非公開にしていたのですね。
気づきませんでした。

最近、私のブログに迷惑コメントを書かれた方がいらして、
その方が訪問しているブログにコメントを書くときに
非公開にしています。
そのくせ?が出てしまったようですね。すいませんでした。

Re:りーさん

りーさん、こんばんは! コメントありがとうございます。
古い音源を、乙山は好んで聴くことがあります。
それもかなり古いもので、1930年代とかね。

音自体はそんなに良くないけれど、演奏はいいのです。
音楽的に、素晴らしいものがある。
たとえばカザルスの演奏は、音だけとれば現代の、
もっといい音の無伴奏チェロがいくらでもあるわけです。

むかしの音源を好む方は意外と多いのではないか、
乙山はそんなふうに考えています。
これだけ音がいいといわれるCDの時代になっても、
わざわざビニールの、黒い円盤を求める人がいるのです。

新しい音源=演奏もいいのでしょうが、
古い演奏にもそれなりにいいものがある、ということなのでしょう。
なにも恐れることはありませんよ、いいものはいいと、
わかってくださる方はきっと、いると思うのです。

古い音源を聴くと、比較的新しいものが
たいへん良い音に思えるのは本当です。
もしよかったら、試してみてくださいね。
プロフィール

只野乙山

Author:只野乙山

⚫︎ できれば「只野乙山=ただのおつざん」とお読みくだされば、と思います。

⚫︎ 文字中心のウェブログ。ほとんど一話完結で、どの記事をご覧になっても楽しめ(?)ます。文字数だけなら一冊の本に匹敵(凌駕?)するほどありますので、ごゆっくりどうぞ。

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